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目次
~Prologue~
この作品は、別サイトでも私が執筆・投稿している
「魔王の娘ですが魔王討伐を誓います」を若干リメイクしたものだよ!
「暇だぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
私、美咲はそう叫ぶ。
「お嬢様、また兄様たちから叱られますよ?」
いいんだ、シャルム。もう慣れた。
「もうあいつらはダメだ、頭の中にカニ味噌が詰まってる。」
「え、食べられますか?」
「食えないよ、残念だけどね。」
現在の状況を説明しよう。
私は西魔界を統べる父親、魔王の娘だ。ちな、第3王女。
そして、目の前でのんきにコーヒーを飲んでいるのは専属メイドのシャルム。
基本、シャルムしか味方はいない。
今、こう思ったでしょ。
「あぁ、魔王の娘なら強いんでしょ。無双して終わりか、|BB《ブラウザバック》しよ。」
いつから、私が強いと錯覚していた?
本来なら、私はもう「能力」を授かっている年齢だ。
それなのに!!!!!!!!
**私には能力がなかった!!!!!!**
そう、《《なかった》》。
つまり、今はある!!!!!!!
え、やっぱり強いじゃんって? そうだよ!!!!!!!!!
私は最強になったよ!!!!!!!!
これで、いっつもうざい父親やら脳内カニ味噌兄妹をぶちのめせる。
ご飯が2日に1回なことも、出てくる飲み物が水たまりの水だったことも、
パンを野良猫に食われたことも、全部報われるときが来た!
これは、最弱と罵られた私が、みんなをざまぁしていくお話。
はい、ご閲覧ありがとうございました!新シリーズ(?)が始まりましたね。
圧倒的実力で色んなやつらをなぎ倒していく美咲。
彼女に立ちはだかる最強の敵とは・・・・?
1.
〜前回登場したキャラ〜
・美咲
西魔界の魔王のもとに生まれた、第3王女。
能力の開花が非常に遅れたことで無能力と勘違いされ、虐げられる。
・シャルム
美咲の専属メイド、もともとは貴族だったらしい。
だが、何か理由があり、メイドに降格となった。
「家出しようかな。でも、どこ行けばいいのかわかんないしな。
あ、人間界があるやん。よし、そうしよう。」
「なんで一人で喋ってるんですか・・・・・?(恐怖)」
「ん、家出する。」
こんなところに居ても、無駄に時間が過ぎるだけ。
なら、家出したほうがコスパいいよね!(???)
「・・・・・・・・はい?」
「いや、だから家出を・・・・。」
「あ、言葉の意味はわかってるんですよ。なんでそんなに脈絡のないことが言えるのか不思議で。」
「・・・シャルムって意外と毒舌だよね。」
---
―――ということで。
家出してきましたぁぁぁぁ!!!(どういうことで?)
あんな蜘蛛の巣だらけの部屋にいるくらいなら、外のほうがまし。
このまま人間界に行って・・・・・、行って・・・・・?
そうじゃん、『転移』系の魔法使えないんだった。
ここは魔界だから、人間界に行くには『転移』が使えないといけない。
でも、私は使えない。え、人間界に行けない? 終わった。
「シャルム、『転移』使えたり・・・・・?」
「しません。残念ながら。・・・・どうやって人間界まで行くつもりなんです?」
「え、何も考えてなかった。」
**「それなら、僕が連れて行ってあげましょうか?」**
「あー、じゃあお願い・・・・・、誰!?」
「お決まりの流れですね、20点。」
シャルム、手厳しいね。
「僕の名は美音、魔王の首を落とすものです。」
え、怖い怖い。 何だお前。
「私、その魔王の娘なんですけど。娘の前で殺害予告するな。」
でも、こいつ《《使えそう》》。私の魔王討伐に。
「連れて行ってくださるんですか?」
シャルム、こんなガキにも敬語を使うなんて・・・・。(なお美咲と同年齢の模様。)
「そんな簡単には連れて行きませんよ。あなた達もするんでしょ?」
**『魔王討伐』**
《《あなた達も》》ってことは。
お前、本当に使えそうだな。美音も討伐目標なんだ。
2.
「え、誰です? この爽やかイケメンは。」
「だから、美音です。『みなと』って読みます。」
「メタいな、読むとかいうな。」
「まぁまぁ落ち着いて。|苦丁茶《くうていちゃ》でも飲んで落ち着いて。」
「くっそマズイお茶やん。飲んだことあるて。」
(美咲は、シャルムに思い切り飲まされたことがあります。)
「んで、僕について来れば人間界行けますけど。」
「ぜひともお願いしたいね、魔王討伐の準備をしないと。」
「お嬢様、声が大きいです。騎士団たちに見つかったらどうするんですか。」
シャルムが咎めるように言う。
*※騎士団は、魔王に逆らうやつを見つけて処罰する団だと思ってね。*
「大丈夫だよ。こんな森には、誰も来ない。」
今いるのは、西魔界にある小さな薄暗い森の中。
よほどのもの好きじゃないと、ここには来ない。
**「それで、あなた達戦えます?」**
あ、終わった。戦う流れや。こういう相手ってだいたい強いよね。
ずっと引きこもってたやつが戦えるわけ無いでしょうよ。
少し考えたらわかるよね、魔王を倒すためだもんね。相手の実力知りたいよね。
・・・・・というとでも思ったか?
私はあそこから出るまでずっと暇だった。何もないからね。
だから、色んな魔法を考えてた。 使えるかは知らんけど。
「よし、かますかぁ。」
「今日で初戦闘ですよね、お嬢様。」
「お二人は僕の結界を破ったら勝ち、僕は二人を|戦闘不能《気絶》にすれば勝ち。」
だいぶ緩いルールだね、こっちがすごく有利だし。
「このくらいしないと、圧勝しちゃうからね。僕は。」
うぜぇ〜〜〜! やる気出てきた、やるか。
「**夜光の堕天使**を舐めないでもらえるかな。」
なんだよ、夜光の堕天使って。厨二病か? そうなの?
「そろそろ、戦闘を始めますか。」
「そうですね、それじゃあ・・・・。」
**「スタート」**
――――戦いの幕が上がる。
---
さて、と。
任せたよ、もうひとりの私。強敵っぽいから気をつけて。殺さないようにね。
*『承知した。』*
その短い返事と同時に、私の意識は暗い闇へと消えていく。
これは、私が|あいつ《美音》に勝つ唯一の術。
**よろしくね、美和さん。**
さてさて、美和さんとは一体何者なのか!乞うご期待!
3.
〜前回までのあらすじ〜
なんやかんやで美音と出会った美咲とシャルム。
実力を示すために戦闘開始。そこで出てきた人物、美和さんとは?
[美咲?視点]
我が外に出るのは、ずいぶん久しいことだな。
シャルム殿は支援をしてくれるそうだから、気兼ねなくやるか。
怪しげな妖刀が我の手の中で鈍く光る。
美音殿、|挑戦者《チャレンジャー》は君だ。我ではない。
「楽しませてくれよ、|挑戦者《チャレンジャー》。」
その言葉に、彼は余裕そうな笑みを浮かべる。
「いつまで、その余裕が続くんでしょうね。」
いつまで続くか? ずっとに決まっているだろう?
---
[美音視点]
このままじゃ、先に僕の余裕が無くなりそうだ。
結界を張っているのに、この圧。さっきの彼女とはぜんぜん違う。
一体どういうことだ・・・・? 何者なんだ、君は。
キンッ カチッ
攻撃を受け流すので、精一杯。
――――しょうがない。出し惜しみはやめるか。
そう思い、僕は使っていた ただの剣を捨てる。
「『能力発動 光を操る程度の能力』」
そう唱えて、僕は愛用している|光の剣《ライトセーバー》を生み出す。
「・・・光か。」
彼女は、まだ能力を使っていない。警戒しないと。
---
それから時間が経ったが、お互い一歩も譲らない勝負になっている。
両者とも、まだまだ余裕がありそうだ。
美しい晴天に、両者の汗がキラリと光る。
「そろそろ頃合いか。」
そのつぶやきを聞いた美音は危険を察知し、後ろへ下がる。
「『上級雷魔法 風神雷神への雨乞い』」
途端に、空に雲がかかる。 まるで、その声に誘われるかのように。
ポツン ポツン ザーー
黒く深い雲から、雨が降ってくる。そして――― 。
ゴロゴロゴロ ピカッ
大量の雷が落ちてくる。その|標的《ターゲット》は――――。
「・・・マジか。」
美音だ。彼にすべての雨風、雷が四方八方から襲いかかる。
そのはずだった。
**「『|標的変更《ターゲットチェンジ》』」**
その言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。
―――理解せざるを得なかったのだから。
「さて、美咲。この能力で、君の技は全部君に返ってくることがわかった。」
(そうか、美音殿は我を美咲だと思っているのか。)
「ここから、どうやって勝つつもりです?」
「・・・・そろそろ、我も本気を出そうか。仕方がない。」
「『アイテムBOX 創造と破滅』」
彼女の手には、青い宝石が埋まった紅色の杖があった。
(我は、これ以上の技を知らない。)
**「『究極零魔法 |宇宙の始まり《ビッグバン》』」**
『|宇宙の始まり《ビッグバン》』とは、美咲の専用武器である『創造と破滅』のみで
発動できる超広範囲爆発魔法。回避、防御はできない最強な技だ。
この技は、多くのミサイルが打ち込まれたとしても粉々にするだろう。
この技を食らったものは、もれなく戦闘不能になる。
(我が出るまでもなかったな。美咲に所有権を戻すか・・・・。)
**「『変化術 |幻影《ファントム》』」**
白いコウモリのような空を飛ぶものが、美咲(?)に襲いかかる。
「美音殿・・・・、なぜ意識があるんだ・・・・・・・。」
これを食らって立っていたものはいない。そう思ったばかりだったのに。
結界さえも割れないなんて。
「僕を舐めてもらっちゃ困りますよ。あなたが誰かわからないけど・・・・。」
**「絶対に負けませんから。」**
「シャルム殿。」
ずっと息を潜めていたシャルムが、美音を襲う。
「『魔剣、結界を割って。』」
シャルムは***魔剣使い***。
自身が従える4本の魔剣を巧みに操り、戦闘に参加する。斬れ味は一級品だ。
護身用に手元に残した1本を残し、魔剣は美音のもとに飛んでいく。
シュンッ カキンッ
「・・・やばいな。」
間一髪、剣で弾き返したようだ。まだ、結界は割れていない。
「我を忘れたのか?」
「『変化術 |幻影《ファントム》 改』」
先程の比にならないくらいの量のコウモリが飛び出す。
「美音殿、魔力量が凄まじいな。戦っていて楽しいのは久しぶりだ。」
(これまでは、瞬殺して終わってしまったからな。)
「『中級雷魔法 斬断の雷雨』」
雨が止み、雷がより一層激しくなる。その雷は刃となり、美音を苦しめる。
__「さっきまでは、こんなに魔力がなかったはずなのに・・・!__
__まさか別人なのか? いや、でも・・・・。」__
(我が、美咲ではないことに気づいたか?)
「隙あり、ですよ。美音さん。『魔剣、爆ぜろ』」
ドカァァァァァァァァン
シャルムが、持っている魔剣が思いっきり爆発した。
パリンッ
「・・・・割れた。」
**「僕の結界が、割れた・・・・・・・?」**
世界線とか
この世界は、人間界、魔界、天界の3つに分けられる。
***〜人間界〜***
人口の約9割が人間。残りは住み着いた魔族や魔物。
たまに魔物が暴れることがあるが、|人間のほう《秘密警備隊》で処理する。
秘密警備隊とは、人間の約1割を占める**能力者**によって構成される。
残りの人間は、魔族や魔物の存在を信じず、能力も持っていない。
あとは、普通に現実と同じだと考えてくれれば。
***〜魔界〜***
魔族、魔物、魔獣などが暮らしている世界。
東西南北と中央の5つの地域で構成されており、
美咲の父親は、西魔界の魔王として君臨し、ふんぞり返っている。
中央地域には大魔王がいて、魔界を創ったとされている。
*魔族*:人型の魔物。知能が高く、ほぼ全員が魔法を使える。
*魔物*:動物みたいな見た目。知能は低く、物理攻撃が多い。
*魔獣*:その土地を守る神様的なやつ。ドラゴンっぽい見た目が多い。高貴な存在。
人間界にも存在する。
***〜天界〜***
天使や神が住んでいる。人間界、魔界を下に見がち。
いい奴もいるよ、きっと。
美音が住んでいたのはここ、なんやかんやで降りてきた。
---
***〜能力について〜***
*・属性を操る程度の能力*
その属性に値する魔法を扱いやすくなる。属性の種類については後述。
*・〇〇を操る程度の能力*
丸の中には何でも入るよ、変化を操るとか 植物を操るとか・・・・。
・その他
その他にもあるよ、たいてい強いよ。(適当すぎんだろ、おい)
---
***〜魔法について〜***
火、水、風、雷、地、光、闇の主属性と、
炎、毒、嵐、聖、暗黒などの上位互換や、
氷、植物、雪、影などの派生先、零や累などのオリジナル属性が存在する。
関係は以下の通り。(水⇨火だったら、水は火に有利ってこと。)
水 ⇨ 火 ⇨ 風 相性はこんな感じだけど、 風魔法のときに
火が消えたり増えたり、水が火で蒸発したりと
⇧ 光⇔闇 ⇩ まぁ、色々起こる。
雷 ⇦ 地
初級魔法、中級魔法、上級魔法、究極魔法の4種類に分けられる。
これらは、魔法の威力や効果、発動難易度により分類される。
***〜黒炎魔法について〜***
この世界で禁忌とされる技。世界を破壊しかねないほどの力を持つ。
使ったが最後、世界は黒炎に包まれて滅ぶだろう。
もはや、魔法の域を超えた得体のしれない何かである。
そのため、使い方を知っている人物は世界で数人とされる。
設定が増えたら、こっちにも追加するね。
4.
**「僕の結界が、割れた・・・・・?」**
どうも、美和さんから体の所有権を返してもらった美咲です。
ん、どういうことかって? まあ、時間があるときにでも。
「・・・・この勝負、僕の負けだ。」
―――ってことは!?
「「人間界に連れて行ってください!」」
「2人とも、顔をあげてほしい。頼まれなくても、連れて行くから。」
しょうがない、爽やかイケメンスマイルをされたら顔を上げるしかないね。
「2人共、改めて自己紹介するね。僕の名は美音。堕天使だ。」
「え、堕天使?」
「うん、堕天使だよ。」
「かっけぇ! やっぱり天界ってあるの?」
「あるよ、地面が雲みたいな感じなんだよね。」
「へぇ〜! 見てみたいな、雲の地面。」
「お嬢様、美音さん。
ここがジメジメしてて息をするのも ためらわれるような空気の森だということをお忘れで?」
「・・・・一旦、僕の家に行こうか。僕の手を握って・・・。『転移』」
シュイン
今思えば、これは魔王討伐のための小さくて大きな一歩だった。
美咲と美音が出会ったのは、お互いの人生を大きく変えることだったのだ―――。
今日はちょっと短くなったので、もう1話出しました!
5.
「美音は、どうして魔王討伐をしようと思ってんの?」
「お嬢様って、デリカシーないですよね。」
「テレパシー?」
「デリカシーです。」
「カツカレー美味しいよね。」
「関係ないです。デリカシーです。」
「・・・2人っていつもこんな感じなの?」
「え、そうだけど。どうした?」
__「こわ。」__
「いや、そんなことはおいといて。」
**「美音が魔王討伐を目指している理由は?」**
「・・・・両親を、魔王に消されたから。文字通り、消された。この世界から。」
「・・・・・ほんとにデリカシーなかったんですね、お嬢様は。」
「えー、本当にごめん。ま、私の魔王討伐の理由が増えたね。」
「「???」」
「敵討ちに決まってるでしょうよ。しばくぞ〜!」
__「未戦闘者がよく言えますね・・・・。」__
「ん?(圧、とても凄まじい圧。)」
「何でもないです。」
そんなくだらない(?????)話をしていると。
「あ、ここの森の中ですよ。」
「マジで・・・・?」
目の前に広がっているのは、めっちゃ暗くて、鬱蒼とした森。
「めっちゃジメジメしてる・・・・。」
「そこら中によくわからないキノコが生えてますよ・・・・。」
「なんか文句あります?」
ボン ボンッ ドカァン (そこらへんの木が爆ぜる音。)
「いえ、なんでもないです。そう、ナンデモナインデス。」
「なら、ね?」
「今の爆発、すごく威力が高かった気がする。」
「僕の魔力と相性がいいからね。」
「ん、どういうことですか? わからないの私だけ?」
「大丈夫、私もわからん。同類項だね。(同類項=仲間だと思ってね。)」
*※投稿主は仲間のことを同類項というクセがあります(?)*
「魔力のことはわかりますか?」
魔力、それはこの世界に必要不可欠なもの。
空気中や生物の体の中に含まれており、それを使って魔法を使う。
人間は魔法を使わないらしいけど、私たちにとっては重要だ。
「多少は。詳しいことはわからん。」
「おっけー。それで、場所によって魔力の量が変わる。ここはすごく多い。」
「だから、あんなにすごい魔法が出たんですね!」
「そうです。この近くなら、初級魔法でもあの通り。」
あれ、初級魔法だったのかよ。そう思うと、だいぶすごいな。
「あ、ここが僕の家です。」
「ついた・・・・・。・・・は?」
私が驚くのも無理はないはず。
私の視界に家なんてない。強いて言うならでっかい岩がある。
「え、家ってまさか・・・。」
「そう、この岩。」
ドーム型の大きな岩。え、住めないだろ。
「私もお嬢様みたいに節穴に・・・・・!?」
「失礼やな、そこに疑問を持つな。」
6.
目の前に|佇《たたず》む大きな岩。
「え、ここに住んでる・・・・・?」
「うん。 ・・・・・・あ、そうか。」
何かを思い出したかのように、美音は言う。
「2人とも、魔力探知ってできる?」
*魔力探知*:自身の周囲にある魔力の流れや、性質などを見ること。
「私は、ある程度使えます。でもお嬢様が・・・・・。」
シャルムが気遣うように言う。
「そ、私は全く使えない。」
誰もが認める魔法音痴。それが私。
魔法音痴というよりか、そもそも使ったことがないのが原因。
使える環境じゃなかったからな。魔法は1つだけ使えるけど。
「なら、練習しようか! 晩は磯辺と言うし!」
「善は急げだね。それだと、晩ごはんを海岸で食べることになるよ?」
「・・・・やってこー!」
「雑だな。」
「お嬢様は人のこと言えませんよ。」
(この展開が一番雑。)
---
「やり方は超簡単! 猿でもできる、というかできないとヤバい魔力探知講座〜!」
「言い方にトゲがあるなぁ、それで出来ない人いたらどうするの?」
「無理矢理にでもやらせる。」
その場の空気が凍りつく。
(こいつ、もしやパワハラ上司・・・?!)
「とまぁ、本気の冗談は置いといて。」
(え、どっち? ガチなん?)
「美音さん、そろそろ話を進めないと閲覧者さんたちが|BB《ブラウザバック》します。」
(メタいんよ、発言が。)
「対象に意識を集中させる。すると、モヤっぽいのが見えてくるはず。」
(意識を集中・・・・。)
彼女の意識は、深い海の中へ落ちていく。
海の中に1つしかない、己の魔力を探すために。
__「・・・・お嬢様。」__
__「美咲――― 。」__
声が聞こえる。それは、小さく聞き取ることができない。
(私の・・・・、魔力。)
*「自分の魔力は、見れば絶対にわかる。自分の体と結びついているから。」*
そう言った、出会ったばかりの彼の言葉を思い出す。
(これじゃない。これでもない。)
(本当に見つかるのか? ・・・・諦めちゃダメだ。)
そこで彼女は気づく。自分の体がほんのり光っていることに。
白と黒が混ざり合い、差し色に紅色を足したまばゆい光が。
(―――――これだ。これが、私の魔力。)
さらに、それに意識を集中させる。
(動いてる・・・・。いや、流れてる。私に流れてるんだ。この魔力が。)
魔力の色と流れを無事に確認した美咲は、意識を世界へと戻す。
「・・・・できた。」
「おかえりなさい、お嬢様。」
「おかえり、美咲。」
**「ただいま、2人とも。」**
無事に成功し、安堵した3人。
美咲を見て、2人は語りだす。
「美咲が魔力を見ている間に、少し話をしてたんだ。」
「私たちだけでなく、この世界にも魔力が流れていて、それぞれ相性があるらしいんです。」
「自分の魔力と、その場所の魔力の色が近いほど魔力回復が速くなる。」
「ここは緑色の魔力で 私の魔力も緑なので、相性がいいってことですね。」
「なるほど、そんな仕組みもあるんだ。」
「美咲の魔力は何色だった?」
「白と黒が混ざりあった色、紅色も混じってた。」
美音は黙り込む。まるで、自身の中から何かを探しているように。
その彼を、2人は黙って見ている。
「詳しくは、家の中で話そうか。『変化術 |開封《オープン》』」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
岩の形が変化し、それは立派な家となった。
「これが、僕の家の本当の姿。」
__「どういう仕組みなんだよ・・・、てか広すぎ。」__
__「―――なんか、すごいですね。」__
ギィィィィィィィィ
扉が開いた。 その家の全貌は・・・・。
「広すぎんだろ!?」
「お嬢様は、魔王城に住んでたじゃないですか。人のこと言えないですよ。」
「それは、父親が魔王だったからね! 元天使と言えど、こんな・・・・。」
「まあ、気に入ってくれたなら良かった。」
**「それじゃ、本題に入ろうか。」**
空気がひりつく。
「まず、一つ確認なんだけど。美咲は魔族なんだよね?」
「そうだよ。魔族として生まれた、底辺魔王の第3王女。」
「それで、魔力の色が白と黒と紅だったんだよね。」
「うん。そうだけど。」
(私、何かおかしいこと言ったか・・・?)
「魔族の魔力は、黒一色が当たり前なんだよ。」
「え、私って一応魔族だよ?」
「えぇ、お嬢様は間違いなく魔族で・・・・。」
(よかった、そうだよね。魔族だよね。)
「魔族は、黒が当たり前。なのに、正反対の白が含まれている。」
(ついでに紅も。)
「この現象が起こるのは。」
***「強力な魔族と神聖な人から生まれたときにしかありえない。」***
「強力な魔族、これは当てはまっている。美咲のお父さんが魔王だから。」
「なら、母親は? なにか特別な役職だったはず。」
彼女は答えない。否、答えることが出来ない。
**彼女は、母親について何も知らないのだから。**
それを見かねたシャルムが言葉をこぼす。
「もともとは、ただの人間だったんですよ。お嬢様のお母様は。」
---
「お嬢様のお母様のお名前は、『サクレ』。
人間界の「フランス」という国の言葉で『神聖な』という意味らしいです。
サクレさんは、日本人のご両親のもとに生まれました。
でも、ご両親がフランスで出産したから、フランス語のお名前らしいです。
そんなサクレさん、神聖なのは名前だけではなかったんです。
サクレさんは、幼少期から湖のほとりで遊んでいた。」
シャルムは目を閉じて、また話し始めた。
「そこは、光属性や聖属性の湖でした。
サクレさんは、そこでずっと遊んでいた。これが何を意味するか。」
2人はわかってしまった。このお話の結末が。
この悲惨な物語の終末が。
「きっとそれだけなら、良かったんです。
でも、サクレさんはその湖の影響であまりにも強大な力を手にした。
四大精霊を使役する、最強の精霊使いとして悪事を働く魔族を裁いた。
**だから、魔族に目をつけられた。**」
「でも、四大精霊がいたなら・・・・。」
(そうだ、母さんには精霊たちがいた。簡単に負けるなんて。)
しかも、四大精霊は精霊の中でもトップの実力を持つ。
「そう簡単に負けるなんて、ありえない。」
「私も、そう思いましたよ。サクレさんが、負けるなんて思いもしなかった。」
「でも、負けてしまった。 ・・・・私が知っているのはこのくらいです。」
シャルムは思い出したかのように、つけ足す。
「・・・・今更ですが、言ってしまって大丈夫でしたか?」
「本当に今更だね、大丈夫だよ。」
---
〜ちょっと時間が経って〜
ちょっと重い話をしたけれど、今はこの大豪邸を満喫中。
前は、テレビも椅子もなかったからね。
「そういえば、美咲。本当に戦闘未経験だったの? そうとは思えないんだけど。」
ソファでくつろぐ美音がそう問う。
「・・・・難しい質問だね。必要になったら伝えるよ。」
「―――そっか。そこのベッドは使っていいからね。」
「ありがと。それじゃあ、また明日。」
今日は疲れた。ゆっくり休もうかな。
あ、忘れてた。
そう思い、カバンの中から数少ない荷物を取り出す。
「日記を書いておかないとね。」
---
***習得したもの***
*・魔力探知、対象の魔力の色や流れを知ることができる。*
*・母親の情報、私の魔力にも関係あるらしい。*
*今日は、美音に出会った。最初は胡散臭いやつだと思ったけど、いいヤツ。*
*かなりの実力者だった。美和さんを呼ばないといけないのは誤算だった。*
7.
|私《美咲》は爽やかな日差しによって目覚める。
「・・・ねむ。」
二度寝してしまおうか、そう思った矢先。
コンコン
「お嬢様、入りますよ。」
「シャルムか、いいよ。入って。」
美音の気配りによって、私とシャルムは一部屋ずつ自分の部屋を手に入れた。
部屋に入ってきたシャルムの手には、見覚えのある服があった。
「お嬢様のお洋服です。服、持ってきてないんでしょう?」
・・・・あ。
改めて私の荷物を確認する。
兄から掠め取ったゲーム機と充電器、姉から奪い取ったコントローラー。
ずっと使っている日記、鉛筆と消しゴム。
これしかない。私はどうやって生活しようとしていたんだ。
「・・・・お嬢様らしいですね。服も忘れるなんて。」
「シャルムが持っててくれたんだ。ありがとう。」
これは120% 私が悪い。生活力がない。
「あと、これも忘れてましたよ。」
そう言って取り出したのは、私の大切なもの。
「マジか・・・・、私はアイテムBOXも忘れてきたのか・・・・!」
*アイテムBOX:持ち物を自由に出し入れできる道具。量に上限はない。*
*美咲のものは、ズボンなどにつけられるポーチっぽいやつ。*
「お嬢様にとっては必需品ですから・・・、気をつけてくださいね。」
「そうだね。何から何までありがとう・・・。」
シャルムは本当にすごい。私が覚えていないことも、できないこともフォローしてくれる。
「着替え終わったら、1階に降りてきてくださいね。」
「わかった。」
言われたとおりに着替えて下の階へ降りる。
なんで美音の家は、2階建てなんだ。やっぱり金持ちだろ。
そんなことを考えながら、ドアを開ける。
ガチャ
「美咲、おはよう。よく眠れた?」
「おはよう。おかげさまで、ぐっすり。」
コトン
「はい、美咲のごはん。口に合うかわからないけど。」
「これ、美音が作ったの? めっちゃ美味しそう。いただきます。」
シャルムも美音も料理が上手で羨ましい。
私は何も教えられてこなかったから、全く分からん。練習するか。
私は朝食のパンを口に放り込む。
「うまっ・・・・・!」
「なら良かった。今日はきっと疲れるから、たくさん食べて。」
・・・今日はきっと疲れるから、って言った?
「美音、何する気?」
「魔法を使う練習だよ。あと、美咲の能力も知りたいし。」
経験ゼロの私に、優しく教えてくれるか・・・・?
「・・・・覚悟しとくか。」
「お嬢様、応援してますね。」
---
その後、朝食を食べ終わった私たちは魔法の特訓をするために草原へと来た。
「美咲の能力って何なの?」
「いや、わからない。鑑定してもらってないから。」
能力を知るには、分析や鑑定の能力やスキルを持っている人に鑑定してもらう必要がある。
でも、能力発芽時期に能力がなかった私は自分の能力を知らない。
「ていうかさ、能力とスキルって何が違うの? 同じようなもんじゃない?」
「なら、そこから説明するね。一番大きな違いは、先天性か後天性か。
能力は、種族によって発芽する年齢が決まっていて生まれつきではない。
スキルは、生まれつき持ったもの。持っているかは人によるけどね。」
なーるほど。
「それ以外にも、細かい違いはあるけど気にしなくても大丈夫です。お嬢様。」
「僕のスキルは、『分析』だから美咲の能力とかも調べられるよ。」
とっても都合いい展開。流石だぜ、美音。
「それじゃ、見させてもらうね。『スキル発動 分析』」
---
*名前:美咲*
*能力:能力を創造・管理・破壊する程度の能力*
*スキル:重力操作*
*魔力:15万*
---
「え・・・・?」
私のことを分析した美音が、息を漏らす。
もしかして、くっそ弱い能力だったりした?無双できない?
「強すぎるでしょ・・・・・!!!」
あ、逆だったみたい。
「美咲、君の能力はチートだよ。強すぎる。」
「なんていう能力だったんです?」
すっごい気になる、そんなに強いのか。私の能力は。
「『能力を創造・管理・破壊する程度の能力』、よくわからないけど強そうじゃない?」
あたいったら最強ね。(急なチルノ)
え、強そう!
「お嬢様、何か試してみては?」
「そうだね、試してみよう。」
・・・・とは、言ったものの。
こんなよくわからん能力をどうやって使えと?
なんか、なにかしら出てこい! ちょっと使うの怖いから!
バサッ
な、なんか出てきた〜!?
「え、上から本が降ってきたんだけど!? 勉強しろってこと?!」
「お嬢様、落ち着いてください。苦丁茶でも飲みますか?」
「同じネタを擦るな!そのお茶、健康にはいいけど!」
(僕、蚊帳の外なんだけど。)
かわいそうな美音。
「美咲、本に何か載ってるんじゃない?読んでみたら?」
「そうか、確かに。」
「なんとなくわかるでしょ・・・。」
呆れたように言う美音。その可能性に至らなかった私は一体・・・・?
8.
私の能力を試してみようと思った矢先、私に一冊の本が与えられた。
きっと、能力のことに関して載っているんだろう。
「開けるよ・・・・。」
少し緊張しつつ、表紙をめくる。
---
--- ***「能力を創造・管理・破壊する程度の能力」*** ---
*この能力を持ったものに、この書物を授ける。*
*これは、創造、管理、破壊の使い分けによる能力である。*
***・創造***
*創造は、新しく能力を生み出す力。*
*自身が思い浮かべた能力を手に入れることができる。*
*複数の能力を保有することも可能だが、その数が多いと疲れる。*
*相反する力を持つ能力は同時に持つことはできない。*
*※「光を操る」と「闇を操る」や、「火を操る」と「水を操る」など。*
***・管理***
*管理は、能力を完全に扱える力。*
*自身が創造した能力の使い方を理解し、扱えるようになる。*
***・破壊***
*破壊は、自身の能力と他人の能力を消失させる力。*
*他人の能力を破壊すると、その人物は能力を使えなくなる。*
*その適用される時間は、人によって様々。*
*自身の能力を破壊して、創造のデメリットである疲労を軽減させることができる。*
---
「自分で、能力を手に入れられる・・・・!?」
これってとんでもないチート能力では?
「これ、強いなんてレベルじゃないよ。最強、もうチート。」
「思っていた以上に強いですね・・・・。しかしですよ、お嬢様。」
シャルムが忠告する。
「どれだけ強い力があっても、扱えなければ意味がないですからね。」
「・・・うん、わかってる。練習しないとね。 ・・・・なんか創ってみるか。」
--- **「『能力創造 あらゆる魔法に適性を持つ程度の能力』」** ---
---
***「あらゆる魔法に適性を持つ程度の能力」***
*この能力は、自身に適正のない属性魔法も100%の力を引き出す。*
1000文字いかなかった・・・・。頑張ります。
9.
「ん・・・、あらゆる魔法に適性を持つ。いい能力だね、美咲。」
「本当に能力が手に入るんだ・・・・!」
「すごいですね・・・・、うまく使えば・・・。」
そのときだった。私たちの平穏が崩れるのは。
「行くぞ、お前ら!」
「あいつが第3王女だ! 何が何でも捕らえるぞ!」
怒声が飛び交う、・・・・危なッ!
そして、数々の銃弾が私に向かってすさまじい速さで飛んでくる。
一発目は躱したけれど、これ以上は無理だ。私が避けた先に銃弾が飛んできている。
「『上級植物魔法 守りの籠』 お嬢様、諦めないでください!!!」
シャルムがそう言うと、周囲に咲いていた花々が急激に成長し 私を守る。
それらは銃弾を包み込み、姿を消した。
「『変化術 |幻影《ファントム》』」
美音の技で白いコウモリが飛び、現れた人々を襲う。
私は守られてばかり。実力がないから? 経験がないから?
そんなもの、理由にならない。
私は、さっき手に入れた能力で すべての魔法に適性を得ている。
これまで引きこもっていたんだから、技のアイディアなんていくらでもある。
--- **「怒れる雷神、壊れる人々。 世界は、自然に生かされている。」** ---
「お嬢様・・・・・?」
「シャルム、美音。下がって。ここは、私が相手をする。」
「でも、美咲は戦ったことないんでしょ!?」
「大丈夫。私を信じろ。『上級雷魔法 雷刃乱舞』」
もう、私は守られてばかりじゃない。
誰かを守れるように、自分を守れるように。
「さよならだ、哀れな軍団ども。」
雷の剣を頭上から降らせる技、『雷刃乱舞』。
それらは、確実に攻めてきた彼らを蝕む。
「俺は、まだ死なない!死ぬわけには行かない!!!『スキル発動 |反撃《カウンター》』」
《《まだ》》死なない。彼らは彼女に生かされていることを知らない。
「カウンター系のスキルか。『中級雷魔法 雷神の加護』」
彼女のことを守るように、薄い結界が覆う。
ときどきビリビリと音がして、雷をまとった結界なのを思い知る。
「お嬢様・・・・、戦闘したことないって言ってたのに。」
「シャルム。私は確かに戦闘するのは初めてだ。でもね。」
**「厨二病には使いたい技が山ほどあるんだよ!!!」**
「名言風に言ってるけど、カッコよくないからね?」
「これで終わりだ、『中級雷魔法 放電』」
『放電』、それは自身の周囲にある雷を衝撃波にして飛ばす技。
彼らは、その技を知ることもなく命を散らす。
「―――初戦闘でも意外といけるもんだね。」
「いや、強すぎるでしょ。」
「強すぎませんか!?」
10.
「お嬢様、なんでそんなにお強いんですか・・・。あんな引きこもりが。」
「一言余計だね、しかもだいぶ。」
そう言った美咲の手は震えている。
(お嬢様、緊張していらしたんですね・・・。)
「美咲、避けて!!!!!」
ザシュッ
「・・・・氷のクナイ。一体どこから。」
美咲の足には氷で作られたクナイが刺さっていた。
美音が警告したことによって最悪の事態は免れた・・・、が。
「『|氷の槍《アイスランス》』 第3王女、ここで仕留める。」
「お前、私のことを傷つけて命があると思ったら間違いだからな?『中級炎魔法 火炎』」
パチパチと音を立て炎が槍を溶かしていく。だが火力が足りず、溶かし切るには至らない。
「戦闘初心者の王女が、槍を溶かせるわけないだろう。」
「お嬢様、下がっていてください。負傷した今、下手に出るのは迂闊です。」
シャルムが注意を促す。たしかに、彼女の言う通りだ。
「『スキル発動 回復』 僕のスキルである程度回復できるから、落ち着いて。」
美音のスキルは2つ、『分析』と『回復』である。
どちらも名前のまんまだが、汎用性が高く重宝される。
「そんな小さなクナイで怒るとは、まだまだ子どもなんだな。」
「あ゙? お前、誰にそんな口聞いてんだ? ぶちのめすぞ。」
「お嬢様、治安が悪いです。落ち着いてください。」
「実力がないくせに、よく吠えるな。そんな負傷ごときで動けなくなって。」
「・・・・うるせぇ、お前には関係ないだろ。てか、お前誰だよ。」
「私は今の軍団の隊長だ。そして、こんな弱者に名乗る名前はない。」
軍団の隊長、それは先程よりも実力があることを意味している。
「すぐに終わりにするか、こんなに弱いとは。興ざめもいいところだ。」
「『上級氷魔法 完全凍結』」
小さな氷の弾が不規則に飛んでくるスペル。
「『スキル発動 重力操作』 怪我しててもできることはあるんだわ。」
『重力操作』、それはその名の通り重力を自由に操れるスキル。
彼女のスキルで、氷の弾ははるか上空へ消え去った。
「ふっ、そうか。だが、お前はさっき知ったはずだ。」
--- **「油断は人の命を奪いかねないのだと。」** ---
「離してっ!」
美音は、手を振りほどこうとする。
だが、相手は屈強な体を持つ。そう簡単には行かない。
「美音!!!!!!!!!」
「第3王女たちは邪魔だ、『中級氷魔法 氷鬼に捕まった』」
美咲とシャルムの足元から少しずつ氷が侵食し。
「動けない・・・・。」
「魔王様の情報によれば、こんな男は魔界にいないはず。少し話をしようか、貴様。」
「僕のこと、どこに連れて行く気ですか?」
「2人だけで話せる場所だ、誰も来ることはできない。」
「・・・・まずいですね。」
「このまま美音が連れ去られたら・・・・!」
2人は動くことができない、一体どうする。
「完全凍結」はチルノのスペカである
「パーフェクトフリーズ」を参考にさせていただきました。
―――あたいったら最強ね。
11.
(私もお嬢様も動くことができない、どうすれば・・・・。)
「考えても無駄だ、『ポータル開通』」
(このまま、私たちは何もできないんですか・・・!)
「シャルム、諦めるな。『能力創造 力を引き出す程度の能力』」
『力を引き出す程度の能力』、それは隠された力を開放する能力。
**「これなら来れるでしょ!美和さん!!!!!!!」**
その瞬間、彼女は現れた。
灰色のような不思議な色の髪、何もかもを壊しそうな紅い瞳。
「我の登場だ、美咲。」
---
「・・・・お嬢様、この方は?」
シャルムの言動から、かすかな警戒が感じられる。
「あとで説明する、でもこれだけは言っておく。」
--- **「美和さんは味方だよ、きっと何があろうと。」** ---
「わかりました、信じますよ。」
「あの氷魔法の使い手をやればいいのだろう?」
「そうだよ、美和さん。隣にいる男子は絶対に傷つけないでね。」
「なかなか難しい要求をするな。まぁ、我に出来ないことはないが。」
彼女はそう言うと一瞬で距離を詰め、敵に蹴りをくらわせた。
《《**本当に?**》》
蹴りをくらったものは、正体を現し破片を散らす。
「氷・・・・?」
「安直だな、スピードは確かに一級品だが。」
彼女たちの背後から、敵と美音が現れる。
よく見ると、美音の口は手で塞がれており、美咲たちに伝えるのは難しい状況だった。
「あっちは氷で作った偽物だったと言うことか!?」
「そういうことだ、貴様は確かに強い。だが、上には上がいることを忘れるな。」
そう言って、ポータルの中に入り姿を消した2人。
「実力不足を痛感した。美咲、すまない。」
「私が戦闘不能になったのがいけなかったんだ。美和さんは悪くない。」
「・・・お嬢様、説明していただいてもいいですか? 美和さんのことについて。」
「そうだね、あれは私が5歳だったとき―――。」
---
〜その頃 美音は〜
「僕をここに連れてきて、何をするつもりですか。」
地面も空も見えない、不思議な光景が広がっている。
そんな空間に連れてこられた美音。
「貴様、名前は?」
「いいませんよ、美咲たちの敵だって言うなら。」
「言え、でないと貴様の命はない。」
「|美音《みなと》ですよ、美しい音と書いて美音です。」
「美音、お前は冷静で実力もある。そんなお前に提案だ。」
**「こちら側へ来ないか?」**
「・・・・・魔王側につけって言ってます?」
「そう言っている。」
「嫌に決まっているでしょう、僕の親は魔王に殺されたんですよ。」
「そうか。なら、こちらに来ると言うまで待つしかないな。」
彼が指を鳴らすと、美音が座っている椅子からロープが出現した。
あっという間にロープで縛られ、美音は動けなくなる。
「僕が、こんなものでそちらへ行くとでも?」
「思っていない。・・・・少し、この後の話をしよう。」
「この後ってなんですか、あなたは一体何を企んでいる。」
「お前たちは、魔王討伐を目標にしているのだろう?
それとは逆に、私たちは第3王女の討伐を目標にしている。
それはなぜか。
答えは簡単だ、魔王様に王女の首を捧げれば 金をもらえて地位も手に入る。
・・・お前は、もし魔王討伐した後どうするか決まっているのか?」
「―――決まっていないです。」
「もし討伐したとして、お前はどうする?
第3王女は自らが魔王になり、魔界を統率するだろう。
隣にいたメイドも、それをサポートする。
なら、お前は?
お前だけが、その後を保証されていないんだ。
なのに、王女たちは悠々とお前の家に住み着いている。
おかしいと思わないか?」
「・・・・・思わない。僕が天界に帰ればいいだけの話だ。」
「帰れるのか? 濡れ衣を着せられて天界から追放されたのに?」
「信じてくれる人の方が多かった。戻っても生活は保証される。」
「でも、お前の周りは気づいてるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・何を。」
「お前が地上に降りた後、連続殺人をしたことだよ。」
「・・・それは過去の話だ。3年前の話を持ち出すな。」
「大切な妹のためだっけか? 兄妹愛ってやつか。」
「僕が何をしてもみんなは迎えてくれる。僕は信じてるから。」
「私たち魔王軍は、そんなやつらも受け入れる。たとえ殺人犯でも。」
「・・・・・・。」
「なぁ、人を殺してどんな気分だった? 怖かった? そんなことないよな。」
「・・・・やめろ。」
「お前も楽しんでたんだよ、人を殺すことに快感を覚えたんだよな?」
「違うって言ってるだろ!!!!」
彼は、珍しく声を荒げて叫んだ。
美咲たちに見せる、爽やかイケメン(笑)の欠片もない。
「僕はもう、殺人から手を引いたんだ。あれから一度も殺していない!!!!!」
そう叫んだ後、自分に言い聞かせるように呟く。
「__そうだよ、僕はもう殺してなんかない・・・・。もうやめたんだ。__」
「―――だから何だ? お前が人を殺したことに変わりはないよな?笑
お前は、それから逃げている。現に王女たちにそのことを伝えていない。」
「・・・・それは。」
「怖いんだろ? 王女たちに幻滅されるのが。
こっちにくれば、幻滅なんてされない。それが当たり前だからだ。
王女たちは、お前と違って苦労せずここまで生きてきた。
向こうが死ぬのが、当然じゃないか?」
「・・・・・。」
彼は動揺している。目が泳ぎ、手が震え、汗をかいている。
「・・・・美咲たちも苦労してきた。
能力がないせいで、ずっと苦労してきたって。忌み嫌われていたって。
それを知っているのは僕だ。お前らなんかにはわからない!!!!!」
「・・・・ここまで言ってもダメか。」
そう言うと、美音の方に少しずつ近づいて。
「あ゙ッ・・・・、やめッ・・・・・。」
体が酸素を欲している。何よりも、誰よりも。
「首から手を離してほしければ、こう言うんだ。」
「『王女たちを裏切って、魔王軍に行く』、そう言えばいい。それだけで楽になれる。」
パッ(手を離す)
「ほら、言うんだ。」
「絶対に、いいませんから・・・!」
首絞め、NGだったのに今では好きになってしまった。
まぁ、フィクションなら好きって言うのはある。うん。
番外編 1.
これは、美咲が5歳の頃の物語。
まだ幼く、迂闊で単純で、そして何よりも無知だった頃の話。
「美咲、来い。」
・・・・またか。
今まではずっと放置されていたのに、急に戦闘の練習をさせられるようになった。
「・・・はい、兄上。」
私は否定することも、意見を言うことすらも許されない。
「天性の無才」、影でそう呼ばれていることも知っている。
でも、仕方ないんだ。私が、無能力者として生まれてしまったのだから。
---
この世界は弱肉強食だ。
だから、能力が必要不可欠。弱いものは強いものに捕食される。
ましてや、私の父は魔界の一つの地域である西魔界の統率者。
いわゆる魔王というやつだ。圧倒的強者でいないといけない。
それなのに。
*「第3王女、能力が見当たりませんね。」*
*「・・・・っ。それは本当か?」*
*「ええ。・・・・・使い物になりませんので、引き取りましょうか?」*
*「いや、こちらで奴隷として扱う。問題ない。」*
それから、私はすべてを失った。
お気に入りの部屋も、優しくしてくれていたメイドたちも。
その頃はシャルムはいなかった。美和さんとも会っていなかった。
だから、たった一人を除いて味方はいなかった。
「だいじょうぶ!お姉ちゃんはいい人だもん!」
そう言ってくれた、たった一人の一つ年下の妹。その名はクレア。
彼女は、能力を持っているにも関わらず、私のことを気にかけてくれた。
私は少し警戒していたが、最終的には心を開いた。
そのとき、私は5歳だったのに「人を疑う」ことを知っていた。
人間不信はほぼ治ったけれど、傷は残り続ける。
唯一信じていた彼女を、自らのせいで失うなんて思いもしなかったのだから。
---
結局、私が戦闘のことについて教えられていたのは、戦争のためだった。
戦争とは言ったが、規模は小さい。
人間界の小さな地域、そこを手に入れるために父は手を出した。
私はその戦争の一番下、雑兵。
そこで戦わせるために、戦闘の基本を教えられていたらしい。
―――この戦争での雑兵の生存率は4%だった。
魔王たちはここで私が力尽きる、そう思っていたのだろう。
でも、ならなかった。
クレアのおかげだ。
彼女は、私に結界を張ってくれた。誰にもバレないように。
私は戦闘の才能があったらしい。支給された錆びたナイフで多くを切り裂いた。
しかし、そのせいで目立ってしまったらしい。
当然のことだ。5歳の少女がナイフで暗躍しているのだから。
多くの大人に囲まれて、銃を撃たれた。ナイフや槍もあった。
そこを、クレアに救出された。空を舞うことができる妹に。
私は妹に頼ってばかり。それは5歳のころも知っていた。
だから、天罰が下ったのだろう。
クレアの足に、銃弾が当たった。容赦なく何発も。
クレアはこう言い残して、地に落ちていった。
「お姉ちゃんは捕まっちゃダメだよ・・・・!!」
私は落ちなかった。クレアが魔法をかけてくれたから。
彼女は、自分に魔法をかけなかった。そうすれば自分が助かったのに。
なんで、こんな無能を助けた? これも誰かの策略なのか?
そんな考えがうずまきながら、私はナイフを握りしめていた。
---
クレアは重症、戦争も敗北。
父によると、戦争に負けたのも何もかも私のせいなのだという。
その後、私とクレアは絶対に会えないようになった。
私が、地下室行きになったからだ。
奴隷の檻にさえ、一日三食、シャワー、ベッドは支給されていた。
私がいた地下室は、なにもなかった。シャワーもベットも、何もかも。
地下室でずっと、一つのことを練習し続けていた。
そこは蜘蛛の巣だらけで、小さな机と椅子だけがあった。
そこから抜け出すことも、許されない。思い出したくもない。
私が部屋から脱出したときは・・・・・。
---
「追えぇ!!!!!」
「あのガキ、どこに行きやがった!?」
私が部屋から抜け出したとき、最初に感じたもの。
解放なんかじゃない、恐怖だ。
私は、路地裏で必死に息を潜めていた。
そのころは6歳だったが、それでもわかった。
**見つかったら、命はない。**
最大2万人が私のことを探していたらしい。捕まえたら懸賞金がもらえるからだ。
よく4日も見つからずに済んだと思う。
**―――美和さんと出会ったのはこのときだ。**
「あ・・・・、やだ・・・・・・。」
5人の男に囲まれて、私は必死に抜け道を探していた。
「やだじゃない、早くこっちに来い。」
強い力で腕を引っ張られ、ほぼ諦めた。
―――《《ほぼ》》、つまり完全には諦めていなかった。
ただ一人、檻の中で練習していた術。
「『召喚術 神降ろし』」
『神降ろし』、その名の通り神をこの世界に降ろすことができる。
ただ、私には力が足りなかった。初めて実戦で使うのだからなおさらだ。
降りてきたのは、神ではなかった。神の使い、つまり美和さんだ。
彼女は神ではないけれど、実力は十分すぎるほどあった。
その場で敵を斬り、私の体の中に入っていった。
本人曰く、『邪悪な気が多すぎて耐えられない』らしい。
天界に住んでいる神の使いなら、魔界の空気に耐えられないのは当然のこと。
そうして美和さんと出会い、戦闘のたびに彼女に体の所有権を移した。
まだ小さい子どもには、何度も『神降ろし』を使うほどの魔力はなかったからだ。
本当は、『神降ろし』で降ろした神に助けてもらえるのは一度だけ。
一度助けてもらったら、その神は消えて、また降ろす必要がある。
だが彼女はこう言って、私と契約をした。
「こんなに小さな幼女を置いて消えられるわけ無いだろう。」
契約の内容は、こうだ。
*・私は、美和さんが私の体の中に入ることを許可する。*
*・美和さんは、私がお願いしたら私の体を自由に動かすことができる。*
*・美和さんは、私のことをなんとしてでも守る。*
その3つを約束してから、ずっと彼女は私の中にいる。
---
「その後、私が9歳くらいのときにシャルムが来た感じ。」
「そんなにずっと前から・・・・。」
正直、美音さんとの戦闘から気づいていた。
一人称、魔力の流れ、威力、その他を見ても別人で。
それは美音さんも気づいていたと思う。
・・・・お嬢様のことを一番知っているのは私だと思ってたんですけどね。
まあ、これからたくさん知っていきますから。
初の番外編。今日はもう一話出します。
12.
お嬢様と美和さんの出会ったきっかけを聞いた。
話してくれたこと、もちろん辛い思いをしたのは想像がつく。
その話の内容以上に、「これらを知らなかった」ことの方が私の心に刺さった。
「別に、シャルムを信頼してないとかじゃない。」
お嬢様が、私を気遣うように言った。
でも、私は思ってしまう。
信頼されてないのではないか、と。失意と絶望のどん底に落とされたかのような。
初めて信頼できた人物、お嬢様が私を信頼していないのではないか。
そう思うだけで、気が重くなる。
「シャルムは考えすぎ。これは私なりの優しさだった。」
「我が急に魔界に飛ばされたから驚いてしまってな。
混乱したせいで暴れ、美咲を傷つけてしまった。
それを知ったら、シャルム殿に斬られるのではないかと美咲が心配してな。
シャルム殿、我からも何か言えばよかったな。すまない。」
そういうことだったんですか・・・・。
「よかったです・・・・・! 失望されたんじゃないかって・・・・!」
「お前の主はそんなことするように見えるのかな?笑」
「いいえ!!!!」
「ふふっ、でしょ? 安心しな。 ・・・・美音、大丈夫かな。」
「―――大丈夫ですよ。信じましょう、美音さんを。」
「そうだ、美咲。きっとすぐ帰ってくる。」
「うん、そうだよね。ありがとう、2人とも。」
---
「そろそろ観念したらどうなんだ、お前。」
「僕はそんなに安くないですからね。」
あれから20分。男は、美音の耐久力に驚いていた。
美音は、何度も首を絞められているが折れる気配はない。
相手の方は、もはや楽しんでるまである。怖すぎ。
「しょうがない、またか・・・・。」
男が手を近づけた瞬間。
**「『初級光魔法 閃光』」**
この空間一帯が力強く光った。
「お前! 何をする気だ!?」
男が眩しさに目を背けた瞬間、美音は光のナイフで縄を切った。
スパッ
「このために、わざわざ魔力が回復するのを待ってたんですから。」
「あなたを倒す、そのときのために。」
美音は煽るように言う。
「まさか、僕が反撃してこないなんて思ってたんですか?」
「逆に聞くが、もう一度ひどい目に遭いたいのか?」
「そんなわけ無いですよ。魔王のくだらない理想を断ち切るだけです。
美咲の犠牲の上の理想なんて、僕は絶対認めませんから。」
「それなら、こっちはお前の命を切ってやる。」
「『上級氷魔法 |氷墜《ひょうつい》』」
静寂を破ったのは、敵だった。
「『上級光魔法 聖なる光の加護』」
鋭い氷柱が現れ、次々と墜ちる。
それを、美音の技が吸収して被弾を回避する。
戦う理由も理想も違うが、背負っているものの重さは同じ。
***戦闘開始だ。***
「氷墜」は、チルノの「アイシクルフォール」を参考にさせていただいた。
アイシクル⇨氷 フォール⇨上から下へ落ちる⇨墜ちる⇨墜
ぎりっぎり投稿間に合った!(執筆終了時間、5時49分)
ちょっと短いけど、2話出したから許して☆
13.
「一つ聞く、あなたを倒せば僕はここから出られる?」
「あぁ、だから正々堂々勝負しようか。」
シュッ
氷のナイフが飛ぶ。美音は冷静に避ける。
「正々堂々、とか言ってる割には卑怯ですね。」
美音の周りには、薄い光る結界が見える。
避けていなくても、この結界が彼を守っていたのだろう。
「その結界が邪魔だな。」
男はそう言うと、美音の方に突っ込んできた。
「無警戒に突っ込むと、あなたの首が飛びますよ。」
美音がそう言う。すると、この空間が再び光に包まれる。
「初級魔法くらい、僕でも無詠唱で使えますからね。」
「それは、私に対する煽りか?『中級氷魔法 瞬間冷凍』」
男の周囲が少しずつ凍っていく。その氷は美音の方へ向かってくる。
「お前は、少しスピードに難があるな。
美音の速さがSSくらいだとしたら。私はEXだ。お前に負けることはない。」
美音は、結界では受けきれないと判断したのか 飛んで逃げている。
ギリギリ目で追うことができるくらいのスピードで飛び続けている。
だが、氷はそのスピードにさえもついていく。
「お前は逃げられない。」
少しずつ、少しずつだがその距離が縮まっていく。
「『上級光魔法 天魂落とし』」
男の頭上に、光が現れる。
「これは触れたらダメそうだな。」
男は落ちてくる光をサッと避ける。
たしかに触れたら魂ごと消滅するが、動き出すまでが遅いため避けるのは容易だ。
「本命はこっちですよ。」
加速した美音が、男を|光の剣《ライトセーバー》で斬る。
カキンッ
「その程度か、つまらない。」
氷の槍で受け止められた。
「氷がお前を狙っているのを忘れたか?」
**「想定通りですよ、すべて。」**
氷を避けながら、彼は言う。
「『上級複合魔法 光速』」
その瞬間、彼が消えて空間を斬り裂くような光が現れる。
*複合魔法、それは複数の属性や能力を合わせて使う魔法。*
*美音の能力は、「光を操る」と「変化を操る」の2つ。*
*『光速』は、自分自身を光に変化させる技。*
*美音が指摘されていたスピードを補うことができる。*
*なんと言ったって、光速なのだから。*
「・・・見えない、だが。『究極氷魔法 氷墜 改』」
先程よりも、広範囲に氷柱が落ちる。
だが、光には通用しない。
光には実態がないから、見えるだけで触ることはできないからだ。
「どこに消えた・・・・・・!」
**「後ろですよ。」**
後ろを振り向くが誰もいない。前を向いたそのとき。
「言ったじゃないですか、後ろだって。」
男に光の剣が突き刺さる。
「あなたたちの理想を踏みにじってあげますから。」
「・・・・そうか。お前たちの理想も、魔王様が消してくれるさ。」
そう言い残して、彼は消えた。そして、この空間も。
(倒したから、ここから出られるはず・・・・。)
そう思ったのもつかの間。
パァァァァァァ
(・・・・道ができた。ここを通れということか。)
美音は素直にその道を渡る。
「このドアを開ければ、帰れるはず。」
(騙されていたときは、仕方がない。また返り討ちにして見せる。)
ガチャ ギィィィ
「美音!!!!!!!!!」
「・・・・美咲。」
「本当に心配したんだぞ!?」
「お嬢様、落ち着いて。苦丁茶でも・・・?」
「そのネタ、何回擦るんだよ。」
彼女たちに、笑顔が戻った。
それをひっそり影から見つめるものがいた。
「あんなに弱そうな女に負けたんすか。あいつら。」
「あぁ、だが。あいつらはあくまで囮だ。」
「めんどくせぇけど、やりますか。あんたと一緒なのも嫌っすけど。」
一応毎日投稿は今日で終了! ま、そのうち投稿しますわ。
14.
__「3人とも。木の陰に誰かがいる。」__
美音にそう言われ、気づく。あからさまに殺気立つ人影に。
今まで気づかなかったことに驚くほどの、殺気。
「気づかれてしまったか、意外と早いな。」
「そうっすね、でも勝利は揺るぎませんよ。」
暗い紫の長い髪を持つ女と、薄い茶色の髪を持つ男。
「二人だけじゃないのはバレてますよ、魔力の流れでわかる。」
美音が当然かのように言う。 ・・・・・二人だけじゃないの!?
「今はまだいないんだと思うよ、多分ポータルかな。」
心を読まないで。
「お嬢様、顔に出てます。」
そんなに!?
「あと、もう一つ。美咲、何があっても絶対に動揺しないで。落ち着いて。」
__「僕みたいに、過去の傷をえぐられるかもしれないけど・・・・。」__
声が小さかったから、後半はよく聞き取れなかった。
でも、肝に銘じておくよ。
「僕と美和さんで、女性を相手する。男の方は、2人に任せる。」
---
「シャルム、後ろ!」
私がシャルムに注意を呼びかけると、シャルムは男の拳を受け止める。
普段のシャルムなら、避けることは出来ても受け止めるのは難しい。
だが、そこは支援の|熟練者《スペシャリスト》。自身の能力を底上げするのは難しくない。
同じく、シャルムの支援を受けた私は、刀を男に向かって振り下ろす。
ガンッ
棍棒だ。男が背負っていた棍棒に刀を受け止められた。
棍棒などただの棒だと思っていたが、違うようで。
__「・・・・隙がない。」__
近づけば、突かれる。離れると、私の刀よりもリーチが長いので不利になる。
こっちは2人だ、なのに隙が全く生まれない。
男は、棍棒だけでなく拳や脚も使って攻撃してくる。
武器に戦闘を頼るつもりはないようだ。
・・・少し悔しい。実力の差が圧倒的だ。
私も戦闘経験は少ないから、下手なことは言えない。
でも、この目の前の男について一つだけわかることがある。
こいつ、かなりの実力者だ。きっと|向こう《魔王軍》でも上位の人物。
「猛者・・・・、か。」
「今更気づいたんすか。やっぱり大した事ないっすね。」
**「冥土の土産に一つ教えてやりますよ。**
**オレの名前は|紫薇《しい》。武を極めるものだ。」**
**「そっちが名乗るなら。私の名前は美咲。戦闘を好むものだ。」**
「ただの戦闘好きじゃないすか、勝つのはオレだ。」
15.
あれから、数分。私たちは一発も与えられていない。急がないと・・・!
シャルムと息を合わせて、攻撃するしかないか。
「『中級雷魔法 雷神の加護』」
私の雷魔法、『雷神の加護』は触れた者はもれなく体が痺れる。
「はっ!」
パリンッ
「ちょ、割るのは聞いてないって!?」
「こんな薄っぺらい結界で何を守るって言うんすか。」
棍棒で割られているから、痺れさせることもできない。
―――――わりと自信のある結界だったんだけどな。
「シャルム、これって・・・。」
「えぇ、間違いないです。紫薇と名乗った彼は―――」
「武の|達人《スペシャリスト》、一筋縄ではいかないでしょうね。」
「そう言ってるじゃないすか、俺が勝つんですよ。」
戦いは、まだ終わらない。
---
「ずっと吸収される・・・。」
「どうする、美音殿。このままでは埒が明かないな。」
「話し合いなんてさせないぞ?『上級闇魔法 |黒影連舞《こくえいれんぶ》』」
2人の視界が闇に染まる。何も見えない、感じられない。
「美和さん、一つ試してみたいことがあります。」
「わかった、やってみてくれ。」
彼女の承諾を得た美音は、術を唱える。
「『上級光魔法 聖なる光の加護』」
周りの闇をすべて浄化する、光魔法。
彼の技の中で発動難易度が最も高い技である。
すぅっと、闇が引いていく。
「やった・・・!」
思わず口角が上がる美音。
「一つの技を克服しただけだろう? こっちには、まだ策はあるぞ?」
それを見て嘲笑う彼女。
「大丈夫だ、美音殿。 希望があるだけいいだろう。」
カバーする美和。
「『神降 |無慈悲な世界《クルーエル ワールド》』」
周囲が光に包まれた。
美和の技、『|無慈悲な世界《クルーエル ワールド》』は上空から剣を降らせる技。
それらの剣は、『|威光《いこう》の|剣冥《けんめい》』と呼ばれ、見るものを圧倒する。
「すっご・・・・。」
美音は、その美しさに見惚れている。
「この程度、闇が喰らう。『中級闇魔法 |深闇《ディープ ナイト》』」
すべてをのみこみそうな闇、それは剣を吸収し糧とする。
少しずつ温度が下がり、冷気が肌を刺す。
「『変化術 |幻影《ファントム》』僕達は、こんなんじゃ止まりませんよ。」
美音の下僕であるコウモリたちが、彼女に牙を剥く。
「・・・うっとうしいな。」
互いに互角、だがまだ手はある。
この戦況を狂わすのは誰か。勝利するのは誰か。
(それを見逃すなよ、僕。)
---
そのころ、美咲とシャルムは間合いに入ることができず苦戦していた。
「これじゃ、体力を消耗するだけですよ・・・!」
シャルムの言う通りで、状況は膠着している。
「でも、攻めるとカウンターされるんだよね・・・・。」
2人がこの状況を突破するための策を考えている。
―――だが、2人は知らない。
それは 隙となり、自らの命を奪うものになるのだと。
「ここらでスキルを使おうっすかね。『|連爆天破《れんばくてんは》』」
その瞬間、地が揺れた。
大きな衝撃とともに、2人の体が宙に浮く。
数々の爆発により、彼女たちは離れ離れになってしまう。
土ぼこりが舞い、両者とも視界が潰れる。
(ちょっと目に入ったな・・・、痛いし 見えにくい。)
「お嬢様ッ!」
「私は大丈夫、自分の身くらいは守れるよ!」
生存確認のために声を上げる。
だが、その一言で。
ドゴッ
紫薇は、場所を知り 彼女たちを倒すことができる。
「シャルム!?」
シャルムのほうから、何かがぶつかるような音がした。
「『重力操作』」
美咲はスキルで土ぼこりを地面に戻す。
彼女が目にしたのは――――。
シャルムを抱えている紫薇だった。
「カウンターされそうになったけど、素人の攻撃は読みやすいっすからね。」
__「少し危なかったすけど。」__
(シャルムのカウンターを避けて、攻撃も急所に・・・!?)
「お前! シャルムを離せ!!!」
「素直にするわけないっすよ。」
(私のせいで、また・・・・!)
美咲と美音、ともにピンチの状態。
2人は、この状況を打開することができるのか。
紫薇ってサルスベリっていう花の中国名らしいですね、初耳。
名前を考えた当時は、何も考えてなかったんで。(それでいいのか投稿者)
あと絶対に「しい」とは読めないだろと思っている今日このごろ。
まぁいいか。
16.
「俺らの目的は、第3王女なんで。あんたが来てくれるなら喜んで離しますよ。」
シャルムを抱えたまま、紫薇は告げる。
「お嬢様、私のことは気にしないで・・・・!」
「俺は、第3王女と話してるんすよ。黙っててください。」
そう言って、抵抗するシャルムを手刀で気絶させる。
―――これで、私一人になってしまった。
「それで、どうするんすか。」
私は歯噛みする。私の実力じゃ、あいつに負けるのは明らかだ。
―――美音たちに助けを求める?
いや、あの2人のことだから、勝っていたらこっちに向かうはず。
来ないってことは、重症なのか戦闘が終わっていないのか・・・・。
―――可能性にかけて、魔法を使うとか?
あいつとシャルムの距離を考えると、シャルムもダメージをくらうかも。
加減して撃つと、あいつはきっと倒れない。
いったいどうすれば・・・。
すると、シャルムが目覚めたらしい、ぶつぶつと何かを呟いている。
「__あの魔法を使うときが来た・・・? でも―――。__」
そして決意したように、叫んだ。
「お嬢様! 離れてください!」
私は、反射的に後ろへ下がる。
「『黒炎魔法 |黒蕾《こくらい》』」
「『黒炎』の使い手なのか!?あれは伝説の話じゃ・・・・!」
紫薇は、急に焦り始めた。 たしかに、聞いたことのない魔法だけど。
小さな植物の芽が、2人の足元に生えているのが見える。
その芽は急速に成長し、黒い花の蕾は2人を包みこんだ。
「シャルムも中に入っちゃったけど・・・・、いいんだよね?」
一抹の不安が残る、でも私にできることはもう何もない。
――――また、助けられちゃったな。
そんなことを考えていると。
蕾の中で何かが暴れているのか、大きく揺れる。
黒い蕾が閉じ込めた空間から、まるで生き物のように絡みつく炎が吹き出した。
紫薇の叫び声が、花弁の隙間から一瞬だけ漏れる。
そして、蕾がふわりと開き、綺麗な黒いバラが咲いた。
美しさと華々しさ、そして禍々しさを持ち合わせたバラ。
暗黒に染まったそれは黒い霧を散らしていた。
その上に降り立ち、優雅な微笑みを見せたのは―――
シャルムだ。
周囲に紫薇の姿はなく、何かが焦げた跡だけが残っている。
「勝ったの・・・?」
「えぇ、勝ちましたよ。お嬢様。」
短い返答を聞き、私は安堵する。
でも、体の震えは止まらない。震えは、シャルムを心配したからではないから。
シャルムが生み出したバラの禍々しさ。私はそれに圧倒されていた。
・・・大丈夫、なんだよね?
---
[シャルム視点]
これは、お嬢様を救うためには仕方がなかった・・・・。
もう、あの魔法を使って後悔はしたくありません。
・・・お嬢様が、もし黒炎魔法を知っていたら。
そのときは、ただじゃ済まないですね。
黒炎魔法は―――。
《《世界を滅ぼす禁忌の魔法》》と言われていますから。
---
[美咲視点]
・・・この禍々しさは一旦おいとくとして。
シャルムのおかげで勝てたのは間違いないんだ。
今は、あの2人を助けるのが先だ。
待っててね、2人とも。
まず、私がするべきなのは――――。
---
[美音&美和]
「ったく、埒が明かないですね。」
「あぁ、お互いに体力を消耗するだけだ。」
お互いに攻撃を続けるが、決定打となるものがない。
「『神降 |無慈悲な世界《クルーエル ワールド》』」
『|威光《いこう》の|剣冥《けんめい》』が、敵の命を喰らうために天から姿を現す。
「それはもう対処できる。『上級闇魔法 黒影乱舞』」
「美音殿、すまない。そろそろ妖力が尽きそうだ。」
「・・・奇遇ですね、僕もですよ。」
(僕の魔力的に、魔法が使えるのはあと3回くらい。どうすれば。)
「そんなに余裕がないのだろう? 私よりも経験が浅いのだからな。」
「あなたに心配されるほど、弱くありません。敵は黙っててください。」
(そうは言ったものの・・・・。)
(これ、負けるかも。)
美咲たち到着まで、残り10分。
それまで持ちこたえたら、美音たちの勝利。
それまでに重症を負ったら、敗北を意味する。
地獄の耐久戦は、始まったばかりだ。
17.
[美音視点]
あと3回分の魔力、これをどう使うか。
僕が考えないといけないのは、それ。
「『中級闇魔法 |深闇《ディープ ナイト》』」
僕の魔法を使えば、すぐに消せる。
でも、魔力は少ない。まだ使うべきじゃない。
「そんなに慎重でいいのか?『中級闇魔法 |深闇《ディープ ナイト》 常』」
闇が僕達を喰らいに迫ってくる。
ここで、魔法を使うしかない・・・・・!
「『上級植物魔法 守りの籠』」
声が響く。その声の主は僕ではない。美和さんでもない。
「お二方、助っ人に来ましたよ!」
シャルムさんの登場だ。
「『魔剣、追え』」
「この程度、すべて闇が喰らう。『上級闇魔法 |黒影連舞《こくえいれんぶ》』」
再び、視界が闇に包まれる。でも、シャルムさんはこの程度じゃ止まらない。
「『魔剣、下がって』」
そこで、僕は一つの疑問に行き着く。
「シャルムさん! 美咲は!?」
「相手の援軍を相手してもらってます!」
あのときのポータルから、援軍が来てたのか・・・!
「シャルムさん! 美和さんに支援お願いします!
『上級光魔法 聖なる光の加護』『上級聖魔法 光という名の免罪符』」
僕のありったけの光をここに込める!
少しずつ、ほんの少しずつだが、光は強まる。
美音の思いに応えるかのように、闇を呑み込む。
すべては、彼女の技を届かせるために。
「『究極支援魔法 攻撃は最大の防御』」
相手の防御を最大まで落として、味方の攻撃力を底上げする技。
この支援を受け、美和は立ち上がる。
「我の力、ここで解放する。『神降 新光の断行』」
あたりが、目が開けられないほどの光に包まれる。
その光が美和に手に収まったとき。
それは解放される。
「我が主、力をお借りします。『神力解放』」
美和の手から光があふれる。
そして、すべてを包む。敵も味方も、すべてを。
壊す。
ドカァァァァァァァァァァァァン
「ゲホッ 僕の結界でもギリギリなんて・・・・。」
「でも、これなら倒せたんじゃないですか・・・?」
「我のこの技でもだめなら・・・・。」
そのときだった。
「『上級闇魔法 |深闇《ディープナイト》に包まれたのは』」
闇があたりを覆う。それは、敵が生きていたことを意味する。
「僕・・・・。もう魔力が残ってないですよ・・・!」
「私もです・・・・。」
「我も、妖力が尽きた・・・・。」
そこで、敵である彼女は高らかにこう言った。
「ゲホッ 残念だったな・・・。私にはまだ魔力が残っている・・・・!」
あんな高火力の技をくらったのに、なんで生きてるんだ・・・。
「私の闇はすべてを喰らう、知らなかったか?」
まさか、闇にあの爆発を吸収させたってこと・・・!?
いわゆるブラックホールで、別次元に飛ばしたんだ。
そして僕達はたった今、魔力が尽きた。ヘトヘトの状態だ。
__「詰みだ・・・・・。」__
「・・・っ、魔剣も動かせないなんて・・・。」
「・・・・・もう、我の人生も終わるのか。|我が主人《月の神》、助けてくれっ・・・・」
全員が戦意喪失、敗北はもう目の前。
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[???視点]
そのまま敗北になるとでも思いましたか?
それか、美咲さんが助けに来ると思いましたか?
残念、どちらも不正解。
正解は、彼らに正体を明かさないまま助ける。
彼らが、というかは美和が消えると困るんですよ。
―――あぁ、私の正体が知りたいですか?
美和の上司、そして主人。
月の神として、人間に救済を与える仕事をしています。
あの忌々しい魔族を助けることになるのは、腹立たしいですが。
従者を助けるためなら、仕方がありません。
いずれ、あの魔族は消えることになるのですから。
私の手によって、跡形もなく。
・・・人間の味方である私が、魔族を救うなんて。
本当に―――、皮肉なものですね。
---
[美咲視点]
全員が絶望にのまれた中、美咲はポータル付近で苦戦していた。
ポータルから次々と雑魚が寄ってくる・・・。
正直、数が多いだけで強くはない。
でも、群がってくるのは腹が立つ。
はやく助っ人にいかないと・・・・!
そのときだった。私の視界が白一色に染まったのは。
その色の正体は、光だった。突然の出来事に、私の心は恐怖に染まる。
次の瞬間、地面が揺れる。
「なんだなんだ!?」
「みんな! 魔界に帰るぞ! 俺らにはどうしようもない。」
私は、何かを察したのか咄嗟にかがむ。
轟々と音がなり、地面が崩れる。
誰かの悲鳴が、爆発の中に消える。
とても大きい、本当に大きい爆発だった。
誰が起こしたかも、みんなが無事かもわからない。
誰かの笑い声が聞こえる。
何かを嘲笑うかのような声に、私は寒気を覚えた。
今、私の周りには誰もいない。ポータルの向こうへと帰っていったから。
そして、私を縛るものはない。
それなのに、足が動かないのはどうして。
そこまで考えた私の頭にひとつの単語がよぎる。
きっと、それは―――
恐怖。
そのことに気づいた途端、自責の念に駆られる。
助けられるのは、私だけなのに動けなくてどうするんだ。
__「動いてよっ・・・!私の体・・・。」__
その願いが通じたのかもしれない。
声の方向に大きな光が見えた。
太陽よりも落ち着いていて、だけど力強い、これはまるで―――。
「月の光・・・・。」
そんなことを考えていると。
私の視界の端から、何かが飛んできた。
「私は死ぬわけにはいかない・・・、魔王様のためにも・・・!」
先程の笑いと、声が似ている。
だけど、その声からにじみ出ている焦りは先程までなかったものだ。
「まさか・・・・、神が手を出してくるなんて・・・・!」
神・・・。さっきの光は神の仕業ってこと?
その後、女は光によって朽ちていった。
「みんなが無事か確認しなきゃ・・・!」
気になることは山積みだけど、今は安全確認を優先しよう。
---
その後、私は全員の無事を確認した。
「本当に良かったぁ・・・・。」
「・・・あの光って、美咲のおかげじゃなかったの?」
美音から疑問の声があがる。他の2人も、不思議そうにこちらを見ている。
「実は―――」
私は、女が話していたことを伝えた。
「神がどうして・・・・。」
「何の神様なんでしょう・・・・・。」
美音やシャルムはそう言ったし、私もそう思った。
そんな中、美和さんだけが呆然と遠くを見つめていた。
__「やっぱり来てくれたんですね。」__
その美和さんのつぶやきは、私の耳には届いていなかった。
18.
私たちが家に戻り、美和さんに関することを美音に説明する。
「この人が神の使い・・・・?」
急に現れた人物が、神の使いだなんて到底信じられない。
―――そんな疑念が見て取れた。それは仕方ないけど。
「私も、最初はそう思いました。『は?』って」
・・・シャルム、そんなふうに思ってたんだね。
「まぁ、信用はできると思うよ。僕を掴んでたやつに蹴りを入れてたでしょ?」
「我が蹴ったのは、氷で出来た偶像だったがな。」
「もしも敵なら、完全に利敵行為ですからね。」
そう、美和さんが味方だといえる根拠はそれだけ。それで十分だけど。
2人が気づくのが早かったし。
「美和さんが来たから、全部で4人になるよね?」
美音が、当たり前のことを言う。
「そうだね、それがどうした?」
「家の部屋が余ってないんだよね。」
それってつまり―――。
「我の住むところがない、ということか・・・・?」
「えー、単刀直入に言うとそうですね。」
美和さんは青ざめた。
でも、私の中にはアイディアがあった。
「美和さん、私の中に入れるでしょ?それなら場所とらないよね?」
「3人が布団でぐっすり寝てるのに我だけ悲しくないか?」
「たしかに。」
美和さんって、意外とこだわりが強いよね。
言いたいことは分かるけど。
「美音さん、私の記憶が正しければ一つ空き部屋がありませんでしたか?」
シャルムはそう言った。私は覚えてないから、何も言えない。
「・・・あそこは倉庫になってるんですよ。だから、元空き部屋ですね。」
少し間が空いて、美音はそう口にした。
ほんの少しの違和感を抱えながら、私は話す。
「ベッド自体はあるの?」
「ベッドはあるけど、置くところがないんだよね・・・。」
「美音さん、そのベッドはどこに?」
「倉庫にありますよ。ただ―――ホコリまみれなんですよね、あそこ。」
「つまり、倉庫を美和さんの部屋にするのは難しいと。」
「そういうことですね、非常に残念ですが。」
シャルムと美音はそんな会話をする。
美和さんはそれを聞くと、明らかに悲しそうな顔をする。
うーん、私にできることってあるかなぁ。
そこで私はひらめいた。きっと頭の電球の光がぱっとついていた。
「私の能力でさ、増築できないかな。」
「美咲の能力で―――」
「増築を?」
息ぴったりだね、2人とも。
「なんかこう・・・、説明できないや。やってみる!」
「ちょ、美咲!? 失敗したらどうするの!?」
それは本当に言う通りなんだけど・・・・。
私はちらっと美和さんの方を見る。
「美咲、我の部屋を作ってくれ!」
先程までが嘘だったかのように、目を輝かせてこちらを見ている。
「・・・美音。」
私は、できるだけ落ち着いた声を出す。
「どうしたの、美咲。」
「もし、失敗したらごめん!」
こういうときは謝っておこう、多分成功しないもん。
「ちょ、絶対に成功させてね!?」
「それは出来ない相談だよ、美音。」
使ったことない魔法を成功させろなんて、無理だ!
「いつから私の主人はこんなにギャグに染まったんですか・・・?」
最初からだよ。
---
私達は、美音の大きな家を見上げる。
「相変わらずデカいね・・・・。」
美音によると、人間界でいう「豪邸」ってやつらしい。
「美和さん、どんな感じの部屋がいいの?」
美音が言っていた、できるだけ細かくイメージしたほうがいいって。
そのほうが、より自分が考えていた技に近づくらしい。
「The 和って感じがいいとは思っているが―――。」
美和さんはその先を言うのをためらった。
それもそのはず、この家は洋風なのだ。
でも、和風もいいよね。美和さんの気持ちも分かる。
どうしよっかな・・・・。
「ならさ、木を使った洋風にしてみれば?」
木を使って洋風に、か。
それなら、温かみのある部屋になるかも。
「美音、ナイスアイディア!それじゃ、早速・・・。」
これが私の悪い癖、無鉄砲なところ。
「お嬢様、壁や床の色も聞いておいたほうがいいのでは?」
こんなふうにシャルムから指摘をもらう。
いつもありがとう、シャルム。君が止めてくれないともうダメだ。
「そうだな・・・、壁が白で床が茶色がいいな。」
「了解です! 早速作ってみますね!部屋の位置はどこがいいですか?」
「そうだな、東側がいい。ダメなら南側で。」
私は、頭の中でイメージする。
この家の東側・・・、ここから見て右側に部屋が一つ増えるのを。
(何回考えても、歪な形になっちゃうんだけど・・・・。)
もとが綺麗な形をしているせいか、ボコッとしてしまう。
(南側にしてみるか・・・?)
私は移動して、反対側へ行く。
他のみんなは、邪魔してはいけないと思ったのか離れた場所にいる。
(イメージ・・・、イメージ・・・・。)
部屋を単に取り付けるわけではない。
完成途中のパズルに、ピースをはめるように。
それを含めて一つの作品として完成させるんだ。
その最後のピースをはめるのは、私。
きっといけるよ。
「『能力創造 構築する程度の能力』」