此処は、とある資料室。
その資料室の中に収められた資料の一つ──資料番号186には、この様な文言が書かれている。
曰く、此れらの資料はヨコハマで起こった異能事件の真相の一部である。
曰く、此れらの物語は異なる人々の作り出した、奇跡の世界を描いた一部である。
──と。
迷ヰ犬怪異談に出てきたオリキャラ等々についてまとめています
私がごちゃごちゃしちゃう人なので、自分でまとめる意味もあるのですがσ^_^;
また、コラボ作品もこちらです。
……なんかこのシリーズ名の設定が某文豪と錬金術師の図書館ぽい……いろいろ収まっている図書館という点が……
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目次
藤夢編のキャラクターと流れ
ネタバレ注意
藤夢編のネタバレを含んでいます
・
藤式部(初出藤夢)
本名 藤原香子(かおるこ)※成人にあたり自身でつけた名前が藤式部、名乗っていた偽名が蝶壺。
年齢 27歳
誕生日 不明
容姿 艶やかな、腰まである長い黒髪に藤色の瞳。藤色の着物を着ている。
一人称…私(わたし)と吾(あ)
二人称…貴方
性格 賢く、実は子供好き。基本は優しく、世話好きなのだが、プライドが高い一面がある。
能力 『ゆかしき悲喜こもごも』
ターゲットに、その人にとって現実的かつ幸せな夢を見せる異能。触れることにより発動。
ただ、その人が夢から帰ることを望む、『幸せな夢』に出てくる現実の者がターゲットが欲する言葉を伝える、の二つを満たす状況にならない限り、ターゲットは夢に囚われ続け、やがて死ぬ。異能無効化の場合は、本人にはかからないが、すでにかかったものを無効化するのは不可能。
経歴
幼少期 与謝野の友人
終戦後 生家が寂れ、裏社会に流れる(与謝野さんの実家と関わりがあったため、とばっちりを受けた)
とある悪いお偉いさんに異能をみとめられ、そこの屋敷に軟禁される
屋敷の命令通りに人を異能にかけ続ける
数年前 “蝶壺”の人格が生まれる
二ヶ月前 屋敷から抜け出す(物語内では一ヶ月と書いていますが、準備&屋敷側の捜索期間に一ヶ月有)
一ヶ月前 占い師として活動を始める
数週間前 蝶壺が自分の消滅を察知、去るための舞台を整えることを決意
〜ここから本編〜
0日目 敦とぶつかる 敦、眠る
1日目 逃亡中(以下、暫く占い師をしつつ逃亡中)
2日目 中也、眠る(探偵社、マフィアに協力打診)
3日目
4日目(協力関係が築かれる)
5日目(太宰聞き込み 賢治からメール)
6日目(会議が開かれる 太宰、芥川、自覚)夕方、太宰&芥川とエンカウント
乱歩たちとも会う 蝶壺の自白と消滅
7日目 異能特務課に引き渡される
元ネタ
・彼女のモデルは紫式部さんです。異能力は作品『源氏物語』の内容から。“心惹かれる喜劇と悲劇が合わさった”という意味です。
・事件、そして裏社会での通り名であった『夢浮橋』というのは、源氏物語の最終帖の名前から。
・本名の藤原香子は、紫式部の本名ではないかと言われている名前です。定かではありませんが。
・また、藤式部というのは実際に使われていたものです。言い忘れていましたが、藤式部はふじしきぶと読みます。ふりがなを失念しておりましたm(_ _)m
・与謝野さんとの関係は、史実の与謝野晶子が源氏物語の現代語訳を二度も手掛けたことからです。
---
設定たち
◯異能を解除するのに必要だった言葉(二人が欲していた言葉)は、
中也……太宰からの好意の言葉
敦……芥川からの相棒であることを認める言葉
◯作品内で描ききれなかった敦の心情
・芥川の信頼が欲しい
・“太宰さん命”な芥川を見て、結局自分は敬愛する太宰さんからの命令の存在でしかないのだと思ってしまう
・不殺の約束を律儀に守り続ける芥川に申し訳ない気持ちがある
・如何頑張っても旧双黒(太宰と中也)のようになれない自分への劣等感
・隣を認めてくれない(少なくとも敦はそう思っている)芥川への諦めと、心の空虚感
中也さん夢見ないでしょ問題
→異能だから! “夢”というもの自体が異能とでも思っといてください だって太宰さんは異能にかかってくれないじゃん! そうでもしないと眠り姫産太中はくっついてくれなかった!
ありがとうございました!
眠り姫
花楸樹の夢(英国出身の迷ヰ兎×迷ヰ犬怪異談)
薄らと雲のかかった青空。
気持ちの良い、とまでは行かなくとも、過ごしやすい天気だ。
此処はとあるカフェ。探偵社の女性陣が、美味しかったと強くお勧めして来たところだ。
何処かナチュラルな雰囲気のあるカフェは、和やかな音たちで満ちていた。
「うーん」
僕、ルイス・キャロルは大きく伸びをする。
何となくだけれど、レイラとの“アレ”に終止符が打たれてから疲れやすい気がする。
「バーンアウトとかいう奴なのかな……」
この前アリスに言われた事を思い出す。別に燃え尽きては無いと思うんだけど。
そんな事を思いながら、ちらりと窓の外に目を向ける。
ナナカマドが青々と茂っている。
「紅茶でございます」
「あ、ありがとうございます」
いつの間にやらやって来ていた給仕さんにお礼を言う。
カップを口元に持ってくると、ダージリンの芳香が鼻腔をくすぐる。
確かに。これはお勧めするだけあるな、などと思っていると。
「お客様!? 如何されました?」
何やら入口の方が騒がしい。
ちょっとした野次馬根性で首を伸ばすと、一人の女性がうずくまっているのが見えた。
纏っている藤色の着物の裾が少し汚れてしまっている。
だが、彼女はそんなことには構わずに自分自身を掻き抱いていた。
乱れた長い黒髪の隙間から、ほんの少し見えた顔を見て、僕は勘づいた。
(瞳孔が開いてる……其れに口で呼吸してる。パニック状態かな)
柄にもなく同情の様なものを感じて、僕は席を立った。
「すみません、ちょっと失礼します」
僕は立っている給仕さんに断りを入れて、その女性へ近づく。
ふわり、と藤の良い香りがする。
「すみません、僕の声が聞こえますか?」
出来るだけ刺激しないように声を掛ける。が。
「ッ……」
彼女には十分な刺激だったらしく、手で押し除けられてしまった。
けれど、此処で諦めてしまったら女性が危険な状態になってしまう。
「大丈夫ですよ。僕の目が見れますか? 僕に合わせて呼吸してみましょう」
最初よりも優しい声を心掛けながら女性に目を合わせる。
女性は混乱と恐怖を目に浮かべながらも、ゆっくりと落ち着いていってくれた。
数分後。
「すみません、ご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ。大丈夫です」
深々と頭を下げる給仕さん。
元の席に戻っている僕。
まだ少し混乱している女性には、ソファに座ってもらっている。
「本当に、ありがとうございました。助かりました」
「いーえー」
結論から言うと、ものすごく感謝されている。
自分でも何故助けようと思ったのかよくわからないから、感謝されても、と言う感じなんだけど。
お礼だと言うケーキ一つをありがたく頂きながら僕は紅茶に口をつけた。
---
「そんな事があったんだよ……」
「ふーん、良かったじゃん」
嬉しかったでしょ? 感謝されて、と軽く笑いながら乱歩が言う。
「まあ、そうなんだけど」
感謝される事をできた自分が嬉しかったのも事実だ。
まるで、僕が──
(人間として認められたみたいで)
なんて少し思ってしまう。
皆から認められていると分かってはいるけれど、僕が、きっと人間では無いのも事実だ。
この世界にはいなかったはずの僕が、皆から感謝されている。
奇跡の様だ。
「でも、気をつけた方がいいよ」
ぽん、と乱歩が放った言葉に首を傾げる。
「何について?」
「自分について」
如何言う意味だろう。
はて、と首を傾げたその時。
「ッ!? ……、 」
電撃が走る様な、ピリリとした感覚が全身を走る。
「ルイス?」
「ご、めん、乱歩」
異能だ、と。僕の勘が告げていた。
如何しようもなく眠い。
抗いようのない睡魔が襲ってくる。
頭の中で焦るアリスの声が聞こえた。
けれど、其れを聞き取ることも既に叶わない。
僕は引き摺り込まれる様に床に伏した。
霧がかる思考の中で思い浮かんだのは、何故だか大切な人たちの顔だった。
---
「……矢張りか」
嫌な予感は当たってしまったらしい。
僕、江戸川乱歩は思った。
背中に氷を押し当てられた様な感覚を覚える。
(予感、何ていう論理付けが上手くいかない感覚は余り好きではないけれど)
ルイスを何の異能が襲ったのか分からない。若しやすると、異能ではないものかも知れない。
(兎に角、社長に報告かな)
其れに、非力な自分ではルイスを運ぶ事ができない。
僕は棒だけになった飴を塵箱に投げ入れると社長室へと向かった。
---
『すみません、太宰くん。英国の方でも原因は分からないそうです』
「そう」
『お役に立てず、本当に──』
「別に良いよ、気にして無いから」
そうですか、と少し悲しげに答える安吾の声が聞こえる。
其れに私──太宰治は、突き放したことに僅かに、本当に僅かに申し訳なさを感じる。
だが、私には其れよりも優先すべき事があった。この事を報告しなくては。
「じゃあ、切るね」
『はい、では。太宰くん』
「……」
ピッと無機質な音を立てて通話が切れる。
其れと同時に、敦くんが側に寄ってきた。
「如何でしたか?」
「駄目だった」
明らかに落胆した表情の敦くん。
そりゃあそうだろう。
ありとあらゆる異能の集まる欧州。
其処の情報という命綱でさえも意味をなさなかったのだから。
ルイスさんが何らかの異能で、突如眠りに落ちてしまってから数日が経った。
姿は全く変わらず、ただ日にちだけが過ぎていく。
アリスさんも現れないところを見ると、二人ともが丸ごと眠ってしまっているのだろう。
正直言って、探偵社の空気は日に日に悪い方向に進んで行っている。
若しや、ルイスさんは一生このままなのでは無いか、と。
誰もが──ユイハまでもが──ルイスさんが二度と目覚めないのでは無いかという焦燥に駆られている。
何の手がかりも掴めない。
乱歩さんの話だと、ルイスさんが直前に会った藤色の着物の女性が関係している可能性が高いらしいが……。
(その女性を見つけられないからねぇ)
全く、どれほど逃げ足が早ければ表と裏を塞がれた状態で姿を隠せるのか。
表と裏。
つまりは昼と夜。
ポートマフィアでさえもルイスさんを目覚めさせるため、出来うる限りは尽力しているというのに、手がかりは見つからない。
ルイスさんのいる医務室に目を向ける。
(正直、少し羨ましい)
苦しみなく逝けるのであれば、自殺志願者にとってはこれ以上ないほど羨ましい。
不謹慎ながらに、そう思っている自分もいるのは確かだ。
けれど、其れを押さえつけるほどの感情が私の中にはあった。
(不思議なものだ)
死んでほしくない、と、私は焦っている。
失うことに、恐らくは怖れを持っている。
そのことに私は溜息をつくと、定時だからお先に、と探偵社を後にした。
国木田くんの咎める声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだろう。
---
からん、と軽やかなベルの音が鳴る。
開けた先の空間にいた人物に、私はげえ、と顔を顰めた。
「一寸、何で君がここにいるわけ? 中也」
「そりゃこっちの台詞だ、太宰」
相手も私に負けず劣らず、嫌そうな顔をしているのでお互い様だ。
「あーあ、行きつけのバーだったのに。蛞蝓が来るなら変えようかなぁ」
「……手前に行きつけなんぞあったのか……」
「失礼だね、君」
よいしょ、と彼の席から一つ飛んだ席に座る。
マスターにウイスキーを頼んで待つ。
私の行動を中也はちらりと見ると、目を逸らした。
その行動が気に障って、つい彼に尋ねる。
「なに」
「……良いのかよ」
何を言いたいのかといえば、ルイスさんのことだろう。
妙に情に厚い彼は、渦中にいる私がこんなところで酒を飲もうとしている事が、気に食わないらしかった。
「ルイスさんのこと? 羨ましいかな」
「それだけじゃねェだろ」
自分の正直な気持ちを言葉にすると、そう言われた。
厳しい声色を出す彼に目をぱちぱちと瞬かせる。
「手前は其れしか思わない様な奴じゃねェ筈だ」
的を射た発言に動揺する。
「……何で」
「勘」
嗚呼、矢張り中也は中也だった。
勘、だなんて。笑わせてくれる。
(だけど、その勘が合ってるのも事実なんだよなぁ)
本当に生意気なわんちゃんだ。
私は嘆息した。今日は溜息ばかりついているような気がする。
コトリ、と私の前にウイスキーが置かれる。
その琥珀色を眺めながら私は言った。
「……君なんかに当てられるのは癪だけれど、当たってるよ」
「そうか」
なら、良かった。
中也はそう言った。
その言葉の意味がよく分からなくて、私は問うた。
「如何いう意味」
「一個訊いて良いか」
「人の話聞いてる?」
「なら、手前は何でここに居る?」
息が詰まった。
もう、今日は厄日だ。こんなちびっ子に図星を突かれてばかり居る。
でも、こんな日くらいは、正直に答えてみても良いかも知れない。
「……怖いから、かな」
嘲るか、笑うかな。
そう考えた私の予測は大いに外れた。
彼は、何も言わなかった。
カラン、と、琥珀色の中の氷が鳴る。
「何か言いなよ」
「……正直言って、安心した」
「は?」
今日の彼は予測不能だ。否、私の頭が正常に作動していないだけなのかも知れない。
「ルイスさんも、思われてたんだな」
彼が溢した言葉に疑問符が頭に浮かぶ。
「そんなにルイスさんと親しかったかい? 君」
「手前がそうなら俺だって同じようなもんだろ」
「ふーん」
少しばかり興味が湧く。どんな話を二人はしていたのだろうか。
そう思ったのを知ってか知らずか。
酔った奴の戯言とでも思って聞け、と前置きすると、中也は話し出した。
「よく話してたのはな、太宰──手前のことだよ」
「私?」
私は驚いていた。
中也を弄り倒す揶揄いの言葉でさえも出てこない。
其れほど、ルイスさんが私のことを話していたという事実は大きかった。
「手前は知らねェかもしれないがな。ルイスさんは、手前が思っている以上に、手前を気にかけてるんだぜ」
だから、安心したのだ。
ルイスさんが、相手から、無自覚だとしても慕われていることに。
そう中也は言った。
「手前にも人間らしいとこが有ったんだなァ、太宰」
にやりと笑いながらいう彼から目を背けようと、ウイスキーのグラスを手に取ったが口に運べずにいた。
舐めるように私が口をつけた頃、中也が口を開いた。
「何か言えるのは、これが最後かも知れないぜ」
「……」
彼の顔が見れない。
「なら、何といえば良いの」
口から不意に溢れてしまったのは、正直な言葉だった。
もう嫌だ。今日は調子が狂う。
呑んで忘れることができたらいいのに、とウイスキーを口に含むが、生憎と酒に強い私は酔うことが出来なかった。
「知るか。そんな事」
彼方も、不注意で溢れてしまったように言った。
「けど──あの人は、人を見送ることを恐れてる」
「昔から見ていた、自殺嗜好者……其奴のことを、あの人は如何思ってるんだろうな?」
最後の方は、ほぼ独り言に近いような響きだった。
けれど、其れは確かに私の耳に届いた。
其の瞬間、 私の頭には何時もとは違う思いが浮かんでいた。
何時もの私が馬鹿馬鹿しいと一笑に付している思い。
其の思いに戸惑っていることを見抜いたのか、中也が此方を見た。
其の強い目の中に、微かな羨望が入り混じっているような気がして動きが止まる。
(中也は羨ましいのか。気にかけられている私が)
君こそあの人から気に掛けられているような気がするのだけれど。
でも、兎に角。
(何か言うなら、今……か)
「何か言うなら、今だぞ」
「ちょっと、私の心の声と同じこと言わないでくれないかい」
「否、知るかよ」
何時もの様なやり取りをしながら、私は席を立った。
行き先は探偵社。
ドアの方へと行く前に、私はふと思い立った様に言った。
「私は、君も気に掛けられていると思うけれどね」
その言葉に、僅かに彼が肩を揺らしたのを見て私はふふん、と笑みをこぼした。
---
もう空も暗い。
探偵社は既に明かりが落とされている。
私は鍵を取り出すと探偵社の中へと入った。
医務室のドアをゆっくりと開ける。
私は部屋の中に入ると、寝台のそばに椅子を引き寄せて座った。
寝台の上で、ルイスさんは微動だにしない。
「ルイスさん、聞こえてますか」
(なんて、返事が来る訳ないか)
私はそう思った。
けれど、その横顔は「聞いてるよ」と返事をしたように思えた。
私は口を開いた。本当なら、当たり障りもないことを話すつもりだったが、耳に届いたのは考えていたこととは違うことだった。
「今日、中也が」
こんなこと言ったんですよ、と私は続けた。
「『手前は知らねェかもしれないがな。ルイスさんは、手前が思っている以上に、手前を気にかけてるんだぜ』──全く、生意気にも程があると思いません?」
先刻のことを思い出して私は少しばかりむっとする。
けれど、其れに少なからず思うものがあったのも事実だった。
(また喧嘩したの? 全く)
そんな言葉を発する人物は、今眠っている。
「でも……」
「若し、若しですよ? そうなのだとしたら。私は……《《僕》》は、あなたに目覚めてほしい」
私はそこで言葉を区切った。
何故だか、胸が詰まる。
もしかしたら、案じているのかもしれない。
織田作のように私を案じてくれていた人の生死を。
「目覚めたあなたと、気にかけてくれた人と、ちょっとくらい予定よりも長く生きてみても、良いかもしれません」
そう思うと、そんな言葉が口をついて出てきていた。
気にかけてくれていた、そのことに、恩を返したいと。そう思ったのかもしれない。
「じゃあ」
私はそう言って椅子から立ち上がった。
その時だった。
「ん……あれ?」
聞きたかった声が耳に届いて、私は急いで振り返った。
---
「ルイスさーん、これ見てくれませんかー?」
「はいはーい」
僕──ルイス・キャロル──は呼ぶ声に返事をして敦の元へ向かう。
僕は数日前、太宰のある言葉によって目醒めた。
目醒めた後、組織も国籍もさまざまな知り合い達から安堵の言葉とお叱りが飛んできたのは言うまでもない。
あの異能者の正体は、不明のままだった。
若しかすると、僕の様に他の世界から来た者なのかもしれない。
あんなに混乱していたのも、突然他の世界へとやってきたからだとすれば説明がつく。
真偽は定かではないが。
「ほら、ちゃんと仕事して」
「分かってますよー、ルイスさん」
嫌そうにしながらも机に向かう太宰。
真面目に(其れでも彼にしては、だが)仕事をする彼に、最初の頃は天変地異が起こるのではないかと囁かれたものだ。
だが。何も変わらない毎日の連続記録を無事、更新中である。
僕が眠っていた間に、彼が何を思ったのか、知る由もない。
けれど、彼に別れを告げる日が少し遠くなったかもしれないことは、嬉しいことだった。
『ルイス』
頭の中でアリスの声がする。
「なに?」
『あなたは、今、幸せ?』
其の言葉に僕は答えた。
「──さあね」
其の声色が、清々しいものだったことは、当事者の二人しか知らないことだった。
了
眠り姫です!
タイトルの理由はこちら。
ナナカマド……1月27日の誕生花(史実ルイス・キャロルさんの誕生日です)
花言葉……私はあなたを見守る
花言葉から探したら、こんな偶然に。
天泣様、私にこんな素敵な機会を下さって、本当にありがとうございました!
本当に、本当に感謝しかありません!
他の方とコラボすると言う楽しさを感じました。
本当に、もう、嬉しすぎて……
(主の狂喜乱舞ぶりは日記で見れるぞ)
だって、嬉しかったからさぁ……
そして。
私にしては長かったですね! すみません! いやもうこれはごめんなさい。本当に。
自分でもこんなに長くなると思わなかった!
特に中也と太宰の会話が……自分でも掘り下げたくなって……いつのまにか中也さんがイケメンに……あ、元からか。
読んでくれたあなたと、そして天泣様に!
心からのありがとうを!
白と黒のグリンプス編について
私の二次創作、白と黒のグリンプスのネタバレをしまくっています
・今回のオリキャラ
有島武郎
能力 或る女の一瞥
対象の生涯の中で、最も忌まわしい“愛”の形をリフレインさせる。また、愛する人物が離れていく姿の幻影を見せ、(副産物的に)精神崩壊を行う。
容姿 女性のような美しさのある男性
メモ 既に故人であり、異能が手鏡に閉じ込められていた。手鏡の話は怪談となっていたが、芥川と敦が割ったことにより消え去った。生前はマフィア準幹部。美しさと強さを欲していた。また、蘭堂さんとは一応知り合い設定。懐かしい、と言ったのは、自分を思い出したからなのか、それとも……?
元ネタ・小ネタ集
・キャラの元ネタは有島武郎さんです。……まあ、なかなかな経歴の方です。うん。
・異能力『或る女の一瞥』の元ネタは有島武郎作『或る女』。主人公の苦しみや痛みの、擬似体験的な何かをさせようと思い、この異能になりました。
・ついでに言うと題名の元ネタも『或る女』。これは原題が『或る女のグリンプス』であることからです。グリンプスとは“一瞥”や“印象”のこと。異能名も此処からです。
・異能力は精神干渉ではなく、幻影の異能に分類されます。言うなれば認識干渉でしょうか。生前は、細雪の攻撃性高いバージョンだった模様です。副産物的に精神崩壊を行う異能力ではあります。
・異能力が手鏡に籠ったという設定の由来は、『或る女』の主人公が、自分の美が衰えていく様子を恐れたことから。だって、手鏡と言ったら現実の自分を突きつけるものであり、異世界を映し出すものですからね!
・また、怪談話の集いの際、鏡花ちゃんが話したのは『夜叉ヶ池』であるという裏設定があります。鏡花ちゃんのセリフ、『月がいよいよ明るくなっていった……』は、夜叉ヶ池の最後の文、『月いよいよ明なり』を現代語に直訳しました。(最初は羅生門のエンドを話させていたのですが、夜叉ヶ池に変えました)
・手鏡は、生前は異能の媒体というよりも、純粋に私物。希少なアンティークらしいです。太宰さんが知っていたのは、彼が殉職した際の資料として、其れが記載されていたからかと。
---
・物語の流れ
今回は流れはそんなに難しいものでは無かった、かな?
簡単にいうと、
怪談の集い
↓
共同任務
↓
鏡花ちゃんの相談 芥川に任務の下命
↓
敦に依頼
↓
エンカウント
↓
クライマックス
の流れです。
前作ほど事件が中心じゃ無かったので、ざっくりしてますね。
---
あっさりしすぎて話すことがない。
千文字も言ってないぞ!?
嘘だろ……。
あ、有島が亡くなったのは、蘭堂さんの少し後くらいの設定です。
普通に任務でお亡くなりになりました。蘭堂さんの事件は関係ないです。
よし、千文字行った。
ありがとうございました!
玻璃茉莉の祝福をあなたに(英国出身の迷ヰ兎×迷ヰ犬怪異談)
花楸樹の夢の、没になったバージョンです。僭越ながら、供養としてm(_ _)m
色々と捏造部分があります。すみません!
(あー、暇だわ)
私、アリスは白い天井を見ながら思った。
ごろん、と右を向いてみる。白い。
左を向く。白い。
そりゃあそうだ。何も無いエリアなのだから。
「はあ……」
この動作を繰り返して何年経ったのだっけ。
確か──
「十と少し、くらいかしら」
私はこの生活に不平を言うつもりは無い。
これが、ルイスの望みならば、私はそれを甘んじて受け入れるだけ。
けれど。
「暇なのは仕方無いじゃない……」
私は白い床から起き上がると、胡座をかく。
何も見えない。聞こえない。
ルイスがワンダーランドを使った時に、ほんの少し外が漏れ聞こえるくらいだ。
『不思議の国』なのだから、喋る花にどこまでも続く落とし穴、可笑しな決まり──なんてのがあって然るべきだと、私は思う。
私は溜息をついて、徐に呟いた。
「異能力『鏡の国のアリス』」
そう呟くと、どこからともなく鏡が現れる。
私の異能だ。
ある程度の大きさならば鏡を経由して移動もできる。
最近は其れで遊んでばかりだった。
けれど、それも一寸飽きてきた。
最近外では動向があったようだけれど。
昨日は大きなことはなかったが、あるとしたら人とぶつかったことくらいだろうか。
此処数日の、自分が知っている外のルイスを反芻しながら溜息を吐く。
「次の遊びはどうしようかしら──」
其の時だった。
ッカシャン
「!?」
何か軽いものの割れる音がした。
私の鏡ではない。
ということは──
「ルイス……?」
ルイスが『ワンダーランド』を使った際に、何か割ったのだろうか。
唯の天然ムーブならば良いのだけれど。
『!? ルイス!』
カチャンッ
ガチャリ
私たちでは無い、声と音。
まだ、外の音が聞こえていた。
嫌な汗が首筋を伝う。
私が外の音を聞くことができるのは、現時点では《《ワンダーランドが開いているときだけ》》だ。
聞こえるということは、《《異能力が行使されたままになっている》》ということ。
または、其の境界があやふやになってしまっているということだ。
彼は異能を余り使おうとしないし、開きっ放しにすることもない。
詰まり──
「ッルイス!?」
──異能力があやふやになるような、そんな危機に瀕している可能性が高い。
必死に此方へルイスを呼び込もうとするが、上手くいかない。
「聞こえてるの!? ルイス!」
『ッアリ、ス』
「!」
『……』
返事が、消えた。
ワンダーランドに異変は無いから、ルイスに生命を脅かすような危機が迫っているのでは無いことがわかる。
──少なくとも、今の所は。
私は深呼吸をし、耳に神経を集める。
外の喧騒はまだ続いていた。
『社長? 何があったンだい!?』
『ルイスが──』
『一寸触らしとくれ』
最初に聞いた、社長らしき壮年の男性の声に次いで、若い女性の声が聞こえる。
『……眠ってるみたいだ──、此れは……?」
『肌に……紫色の、染み?』
僅かではあるが、外のルイスの状態が理解できた。
ルイスは、社長と話している最中、突然眠ってしまったのだろう。
体の何処か──恐らく、脈を見るような手首や首筋辺りだろう──に、紫色の染みがあった。
“染み”というからには薄くなった打撲痕などでは無いのだろう。
此れは、若しやすると──
「『……異能』」
『──だね』
私の声と、外の声が重なる。
『与謝野さん、ルイスを医務室に。社長は皆に伝達した方が良い。出来れば特務課にも』
特徴的なボーイソプラノだ。
ルイスの近況から察するに、最近あの子が居る“武装探偵社”の名探偵だろう。
(嗚呼、外が見たい)
仕方ない。
(ごめんなさい、ルイス)
少しだけ、異能を使わせてもらおう。
「異能力『鏡の国のアリス』」
そう呟くと、先ほどと同じように鏡が一つ現れる。
先ほどと違うのは、其処に映るもの。
この部屋の外──ワンダーランドの外の世界が映っている。
(白いベッド、カーテン……医務室ね)
ルイスが寝かせられているところのようだ。
偶然にも部屋の中に鏡が置かれていたらしい。備え付けのものかも知れないけれど。
私の異能は、鏡を出現させることだけではない。
鏡と鏡を繋ぐこともまた、可能だ。
(ルイスは嫌がるだろうから、していなかったけれど)
この際そんなことは構っていられない。
こちらからも、出来うる限りの情報を得ておきたい。
少なくとも、私が眠っていない間は、この部屋は生きている。
私に出来るのは、此処で、眠りの異能に脅かされることなくルイスの人格を支えること。
そして──
(もし──もし、仮にルイスが此処に来たときに、あの子を癒すこと)
その為に私は、此の白い部屋を享受しようではないか。
私は赤色を瞳に躍らせながら、鏡を見つめた。
---
「ルイスは、馴染めているみたいね」
ぽつり、とそんな言葉がついて出た。
ルイスが眠ってしまってから数日。
色々な人が医務室に入れ替わり立ち替わり現れては、現状をルイスに伝えるように話して去って行く。
色々な人に慕われているようだ。
(若しかすると、名探偵からの根回しかしら)
あの頭の切れそうな彼なら、私のことにも気づいていそうだ。
けれど。
(矢張り、進展は無し、か……)
私は小さく溜息を吐く。
私もこんな状況見聞きした事などない。
異能の宝庫である欧州を知る私も経験がないのだ。
日本からでは見つけ出すのは難しいだろう。
其の時。
ジジ……と部屋が揺らいだ。
「……」
近頃、少しずつ起こり始めた異変だ。
ルイスの危険が少しずつ高まっているのだろう。
其の危機感は、探偵社の方にも伝わっていることは明らかだった。
(私は……私はどうすれば良いのかしら)
そう思うも、答えをくれる人物はいない。
この眠りが異能であること、眠りが長くなるにつれて命の危険が高まることばかりが、私に思い知らされる。
「あ……」
また、新しい人物がやって来たようだった。
いつもなら、ルイスの方を見るため、私側に背を向ける。
けれど、其の人物は真っ直ぐ此方にやってきた。
ハンチング帽を被った、少年のような男。
最初の頃に見たものから、彼が名探偵なのだと知っていた。
矢張り、私に気づいていたらしい。
私に何のようだろうか。
「やあ! 赤ノ女王さん。僕の姿はちゃんと映ってる?」
にこり、と向けられた笑みに、僅かな安堵を覚える。
「ええ」
「良かった! 一寸君に用があってね……」
ちゃんと聞こえるだろうか、と少し不安に思いながら返した返事は無事に届いたらしい。
名探偵は少し声を顰めると、翠の眼を此方に向けて言った。
「単刀直入に言うよ。
君は──
罪悪感を抱く必要は無い、としか言ってないんじゃない?」
(……?)
如何言うことだ。
この名探偵は何を──
其処迄思って、はっとした。
『僕の所為だ』
空虚な声がリフレインする。
『あなたの所為じゃないわ』
精一杯の気遣いを込めた筈の声。
あの後、何があったろう。
『……』
突き刺さるほどに鋭い沈黙だった。
『罪悪感を抱く必要はない《《としか》》──』
“only said”
確かに、その通りだった。
戦争について、行ったのは私なのだ。あなたに責任はないと。
もしかして、それが逆に苦しめていたのだろうか。
ルイスが求めていたのは、否定ではなく、許容だとしたら。
そこで私は自分の失言に気がついた。
其れを悟っているように、名探偵は続ける。
「君は頭が良さそうだから、細かく言わなくても解ったと思う。けど、これだけ言わせて。
ルイスは、待ってるよ」
其の言葉に、私は眼を見開く。
「それは──本当?」
「僕は間違えないよ」
ルイスは、待っている。
ああ、自分の思いを率直に伝えなければ。今度こそ。
でもなんと伝えれば良いのだろう。
ルイスは、眠っている。目醒めてくれるか分からない。
もう伝えることができないのかもしれないのなら。否、でも。
ふと、ある言葉が思い出された。
(人は眠っていても声を聞いている)
昔本で読んだ言葉だ。
普段のあなたに、こんなことを伝えたら、どんな反応をするか分かったものではない。
こんな状態でしかいえないことだ。
「Thank you,Mr.perfect detective」
「どういたしまして」
私のお礼の言葉に、名探偵は身を翻して去って行った。
それと同時に、私は鏡の前から姿を消す。
どこへ届けるべきか、なんて分からない。
ただ静かに、眼を瞑る。
(こんな状況を利用して、ごめんなさい。ルイス)
けれど、どうしても伝えておきたかったから。大切なあなたに。
ワンダーランドは、現実と空想の隙間だ。
現実だから存在する。空想だから存在しない。
その二つが成り立つ異能空間。
きっと、ここからなら。
ルイスにも聞こえるはずだ。
「ルイス。あなたは、罪悪感を抱く必要はないんじゃない。
あなたは、罪悪感を抱いて良いの。その心は間違ってない。
あなたは、確かにそれを持っていなくちゃならない。けど、背負い込む必要はない──
私は、そう、言いたかったの」
「頑張ったね」
どうか、あなたの耳に届いていますように。
ギシリ
衣擦れと、寝台の軋む音が鏡から聞こえて私はハッとする。
(良かった……)
この上ない安堵と、喜びが体を駆け巡った。
其の思いを感じたと同時に、私は異能を解除する。
私が助けたなんて知ったら、ルイスはどう思うのか。
其の不安ゆえだった。
(私は臆病ね……)
ふふっと薄く笑う。
けれどまた、面と向かって話すことが出来たなら。
其の時は、ちゃんと。
(伝えて、受け止めよう)
其の瞬間は、きっとそう遠くない。
赤ノ少女は、変わらぬ部屋の中、愛情のこもった笑みを浮かべた。
---
『ルイスッ!』
「……え?」
ふっと目を開けると、其処にはいる筈のない人物が立っていた。
僕たちを囲むのは抜ける様な青空と草っ原。
丁度英国の六月を思わせる様な気持ちの良さだが。
何故だ。
先程、僕は探偵社で社長とお茶をしていた筈で、その後──
『ルイス?』
ふわりと相手の髪が揺れる。
喉の奥が、懐かしいと叫んでいるように思える。
それを感じながら、僕は震える唇を開いた。
「何で君がここに居る──ロリーナ」
だって、ロリーナは──
もう、死んだのに。
そう口にすると、ロリーナらしき人物は悲しそうに笑った。
『やっぱりルイスは賢いね。他の人も居るんだけど──仕方ない。
うん。私は確かに、本物のロリーナ・リデルじゃない』
けど害を与えることはないよ、と彼女は言った。
『私は、君の夢だからね』
夢。
それは、眠ることの“夢”か、哀しい希望の“夢”か。
もしくはどちらも、なのかも知れない。
「……此処からは、戻れないの?」
もう直ぐ《《彼ら》》がやって来る。
みんなは強い。
いなくても大丈夫かも知れないけれど、保険のために僕は居るべき。
だから、僕は戻らないといけない。
『……戻れるよ。けど、条件がある。
これは、ルイスの悩みをほどく“幸せ”。私はその悩みの一端に過ぎない。その“悩み”が消えれば戻れるよ』
僕の悩み。
其れは、きっと──
「ルイス」
ロリーナのものではない声。
最近では意識の中から聞いていた声だ。
声の持ち主の名前を、無意識に口が紡いだ。
「Alice……」
その言葉を口にした瞬間、ぶわりと風が巻き起こった。
草を巻き上げ、花を纏う。
アリスの声は風に隠され、耳に届くことはなかった。
けれども、左胸のあたりに確かな灯を感じる。
風が髪を揺らす。
『ルイス』
暖かな静寂の中、口を開いたのはロリーナだった。
『いってらっしゃい』
その姿も、もう陽炎のように揺らいで見える。
夢が醒めかけているのだ。
「ロリーナ、 」
『君の悩みは、今ほどけた。ふふ、アリスは凄いなあ。……私にはできないよ』
「ロリーナ……」
『でも、一寸問題があるかな?』
ロリーナはそう笑うと、両手を前に差し出した。
重ね合わせて、開く。
蝶が翅を伸ばすように。
本が、開くように。
『“story teller”』
彼女の異能力。
思い描いたものごとを、現実にする能力。
僕は、彼女が試みていることを瞬間的に理解した。
(嗚呼、此処であったことは全て。忘れるようになるのか)
けれど、物語的整合性が──
『必要なのは、物語的整合性。“物語的”だよ?』
ロリーナは悪戯っ子のように無邪気に笑う。
──こんな笑顔が、見たかったなぁ。
僕は、みんなの、こんな笑顔が──
(可笑しいなあ。僕はこんなに感傷的な人間じゃないのに)
自分を見つめる僕の視線に気付いたのか、ロリーナは首を傾げる。
そしてふっと目元を緩めると、近くにあった低木の花をひょいと摘んだ。
紫色の花だ。
昔、アリスに教えてもらったことがある。
名前は確か。
『君に、玻璃茉莉の祝福がありますように』
紫色を持った白い指が、僕の髪に触れたその時には、僕の意識は白に包まれていた。
“頑張ったね”
そんな優しい言葉と、沢山の人の手が触れたように感じたのも、夢かも知れない。
---
ゆっくりと目を開くと、其処は探偵社の医務室だった。
一室を占領していたらしい。申し訳ないことをした、と思いながら身を起こす。
その拍子に、寝台がギシリと音を立てた。
備え付けの洗面台に、金色が揺れた気がしたが、日光が反射したのだろうか。
(幸せな夢を見ていた気がする)
例えば、ロリーナが出てくるような。
(思い出せないなあ)
ロリーナが消してしまったのだろうか? なんて考えてくすりと笑った。
彼女の異能力は、そんな突発的なことは出来るはずがないというのに。
出来たとしたら、それは僕がその記憶を消す口実に使った、夢の中の産物であろう。
(でも……)
出てくるのはロリーナだけであっただろうか?
それ以外の人たちももいたような気がしないでもない。
わからない。
うーん、と唸りながら頭を掻いていると、ぽとりと掛け布団の上に何かが落ちた。
「花……?」
幾つかの紫色の花が房状になった、南国調の花。
サイドテーブルの花瓶の中にも揺れている花だ。
それにくっ付いていたのか、小さなメモも共に落ちてくる。
『玻璃って、鏡の材料だよね』
乱歩の筆跡だ。
なんでもないような文言。
けれども、鏡と言われてすぐに思いつくものが、僕はもう一つあった。
紅く、長い金髪の──。
あの名探偵、乱歩のことだ。
それを見越した上で、こんなことを残したのだろう。
若しかしたら、先刻の金色は見間違いではなかったのだろうか、なんて考える。
(……)
未だ、僕は“アリス”から逃げていたい。
臆病で、腰抜けだ。
でも、彼女の優しさを知るのも事実で。
(今は未だ、だし)
きっとこれから、沢山のことがある。
その中で、きっと、否。絶対にあるはずだ。
アリスと話す機会はこれから未だある。
(だって、死ぬ気はないしね)
そう心の中で呟いた彼の唇の端に、小さな笑みが宿っているのを知る者は、誰1人としていなかった。
END
眠り姫です
玻璃茉莉は、デュランタと言われる植物の和名です。
花言葉は、あなたを見守る 目を惹く容姿 歓迎
可愛らしい紫色の花の植物です。
……前回と似てますね
前回との違いは、ルイスに庇護される側ではなく、彼を庇護する側の話であると言う点でしょうか。
前書きにもありますが、色々と捏造しまして、天泣さんすみません!
では、これを遅ればせながらアリスのお誕生日祝いとして。
アリス、誕生日おめでとう! かっこよくて、可愛くて大好きだよ!
ここまで読んでくれたあなたに、天泣さんに、そしてアリスに! 精一杯の感謝を!