閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
1.普通
ケータイ小説書きたいー、からできるだけ頑張った。
教室は、小さな社会だ。
そして私は、そんな社会に耐えられなくて、逃げ出した。
ピンポーンと、家のチャイムが鳴らされた。
いま、この家には私以外誰もいないから、私が出なければならない。重い体をベッドから起こして玄関に歩く。その間に、チャイムがまた鳴らされる。はあいと、聞こえるかもわからないような声量で言いながら、鍵を解除しドアを開けた。
「あ……久しぶり。…あ、初めましてか。」
ドアの前に立っていたのは、セーラー服に身を包んだ私と同い年くらいの女子だった。
いつもの宅急便ではないことに驚いたあと、クラスメイトなのだと察して心臓が1回大きく波打つ。
「あたし、クラスメイトの山吹かゆです。えっと、先生から、プリントとか預かってきたので…。」
そう言って彼女は私に持っていたクリアファイルを渡した。やけに分厚いそれを受け取る。
彼女は続けた。
「みんな待ってるから、来てねって。」
どうせ待ってないのにと、ネガティブでもなんでもなく思いながら浅く頷くと、彼女は小さく頭を下げて帰っていった。
遠くなっていくその背中を、しばらくの間ぼんやりと眺めていた。
私も、不登校の子の家にプリントを持っていく側になれたらよかったのに。
自分の部屋のドアを開け、中に入る。
クリアファイルを机の上に適当に置いた。と言って中身を確認するわけではない。そんなの面倒臭いし、どうせ理解できない。
スマホを手に取り、SNSを開く。大量の情報が一気に頭に入ってくるこの感覚が好きだ。他のことを何も考えなくて良いから。
数分それをいじっていたけれど、だんだんと頭に入ってこなくなってきた。つまり飽きた。もういいやとスマホを机の上で滑らせる。
視線は自然と、分厚いクリアファイルに向いていた。手を伸ばす。クリアファイルを逆さまに持ち替える。
大量のプリントが、重力に逆らえずにバサバサと落ちていった。
グラフ、アルファベット、よくわからない図に誰かの肖像画、たぶん大事なお知らせプリント。いろんなものが混ざり合って、机に、床に落ちていく。私の部屋を汚していく。
快感も嫌悪もなかった。
どうしてこんなことをしたのか、自分でもよくわからない。
けどたぶん、たぶん、届かない普通が、嫌になっただけ。
かゆ=痒
もう完結で良い気もする。でも山吹ちゃん、名前まで出したんだから……使ってあげないとかわいそう…。
そもそも私は恋愛が書きたかったのになぜ恋愛でも友情ですらもないものを書いている?
2.夏の匂い
展開考えるのきつい
夏の匂いがする。
もうすぐ、中学生になってから、初めての夏休みがやってくる。特別な予定なんてないけれど。
友達はいないわけじゃない。2人くらい、けっこう話す仲の子がいる。でも一緒に昼食を食べるほどではないし、授業の「2人組になれ。」で組んでくれるわけでもない。
つまり私は地味に孤立している。
元々友達作りは苦手だったけど、小学校の時は幼馴染と同じクラスだったからなんとか耐えてた。それが、中学生になって、幼馴染は3組、私は1組、見事に離れてしまったわけだ。
けど、1人で食べる昼食も別に不味くはない。先生と組むのも少し恥ずかしいけど悪くはない。
チャイムが鳴り響く。6時間目が終わり、終礼が始まり、また終わる。
リュックを背負い教室を出ようとした時、先生に呼び止められた。
一瞬頭に疑問符が浮かんだが、すぐに理解した。
「今日もこれ届けてくれる?高柳さんに。」
先生に渡されたのは予想通りの、プリントが詰められたクリアファイルだった。私は毎週金曜日に、クラスメイトで不登校の高柳という生徒にプリントを届けに行っているのだ。
高柳さんは中学の入学式にすら来なかったので、初めてプリントを届けに行くまで顔も知らなかった。今でも下の名前は知らない。
インターホンを人差し指で押した。
しばらく待つとドアが開き、高柳さんの顔がのぞいた。
「山吹です。これプリント。」
毎週のことなので慣れたもので、高柳さんも浅く頷きながら受け取ってくれる。
それで終わりだ。毎週会うけど、仲がいいわけではない。事務的な会話以外を交わしたことはない。
「じゃ…。」
小さく頭を下げ身を翻した。
「な。」
歩き出した時、後ろから声が聞こえた。振り返る。
「夏休み、いつから?」
それは私に投げられた言葉だった。初めて高柳さんが話したところを見た。驚きつつ、口を開く。
「25日。…あと5日。」
そうだった。あと5日で夏休みに入るのだ。高柳さんにプリントを届けに行くことも、少なくとも夏休みの間はないのだろう。
高柳さんがわかったというように頷いたことを確認すると、私は今度こそ自分の家に歩き出した。
夏の匂いがする。けっこう好きな匂い。
キツい!
3.風と熱と
私の中学校はあと5日で夏休みに入るらしい。
今さっき山吹かゆに渡されたクリアファイルがいつもより厚く、重量があるのは、夏休みの課題も入っているからだろう。
でも手をつける気には到底なれなかった。どうせちんぷんかんぷんだし、夏休み明けも私は学校に行かないだろうし、先生も誰も、期待なんてしていない。
私が家でぼうっとSNSを見ていた間も、外の世界は動いていた。
季節は変わり、私と同い年の山吹かゆたちは成長して行く。
社会からはみ出た私は置いてきぼりにされる。しかしそれも、当たり前のことだった。
私は自室の、つけっぱなしだったエアコンを消した。その代わりに窓を開けた。
湿った風が入り込んで、カーテンを弱々しく揺らす。
私もみんなと同じようになりたいとか、そんなことを望んでいるわけじゃない。
ただ、季節を感じないのは勿体無いかなと思っただけ。それだけ。
窓を開けたことで、外の音が空気に溶けて聞こえてきた。
下校途中の小学生たちの騒ぎ声。車のエンジンの音。私が在籍している中学校からだろう、運動部の掛け声とホイッスルの音も混じっていた。
胸焼けに似た変な感覚に陥った。
熱を持った声が耳に入ってくると、喉の奥が気持ち悪くなった。
私がいなくても世界は何も変わらないって、理解はしていたけど、受け入れることはできなかった。
ちゃんと学校に通っていて、ちゃんと部活動に励んでいて、ちゃんと生活している。そういう人の存在を突きつけられるのは、嫌なことだと知った。
窓を閉めた。湿度の高い風のせいで肌がベタついていた。
現実逃避するみたいに、エアコンをつけた。でもそのエアコンから流れてくる、新鮮な空気さえ、私には似合わない。
続きのアイデア誰かちょうだい
4.気づき
(><)
かわいいこれ
夏休みが明けても、高柳さんは学校には来なかった。
私が彼女の家にプリントを届けに行くのはもはや習慣となっていたし、今更面倒臭いとかそんなのは思わない。
ただ、勉強大丈夫なのかなというお節介な疑問は時折抱く。もちろん、訊かないけど。
インターホンを人差し指で押す。ピンポーン。しばらく待つとドアが開いた。
「あ。久しぶり。」
挨拶してプリントを渡す。受け取る高柳さんの肌は、夏休み前と変わっていないか、あるいはさらに白くなっている気がした。外に出ていないのだろう。
「先生が良ければ来てねって言ってたよ。」
みんな待ってるからと先生からの言葉を続けようとしてやめた。
こんな言葉は薄っぺらいし、嘘ではないが事実でもない。みんな、学校に来ていない子のことまで考えるほど余裕があるわけじゃない。
高柳さんは口を開いた。でもすぐに閉じた。
なに、と訊こうとしたけど、言うほどじゃないなら大したことでもなさそうだ。
私はいつも通りじゃあねと残して帰ろうとした。
「もう来なくていい。」
足を踏み出した時、高柳さんは硬い声を出した。
「…もう来なくていい。」
彼女はそう繰り返したあと、ドアを閉めた。鍵がかけられる音が聞こえた。
家に向かって歩きながら、私は沸々と怒りが湧いているのを感じていた。
もう来なくていいって、もう少し感じの良い言い方があるでしょ。結局最後まで感謝の言葉なかったし。
せっかく私が、プリントを届けに行ってあげてたのに。
そこまで考えてふと気づいた。
私が今まで、彼女に感謝の言葉ひとつかけられなくても苛立たなかった理由とか、面倒臭いと思わなかった理由とかを、理解した。
私は結局、自分に酔っていた。
不登校の子、つまりは弱い子に、わざわざプリントを届けにいってあげる自分。
感謝されなくても優しく接してあげる自分。
そういう自分が好きだったし、そこに価値を見出していた。だから、届けに行かなくても良くなったら、私の価値が下がってしまうと危機感を抱いているのだ。
気づいてしまった今、全部がつまらなくなった。
月曜日、担任に「高柳さんにもう来なくていいと言われてしまった」とか相談しなきゃな。
それが面倒で、私は思わずため息をこぼした。
続きのアイデア誰かちょうだい
誰かがくれるまで言い続ける(><)
(><)