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目次
浪花街・ゲット・バック Episode.0
風が吹き荒れている。
ただ音を立て、頭に何も詰まっていない者達の上を。
何が面白いのだろうか。毎日同じところにいるのが嫌で、毎日ここへ来ているのか?
そんな奴らを見下ろしながら、煙を吸う。
名は|松田智鶴《まつだちづる》。のらりくらりと千鳥足で生きてきたおかげで道を外れ、雑居ビルの屋上で寝泊まりする毎日。
一年ほど前にガールズバーが入ったらしい。もちろん許可は取っていない。ここまできてまたも綱渡り。
もうどうなっても、知らない。
---
「今日もお疲れ様です、凰太さんっ」
「いや〜参った参った。今日はとことん飲むから、ね、ほとりちゃん」
「ありがとうございます♪」
「そんなことより聞いてくれよぉ、今日さぁ…クビになっちゃったっ」
「えっ!?凰太さん、確か雑誌記者じゃ…?」
「うん。今日の昼過ぎに上司から桐嶋ァ!なんて呼ばれて、クビだって」
「えぇ…大丈夫なんですか?」
「うん。全然。食い繋いでいけるさ、多分ね、はっはっは!!」
---
「すみませぇん、警察ですけれどぉ」
出てきたのは40過ぎの男。ここをいつも通り済ませて、隣のガールズバーに頑張って話を通せば、とりあえず楽だ。
「こんばんは…どうしました?」
「どうしましたじゃあないですよ、いつもの、ね?」
男は渋々奥へ戻り、封筒を手に帰ってくる。中身は金だ。
「全く…警察も信用できない。まるでヤクザだ」
「ええそうですよ、正義と悪は表裏一体」
「あんた…名前なんだっけ?|芒野李月《すすきのりつき》とか言ったか?」
「16、17、18、19、20。ちょうど20万か…はい、なんでしょう」
「あんた…いつか訴えてやる…」
「……厨房の奥で賭け麻雀してる奴がよく言いますね」
---
「不用品 ガス抜きお願い」
そのメモを書いて、すぐ捨てた。申し訳ない。
暴力団・京城勇執会のシノギとしてここを始めた。
「私が死んだら若頭は|幕内桜《まくのうちさくら》に任せる」
そんな父の遺言で地位と金を手に入れた。
「あんな小娘めが組の若頭を務められるわけがない」
そんな陰口は幾度となく叩かれてきた。
ここを始めて同性のキャストと話すようになってから、心の傷がある程度癒える。
特に、藤原ほとりには心を許している。ここが暴力団の店ということは、彼女にしか言っていない。
屋上へ上がる階段を登っていく。初めてこのビルに来た時以来屋上には登っていない。
外へ繋がるドアを開けると——
見知らぬ男が手すりに寄りかかり、タバコを吸っていた。
浪花街・ゲット・バック Episode.1
「…誰だ?」
幕内は声をかけた。返事はない。ただ淡々とタバコを吸っている。
「…誰だっつってんだよ、おい!」
「別にあんたに迷惑かけてないしいいじゃねーか」
ぶっきらぼうな返事をする。風の音が相変わらず耳障りだ。
「さっ…そういう問題じゃなくて…誰だっつってんだよ!?」
「…まぁ…諸事情でここに住んでる。こう見えてあんたらの店ができる前からここにいるんだぜ?」
幕内は今自分がどんな感情かわからない。何が言いたいんだこの男は。
---
階段を上がる音がそこら中に響く。その足の目的地は屋上。
「はぁはぁ…俺は…フリーになったんだ…クビなんかじゃない…へへ…でけぇスクープのにおいだ…はぁはぁ…」
さっきから上の階から怒号が聞こえる。しかしここは最上階である三階。何か事情があるんだろう…
40代半ばと、人生半分も行っていないが体が衰えるのをひしひしと感じる。
「…っ着いた!!」
開きっぱなしのドアの隙間から外を覗くと、男女が激しい口喧嘩をしていた。
ここには従業員以外入れなさそうだが…何ゆえここで痴話喧嘩?
---
「………だよ!!……くのが……………じゃ……」
「…せぇ!…………にも事情…………ね!!」
頭上から声が聞こえた。上を向くとビルの屋上で男女が揉み合いになっている。あんなところで喧嘩なんかしたらどちらかが落ちてしまう。そんなことになったら仕事が増えるぞ…
「ちょっとー!やめてくださーい!危ないですよー!!」
聞こえていないようだ。どこからか登れないだろうか…
ふと、ビルの脇に螺旋階段があるのを見つけた。ここから上がろう。まあ行ったらなんかの罪には問えるはず。
「やめてください!怪我しますよ!!」
屋上へ着いてもまだ二人は争っていた。割って入ろうとする。しかしドアには——
「あっ」
見知らぬ男がカメラを向けていた。三人とも思わず声を揃えて言ってしまった。
「あんた、誰だよ??」
---
ショック!/サカナクション
浪花街・ゲット・バック Episode.2
「えっ、ああ、俺か。勝手に入って悪いな。ただの見物客だよ。なんでこんなところで喧嘩なんかしてるんだい?」
桐嶋は動揺していない。ちょっとしたニュースでも取り逃さないつもりだった。
「この女、俺がここにいるだけで文句言ってきやがったんだよ。お巡りさん、どうせこいつヤクザっすよ」
「…っこいつ!勝手にここに住んでるらしいんだよ!不法侵入じゃないの!?」
松田と幕内は再び睨み合った。このままだとまた喧嘩してしまう。
「まあまあ、落ち着いてください。はぁ……どうすればお互い解決できますか?」
「「こいつが居なくなればいいんだよ!!」」
その場の全員が怒りと憎しみと面倒臭さを抱えたとき、またも屋上のドアから誰かが顔を出した。藤田ほとりだった。
「幕内さん!!ここにいた…あれ?桐嶋さん?警察!?」
「今ちょっちゴタゴタしててな。ごめん。どうした?」
「大変なんですよ!この紙!役所の人が来て、代表に渡せって!!」
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浪花街にて飲食店及びサービス提供者の皆様へ
このたび区会議にて、「浪花街治安向上条例」を可決いたしました。
浪花街の治安向上、犯罪率低下のため店舗の立ち退きをお願いいたします。
立ち退き期間…1月15日から1月30日まで
ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。
浪花街 生活課
---
「なんだこれ??」
一同は覗き込んでいた顔を見合わせた。
「だから、ここのお店も閉めなきゃいけないんですよ!私たち捕まっちゃいます!!」
「それじゃあ、もう俺、ほとりちゃんと会えないってこと?」
「そうなっちゃいます!とにかくなんとかしないと!!」
みんな徐々にパニックになっていった。困惑から来る焦りだ。
「…俺にいい提案がある」
口を開いたのは松田だ。
「俺は前まで役所で働いてた。俺だけじゃ…ちょっと力不足かもしれないけど…この事態を止められるんじゃないかと思う」
浪花街・ゲット・バック Episode.3
「……俺は役所でも意外と腕を買われててな。重役だったんだな」
松田は経済課課長であり、街のカネに関する仕事は大抵彼が仕切っていた。
「ある日体調が良くなくて、遅めに出勤しちまった時があった。その時かな、一回、俺が死んだのは」
出勤するなり彼は総務課に呼び出されたのであった。
---
『松田くん。君のデスクから現金の入ったバックが見つかった』
『ああ、忘れ物しちゃいましたか?僕』
『忘れ物かどうかは知らんが、問題はその中に入ってた額と、金庫から無くなったカネだ』
『……へ?』
『同じ額だったんだよ。大体3500万くらい。これはどういうことかね?』
『ちょ、ちょっと待ってください!僕が横領したと思ってるんですか?』
『率直に言うと…そうだ』
『僕は何も!』
『とにかく、君をここにいさせてやることは、もうできない』
『そんな…』
『今日の午後までに私物を全て持って出ていくんだな。さっさと戻って準備しろ』
---
「俺は横領なんかしてないし、大体そんなバッグ持ってない。しかも、俺はその前の日に、誰よりも早く役所を出てるんだそれで…どこの仕事も落ちちまった。ホテルやネカフェにいる貯金も尽きて、今こんな感じ。」
「おかしい。そんなことになったら俺たち警察に話がいくはずだ」
芒野が口を挟む。みな全くそのとおりだと頷いている。
「はぁ…それが、そいつらがチクったのは警察でもなんでもなく、俺の嫁。こんなことになっちまったから離婚されて捨てられて、家がないんだ」
狼狽する松田を粛々と見る全員の中で幕内は声を上げた。
「こうなったらしょうがない!みんな!全員で、浪花街を救うぞ!!」
---
それぞれが解散した後で、桐嶋は階段を降りながら電話をかけた。
「もしもし、|紅《こう》さん?久しぶりです。桐嶋です。今大丈夫ですか?そうっすよ、呑んでます。いやー…ちょっとイイ話ですよ…Sweetnessっていうガルバわかりますか?今からどうすか?はい!待ってます!」
この人、後輩ヅラもできるんだ…斜め前を歩きながらそう思った藤田であった。
浪花街・ゲット・バック Episode.4
「うぃー、お疲れ」
「お疲れ様っす」
店内に入ってきた男は|鹿川《かのかわ》|紅《こう》といった。彼は桐島の上司だ。40代の後半に片足を突っ込んでいる彼だが、ファッションには抜かりがない。
「この子、藤田ほとりちゃん。お気に入りなんだ、な!」
「はい!よろしくお願いしますっ!」
元気がいいねぇ、とニヤニヤする鹿川に心のうちで舌打ちしながら彼の注文したお酒を準備する。
---
桐嶋が事の顛末を説明しているその間、建物から立ち去った男が一人。
松田である。
彼は何ヶ月ぶりに、自分の住まいである屋上から飛び出して行った。
しばらく歩いたところで着いた場所はホストクラブだった。
時間的にまだ彼の目的の人物は出勤していないだろう。
彼は店の裏口あたりで待っていた。続々とキャストやスタッフが入っていく。
その中に、彼の会いたかった人物がいた。
「あれ?松田じゃん!久しぶり!!」
「…よう。久しぶりだな、|萩原《はぎわら》」
---
「なるほどねぇ…」
桐嶋が全てを話し終えると、彼は頭を捻った。
「なんで、紅さん。なんとか協力してくれませんか?」
「うん。全然いいよ。ただ、条件がある」
「なんですか…?」
眉間にこれでもかと皺を寄せた彼はこう言った。
「今回の一件が全て片付くまで、俺の全飲み代を奢れ。いいな?」
やっぱり他の人に頼むべきだったなと思う桐嶋と、お店にお金がいっぱい入るぞぉと思った藤田であった。
浪花街・ゲット・バック Episode.5
「どうしたのお前急に、店寄って飲んでく?」
「ありがとよ。金借りてきてっから」
|萩原《はぎわら》|猪吹《いぶき》。ホストクラブ「Neon and Sepia」の人気キャスト。松田とは高校時代の友人。
「お代はいいよ。俺がツケとく。お前役所クビになったんだろ?」
「へへっ」
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「えっ?じゃあ…この店も畳まなきゃいけないってことか?」
「そうだ。お前も職なしだ」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「俺、ここのオーナーさんにどれだけ世話になったことか…こちらこそ、協力させてくれ」
彼は松田に手を差し伸べた。そのまま二人は強い握手をした。
---
店のバックヤードには幕内と、ある男が話していた。
「幕内さん、本当ですか?こんな早く畳んだら、ワシもあんたも相当アレですよ」
「だから困ってるんだ。|盃目《はいのめ》」
おおよそ身長は180cmをゆうに超え、大きめなスーツを着ていてもわかる筋肉。きっと並大抵の人間なら紙屑のように投げ捨てられるような見た目をしていた。
「なんとかならないかな?どうにかそれを止められるような…」
「なんとかしたいのはヤマヤマなんですがぁ…ヤクザにはできることが…とりあえず、道具だけ買っとけばええんじゃないですか?いいツテがあるんで」
自信ありげに親指を立てたのは|盃目《はいのめ》|菊雄《きくお》だ。彼は忠実で、正直で、幕内の右腕と呼んでも差し支えない男であった。
「まあ…そうするか…あんまり力で行くと怖いんだ…なんせ相手は政府だからな」
浪花街・ゲット・バック Episode.6
「柳田代表。例の計画ですが、どこの店も反対です。どうしましょう?」
「反対も何も…どこかが反対してようがしてなかろうが、通知書は送ってある。従えというだけだ」
浪花街の地上12階。街の動力そのものと言って良い場所の、そのまたトップの場所。
話しているのは代表と呼ばれた男と、その部下であろう女。|八橋菖蒲《やつはしあやめ》と|柳田道風《やなぎだみちかぜ》である。
「そう簡単に言えない相手ばかりです。代表、なぜこんなことを…?」
「うるさい。なぜ君は大学を卒業できた?俺のおかげだろう」
「……申し訳ありません」
悔しさの滲み出た返事だった。
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「こんなところにそんな物騒なものを売ってる場所があるのか?ただのラーメン屋じゃないか」
「幕内さん、ワシは外交担当やないすか。ここの中国人と仲ええんです」
盃目の話によるとここの地下には大抵の無法者が商売している店があり、そこ一体をこのラーメン店の店主でもある中国系マフィアが切り盛りしているという。そして盃目はそこの店主と別の仕事で交流を持ち、出入りができるらしい。
「いろいろ考えると、やっぱり私用じゃなくて協力してくれるやつに買おうと思う。松田ってやつなんだが」
階段を下っていくと商店街のような場所になった。見上げると用水路のフタから日光が差し込んでいる。これを照明としているらしい。
「そうですか。まあ幕内さん、|拳銃《チャカ》ありますもんね。あ、ここです」
盃目が指したのは看板も何も出していない、壁にドアがつけられた建物の、さらに地下。
「こんにちは、いらっしゃいますか?」
盃目が声をかける。
そこは宝くじ売り場や刑務所の面会場所のように、壁に向かって椅子があり、ちょうど手が一本入るような穴があるだけだった。
そしてその椅子には、長い白髪の老父がひとり。
浪花街・ゲット・バック Episode.7
「猟銃を一丁、いただきたいんだが」
白髪の老人の名は|入七《いるしち》|気御《きお》。森の奥に家があり、その森に住む動物を狩りながら生きているという。
「……ご予算は?」
壁の向こうから声がした。女性の声だった。
「いくらでも出す。いいのを頼むぞ」
「反動が少ない方がいいですか?」
銃を撃つと弾丸が発射されるが、それと同じ力が銃身を伝って撃った者に伝わる。それが反動だ。
「別にそんなの構わん。ただ撃てりゃいい」
盃目と幕内はただ黙って見ていた。この老人も、壁越しに話す女も、只者じゃないと思っていた。
「じゃあ…レミントンM780とか。聞いたことありますか?」
「型番は知らんな。撃てりゃいいんだ」
「じゃあ、これです。実物。弾は入ってないので」
小さな穴から大型のショットガンが出てきた。引き金の部分に鎖が巻かれているため持ち出せないだろう。
「うーむ…なかなかだな…よし、これを」
「弾は?」
「あぁ、忘れていた。3ダース」
「どうぞ。お代は…」
弾を差し出しながら無言で差し出されたバッグを受け取る。
「その中に全部入ってる、多分足りるさ。お釣りはいらんよ」
「…1つお聞きしてもいいですか?どこからこのお金を…?」
入七は鼻を鳴らし、出て行った。二人のやりとりに圧倒されながら、中に入っていった。
---
「キャラ変えたんですか?やけに落ち着いてましたけど」
「えぇ?元からこんなじゃなかった?それに今日いしか………ジャックも全然喋らないし」
彼らはクイーンとジャックと呼ばれる武器屋だった。新しい店のはずなのに、こんなにも仲睦まじい理由は…また別の話。
Special Thanks!!
カタワレ 様
キャラクター原案:入七気御
浪花街・ゲット・バック Episode.8
「あーここすかぁ。やっぱデカいっすねぇ…」
桐嶋・鹿川・藤田の三人は浪花街庁舎にやってきた。元々桐嶋・鹿川だけで来る予定だったが、桐嶋の強引な提案で藤田まで来ることとなった。
「桐嶋とほとりちゃんはアレだけど、俺は現役で記者だから。取材させろっつったら、そりゃもうスーッと入れるわけよ」
「さすが鹿川さん!私尊敬しちゃう〜」
「ちぇっ、何だよ」と呟く桐嶋であった。
---
「武器慣れしてない奴用の武器ですか?」
「ああ、なんでもいい。扱いやすくて強いもんがいいかな」
幕内とクイーンが壁越しに交渉していた。盃目は固唾を飲んで見守っていた。
「近接戦闘か遠距離戦闘、どちらの想定ですか?」
「まあ基本的には…近接かな。護身用って言ってもいいようなものが好ましい」
松田は元公務員なため喧嘩とは無縁の生活をしてきただろう。しかし繁華街で危険な目に遭うと何をされるかわからない。死ぬ可能性だってあるのだ。
「あ、これとかどうです?ナックルダスターグローブ。まあ、メリケンサックって呼ばれるものですね。これは手袋のように装着するタイプです。普通握るんですけど、手を開いた時に外れちゃうので。おすすめですよ」
「それにしてみようか。いくら?」
「うち、初めてのお客さんにはお代取ってないので、結構です。あ、あなたはちゃんと払うてくれんね?こん前お会いしたけん」
「幕内さん、こいつ誰に話しかけとるんですか?」
---
松田はまたも萩原のいるホストクラブへと足を運んだ。彼なりの計画が全くもって見えなかったのだ。
「どうすれば取りやめになるかな?相手は一応政府だし…」
「松田。あいつら、基本的に固まって、その中心にトップがいるんだ。まずは周りを崩すんだ」
「というと?」
「一つは精神的な攻撃。何もいじめるわけじゃないんだ。ハニートラップってやつさ。男相手ならそっちの藤田ちゃん。女性相手だったら俺らの出番ってワケ」
「それ以外にも何かあるだろう…そんな単発の賭けなんてリスクが大きすぎる」
「俺はこれ以外、考えてなかったけど?」