大正時代にタイムスリップした主人公のお話です。
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目次
愛は、時代を越えて。 1話
「いや、どこだよここ。」
私、|二藤《にとう》かぐやは現在高校1年生。秋の連休ってことで友達と一泊二日の旅行に来たんだけど…いつのまにか見覚えのないところにいた。多分列車の中なんだけど、私たちが乗る予定だったのとは違う。それに一緒にいた友達いないし。何より、自分が着物を着ていることが謎すぎる。帯きついんだけど。それに、時間も違うみたい。さっきまでは午後の2時ぐらいだったけど、窓の外はもう夜。空は明るいけど街灯が点いてるっぽい。
「貴方、迷子ですか?」
あたりを見回していると、緑の書生服を着た黒髪のメガネイケメンが私の向かいに座っていた。
「迷子ですけど、それより貴方誰ですか。」
私は警戒心丸出しで聞いてみる。
「|時和和音《ときわかずね》といいます。20歳です。よろしくお願いします。貴方は?」
丁寧な口調でその人は答えた。
「二藤かぐや。16歳の高2。」
ぶっきらぼうに答える。
「あのさあ……ここどこ?今何時?」
「ここは浅草ですよ。今は夜ですが、外、だいぶ明るいでしょう?街灯が灯ってるんです。時間は…午後の6時半ぐらいでしょうか。」
え、いや、夕方っつーかほぼ夜やん。しかも私がさっきまで居たの浅草じゃないし!
「今って西暦何年?元号は?何月何日?」
「西暦1923年、大正12年です。今日は8月の28日ですよ。」
「8月っ⁉︎」
え⁉︎さっきまで2023年の9月だったんだけど⁉︎じゃあ私……
「タイムスリップしたの………?」
私は呟いた。
このお話結末しか考えてないんですけど。やばいっすね。
愛は、時代を越えて。 2話
「タイムスリップ…ってなんですか?」
「へ?」
あ、そっか。大正にはタイムスリップなんて言葉無いか。
「なんて言うんだろうなあ……つまり、私は今の時代じゃなくて未来から来たの。大正より、もっと先の時代から。分かる?」
「西暦はいつ頃ですか?」
「2023年。元号は令和。令和5年。」
「2000年代とは……今のちょうど100年後から来たってことですか。」
「そういうこと。」
そっか、ちょうど100年か。え、ていうか今日8月28日って言った?関東大震災って…9月1日だったよね……
「嘘でしょ……」
「? どうかしましたか?」
「和音ってさ、どこに住んでるの?」
「え、この近く……ですけど。」
てことは、あと数日でモロに被害受けんじゃん!やば!
「あっ、あのね。実は、4日後…かな。9月1日に大地震が起きるの。しかもこの辺りで。」
「かぐやさんは未来が見えるんですか?大丈夫ですよ。最近はそこまで地震も起きてないし。」
「だから!本当に起きるの!あー………」
どうしたらわかってもらえるんだろ……
「まあ、そうですね。他の人なら信じないかもですが、僕は信じます。こんな不思議な出会い方をしたんですから、仲良くしましょう。」
「………うん!」
*
「まず、どうしましょうか。」
列車を降り、街を歩きながら話す。すごい、現代と全然違う。街は和服を着ている人が多いし髪型も違う。
「ねえ、お互いのニックネーム決めない?」
「にっくねーむ……とは?」
カタカナ言葉通じないな……まだそんな広まってないか。
「うーん……あだ名、みたいな。お互いの呼び名を決めるの。多分、私はいつか普段の世界に帰らないといけない。もし向こうの世界で会えた時わかるように、私たちだけにわかるやつ。」
「面白いですね。じゃあなんと呼んだらいいでしょうか……かぐやさん……では普通ですよね….」
腕を組み唸っている和音。肌も白いし、すごい美青年だな。和音って。
「じゃあね、私は|和音《わおん》って呼ぼうかな。|和音《かずね》の読み方変えて。」
「いいですね。僕は……かぐや姫、とでも呼びましょうか。」
「恥ずかしいなそれは……」
竹取物語じゃないんだからさ……
「これなら、僕らにだけ通じますから。」
「まあ……そうだね。」
お疲れ様ですぱるしいです。このお話を投稿するのは久しぶりですね。色々シリーズ掛け持ちしてるんでしんどいんすよ。(書いてるのお前やがな)まあ、頑張ります。
愛は、時代を越えて。 3話
「とりあえず、ここで降ります。」
と言い、列車を降りる和音。
「どこ行くの?」
「言わずもがな、家に帰るだけです。多分、困っていると話せば泊めてくれるでしょう。」
「家族と暮らしてるの?」
「ええ。両親と僕と、あとは弟2人妹1人です。」
うっわ、大家族だ。
「着いてきてください。絶対に違う方向に行かないでくださいね。」
「うん。」
ここではぐれたら私一生の迷子になるからね。
*
「ここです。」
10分ほど歩き、茅葺き屋根で木造二階建ての家の前で和音は足を止めた。ザ・大正って感じ。現代と全然違うな。
「ただいま帰りましたー。」
「和兄、おかえり!」
「おかえりー。そこのお嬢さんは誰なの?」
玄関に入ると、小学校高学年ぐらいの女の子と40代後半ぐらいの女の人が私たちを出迎えた。
「遠いところから来たらしいんですけど、泊まるところが無くて困っていたところに丁度会ったんです。しばらくの間、我が家に泊まってもらえないかと。」
「は、はいそうなんです。」
こんなスラスラとナチュラルに嘘つける和音すごい。頭良いな。
「お名前は?」
「二藤かぐやです。かぐやって呼んでください。」
「かぐやか……へえ、可愛い名前だね。」
今で言うリビング的なところまで進むと、中学生ぐらいの男の子がいた。和音にはあんまり似てなくて、ちょっとチャラい感じ。
「和音、おかえり。おや、可愛い子じゃないか。名前はなんていうんだ?」
畳敷きの床の上で、何かを書いていた男の人がこっちを見た。多分この人がお父さん……だよね。
「こっちが母親の|和子《かずこ》で、こっちが妹の|和実《かずみ》です。父親の|和彦《かずひこ》と、弟の|和樹《かずき》。もう1人の弟、|和佐《かずさ》っていうんですけど今多分奥で着替えてますね。」
「皆、和のつく名前なんだね。」
面白い家庭だな〜。
「人の和を大事に、が家訓ですので。それよりお腹空いてません?何か食べます?」
「今は胡瓜のお漬物と、あとはさっき焼いた煎餅ぐらいしか無いよ?」
え、煎餅って家庭で作れるんだ。
「だそうです。どうします?」
「えーっとじゃあ……お煎餅をいただけますか?」
「はーい。醤油のやつと、海苔のやつどっちがいい?」
「うーん……海苔の方で。」
うわー、楽しみだな〜。こういう時代の人が作るやつってすごい美味しそうだし。
「はい、どうぞ。」
「いただきまーす。」
私は出てきたお煎餅をかじった。
「美味しい!」
「喜んでもらえてよかったわ。」
*
「かぐやさん。」
「なに?」
お風呂も借り、夜は和音の部屋で寝させてもらうことになった。
「かぐやさんは、いつか現代に戻らないとなんですよね。」
「うん、多分ね。」
戻り方わからんけど。
「戻るとしたら、いつなのでしょうか。」
「………あんま考えたくないな。」
会って間もないけど、私和音と仲良くなれてる気がするし。
「かぐやさんが言っていた地震のこと……どうなってしまうんでしょうか。大災害は人の手じゃ止められないし、逃げるにしても家族や大切なものを置いて逃げるなんて僕にはできませんから。」
「和音は優しいんだねえ。」
急にやって来た眠気に抗えず、私はそのまま眠りに落ちた。
どうも遅れて申し訳ございませんぱるしいです。なんか週一投稿が限界みたいになってて申し訳ないです。好きなだけ殴ってください。和音の家族の名前考えるの楽しい。
愛は、時代を越えて。 4話
「うーん.......」
目を開けると、見覚えのない天井が見える。ここは....そうだ、和音の家だ。私、大正時代にタイムスリップしたんだっけ。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「あ、和音おはよ。」
体を起こし横を見ると、寝起きでまだ眼鏡もかけていない、パジャマ.......おそらくこの時代で言うと寝間着姿の和音がいた。いや、眼鏡なくてもかっこいいとはどういうことだこの美男子が。
「今日、何するの?」
「特に予定はありませんよ。どこか、出かけたい所はありますか?」
「うーん……出かけるも何も……」
どこに何があるかすらわかんないし……
「では、どこか呉服屋にでも行きませんか?」
「呉服屋?」
「新しく、着物を仕立てるのはいかがでしょうか。かぐやさん、昨日着ていた着物しか着るものないでしょう?」
「あー……確かに。」
今着ている寝巻きも、和音のお母さんから借りたやつだし。
「行きつけの店があるんです。朝ご飯を食べ次第、行きましょうか。」
「うん。」
---
「ここです。」
「うわあ……」
朝ご飯を食べ、和音の案内で行きつけだと言う呉服屋に向かう。中に入ると色鮮やかな着物や、美麗な簪や櫛が目に入った。
「好きな色とかありますか?」
「うーん……青とか紫かなあ……」
「了解です。|幸恵《さちえ》さん、ちょっとお願いがあるんですけど。」
「あら、音くんじゃない。久しぶりね。そちらのお嬢さんは?」
和音に幸恵さんと呼ばれた30代後半ぐらいの女の人が出てくる。
「かぐやさん、適当にお店の中を見ていてください。何か欲しいものがあれば、帰りに言ってください。買えそうなら買うので。」
「了解。」
---
「じゃ、夕方には届けるわね。」
「はい、よろしくお願いします。」
私が30分ほど簪や首飾りに目を輝かせているうちに、和音が店の奥から出てきた。
「かぐやさん、何か気に入ったものはありますか?」
「えーっと、この藤の花の簪と……この青い桔梗のもいいな……あと、この椿の……多いかな……?」
「いえ、構いませんよ。きっと、かぐやさんに似合います。」
そう言われると嬉しいな。
「お会計を済ませたら、帰りましょうか。」
「うん。」
---
「これで合ってたわよね?」
「はい、ありがとうございます。」
「また来てね。今度は割引してあげるから。」
「了解です。ありがとうございます。」
夕方。和音に買ってもらった簪を付けてみたりしていると、あの幸恵さんという女の人が和音の家に来た。ただ、玄関先で和音に何かを渡して帰って行ったけど。
「かぐやさん、これ|賜物《プレゼント》です。」
「えっ?」
和音がくれたのは、藤色の地に藤の花の模様が散る美しい着物と、浅葱色の地に青い桔梗の模様が散る着物だった。
「これ……」
「たまたま、かぐやさんの買った簪とこの着物の花が同じでしたね。きっと、かぐやさんに似合うと思って選びました。気に入りましたか?」
「うん。…………うん!ありがとう!」
私は思わず和音の手を握った。
「どんな災いが来ても、僕はちゃんと和音さんの近くにいられるようにします。だから……」
「ちゃんと、隣にいるよ!」
「約束ですよ。かぐや姫さん。」
どうもリア友に短編カフェの垢が広まっていくぱるしいです。LINEがカオスなことになりました。
花言葉の伏線がやばいって話
どうもぱるしいです。いきなり本題入ります。
愛は、時代を越えて。最新話は読んでいただけたでしょうか。実は、最新話に意図せず伏線があったんです。
和音がかぐやにプレゼントした着物、青の桔梗の模様と藤の花の模様でしたよね?
ネットで調べれば出てくるんですが、青の桔梗の花言葉が「永遠の愛」「変わらぬ愛」「誠実」「気品」。藤の花の花言葉が「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」「忠実な」になってるんです。ついでにかぐやが買っていた椿の髪飾り、ありましたよね。椿の花言葉が「控えめな優しさ」「誇り」です。
我ながらガチで天才だと思いました。桔梗と藤の花言葉はこれからの展開に関係がありますし、椿の花言葉の「控えめな優しさ」も和音っぽいですよね。
まあ、花はなんとなく決めたので完全に意図せずなんですけどねっ☆
愛は、時代を越えて。 5話
どうも、タイムスリップ3日目のJK二藤かぐやです。今日は8月30日。あと少しで、東京が壊滅状態になる。防ぐのが無理なら、せめてどこかに逃げないとな.....
「かぐやさん、元気ないですね。どうかしましたか?お茶入れたので、よければ飲んでください。」
憂鬱な気持ちが外に出ていたのか、和音が冷たい麦茶を入れてくれた。緑茶苦手だから、こういう配慮は嬉しい。
「何か、悩みでもあるんですか?やはり……地震が怖いのですか?」
「怖いわけじゃないんだけど……地震来たら、どうすればいいのかなって。避難訓練は学校でやってるけど、この時代で生かせるのかどうか......」
「その場その場に応じて行動するのも大事ですよ。落ち着いていれば、道は開けますから。」
「うん。ありがとう。」
和音、やっぱ優しいな。一応私と4歳差だけど、もっと年の差あるんじゃないかな。だって、大人すぎるもん。中身が。
「僕、お話を書くのが好きなんです。何か1つ、朗読しましょうか?」
「え、いいの?」
この爽やかな声で物語を聞けるとは。人生得してる気がする。
「あまり、人に見せる機会もないので。」
「お話の題名って、どんなの?」
「『造花の嘘』です。」
わお、純文学っぽい。
「では、聞いていてくださいね。」
---
『綺麗だね』
彼女の純粋な言葉が、青年には重かった。花の、枯れてゆく悲しさが、彼は嫌いだった。だから、彼女には偽物の花、造花を贈った。偽物の枯れない美しさと、散りゆく儚い美しさ。去年の彼女の誕生日に、贈り物を買う金の無かった青年は、家の近くに咲いていた白詰草などの花で花束を作って渡した。本物の花は、匂いがする。春には春の匂い、夏には夏の匂い。造花はどうだろう。季節の匂いなんかしない。ただ無機質な、作り物の匂いだ。偽物の美しさで、大切な人を笑顔にしている自分。別に、作り物で良いじゃないか。本物はすぐ枯れる。管理も大変。面倒臭いことをするのならば、ただ枯れない美しさを見ていれば良い。自分はそう思っていたのに。彼女はこちらをじっと見て、呟いた。
「嘘つき」
ねえ、さっきの言葉も作り物だったの?さっき見せてくれた笑顔は……全て、空のはりぼてだったのか?
---
「おお……へえ……なんか……哲学っぽいね。」
「そう言われると……何だか照れますね。まだ途中経過なので、完成したらまた読んでください。」
今、私が感じているこの幸福は、きっと、絶対、作り物じゃないと信じたい。
え、なんか文学感すごくないですか?
愛は、時代を越えて。 番外編
作「はーいどもども作者ですぅー。今回はね、リア友にもめちゃくちゃ評判が良い『愛は、時代を越えて。』の番外編になりますぅー。てことでね、主要キャラを連れて参りましたヨッ!」
か「えーあー、かぐやです。一応……主人公です。」
和「和音です。僕の場合物語の中での立場をどう表現すべきでしょうか……」
作「私だけテンションおかしい奴に思われるからもうちょいノリ良くやってね。では、番外編恒例のお二人から私への質問をどうぞ。」
か「じゃあ私から。
お話のタイトルはどうやって決めましたか?」
作「これはねえ……あんま言えないんだけど……後に繋がる伏線です。」
か「わかりづらいな。次行きます。
物語の舞台を大正時代にした理由はなんですか?」
作「和な雰囲気のお話を書きたくて、昔すぎると歴史苦手な私が辛いし、昭和って実質最近だから、1番書きやすい時代を考えたらこうなった……かな?」
和「ふむふむ。次は僕ですね。
この作品のモチーフとなった作品はありますか?」
作「なんだろう……今回は何も無い気がする。え、マジでなんも無いわ……なんかごめん。」
和「一から自分の力で物語を作れているということですね。いいと思います。最後の質問しますね。
もし、キャラに声を当てるなら声優さんは誰がいいですか?」
作「ゔっ……悩ましい……かぐやはそうだな……富田美憂さんか……戸松遥さんもありかな……東山奈央さんとか……和音は……とにかく爽やかなイケボの人がいいから……島﨑信長さんとかしっくり来る。」
和「誰かはわかりませんがきっといい声の方なんでしょうね……」
か「てことで、番外編はここまで!また本編で会おうねー!」
作「作者に言わせろやァァァ!!」
愛は、時代を越えて。 6話
明日。とうとう明日、関東大震災が、起こる。いやマジでどうしよう考えただけでなんかもうヤバい。
「よっ。朝から何考え込んでんの?」
えーっとこのチャラいのは確か……和音に年が近い方の弟の和樹くん……だっけ?
「おはようございます。かぐやさん。とうとう、明日ですね。」
「うん。そうだね。」
「え、明日なんかあんの?かぐや姉ちゃん出ていっちゃうの?」
ね、姉ちゃん……
「いや、そういうことではない。ないよ。うん。」
「じゃあ何ー?」
「かぐやさん、あの事話すべきでしょうか。」
あの事、とはやはり関東大震災のことだろう。
「これからを考えたら話した方が良いかもね。」
私は、和音の家族みんなの方を向いた。
「あの、話したいことがあります。」
「どうした?」
新聞を読んでいた和音のお父さんも、朝ごはんを膳に並べていた和音のお母さんもこちらを向いた。
「私は、実は未来から来ています。今から100年後の、2023年から。そして、明日は関東大震災という大きな地震が来ます。正午頃に。かなり規模が大きいので、おそらくこの辺りの多くの家が倒壊し、火事も起きるでしょう。」
「それ……本当?」
和音の妹の和実ちゃんが不安そうな顔で私を見た。
「本当です。1923年、9月1日に。なので、皆さんにはいつでも逃げられる準備をしていてもらいたいです。私が生きている時代は避難所というものがありますがこの時代だとその辺はあまり整っていないでしょう?なので、いざという時には大事なものだけ持って逃げてください。」
「じゃあ、お気に入りの服とかは……」
「地震が起きた時の状況によりけりだけど、生きるのに要るか要らないか自分で判断して。でも、もし何か危ない状況になったら、諦めないといけないかな。」
「そっか……」
うん。悲しそうな顔されるとなんか申し訳ない。ごめんよ。
「一応、誰がどう逃げるか決めておきませんか?母さんは和実と、父さんはできれば和樹と和佐どちらも連れて逃げていただけないかと。僕がかぐやさんと逃げます。」
「そうね。それがちょうど良いかもしれないわ。」
「よし。じゃあ父さんから全員に必ず約束して欲しいことがある。かぐやちゃんにもな。死んだらもう会えないけど、死んだらその運命をちゃんと受け入れること。もし生き残れたら、それから出会った人をちゃんと大切にすること。人の和を大切に、が時和家の家訓だ。もし一生会えなくても、それは絶対大事にすること。良いか?」
「はい。」
「わかりました。」
「私も、ちゃんと心に留めておくわ。」
「名前に和って文字が入ってるんだ。生きてても死んでも和は大事にしないとな。」
「あたし、しっかり覚えておく。」
いい事を聞かせてもらったな。
「かぐやちゃんはいつか、自分の生きている時代に戻らないといけない時が来ると思う。でも、自分の時代でも、時和家のこと忘れないでくれよ。」
「もちろんです。」
私は明日に向けて、しっかりと決意を固めた。
春休みよ、終わるな。
愛は、時代を越えて。 7話
9月1日がやってきた。昨日のうちに、誰が誰と逃げるかなどは話し合ってある。あとは、その時間が来るのを待つだけだ。時計を確認する。確か正午の2分前に地震が来る。あと3分ほどだ。
---
正午2分前。和音の家が大きく揺れた。
「行きましょう。かぐやさん。」
「うん。」
和音の家族にお礼と別れを告げ、揺れが収まってから家を出た。和音の手を引き、走る。どこに向かっているのかはわからない。ただ、被害が広がる前に。焦げるような音が聞こえる。家が崩れる音も。地獄絵図だ。そして走りにくい!!和音が着物くれたのは嬉しいけど、こういう時はマジでしんどい!!その綺麗な着物も、少し煤が付いて黒っぽくなっている。
「かぐやさん、大丈夫ですか?」
少し息を切らしながら、和音が聞いてくる。
「何が?」
「いや、あの、手が。」
「は?」
思わず足を止めて自分の手を見る。え……
「薄くなってる?」
自分の手が、少し薄く、透明になってきている。手だけじゃない。着物も、足も。少しずつ透明になっている。
「多分、かぐやさんが元の世界に戻る時が来てしまったんですね……」
「嘘でしょ!?なんで今なの!?」
どうしよう。悔しさと悲しさで、涙が浮かぶ。
「おそらくもう時間がありません。手短に話します。かぐやさん。僕がかぐやさんにあげた着物の柄の花は何でしたか?2つ、ありますよね。」
「桔梗と……藤。」
「そうですね。そして桔梗の花言葉は「永遠の愛」「変わらぬ愛」「誠実」「気品」です。藤の花言葉は「歓迎」「恋に酔う」「忠実な」「優しさ」「決して離れない」です。僕はそれを知った上で、かぐやさんに着物をあげたんです。」
「どういう……こと?」
わからないな。
「かぐやさん。僕は、かぐやさんのことが好きです。貴女の笑顔や、優しさが。僕のかぐやさんに対しての愛は、時代を越えても変わりません。かぐやさんの生きている時代でも、貴女はその優しいままで居てください。いつか必ず、会いに行きます。かぐや姫さん。」
「うん。……うん!」
いよいよ、私の姿が完全に見えなくなってしまう。でも、最後にこれだけは言いたい。
「私も大好きだよ。またね、|和音《わおん》。」
私は和音を抱きしめ、そう言った。
---
「かーぐーや!起きて!」
「んー?」
「爆睡だったね。ほら、そろそろ着くよ。」
目が覚めると、私をペシペシ叩く、友達の菜生と南美がいた。なんで……なんで現実は変わってないんだろう。あの時代でのことは確かに起きていた。時間もちゃんと過ぎていた。和音の言葉も、家の燃える匂いも、ついさっきまでそこに居たかのようにはっきり覚えているのに。どうして……現実では時が動いてないんだろう。
愛は、時代を越えて。 最終話
今の時代に戻ってから、約1ヶ月。あの時の謎は、解けていない。
「かーぐーや。アンタ最近ぼーっとしすぎじゃない?」
「大丈夫。中間の成績は維持できるから。」
「そういう話じゃないんだよっ。」
「いてっ。」
適当に答えたら前の席の菜生にデコピンされた。
「というか、もう10月じゃん。」
「そうだね。」
外の木々も、段々色付いて来ている。
「じゃ、先生来たからまた休み時間に。」
「うん。」
私は、隣の空席を眺めた。夏休みに隣の席の男子が転校しちゃったから、今の私の隣は空席。早く誰か来ないかなー。
---
その日はなんとなくクラスの空気が浮ついていた。先生の話によると、転校生が来るらしい。男子かな。だったら私の隣だよな。ガラッと教室の扉が開き、転校生が入ってくる。男子だ。色白で細くて、結構かっこいい。メガネかけてるし、ちょっと和音に似てるな。
「今日から、転校生が来ます。自己紹介してくれる?」
「はい。|時和大和《ときわやまと》です。よろしくお願いします。」
え……今、時和って言った?
「席は、二藤さんの隣ね。前から4番目で窓際の席よ。」
「了解です。」
おいおいおいおいおいおいおいおい!!マジで隣とは……少女漫画か!?ここから恋始まるやつなのか!?
「よろしくお願いしますね、かぐや姫さん。」
名字が一緒で、名前にもちゃんと、和の字が入っている。何より、2人で決めた、あのあだ名を知っている。
「よろしく、|和音《わおん》。」
あの時の約束、ちゃんと守ってくれたんだね。
何とか……中学入る前に完結させられたッ……(瀕死)
よければ感想とかファンレターでください……
愛は、時代を越えて。 総集編
「いや、どこだよここ。」
私、|二藤《にとう》かぐやは現在高校1年生。秋の連休ってことで友達と一泊二日の旅行に来たんだけど…いつのまにか見覚えのないところにいた。多分列車の中なんだけど、私たちが乗る予定だったのとは違う。それに一緒にいた友達いないし。何より、自分が着物を着ていることが謎すぎる。帯きついんだけど。それに、時間も違うみたい。さっきまでは午後の2時ぐらいだったけど、窓の外はもう夜。空は明るいけど街灯が点いてるっぽい。
「貴方、迷子ですか?」
あたりを見回していると、緑の書生服を着た黒髪のメガネイケメンが私の向かいに座っていた。
「迷子ですけど、それより貴方誰ですか。」
私は警戒心丸出しで聞いてみる。
「|時和和音《ときわかずね》といいます。20歳です。よろしくお願いします。貴方は?」
丁寧な口調でその人は答えた。
「二藤かぐや。16歳の高2。」
ぶっきらぼうに答える。
「あのさあ……ここどこ?今何時?」
「ここは浅草ですよ。今は夜ですが、外、だいぶ明るいでしょう?街灯が灯ってるんです。時間は…午後の6時半ぐらいでしょうか。」
え、いや、夕方っつーかほぼ夜やん。しかも私がさっきまで居たの浅草じゃないし!
「今って西暦何年?元号は?何月何日?」
「西暦1923年、大正12年です。今日は8月の28日ですよ。」
「8月っ⁉︎」
え⁉︎さっきまで2023年の9月だったんだけど⁉︎じゃあ私……
「タイムスリップしたの………?」
私は呟いた。
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「タイムスリップ…ってなんですか?」
「へ?」
あ、そっか。大正にはタイムスリップなんて言葉無いか。
「なんて言うんだろうなあ……つまり、私は今の時代じゃなくて未来から来たの。大正より、もっと先の時代から。分かる?」
「西暦はいつ頃ですか?」
「2023年。元号は令和。令和5年。」
「2000年代とは……今のちょうど100年後から来たってことですか。」
「そういうこと。」
そっか、ちょうど100年か。え、ていうか今日8月28日って言った?関東大震災って…9月1日だったよね……
「嘘でしょ……」
「? どうかしましたか?」
「和音ってさ、どこに住んでるの?」
「え、この近く……ですけど。」
てことは、あと数日でモロに被害受けんじゃん!やば!
「あっ、あのね。実は、4日後…かな。9月1日に大地震が起きるの。しかもこの辺りで。」
「かぐやさんは未来が見えるんですか?大丈夫ですよ。最近はそこまで地震も起きてないし。」
「だから!本当に起きるの!あー………」
どうしたらわかってもらえるんだろ……
「まあ、そうですね。他の人なら信じないかもですが、僕は信じます。こんな不思議な出会い方をしたんですから、仲良くしましょう。」
「………うん!」
*
「まず、どうしましょうか。」
列車を降り、街を歩きながら話す。すごい、現代と全然違う。街は和服を着ている人が多いし髪型も違う。
「ねえ、お互いのニックネーム決めない?」
「にっくねーむ……とは?」
カタカナ言葉通じないな……まだそんな広まってないか。
「うーん……あだ名、みたいな。お互いの呼び名を決めるの。多分、私はいつか普段の世界に帰らないといけない。もし向こうの世界で会えた時わかるように、私たちだけにわかるやつ。」
「面白いですね。じゃあなんと呼んだらいいでしょうか……かぐやさん……では普通ですよね….」
腕を組み唸っている和音。肌も白いし、すごい美青年だな。和音って。
「じゃあね、私は|和音《わおん》って呼ぼうかな。|和音《かずね》の読み方変えて。」
「いいですね。僕は……かぐや姫、とでも呼びましょうか。」
「恥ずかしいなそれは……」
竹取物語じゃないんだからさ……
「これなら、僕らにだけ通じますから。」
「まあ……そうだね。」
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「とりあえず、ここで降ります。」
と言い、列車を降りる和音。
「どこ行くの?」
「言わずもがな、家に帰るだけです。多分、困っていると話せば泊めてくれるでしょう。」
「家族と暮らしてるの?」
「ええ。両親と僕と、あとは弟2人妹1人です。」
うっわ、大家族だ。
「着いてきてください。絶対に違う方向に行かないでくださいね。」
「うん。」
ここではぐれたら私一生の迷子になるからね。
*
「ここです。」
10分ほど歩き、茅葺き屋根で木造二階建ての家の前で和音は足を止めた。ザ・大正って感じ。現代と全然違うな。
「ただいま帰りましたー。」
「和兄、おかえり!」
「おかえりー。そこのお嬢さんは誰なの?」
玄関に入ると、小学校高学年ぐらいの女の子と40代後半ぐらいの女の人が私たちを出迎えた。
「遠いところから来たらしいんですけど、泊まるところが無くて困っていたところに丁度会ったんです。しばらくの間、我が家に泊まってもらえないかと。」
「は、はいそうなんです。」
こんなスラスラとナチュラルに嘘つける和音すごい。頭良いな。
「お名前は?」
「二藤かぐやです。かぐやって呼んでください。」
「かぐやか……へえ、可愛い名前だね。」
今で言うリビング的なところまで進むと、中学生ぐらいの男の子がいた。和音にはあんまり似てなくて、ちょっとチャラい感じ。
「和音、おかえり。おや、可愛い子じゃないか。名前はなんていうんだ?」
畳敷きの床の上で、何かを書いていた男の人がこっちを見た。多分この人がお父さん……だよね。
「こっちが母親の|和子《かずこ》で、こっちが妹の|和実《かずみ》です。父親の|和彦《かずひこ》と、弟の|和樹《かずき》。もう1人の弟、|和佐《かずさ》っていうんですけど今多分奥で着替えてますね。」
「皆、和のつく名前なんだね。」
面白い家庭だな〜。
「人の和を大事に、が家訓ですので。それよりお腹空いてません?何か食べます?」
「今は胡瓜のお漬物と、あとはさっき焼いた煎餅ぐらいしか無いよ?」
え、煎餅って家庭で作れるんだ。
「だそうです。どうします?」
「えーっとじゃあ……お煎餅をいただけますか?」
「はーい。醤油のやつと、海苔のやつどっちがいい?」
「うーん……海苔の方で。」
うわー、楽しみだな〜。こういう時代の人が作るやつってすごい美味しそうだし。
「はい、どうぞ。」
「いただきまーす。」
私は出てきたお煎餅をかじった。
「美味しい!」
「喜んでもらえてよかったわ。」
*
「かぐやさん。」
「なに?」
お風呂も借り、夜は和音の部屋で寝させてもらうことになった。
「かぐやさんは、いつか現代に戻らないとなんですよね。」
「うん、多分ね。」
戻り方わからんけど。
「戻るとしたら、いつなのでしょうか。」
「………あんま考えたくないな。」
会って間もないけど、私和音と仲良くなれてる気がするし。
「かぐやさんが言っていた地震のこと……どうなってしまうんでしょうか。大災害は人の手じゃ止められないし、逃げるにしても家族や大切なものを置いて逃げるなんて僕にはできませんから。」
「和音は優しいんだねえ。」
急にやって来た眠気に抗えず、私はそのまま眠りに落ちた。
---
「うーん.......」
目を開けると、見覚えのない天井が見える。ここは....そうだ、和音の家だ。私、大正時代にタイムスリップしたんだっけ。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「あ、和音おはよ。」
体を起こし横を見ると、寝起きでまだ眼鏡もかけていない、パジャマ.......おそらくこの時代で言うと寝間着姿の和音がいた。いや、眼鏡なくてもかっこいいとはどういうことだこの美男子が。
「今日、何するの?」
「特に予定はありませんよ。どこか、出かけたい所はありますか?」
「うーん……出かけるも何も……」
どこに何があるかすらわかんないし……
「では、どこか呉服屋にでも行きませんか?」
「呉服屋?」
「新しく、着物を仕立てるのはいかがでしょうか。かぐやさん、昨日着ていた着物しか着るものないでしょう?」
「あー……確かに。」
今着ている寝巻きも、和音のお母さんから借りたやつだし。
「行きつけの店があるんです。朝ご飯を食べ次第、行きましょうか。」
「うん。」
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「ここです。」
「うわあ……」
朝ご飯を食べ、和音の案内で行きつけだと言う呉服屋に向かう。中に入ると色鮮やかな着物や、美麗な簪や櫛が目に入った。
「好きな色とかありますか?」
「うーん……青とか紫かなあ……」
「了解です。|幸恵《さちえ》さん、ちょっとお願いがあるんですけど。」
「あら、音くんじゃない。久しぶりね。そちらのお嬢さんは?」
和音に幸恵さんと呼ばれた30代後半ぐらいの女の人が出てくる。
「かぐやさん、適当にお店の中を見ていてください。何か欲しいものがあれば、帰りに言ってください。買えそうなら買うので。」
「了解。」
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「じゃ、夕方には届けるわね。」
「はい、よろしくお願いします。」
私が30分ほど簪や首飾りに目を輝かせているうちに、和音が店の奥から出てきた。
「かぐやさん、何か気に入ったものはありますか?」
「えーっと、この藤の花の簪と……この青い桔梗のもいいな……あと、この椿の……多いかな……?」
「いえ、構いませんよ。きっと、かぐやさんに似合います。」
そう言われると嬉しいな。
「お会計を済ませたら、帰りましょうか。」
「うん。」
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「これで合ってたわよね?」
「はい、ありがとうございます。」
「また来てね。今度は割引してあげるから。」
「了解です。ありがとうございます。」
夕方。和音に買ってもらった簪を付けてみたりしていると、あの幸恵さんという女の人が和音の家に来た。ただ、玄関先で和音に何かを渡して帰って行ったけど。
「かぐやさん、これ|賜物《プレゼント》です。」
「えっ?」
和音がくれたのは、藤色の地に藤の花の模様が散る美しい着物と、浅葱色の地に青い桔梗の模様が散る着物だった。
「これ……」
「たまたま、かぐやさんの買った簪とこの着物の花が同じでしたね。きっと、かぐやさんに似合うと思って選びました。気に入りましたか?」
「うん。…………うん!ありがとう!」
私は思わず和音の手を握った。
「どんな災いが来ても、僕はちゃんと和音さんの近くにいられるようにします。だから……」
「ちゃんと、隣にいるよ!」
「約束ですよ。かぐや姫さん。」
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どうも、タイムスリップ3日目のJK二藤かぐやです。今日は8月30日。あと少しで、東京が壊滅状態になる。防ぐのが無理なら、せめてどこかに逃げないとな.....
「かぐやさん、元気ないですね。どうかしましたか?お茶入れたので、よければ飲んでください。」
憂鬱な気持ちが外に出ていたのか、和音が冷たい麦茶を入れてくれた。緑茶苦手だから、こういう配慮は嬉しい。
「何か、悩みでもあるんですか?やはり……地震が怖いのですか?」
「怖いわけじゃないんだけど……地震来たら、どうすればいいのかなって。避難訓練は学校でやってるけど、この時代で生かせるのかどうか......」
「その場その場に応じて行動するのも大事ですよ。落ち着いていれば、道は開けますから。」
「うん。ありがとう。」
和音、やっぱ優しいな。一応私と4歳差だけど、もっと年の差あるんじゃないかな。だって、大人すぎるもん。中身が。
「僕、お話を書くのが好きなんです。何か1つ、朗読しましょうか?」
「え、いいの?」
この爽やかな声で物語を聞けるとは。人生得してる気がする。
「あまり、人に見せる機会もないので。」
「お話の題名って、どんなの?」
「『造花の嘘』です。」
わお、純文学っぽい。
「では、聞いていてくださいね。」
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『綺麗だね』
彼女の純粋な言葉が、青年には重かった。花の、枯れてゆく悲しさが、彼は嫌いだった。だから、彼女には偽物の花、造花を贈った。偽物の枯れない美しさと、散りゆく儚い美しさ。去年の彼女の誕生日に、贈り物を買う金の無かった青年は、家の近くに咲いていた白詰草などの花で花束を作って渡した。本物の花は、匂いがする。春には春の匂い、夏には夏の匂い。造花はどうだろう。季節の匂いなんかしない。ただ無機質な、作り物の匂いだ。偽物の美しさで、大切な人を笑顔にしている自分。別に、作り物で良いじゃないか。本物はすぐ枯れる。管理も大変。面倒臭いことをするのならば、ただ枯れない美しさを見ていれば良い。自分はそう思っていたのに。彼女はこちらをじっと見て、呟いた。
「嘘つき」
ねえ、さっきの言葉も作り物だったの?さっき見せてくれた笑顔は……全て、空のはりぼてだったのか?
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「おお……へえ……なんか……哲学っぽいね。」
「そう言われると……何だか照れますね。まだ途中経過なので、完成したらまた読んでください。」
今、私が感じているこの幸福は、きっと、絶対、作り物じゃないと信じたい。
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明日。とうとう明日、関東大震災が、起こる。いやマジでどうしよう考えただけでなんかもうヤバい。
「よっ。朝から何考え込んでんの?」
えーっとこのチャラいのは確か……和音に年が近い方の弟の和樹くん……だっけ?
「おはようございます。かぐやさん。とうとう、明日ですね。」
「うん。そうだね。」
「え、明日なんかあんの?かぐや姉ちゃん出ていっちゃうの?」
ね、姉ちゃん……
「いや、そういうことではない。ないよ。うん。」
「じゃあ何ー?」
「かぐやさん、あの事話すべきでしょうか。」
あの事、とはやはり関東大震災のことだろう。
「これからを考えたら話した方が良いかもね。」
私は、和音の家族みんなの方を向いた。
「あの、話したいことがあります。」
「どうした?」
新聞を読んでいた和音のお父さんも、朝ごはんを膳に並べていた和音のお母さんもこちらを向いた。
「私は、実は未来から来ています。今から100年後の、2023年から。そして、明日は関東大震災という大きな地震が来ます。正午頃に。かなり規模が大きいので、おそらくこの辺りの多くの家が倒壊し、火事も起きるでしょう。」
「それ……本当?」
和音の妹の和実ちゃんが不安そうな顔で私を見た。
「本当です。1923年、9月1日に。なので、皆さんにはいつでも逃げられる準備をしていてもらいたいです。私が生きている時代は避難所というものがありますがこの時代だとその辺はあまり整っていないでしょう?なので、いざという時には大事なものだけ持って逃げてください。」
「じゃあ、お気に入りの服とかは……」
「地震が起きた時の状況によりけりだけど、生きるのに要るか要らないか自分で判断して。でも、もし何か危ない状況になったら、諦めないといけないかな。」
「そっか……」
うん。悲しそうな顔されるとなんか申し訳ない。ごめんよ。
「一応、誰がどう逃げるか決めておきませんか?母さんは和実と、父さんはできれば和樹と和佐どちらも連れて逃げていただけないかと。僕がかぐやさんと逃げます。」
「そうね。それがちょうど良いかもしれないわ。」
「よし。じゃあ父さんから全員に必ず約束して欲しいことがある。かぐやちゃんにもな。死んだらもう会えないけど、死んだらその運命をちゃんと受け入れること。もし生き残れたら、それから出会った人をちゃんと大切にすること。人の和を大切に、が時和家の家訓だ。もし一生会えなくても、それは絶対大事にすること。良いか?」
「はい。」
「わかりました。」
「私も、ちゃんと心に留めておくわ。」
「名前に和って文字が入ってるんだ。生きてても死んでも和は大事にしないとな。」
「あたし、しっかり覚えておく。」
いい事を聞かせてもらったな。
「かぐやちゃんはいつか、自分の生きている時代に戻らないといけない時が来ると思う。でも、自分の時代でも、時和家のこと忘れないでくれよ。」
「もちろんです。」
私は明日に向けて、しっかりと決意を固めた。
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9月1日がやってきた。昨日のうちに、誰が誰と逃げるかなどは話し合ってある。あとは、その時間が来るのを待つだけだ。時計を確認する。確か正午の2分前に地震が来る。あと3分ほどだ。
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正午2分前。和音の家が大きく揺れた。
「行きましょう。かぐやさん。」
「うん。」
和音の家族にお礼と別れを告げ、揺れが収まってから家を出た。和音の手を引き、走る。どこに向かっているのかはわからない。ただ、被害が広がる前に。焦げるような音が聞こえる。家が崩れる音も。地獄絵図だ。そして走りにくい!!和音が着物くれたのは嬉しいけど、こういう時はマジでしんどい!!その綺麗な着物も、少し煤が付いて黒っぽくなっている。
「かぐやさん、大丈夫ですか?」
少し息を切らしながら、和音が聞いてくる。
「何が?」
「いや、あの、手が。」
「は?」
思わず足を止めて自分の手を見る。え……
「薄くなってる?」
自分の手が、少し薄く、透明になってきている。手だけじゃない。着物も、足も。少しずつ透明になっている。
「多分、かぐやさんが元の世界に戻る時が来てしまったんですね……」
「嘘でしょ!?なんで今なの!?」
どうしよう。悔しさと悲しさで、涙が浮かぶ。
「おそらくもう時間がありません。手短に話します。かぐやさん。僕がかぐやさんにあげた着物の柄の花は何でしたか?2つ、ありますよね。」
「桔梗と……藤。」
「そうですね。そして桔梗の花言葉は「永遠の愛」「変わらぬ愛」「誠実」「気品」です。藤の花言葉は「歓迎」「恋に酔う」「忠実な」「優しさ」「決して離れない」です。僕はそれを知った上で、かぐやさんに着物をあげたんです。」
「どういう……こと?」
わからないな。
「かぐやさん。僕は、かぐやさんのことが好きです。貴女の笑顔や、優しさが。僕のかぐやさんに対しての愛は、時代を越えても変わりません。かぐやさんの生きている時代でも、貴女はその優しいままで居てください。いつか必ず、会いに行きます。かぐや姫さん。」
「うん。……うん!」
いよいよ、私の姿が完全に見えなくなってしまう。でも、最後にこれだけは言いたい。
「私も大好きだよ。またね、|和音《わおん》。」
私は和音を抱きしめ、そう言った。
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「かーぐーや!起きて!」
「んー?」
「爆睡だったね。ほら、そろそろ着くよ。」
目が覚めると、私をペシペシ叩く、友達の菜生と南美がいた。なんで……なんで現実は変わってないんだろう。あの時代でのことは確かに起きていた。時間もちゃんと過ぎていた。和音の言葉も、家の燃える匂いも、ついさっきまでそこに居たかのようにはっきり覚えているのに。どうして……現実では時が動いてないんだろう。
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今の時代に戻ってから、約1ヶ月。あの時の謎は、解けていない。
「かーぐーや。アンタ最近ぼーっとしすぎじゃない?」
「大丈夫。中間の成績は維持できるから。」
「そういう話じゃないんだよっ。」
「いてっ。」
適当に答えたら前の席の菜生にデコピンされた。
「というか、もう10月じゃん。」
「そうだね。」
外の木々も、段々色付いて来ている。
「じゃ、先生来たからまた休み時間に。」
「うん。」
私は、隣の空席を眺めた。夏休みに隣の席の男子が転校しちゃったから、今の私の隣は空席。早く誰か来ないかなー。
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その日はなんとなくクラスの空気が浮ついていた。先生の話によると、転校生が来るらしい。男子かな。だったら私の隣だよな。ガラッと教室の扉が開き、転校生が入ってくる。男子だ。色白で細くて、結構かっこいい。メガネかけてるし、ちょっと和音に似てるな。
「今日から、転校生が来ます。自己紹介してくれる?」
「はい。|時和大和《ときわやまと》です。よろしくお願いします。」
え……今、時和って言った?
「席は、二藤さんの隣ね。前から4番目で窓際の席よ。」
「了解です。」
おいおいおいおいおいおいおいおい!!マジで隣とは……少女漫画か!?ここから恋始まるやつなのか!?
「よろしくお願いしますね、かぐや姫さん。」
名字が一緒で、名前にもちゃんと、和の字が入っている。何より、2人で決めた、あのあだ名を知っている。
「よろしく、|和音《わおん》。」
あの時の約束、ちゃんと守ってくれたんだね。