「ヴェラセルト教会立魔法学園へようこそ!」
✶ ” ──────────────────────── ” ✶
その世界は文明の滅亡を繰り返す。
常に首の皮一枚。ギリギリの綱渡り。
人類の栄光と、名誉と…いや。
ただ生きて帰るために。
生きる場所、帰る場所を守るために。
たった四文字を、掛け合うために。
【災厄】に、真っ向から立ち向かうのだ。
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Prologue . 「 ようこそ魔法学園へ 」 . 1話~4話
1章 . ねがいごと . 5話~
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目次
「ようこそ魔法学園へ」(1)
春。それは別れと出会いが同時に押し寄せる、新生活の幕開け。
大体の場合では冬の終わりを示し、日本では美しい桜が舞い散るとても素敵な季節だった。
そんな様々なことが目白押しであるこの季節だからこそ、混乱している者も多い。
今年のヴェラセルト教会立魔法学園新入生…|勘解由小路《かでのこうじ》 |椿《つばき》は、絶賛迷子であった。
大きすぎるスーツケースをずるずると引きずりながら、地図とにらめっこして数十分。
どの場所に立っていても見えていた小さな西洋風の城が学校であったことを知るのは、そのくらいだろう。
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「…つまり、|私《わたくし》は手に本を持ちながら本をなくしたと騒ぎ回っていたお母様と全く同じだと、貴方は言いたいのですね?」
「愉快なお母さんね…」
同じ制服の少女から声をかけられ、椿はようやくその「城」を学校であると認識した。
その少女はレティフォーネ・ロベッタと名乗り、椿に案内をしてくれてようやく、椿は学校への道に着けたのだ。
「そういえば貴方、名前は?」
「|私《わたくし》の名は|勘解由小路《かでのこうじ》 |椿《つばき》ですわ!|勘解由小路《かでのこうじ》家の一人娘でしてよ!」
「…どうりで見ない顔立ちしてるわ…日本人だったのね」
レティフォーネは納得したようにうんうんと頷く。
「それにしては貴方…やけに大陸共通語が上手ね」
「お母様に叩き込まれましたの!第一言語は日本語ですけど、幼い頃から共通語にも触れてましたわ!」
大陸共通語…フェルショーネ巨大大陸に住まうほぼ全ての人が扱う言語であり、全世界の第二言語として最もポピュラーな言語だ。
それもそのはずで、フェルショーネ巨大大陸は文字通りの超クソデカ大陸。
大陸共通語さえ使えれば20カ国に行ける、という言葉は冗談ではない所以だ。
「日本語ってほぼ魔法言語って同じよね…」
「あのうねうねしたよくわからないものと日本語を同じにしないでくださいまし!?」
魔法を発動する時の魔法陣に書いてある言語と日本語は確かに同じではない。どちらかというと日本語はうねうねよりカクカクしているのだ。多分。
「ほら着いたわよ、ここがヴェラセルト魔法学園。正式名称はヴェラセルト教会立魔法学園だけどね」
新入生とその保護者と思わしき人がごった返す、『城』。
|勘解由小路《かでのこうじ》 |椿《つばき》の新生活が、始まろうとしていた。
こっちの方がするする書ける…どうして…?
次は気分です。2週間経たない内には出る…はず…?
「ようこそ魔法学園へ」(2)
今回も内容薄いですがサブ連載なのでいいですよね
「すごいですわ!なんっておっきなお城ですの!!」
|椿《つばき》はすごいすごいと目を輝かせ、子供のようにはしゃぎ始める。
一応彼女も今年で16…のハズだが。
「はしゃぎすぎでしょ!?落ち着きなさいよホラ」
「落ち着けるものですか!お城ですよお城!!」
「わかったわかったから!一旦落ち着いて!」
完全に保護者とその子供の図である。
「それで、入学式はどちらで行うのです?」
「あ、あんた、それすらも知らなかったの…?」
ぜぇ、ぜぇと息も絶え絶えにレティが訊く。
「えぇ!|私《わたくし》、空を飛ぶ乗り物が苦手なようでして…読もうと思っていた説明が一切読めず…」
「はぁ…わかったわよ、案内しながら説明するから、ついてきなさい」
レティ曰く、入学式ではファミリーネームのイニシャル順に並ぶそうだ。
|椿《つばき》はファミリーネームが|勘解由小路《かでのこうじ》のためK、レティはロベッタのためR、と言った具合に。
「それなら、レティフォーネとは一度離れ離れですわね…」
「レティでいいわよ、|椿《ツバキ》ってコース何処なの?私普通コースだからもしかしたら…」
「あら、|私《わたくし》も普通コースですわ!…なら可能性はありますわね!」
ヴェラセルト魔法学園の門は広い。
ほぼ魔法を触ったことのない者であれど、魔法を使える適正さえあるのなら受け入れるのが特徴だ。
だが魔法をよく扱える者と扱えないものを同じクラスにしてしまっては授業に弊害が出るため【普通コース】と、少し特殊な【選抜コース】がある。
「ま、あたし変なところで運いいからもしかしたらまた会えるかもね」
「会えたら嬉しいですわ、主に|私《わたくし》が」
「さ、会場よ此処が……写真お願いしてもいいかしら?母さんに手紙送らないといけなくて」
「構いませんわ!後で|私《わたくし》のも撮ってくださいまし!」
レティからデジタルカメラを受け取り、お互い何枚か撮り合って会場へ。
列順に並ぼうとごった返す入学式会場で、2人は手を振って別れた。
「(ごった返すような人、人、人、人…!外も酷かったですが中はもっと酷いですわ…)」
イニシャルがKの人が荷物を置く場所にスーツケースともう一つの荷物を置いて、自身の苗字を何度も唱えながらようやく列に並べる。
それもそのはずで、ヴェラセルト魔法学園はその門の広さから毎年1000人程度の新入生を迎えるのだ。
いくら入学式会場が広かろうとも、これだけの人数がいれば当たり前にキツくなるわけで。
ようやく全生徒が並び終わった時には、約10分もの時間が過ぎていた。
ついにヴェラセルト教会立魔法学園、第401期入学式がはじまる。
とは言っても、式のほとんどがつまらないスピーチが大半のため、欠伸をしないほうが難しい。
約40分間の長話。それが終われば、今度はクラス分けの掲示を見に行かなければならない。
そのまま1000人を解き放つと中庭がまた大惨事になるのは先生陣も重々承知であるため、これまたイニシャル順の誘導が入る。
|椿《つばき》も誘導に従って中庭に出て、そのとんでもない長さのクラス分けを見る。
「(えーっと、1クラス40人前後で、25クラス程度…コースとアルファベットで分ける、と)」
とんでもない長さの掲示板とにらめっこしつつ、自分の|Tsubaki《ツバキ》 |Kadenokoji《カデノコウジ》を探す。
「(ありました、ありましたわ!!1‐Rクラスですのね!!)」
クラスが見つかった人から荷物を取ってクラスまで移動、という指示だった。
|椿《つばき》はダンガンのように列から飛び出し、自分の荷物を取りに行った。
レティちゃんを早々に出してよかったです…ナイスツッコミです…
2025/11/17 微修正
「ようこそ魔法学園へ」(3)
ガヤガヤと騒がしい1年教室付近。
「ええっと…1‐Q…1‐R…1‐S…1‐……って、通り過ぎましたわ!」
ガラガラとスーツケースを引っ張りながら1‐Rの教室を探して回る|椿《つばき》。
華麗に通り過ぎた教室へ戻り、開け放たれたままの扉から教室に入る。
ざっと騒がしい教室内を見回し、入学初日で彷徨っていた自分の恩人を探す。
「(レティはいませんわね…まぁ、当たり前ですか…)」
自分の机に腰掛けて、先生が来るまで時間を潰そうと荷物の中から本を取り出す。
日本語の剣術指南書だ。|椿《つばき》は剣術一家の出であり、実家で剣術が出来ないならと父親に持たされたのだ。
「…アンタ、日本人か?」
通りすがりの男子に聞かれ、|椿《つばき》は指南書を閉じる。
「そうですわ、日本の由緒正しき|勘解由小路《かでのこうじ》家の一人娘、|椿《つばき》ですわ。貴方は?」
「あー……オレはルージュ、ルージュ・レビオン・ヴィトナーレだ」
「お名前が長いですわ…」
「|椿《ツバキ》の|勘解由小路《カデノコウジ》?もよっぽどだろ」
「ふふ、それもそうですわね」
「ところでそれ、何読んでんだ?日本語はカクカクしててよくわからん」
「これは剣術指南書ですわ、実家が剣術道場ですの」
「ど、ドウジョウ…?」
「そうですわね…誰かに日本文化に関わっている何かを教える場所、と言えばいいでしょうか」
「気になるな」
「日本へいらしたら是非、和歌山の|勘解由小路《かでのこうじ》剣術道場へお寄りくださいな」
そこまで話したところで、私達の鳴らす靴音とは全く違う音の持ち主が、教卓を叩いた。
「全員静かに〜、自分の席について〜」
「じゃ、また後で」
ひらりとルージュは手を振って、自分の席に歩いていった。
「静かになるまで30秒かかりまし…いや早いな…?」
腕時計を見ていた男性教師が自問自答した後、「まぁいいか!」と気を取り直す。
「ハイッ、全員自己紹介!名前を名乗って、一言二言!一番右の人から奥に!」
「先生無茶振り〜」
「パワハラ〜」
「文句言わない!」
--- ( 中略 ) ---
「はい次!そこの〜…日本人の人!」
「はい!|私《わたくし》は|勘解由小路《かでのこうじ》 |椿《つばき》、大陸風に言うとツバキ・カデノコウジですわ!日本人で、第一言語も日本語ですけど大陸共通語もある程度話せますわ!でもスラングはわかりません!これから一年、よろしくお願いしますわ!」
ぱちぱちと小さめの拍手が鳴り、時短のためすぐ鳴り止む。
「元気な自己紹介だね!次!」
--- ( 中略 ) ---
「ヨシ、これで全員分終わったな!」
意気揚々と言ってから丁度、チャイムの音が鳴り響く。
「一時間目は終わり!次は二時間目、お前らが書かなきゃいけないプリントを全部配るからな!」
がやがやと騒ぐ中でもよく通り聞こえる声で、男性教師…ルヴェル・バードは言った。
「ようこそ魔法学園へ」(4)
1時間の授業と、15分間の休憩。
城のように大きいこの学び舎で、移動教室があるとすれば妥当な休憩時間だろう。
それを繰り返し、3時限目が終わる。
「ハイ、じゃあ解散!配ったプリントはちゃんと全部書くこと!」
がやがや、と休憩時間よりも騒がしい喧騒と共に、ある人は寮へ、ある人は帰路へついた。
|椿《つばき》も前者の人間であるから、その重いスーツケースともう一つの荷物を持ち、寮へと向った。
「寮分けの案内を見て行動してね〜!押さない、走らない!」
赤いリボン…3年生の、腕に紋章をつけた女の子が、人混みの1年生寮棟で声を張り上げる。
「1年生は1で始まる寮!!1年生は1で始まる寮だからね〜!!1のあとに続く数字は階数!!」
「何処の寮棟なのかはその二つの後にあるアルファベットが示してるよ〜!!」
「部屋番号はその次!!毎年見間違える人がいるからね〜!!」
「階数と棟をきちんと確認して、行動してね〜!!」
「|私《わたくし》の部屋は112-C-48…ですわね、同室の方だけが気がかりですが…」
階段を上り、112-C-48、と表記された部屋まで歩く。
扉をコン、コン、コン、と叩き、入ってもいいかどうかを質問した。
「すみません、同室の者ですわ。今入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ〜」
「って、レティじゃないですか!」
「ふふん、言ったでしょう?私は変なところで運がいいのよ!」
レティフォーネ・ロベッタはどや!と、よくわからないまま誇った。
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新入生の皆さんへ
近々魔法に関する適正や魔力の所要量に関するテストを行います。
日時は16日から一週間の間です。
1年生全クラス全生徒、例外なく実施しますので、ご理解ください。
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魔法適正テスト
「__ふあぁ〜…__おはよう|椿《ツバキ》…眠れた?」
ぐっすり眠ってお目々ぱっちりの|椿《つばき》はテキパキと朝の準備を済ませ、個室から共同スペースに出たところで丁度、向かい側の扉も開く。
「ばっちりですわ!寧ろベッドに倒れてから今までの記憶が一切ありませんの!」
「……快眠だったみたいなら何よりね…」
若干呆れを、そして色濃く眠気を含ませた声。
「…レティは眠れませんでしたの?」
「ちょっとね…うう、もう一回顔洗ってくるわ…」
洗面台にてちてちと歩いていくレティを見送り、|椿《つばき》は…そういえばこれからどうするんだっけと首を傾げた。
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「まさか食堂の存在すら知らなかったなんて思いもしなかったわよ…」
「ぐうの音も出ませんわ…」
外に出て、騒がしい廊下をくぐり抜けながらレティの案内で食堂へ向かう。
「いい?食堂は昨日配られたこの手帳で行くの。手帳には学園内で使える通貨が魔法でインプットされてて、それを消費してご飯を食べるわけね」
「その通貨はどうやって入手しますの?」
「授業に出たり、部活でもなんでもいいから好成績を出したり、とかね。まぁ普通に学校に行ってれば困ることはないわ。あと入学時に10000貰ってるから、朝食の心配はないわよ」
「通貨がなくなった場合は…?」
「共通通貨で支払い。要は自腹ね…っと、ついたわよ」
雑貨店に入っているスペース並、いや、そのスペースすらも凌駕するレベルのクソデカ食堂。
そして学生食堂とは思えない品揃え。
「…何処かにそういう類の店を構えたほうがいいのでは?」
「あたしもそう思う」
さて、適当に注文した日替わりモーニングのプレートを運ぶ。
レティはヨーグルトにサラダ、コーンフレークと少々少なめだ。
「あたし朝弱いのよね〜、あんまりたくさん食べるのはきつくて」
そんな話をしながら席を見つけて─見つけられなかったら立ち往生だった─座る。
「|頂きます《いただきます》」
「……あれ、それ日本語?」
「ああ、そうですわね。日本では食事をする前に、命をいただくことへの感謝、食材を育て、収穫し、加工し…|私《わたくし》が食べられるようにしてくださった方々への感謝を込めた号令のようなものですわ」
「へ〜、宗教的なのじゃないのね」
「そうですね、基本は何処へ行っても使われますので」
「ふーん、いいじゃない。もっかい言ってみて」
「|頂きます《いただきます》」
「Itada…ダメね、難しいわ」
「ふふ、まぁそういうものですわよ」
ささやかながら幸せに、食事の時間は過ぎていった。
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さて、今日の1-R授業スケジュールは三限目に【魔法適正テスト】がある。
どういう順番で処理しているのかは神のみぞ知るが…。
なにはともあれ、入学式で使ったあのクソデカ体育館。そこに1-Rは並ばされていた。
奥には仕切りがあり、順番が来たものから仕切りの中で適性テストを受ける。
どういうものなのかは、順番が来るまではわからないのだ。
「次、ツバキ・カデノコウジ」
「失礼いたしますわ」
名前を呼ばれ、仕切りの奥に。
「これからツバキ・カデノコウジ様の魔法適性テストを行います。教師から説明は受けましたか?」
「はい、ここに手を乗せればいいのですよね」
「そのとおりです。では、私が良いと言うまで乗せておいてください」
よくわからないが魔法文字らしきものが書かれた石板の上に手のひらを乗せる。
「…記録が取れました。本日の放課後7時までに寮、もしくは郵便受けに届けさせていただきますので、ご確認ください」
「ありがとうございました、失礼しますわ」
一礼し、教室へと向かった。
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「知ってるか?あの石板を割るぐらいの適正あったやつがいたらしいぜ」
「なんだそれ、こっわ…てかどうなってんだよそれ」
「なんか先輩曰くあの石板自体に色々と魔法がかかってて、その上から圧力かけるみたいにとんでもねぇ密度を持ったとんでもねぇ魔力量が伸し掛かったから受けきれずにぱっきり」
「うっわぁ…迷信すぎるだろ」
「ちなみに今年の一年」
「そいつが【厄災】止めにいけよ!!」
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無事一日目も終わり、寮で合流した2人は今日の感想を話しながらテストの結果を待っていた。
「【基礎魔法】の先生かなーり説明くどかったわよね」
「わかりますわ、今日だけで10回くらい『基礎を忘れるな』と言われた気が…」
「【基礎魔法】って初歩の初歩だから忘れがちかもしれないけどねぇ…13回はいいすぎよ」
「途中からカウントしてましたの!?」
「暇だったからね」
「それは理解できますの」
「|私《わたくし》、郵便受けを見てきますわね〜」と声をかけ、玄関からちらりと顔を出す。
すると隣の人とかち合う目線。
「…どうも」
「…ど、どうも…?」
お互いハテナを浮かべながら2通のテスト結果を取り出して、ぱたりと扉を閉めた。
「来てましたわよ〜!」
「あら、ありがと」
2人は封筒の封を解いて、中から書類を取り出す。
一枚目の書類で、テストの結果はS、A、B、C、Dの5段階で示されることを確認して、二枚目を開ける。
「あ…」
漏れ出た、一言。
「私Aだったわ…どうしたの?」
かさり、とその手から書類がこぼれ落ちる。
ウソをつかない。つけない書類に書かれていた言葉は、D。
適正なし。基礎魔法を扱えればいいレベル。
残酷にも疑えない真実が、そこで形作られていた。