洞窟の先で演技力を身に着けました! 第1章
編集者:ことり
「あの洞窟の先には行ってはいけない。あそこには、人を食う存在がいる。だから、行ってしまったら二度と戻れないよ。」
幼いころから幾度となく聞いてきた忠告。だけど響はその先に何があるのか、と、好奇心を抑えられなかった。
そして、ある日、洞窟に入ることに決めた。
そして、その洞窟を通り抜けた先には、昔の習慣を真似る不思議な村があった。
※ネタばれ 主人公勘違い系物語です。
(一章は16話で完結。現在第二章執筆中です。)
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目次
1.はじまり
「あの洞窟の先には行ってはいけない。あそこには、人を食う存在がいる。だから、行ってしまったら二度と戻れないよ。」
何度聞かされたことだろう。だけど……響は好奇心を隠せなかった。あの先には、何があるのだろう?
よく分からないことが、響の好奇心を刺激した。
人を食う生き物がいる?
それだったら、なぜこっちには人がたくさんいるのにやってこないのか。もしかして、人を食う生き物などいるのだろうか?
響の好奇心は、そろそろ限界を迎えそうだった。
「よし、行ってみよう。」
響の頭の中には、迷路かな?という楽しい妄想が繰り広げられていた。
果たして、この洞窟の先には何があるのか?
そして、科学技術が台頭している時代において今もなお、それが伝えられているのはなぜか?
幸い、サバイバルセットなどは、あちこちに売られている。
響は今、9歳。小学3年生。だが、未知の場所へと進む覚悟は、それはお遊び程度みたいなものだったかもしれないが、あった。
『少し、出かけます。帰らなくても気にしないでください。』
そう手紙を置いて、探検に赴いた。
ただ、この手紙は、親の不安を引き立てるものであった。その点、この置き手紙は失敗だったといえるだろう。
しかし、これでも多少の捜索の手掛かりになるのだから、その点では間違っていない。
ただ、響が目指すべきだったのは、その両方を兼ねそなえた手紙であるべきだった。
無論、小学3年生にそのことを求めるのは間違っているとは言えるだろう。
コツン、コツン。
響が歩く足音が周りに響いていく。
道は、幾重にも分かれていた。その中で響はずっと右の道を選んだ。
理由は簡単だ。面倒くさかったから。
しかし、これはあながち間違っていない……。
響は、歩いた。歩き続けた。洞窟は、思ったよりも広かった。
こっそり取ってきた弁当はとっくに食べ終えている。
(こんなに広いなんて……。大丈夫かな?今日中には帰る予定だったのだけど……)
響があの置き手紙をした理由、それは、みんなを驚かすためであった。
これで、今小学3年生だ。恐ろしい子である。
何が言いたいのかというと、響は本当に帰れないとは考えていなかった。しかし、今はどうなのだろう?2,3時間歩いているというのに、まだずっと右側の道を歩き続けている。
(おかしくない?なんでまだ行き止まりにつかないの?この山、そんなに広かったっけ?)
そう考える響の脳裏には、このまま行き止まりにたどり着かないまま飢えて、死んでしまうのではないか?そういう不安が生まれていた。
(いや、そんなわけがない。だいたいそれだったら人を食う生き物はいなかったということだ。何も心配はいらないはずだ。)
いつの間にか、この先に何があるのか、ということから、この先に何もないことを証明する、そういうふうに目的が変わっていた。それほど恐ろしかったのだろう。
「心配いらない」
「心配いらない」
響はそう口に出して心を落ち着かせる。
(そうだよな、何も心配することはないじゃないか、あと1時間くらい歩いても止まらなかったら、戻ろう。)
だんだん落ち着いてきた。
「すーはー、すーはー」
ついでに深呼吸もしてみた。
(よし、大丈夫。まだまだいける。)
もう二時間も歩いているというのに、元気な響であった。
(おや?)
響は顔をあげた。
さっきまでの湿った空気が突然感じられなくなったからだ。
(行き止まり?いや、出口?)
響の気持ちはたった一つに向いていた。
(なんでもいいから、早くトイレに行きたい。)
2.到着
ファンレターありがとう!やる気出てきた!
果たして、その先にあったのは出口だった。
(やったぁ。これで今の道を戻らないで済む!!)
ただ、この判断は早計だっただろう。
何はともあれ、響は洞窟からの脱出を果たした。
そこは、森の中だった。見覚えは……ない。
だが、響は気にしなかった。
(ごめんなさい。今だけ許して。)
周りにトイレがないことを悟ったのか、その場で用を済ませることにした。もちろん、目につかれにくい所を探して、だが。
そして、急ぎの用を済ませた響は改めて周りを見渡した。
(これは、何の植物だろう?)
小さな村で今まで過ごしてきたのだ。基本的な植物は親から聞いて、覚えさせられている。
だけど、それでも分からなかった。
こうなってくると、響の理解の先の出来事である。響には、やりようはなかった。
ぐぎゅるるるるるるる
響のお腹が鳴った。そういえば、おやつの時間はとっくに過ぎている。さらに、日も沈みそうだ。
(時間が少しずれてしまった……。)
響は時間間隔には幼い時から自信があった。だが、今、その自信は崩れ落ちた。
(とりあえず、植物の名前は分からないけれど、いったん下に降りよう。同じ村なはずだから。)
そう考え、響は下へと向かう。だんだん日は暗くなっていき……。
グルルルルッ。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
……響は、男勝りな言動であるが、れっきとした女であった。
そして、そんな響の前に、おぞましい見た目の生き物がいた。
(逃げないと……だけど、背中を見せたくない……。)
響は一歩下がった。
それは、一歩近づいてきた。
(噓でしょ?私、狙われているの?本当に人を食べる生き物がいたの?)
響は、怖くなった。そして……
「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
声を出して逃げ出した。
……先ほどの、背中を見せない、という覚悟は、簡単に消え去っていった。
(一体何なの!?人を食う生き物って本当にいたの!?あんな生き物、今まで一回も見たことがないよ……しかも洞窟の外だし!!)
「大丈夫か!?」
男の人があらわれた。
「大丈夫じゃないよ!?何か変な生き物もいるし。」
響はつい八つ当たりしてしまった。響の叫び声を聞いて、助けに来てくれたであろう人に。その後、響には自己嫌悪がやってきた。
(あり得ない!!!なんで、私は恩人に八つ当たりしているわけ!この人はただの親切な人でしょ!)
そんなことが、何度も何度も頭をよぎった。
「ん?あぁ。これか。分かった。倒してやろう。」
「え?」
(この生き物、人が倒すことができるの? あ!銃を使ったら殺せるか。)
だけど、その人は銃を持っている様子ではない。
……と、その時、響の目に剣が映り込んだ。
その人は、剣を抜いた。そして、その人が剣を薙いだだけで、その生き物はこと切れた。
(かっこいい……!)
そう思った。だけど、しばらくすると、
(ううぅ……。臭い。)
両親の狩りには何回か付き添ったことがあった。だから、においに関しても慣れたと思っていた。だけど、臭かった。
(お礼……言わないと……)
意識を手放しそうになるが、何とかこらえた。
「ありがとう……ござい……まし……た……。」
途切れ途切れになってしまった。
「どういたしまして。」
その人のほほえみは、とてもきれいだった。
だけど、今の響の中には、この瞬間を見たことによるショックがあった。
そして、響は意識を手放してしまった。
その時、温かいものにふれたかもしれない。
3.目覚め
「目が覚めたか?」
響が起きると、目の前に美形の顔があった。
(どういうこと??)
しばし、混乱するも、だんだん昨日のことを思い出してきた。
(そっか……私、家に帰っていないんだ。あんな紛らわしいこと書いちゃったし、みんなは私が消えたと思っているのかな?申し訳ない……)
響は自己嫌悪にさいなまれている。
「食うか?」
ぎゅるるるるるるる。
その瞬間、響のお腹が鳴った。「食べます。」の返事の代わりかのように。結局、響は気恥ずかしくなって、「食べます。」とは言えなかった。そして、そのことにも、響は困った。
「ははは。素直なお腹だなぁ。いいぞ、これをやる。」
そう言って渡されたのは、硬いパンに、スープ。それだけだった。
響はこれをくれたこと自体で十分に迷惑をかけているのに、さらに「少ない」「まずい」などを言おうとは思えなかった。
「ありがとうございます。」
「いや、礼はいい。それにしてもあんな時間にあんなところで何をしていたんだ?危ないじゃないか。」
「洞窟を探検していたら、気づいたらあそこにいました。」
「洞窟?そんなのあそこにないぞ?」
「え?でも、洞窟を通ってやって来t……」
そこで響は戸惑った。
(私は洞窟から来たから洞窟から抜けたはずだけど……洞窟の入り口って、あそこにあった?)
響は自分の記憶を探ってみる。しかし、思い出せなかった。
「いや、ごめんなさい。たぶん勘違いです。」
何かあったら謝るに限る。響は背が低いほうだから、多少雑でも許してもらえるだろう、そんな期待もあった。
「何か、事情があるんだな?」
「え、あ、はい。そうです!」
せっかく言い訳を用意してもらえたんだから、とそれに便乗する。
「お前が着ていた変な服は洗っている。捨てることもできるが……捨ててほしくなかったら今のうちに言っておけ。」
そう言われて、今着ている服を見れば、いつの間にか変わっていた。
「着替えさせてくれたんですね。ありがとうございます。あと、服は残しておいてください。」
響はここでため口にすることも考えたが、さすがに恩人にため口ははばかられたのか、今まで通り、敬語で接している。もちろん、知らない単語もたくさんあるからわかる範囲内で、だが。
「そうか、それはよかった。そして服は残しておくようにする。」
よかったといっている割に、何か動揺しているように見える。
(?もしかして、私の体に何か変なものでもあったかな?)
もちろん、男性が子供とはいえ女子を着替えさせるのは恥ずかしいだろう。そして、ここでの動揺もそれである。なのに、それに気づかない響は……鈍感なのかもしれない。
「あー、で、その服で問題なかったか?」
そう言われて改めて服をじっと見つめた。
「あ、はい、問題ありません。」
服は、あまりきれいとは思えなかったが、特に変ではなかったため、そのまま着ることにした。そして、もし変なものだとしても、響に断ることはできなかっただろう。
「あ、そういえば、名前を教えてください。恩人ですし。」
「その前に君が言うべきだろう。」
「あ、すみません。私は|神楽《かぐら》響。」
「カグラヒビキ?カグラという名なのか?」
(なんで始めに言ったほうを名前だと思ったんだろう?)
響は戸惑う。
「名前は響です。」
「ヒビキ…か。分かった。今度からはそう呼ぼう。僕はライセンだ。」
「ライセン?字はどう描くの?」
「字は……知らない。」
「え?じゃあ名字は?」
「名字はない。というか君は……ヒビキは裕福なのか?名字もあるし、文字も知っているのだろう?」
何かまずいことになりそうだ。とっさに響はそう感じだ。
「いいえ、文字は知りませんよ。機会があるたびに覚えたいと思うんですけど、なかなか知っている人に出会えなくて……」
響はとっさに嘘をついた。だけど、その内心は混乱していた。
(なんで文字を知らないのかな?しかも名字があるだけで裕福?そんな古臭い考え方、今残っているわけがない。だけど、ライセンがそう思い込んでいるなら、何も指摘しないでおこう。)
そう考えて、話を合わせることにしたのだった。
月・水・金に他作品の更新を行っているため、この作品は、それ以外の日のうち、他に投稿するものが無かった日にします。
あと、ファンレターありがとうございます。
4.魔物
「ライセンって強いの?」
「一応この村では一番だ。」
『村』という言葉に響の思考は一時停止する。
「村?」
「あぁ。この集落を僕たちは村と呼んでいる。」
(集落?私たちの村の近くにほかの村ってあった?いや、無かった。そして村というのは市町村を指すものだし、あの山は私たちの村の真ん中にあったんだもん、となると、私たちの村と同じということになるけど……。強いというなら、私たちのところにまで情報が着てもおかしくない。つまり、この人は頭がおかしくなっているんだ。あの生き物から助けってもらったことは感謝しているけど、頭がおかしくなっているのはなぁ……。)
響は勝手に絶望している。
「そうなんですね。」
そして、また話を合わせることにしたのだった。
「大変だがな、やりがいがあって毎日楽しいぞ。お前……ヒビキは何をしていたのだ?」
(どうしよう?なんて答えればいいの?この人は頭がおかしくなっているから、話を合わせるためにはそこらへんも考えなきゃいけないよね?)
そして、響は一生懸命考えた。
そして、一つの結論にたどり着いた。
「私は、かなり遠い村で、村長の娘でした。」
「え!?」
ライセンに驚かれてしまった。
「村長の子供なのか?だったら早く村に戻りなさい。あぁ違う、まず村の位置を教えてくれるか?いったん連絡してから……」
失敗した。
ライセンはとても大ごとだと受け取った。だが実際は響が口から出まかせで作った話である。大体村長の娘だからって次の村長になれるわけがないのだから、そんなに気にする必要はないと考えていた。
だから、それを本気でとられて響は焦った。
「そんな大ごとじゃないですよ!ちょっと冒険をしたいと思って、少しの間、自主的に他の村を見て回っているんです。」
(どうだ!)
響はドヤ顔である。
裕福だと言われたことはこれで説明できる。だって、村長というものは市長の劣化版。そして市長の立場はまあまあある。ならば村長の立場もまあまああるだろう。そう考えてのことだった。しかも、勉強のために自主的に……と言えば、親が子を手放してもおかしくはない。
何よりも、今の響の状態は、親の元を自主的に離れた状態であるから、嘘もあまりつかずに済んでラッキー。その程度の感覚だった。
そして、この理由なら、近くをうろうろしていても問題がない。家に早く戻ることができるだろう。そんな期待もあった。
「そうなのか?では、いったんこの村で休むといい。この村は村の中でもまとまっているほうだ。学べることがあるだろう。」
(頭は少しおかしいけど、この人は優しい人なんだな。)
そう思えた。
ただ、早く家に帰りたい。その要求はまだ達成できそうになかった。
「あ!」
響は気になっていたことを聞き忘れていたのに気づいた。
「なんだ?」
「あの生き物は何ですか?」
ポカンとされた。
(何かおかしなこと言ったかなぁ?)
響には理解ができなかった・
「あれは魔物だぞ?名前は……オーク。」
「オーク?」
「なんだ?お前、オークも知らないのか?それでどうやって遠い村からここまでやってきたんだよ。」
「えーっと……なんとなく?」
何も理由が思いつかなった。それよりも響は魔物という響きに魅せられていた。
「はぁぁ……本当にそうなら、お前は天才だな。」
「そう?」
せっかく褒められたのだから、と、響は喜ぶことにする。
「そうだな。」
それに比べて、ライセンはもう諦めモードだった。
「では、村長に会ってもらおうと思う。」
「え?」
(村長ってあの村長だよね?なんか偉そうで、白髭で、サンタクロースの服を着たらサンタさんになってしまいそうな?そんな簡単に会えるの?)
ちなみに、響はその見た目から、サンタクロースは村長さんじゃないか、とひそかに思っているのだけど、それはまだ誰にも言ったことはない。
5.村長
村長に会いに行くついでに、村を案内された。
すると、ライセンの家にいただけでは分からなかったことが分かってきた。
まず、建物が違った。この村の建物は、古い。今まさに建てられているやつも見かけたけど、どう考えてもコンクリートが一軒にも使われていないのはおかしいと思う。
さらに、そこから思い出してみれば、家の中に、囲炉裏(?)みたいなやつがあった。
(もしかして、ここは相当古い場所なのかな?それとも今まで来たことがなかっただけで、今も昔ながらの生活をしている地域なのかもしれないな。)
だったら村長という役職を自分たちで作っていてもおかしくない。そう響は考えた。
そして、自転車も自動車もなかった。見かけた人たちの移動手段は、歩いているか、馬に乗っているか。
(すごいなぁ。)
響はこんなに昔の暮らしを再現できているこの村に、驚きしか感じられなかった。
また、服装も今私が着ている服同様、古臭かった。
(この村は、なんでこんな面倒くさいことをしているのだろう?だけど、面白そう!私も自分で役割を作って演じてみようかな。)
考えた結果、ライセンに言ったとおりの、「遠く村からやってきた村長の娘。そしてこの村には冒険の一環としてやってきた。」、そういうことにした。
「村長に面会したいのだが。」
「おお、ライセン殿か。いいよ、今日は父もそんなに忙しくない。」
どうやらこの人がこの村が創り上げた村長の息子のようだ。
(ふうん。昔って家系で決めていたんだっけ?じゃあこの人が次期村長か……。ってあれ?そうなると、ライセンは私が次期村長かそれに類するものか、と思ったのかな?だったらあの慌てようにも納得がいく。)
「助かる。」
「村長さんに会いに行けるの?」
「そうだ。」
「分かった。」
素直に頷いた。
「ようこそ我が村へ。久しぶりの来訪者じゃ。歓迎するぞ。」
「ありがとうございます。」
お芝居みたいに長が長らしい喋り方をしている。それを見て、響は笑いをこらえるのに必死だった。
そして、その村長はやはりというか、いつも見る村長とは違った。
「ところでお主は今ライセンの家にいるのだろう?我が屋敷にも村の賓客としてなら泊めることができるがどうする?」
「そうですね。ではお願いします。」
こうして響は一時期の家を手に入れた。
「ところで、服とかはどうすればいいのでしょうか?お金は今までに使い切ってしまって。」
響はだんだん「遠くの村からやってきた村長の娘」という設定を演じるのが楽しくなっていた。そして、だんだんこういう設定なんだな、というのも理解してきた。
(私、意外と演技も出来るんじゃない?家に戻ったら俳優でも目指してみようかな。)
そして、調子に乗ったりするのが響の悪い癖であった。知識量とかは他の三年生に比べると多いはずなのだが……。こんなわけで、学校では面白いキャラ、という風に受け入れられていた。
「ないのか!?」
「ええ……事情があって無くしてしまい。」
さっきは使い切ったと言っていたというのにもうこの有り様である。
「そうなのか、大変じゃったな。」
「そうなんですよ。」
(やばいやばい。この流れってなんで無くしたかを説明しないといけなくなるんじゃあ……)
焦る響。
「そうだな、仕事と交換でどうじゃ?」
(よかったああああああ……。だけど流石古い暮らし。私の年齢でも働かされるんだ。)
響のこの村への印象はとても上がった。
(まあ私は小学三年生。そして見た目はもっと小さく見られる。そんなに重大な仕事は任されないだろうし、この年齢を鑑みて、簡単な仕事にしてくれるだろう。)
響の両親は響に甘かったから、そんなにひどい仕事は任せない。ただ、そのせいで響のひどい、のハードルは下がっていた。
それなのに響は安心した。だから……
「やります!」
こう言ってしまうに決まっているだろう。
「ただ、馬に乗ってみたいんですけど……」
響はそう発言した。
(だってお母さんお父さんに会いに行くためには、こうするのが手っ取り早いでしょ。)
響は満足げだった。
ただ、実際にはそうするためには、馬ももらわなければならないだう……。
そんなところは抜けているのであった。
6.乗馬
「馬か?ちなみに今までに乗ったことは?」
「無いです。」
「では運動能力は?」
「普通です。」
「よし、わかった。7日で乗れるようにしてやろう。」
「いいんですか!?」
響は焦った。
(ちょっと待って。7日?遅くない?いや、乗馬できるようになるなら、もっと本来はかかるものなのか?だったら早いうちに入るけど…)
「これは無給で教えてやろう。ただし、そのあとに、遠くにお使いに行かせる仕事を行うことが対価じゃ。どうする?」
「やります!」
早く両親のもとへ行きたい。響はその思いで頑張った。
ああ、今頃どうなっているのかな?申し訳ないよ……。
「いいか、まずは馬に信頼してもらえ。これに一日かけろ。」
「はい?」
かくして、村長宅での生活が始まった。正直言って、乗馬の訓練以外も、日常生活はきついことが多い。トイレなんて……今では絶対に見ることはないであろうぼっとん便所だったのだ。響はその中で、精神的苦痛にも耐えながら……例えば、ベッドがふかふかじゃないとか、飯がまずいとか、その他もろもろもあったが、頑張った。
2日目には馬に乗せてもらえるようになり。
3日目にはひもで引かれなくても乗れるようになり。
4日目は3日目とおなじことを行い。
5日目は馬に乗って飛んだ。
6日目は、スピードを出すことを覚えさせられた。
そして、今日が7日目だ。
正直、筋肉痛がひどい。今まで、こんなに真面目に運動してこなかったから。その分が、今回にやってきている。
だけど、響は諦めなかった。
今日の内容は、1日、遠出して戻ってくるというものだった。
もちろん、護身術もあの過密なスケジュールの合間に習った。だが、簡単な魔物なら逃げればいいわけだし、そんなに必要はないと考えていた。
(よし、今日がチャンスだ!この山を回って、家まで戻って生存を伝えよう。)
その思いで響は旅立った。
お弁当は質素なものだけどもらった。条件としては、日が沈むまでに戻ってくること。
大体今は午前8時かな。この前の時に自信を無くしてしまったが、今でもある程度は当てることができるだろう。時計が置いていないのは、それもまた昔の生活に当てはめるためだろうと響は考えていた。響の頭の中から「魔物の存在」は何の疑問のないものとして受け入れられていた……。
響は、まず、山を越えず、遠回りすることを考えた。歩いて8時間のところは迂回しても速さが上がっている分、行き帰りには十分だろう、それが響の予測だった。
響は、1時になったらとりあえず引き返そう。そう思っていた。
ぱっかぱっか、ぱっかぱっか。
馬で軽快に駆けていく。
7日で乗れるよういなったのはもちろん響に素質があったからではない、村長の教えが厳しかったからだ。
だけど、実力はついていた。
そう、県によっては一番になれるかもしれない、というところくらいには。ただ、これでも村長は満足していなかったのだから、この村は、なんとレベルが高いことであろう。
(あれ?)
馬で駆けること3時間。響はおかしさを感じていた。いつまでたっても、曲線があらわれないのだ。
(もしかしてこの山って遠回りできないの?それとも反時計回りで行くべきだった?)
響は戸惑う。響の記憶にある山は、そんなに大きいようには見えなかったからだ。
「あ!」
集落を見つけた。
「え?」
だけど、喜んだのもつかの間、響はさらに戸惑うことになった。
(なんで、この村も、コンクリートがないの?)
思い返してみれば、今通ってきた道も舗装されていたわけではない。さらに、見たことがない動物もいたかもしれない。
ただ、響は昔の真似をしているのは一つの村だと思っていた。だから、戸惑ってしまったのだった。この村も、さっきの村と同様に古臭いことに。
7.隣村
(昔の生活の真似をしている村って、一つじゃなかったんだ!じゃあこの村もさっきの村と同じような感じかな?)
そして、響は、この村でこの山がどれくらい大きいのか聞いてみることにした。
「すみませーん。」
一番大きい家の扉をたたく。
―ガラガラ。
「なんだ?」
「少し聞きたいことがありまして。」
「お前は誰だ?そしてなんで我が答えねばならん!」
(うっわー、古い感じそのままだ!)
そして、響のこの村の評価は上がった。
「私はヒビキ・カグラ。」
「ふうん、名字持ちか。それで、富豪様が何の用だ?」
「いえ、そんなに富豪ではないですけど……。そして、私は質問に来たんです!答えてくれませんか?」
「断る!聞くなら村長がいい。」
「あれ?ここって村長さんの家じゃないんですか?」
「そうだよ。向こうにあるのが村長宅だ。分かったらさっさと行け。」
「ありがとうございます!」
「気味悪いやつ。」
ポツリと呟かれたその声は、響の耳には入ってこなかった。
「すみませーん」
「誰だ?」
「ヒビキ・カグラです。質問したいことがあってきました。」
「ヒビキ?うちの村にはそんな人は住んでいないな。だったら答える謂れはない。」
どうやらこの村長、村の人の質問しか答えるつもりがないらしい。
「その村の人に紹介されてここに来たんですけど。」
「……誰だ?」
(あ、これはいけるかも。)
「名前は知りません。あの大きい屋敷の人です。」
「少し待て。確認してくる。」
響は村長さんの話し方に少しがっかりしていた。なんだか普通だ。それよりはさっきの人のほうが村長さんっぽかった。
「待たせたな。確認が取れた。一つだけなら質問に答えよう。」
「ありがとうございます。では、あの山についてなんですけど、ここから山の反対側に行こうとしたら、山を登らなかったらどれくらいかかりますか?」
「7日だ。場合によってはもっとかかる。」
「え?」
「あの山は横に長い。手っ取り早く超えたければ山を登れ。」
「その場合は何日かかりますか?」
「一つ答えた。これ以上は答える必要はない。」
「そうですよね。すみません。」
(あぁぁ、どうしよっかなぁ。これじゃあ連絡できないじゃん。とりあえず、いったん村に戻ろうかな。そっちのほうがいろいろ教えてくれそうだし。お母さん、お父さん、大丈夫かなぁ。)
ホームシックが今更ながら起こってきた。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
(お腹すいた。)
食事をしよう。その中に入っていたのは、硬いパンと、竹筒に入った飲み物だ。響は、毎日これが主なメニューであるために飽きてきた。だけど、これらの村が昔を模している以上、自分が何かを言う必要はないと考えていた。
「ぎゃああああああ!」
弁当のパンを取られてしまった。
(何の動物だろう?兎……だけど、兎に青色なんていたっけ?いや、今はそんなことはいい。それよりも、持っていかれたパンのほうが重要だ。だけど……昔だったら二食生活なのに、ここは三食生活で安心した。やっぱ、現代の人が昔の生活をまねするのは無茶なんだろうな。今日は……二食生活で過ごすしかないけど大丈夫だったらいいな。)
響は諦めることにした。
その代わり、早く帰ることにした。
「戻りました……。」
「おお、無事だったか。どこまで行けたかの?」
「隣の村まで……。ねえ、あの山ってどれくらいの大きさなんですか?」
「周りの長さが馬で15日じゃ。」
大体さっきの村の村長と言っていることは同じだ。そう考えていいだろう。
「山を越えたらどうなる?」
「あんな大変な山を越えるじゃと?誰もそんなのやりたがらんわ。」
「どんな道があるの?」
「はじめに人が越えられないであろう谷がある。」
「具体的には……?」
「行ったら分かる。あれを超えるのは無理だと理解させられるだろう。」
(そうか……。だけど、今の技術ってとてもすごいんだよね?それでも通れないなんてあるのかなぁ?あの山にそんなところなさそうだけど、ここは村長さんのことを信じて、裾を通っていくようにしようかな。だったら、やっぱしばらく村で過ごすしかないよね。)
「そうなんですね。じゃあ早速服の対価分の仕事、ください。」
「分かった。とりあえず農作業を手伝ってくれんか?今、麦のところが大変なんじゃ。」
「分かりました。」
そう言って連れていかれた先では……よく分からない植物が生えていた。
「ここって、麦を栽培しているんじゃないの?」
響は、当たり前だが、稲みたいなやつを想像していた。だが、そこにあったのは、ひまわりみたいな大きい花だった。
ファンレターありがとうございます。今後も精進してまいります。
宣伝
「乙女ゲームのヒロインは推しの悪役令嬢を幸せにしたい」
更新頻度を高くする予定なのでぜひ見ていってください。たぶんこの小説を抜かしますから。
8.畑
「そう。これ、麦。」
「これが……麦?」
信じられなかった。これまでの常識が覆された気がした。
(私が考えていた、農村の平和な絵は一体なんだったんだろう?本来はこんなものだったのかな?)
カルチャーショックだ。
「正解。」
「どうやってこれから麦を取るの?」
「お前、無知。そして、こうする。」
そう言って見せてくれた。
この人は……かなり無口な人なようだ。
「お前、無口。だけどありがとう。」
同じように一言目を返した。そして響は気づく。この喋り方が確かに楽であることに。
その間にも、その人は、どうやって麦を取るのかを教えてくれた。
「こう。」
ひまわりの種があるところに…大量の麦の原型があった。それを取るのだ。そしてこれを削ったら、きっと小麦粉に、そしてそれを調理したら、パンになるのだろう。
「名前、何?」
話し方を真似……いや、楽にしてその人に尋ねた。
「セルア。」
「セルア、ね。私は、ヒビキ・カグラ。よろしく。」
「うん、よろしく。」
さすがに全てを真似するのは気が引けたのか、「私」の後に「は」を入れることになったが、響はこの喋り方を気に入った。もちろんこの人と喋るときにしかするつもりはないが。
「喋り方、真似る、いい?」
「うん」
どうやら許可をもらえたようだ。
「感謝。」
セルアならこういうだろうな、と思って省略した言葉で思いを伝えた。
「手伝い、いい?」
「了」
(なるほど、そういう略しかたもあるのか。なるほどなぁ。)
響の好奇心は旺盛だった。
「この畑、収穫、よろしく。」
「了」
そう言って、響は自分で笑ってしまった。
セルアも少し笑ってくれた。それが、響にはうれしかった。
それからは、二人とも無言だった。そして、作業は順調に進んでいった。
「半分、了。」
「疲弊」
そう、疲れた。昼食はとっくに食べて、また作業を再開させていた。
「目標、全部。」
「うん。」
今までで半分終わらせられたから、それは簡単だろうと思って、頷いた。進んでいる実感が得られているからか、それからのスピードは上がっていった。
「完。」
「完!」
響もセルアも満足げだった。
「いつも、何日?」
「いつも、三日。今日、早い。ありがとう。」
いつもは三日だそう。二人やるようになっただけで3分の1になっちゃったようだ。驚きである。
「喜。ありがとう。」
響もお礼を告げる。
セルアとの会話は、余計なことを言わなくてよくて、そして最小限の単語で話を伝えられる。また、喋りたいと思える相手、そして喋り方、そして時間だった。
「戻りました。」
セルアはいないので、いつもの話し方に戻すことにする。
「おう、終わったか?」
「はい。楽しかったです。」
「楽しかったのか、それはよかった。」
「セルアさんって面白いですね。」
「そうだろう?彼女は陰で人気なのだよ。若い男子に。」
響は、別にそんなことは知りたくなかった。
「明日の仕事、何?」
まだ完全には口調が戻らない響であった。
「明日の仕事はなぁ、村同士の連絡をやってもらおうかと思っているんじゃ。せっかく馬に乗れるようになったんじゃから。」
「分かりました。どこの村へ?」
「多分、村から見て右のほうの道じゃな。」
「だったらまだ行ったことが無いほうだ。」
「そうか?それならあちらでも一日滞在して何か学んでくるとよい。」
「そうですね。ありがとうございます。」
(流石に山の向こうに行くことはできないよね。)
そのことが響には悲しかった。
「あ、明日は息子にもついて行ってもらうからな。」
「え?」
9.歓迎
「ようこそ、我が村へ。」
村長の寛大な言葉によって迎えられた。
どうやら、この村は響に好意的なようである。
「して、この少女は誰じゃ?」
「…どんな所以で俺の村に来た?」
村長の息子はどうやら響についてあまり聞いていないようである。
「たしか…ライセン殿が、拾ってきたんだ」
いくら知らなくても、見たままの事実はさすがに分かるようだ。
「ライセン殿が?どんな経緯で?」
「たしか…魔物に襲われているところを見つけたんだとか。その時は服装も変なものを着ていたそうだ。」
「服装が変?」
村長はその言葉にひっかかりを覚えたようだ。
「もう少し説明を頼む。」
「そう言われてもな……。」
響は焦った。はじめに洞窟とかをライセンに言っていしまったからだ。他の村長の娘で学びに来ているという設定を壊さないためには……と考えて、思いついた。
「私は、遠くの村の村長の娘です。ヒビキ・カグラといいます。私の村には面白い伝承……洞窟を通れば、離れたところに一日もかからずに移動できる……というものがあって、それを実践してみたらいきなり魔物に襲われてしまって、そこでライセンさんに助けてもらったというわけです。」
(これぞまさに完璧な説明!ムフフ……)
響はかなり満足げである。
「名字持ち……洞窟……変な服装……」
村長はなにやら考え込んでいる。
そして、他の人を呼びに行った。
一体何の必要があるのだろうか?
それはさておき、村長たちは、しばらく話していた。
「あのー。」
さすがに響もしびれを切らし、割れこもうとしたが、結論は出ていたようだ。
「もしやそなたは神子ではないか?」
「「神子?」」
村長の息子と響の声が被った。
「神子とは、我々の村に伝わる伝承じゃな。ある日突然、人があらわれる。そしてその人物は、自分は洞窟を超えてやってきた、と言う。さらにその人たちには名字があり、変な服装を着ている。まさにそなたではないか?」
響はポカンとする。
(何その設定。急に神子?いや、君たちも同じところで生きているはずでしょ。確かにそれは私を指していそうだけど。そんな設定まで作っているなんて……すごい!さすがテレビとかの誘惑に勝っているだけあるなぁ。)
そして、納得した。
「まあそうかもしれませんね。」
「皆の衆、新たな神子が現われたぞぉ!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」
響は、引いた。
……今までの神子は一体何をしてきたのだろうか?ふつうはこんな歓迎があるわけがないというのに。
だけど響は納得していた。
それはそうだろう。この大げさな歓喜の声を、きっと大げさに話を作っているんだろうな……などと思いながら聞いているのだから。
逆にそう思っていなかったら絶対に納得できなかっただろう。
ただ、そこで響は初めて疑問に思ったことがあった。
(あれ?洞窟を越えたら戻ってこられない……ってどういう意味なんだろう?帰ってくるのに時間がかかるという意味なのかな?)
この疑問は、もっと早く持っておくべき疑問だろう。逆に今まで疑問に思わなかったことが不思議である。
「さあ、今日は好きに飲んで、歌って、新たな神子の誕生を……いや発見を祝おうではないか!」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
ちなみに、今は昼である。
ここにいる人たちは皆、仕事を放り出して、宴をしようとしているのである。
「あのー、私、これを見せたら帰る予定なんですけど。」
「「「「「え?」」」」」
「今日中に帰りたいんですけど。」
理解してもらえなかったのか、と思い、もう一度言う。
「ちょっとちょっと、今晩は泊っていきましょうよ。村で一番高級なベッドを使わせますから。」
「おう、うちの娘を世話役に入れようか?」
「いえ、一人でいいですし、帰りますよ?」
ガーン。その音が聞こえてきそうなほどにそれを持ち掛けた男はショックを受けたようである。
「ヒビキさん、ここは一晩残ってもいいですよ。僕は帰りますから。ただ、帰るときは村の人に送ってもらってください。」
「おう、俺が送るさ。」
そう言ってくれる人がいた。
「ではこの書類をどうぞ。僕は帰ります。」
そして、その後の宴は騒がしかった。もう一度言おう、騒がしかった。ただ宴をしたかっただけ、その理由で響が巻き込まれただけじゃないか、と思うほどに。
そして、響は思うのだった。
(裏切られた……?)
と。
10.帰村
「またな、ヒビキ様。」
別れを惜しまれて、帰路につく。
「うむ、またな。」
なぜか、響は尊大な言葉で返すのだった。神子の振る舞いも板についてきたというのだろうか、だが、また村に戻ったら、この振る舞いともおさらばである。
(裏切られたかもしれない、と思ったりもしたけど、みんなやさしい人だったし、何も問題はなかったな。)
「ヒビキ様はどんなことができるのですか?」
そう、村で神子について、聞きまくった。その結果、以下のことが分かった。
・神子は、頭がよく、想像力が豊かであり、我々に恩恵をもたらしてくれる。
まとめると、それだけである。
そして、それは当たり前だと思われることであった。
頭がいい……学校に通っているから。この村ではどうやって知識をつけているのか、響は疑問に思ったりした。
想像力が豊か……先進的な生活を送っているのだから、実際に見たりしているだけ、想像力は豊かであると言えるだろう。そして、響は、なんで今までに複数もの神子があらわれているのに、こんな原始的な生活を送っているのかを、疑問に……思わなかった。当たり前である。そうならない設定を貫いていると響は考えているのだから。
我々に恩恵を与えてくれる……(え?与えていいの?)響はこう思った。もちろん、村のためにもそんな迷惑行為を響が行うはずがない。
「私も想像力が豊かですよ。」
頭に関しては……一部のものにしか響は興味がないため、いいとは言えない。だから現に触れていない。そして、恩恵は与えないので、それに関しても触れない。
いろんなことができると思っていた村人は、さぞかしがっかりしただろう。
「他には……?」
他にも何かあるはずでしょう、とでも言うように響を見てくる。
「私が与えられるのは発想力だけです。」
響は神子らしく大仰に答えてみた。
「では、何か一つ……」
「私はまだ修行中のみですよ。今だって修行の一環でこうやって過ごしているのです。失敗するわけにはいかないので、むやみに与えたくはありません。」
矛盾している。響は昨日、確かに村長の娘だと伝えたはずである。それなのにそれを修行としていいものか。いや、よくない。
……もっとも、響は、村長の娘としてこういう場に出ていることを修行だと思っているかもしれない。
「戻……ただいまもどりました。」
思わず「戻った。」と、尊大に言ってしまいそうになった響。だが、何とかとりつくろえた……のではないだろうか?
「おう、仕事はちゃんとやってくれたと息子から聞いた。」
「あのー。」
「なんじゃ?」
「私、行く必要ありました?」
「あの伝承を知るだけでも意味があったじゃろう。」
「え?」
どうやら、村長はあの村の伝承を知っていて、響をその村に行かせたらしい。
「それは……また仕事を増やしてもらわなくてはなりませんね。」
「いや、別にそこはいいぞ?」
「でも……」
「大丈夫じゃ、この村にあの伝承はない。」
そんなことは気にしていない。まあ響としても、仕事が減って面白いネタを得ることができたのだから、いいことだらけだろう。
「そうですか……」
強引に納得することにした。
「あと、この馬、もらえませんかね?」
「それは無理じゃ。すまんな。」
「やはりですか……」
響もダメもとで聞いただけだ。
「それで、最後の仕事じゃが、」
おや?
「最後?」
「そうじゃよ?」
「いえ、そうならいいんです。」
「そうか?それで最後の仕事じゃが、ちょっと村で問題が起こっていてな、それを解決してくれ。」
響は耳を疑った。
(みんなが解決できないものを、私が解決できるわけないじゃん!!!)
11.問題
「最近のう、植物の育ちが悪くってなぁ。」
村長は急に間延びした口調で話しかけてきた。そして、その内容を聞いて。
(ハメられた?)
響は思った。
村長は、神子の伝承を知っていた。それはすなわち、響がなんらかの知識を持っているだろうと考えることができる、と同義であり、そしてこの発言はそれをお狙ってのものに違いなかった。
「私はそれには答えません。」
響もそう感じたのだろうか?少し、神子とあがめられていた時のような口調に戻ったような気がする。
「なるほど。知っておるのじゃな。」
「いいえ、知りませんよ。私が分かっているのは、私がそれの解決策を思いついたところで、この村のためにならないということだけです。」
それっぽく響は答える。
いまや完全に響はさっきの村での口調に戻っていた。
「なるほどのう。」
「理解していただけましたか?」
「いや、分からん。」
(分からんのかい!?)
響はひとり、ツッコんで脳内で盛大にこけてみた。
「今までの肥料がダメだったんじゃろうか?エコでいいと思っておったんじゃが。」
肥料、その言葉で少しは響も興味を持つ。この質問だったら、答えられるかもしれない。そして、かすかに希望が見えた気がした。
無論、まだ教えるつもりはない。
「人の尿を使っておったんじゃが。」
(それでなんで成長しないわけ!?)
響はまたもやツッコむ。
人の尿というのはとても効果の大きい肥料である。逆にそれで効果が出ないなんて言うのはあり得ないだろう。
(お母さんは、何を使っていたっけ?確か畑を焼いて……そうだ!灰だ!)
そして、響はせっかく考えたこれをどうやって教えるか迷う。ただ一言、答えてあげれば家に帰れるのである。だけど、さっき教えるわけにはいかない、と言ってしまった。その手前、響にはどうしても素直に答えを言うことができなかった。
響にとっては、どうせ答えても生活の維持のため、使わないつもりなんだろうな……などと考えることもできるのがこの状況である。
灰……焼いた後に残ったもの。しかし、これでクイズを作るなどと到底できるわけがない。
そんなとき、響はこの時代は火を石や木でつけていたことを思い出した。
「ええっとですね、石を二つ、または木の棒を二つ、用意したときにできることによってできるものが関係していますよ。」
「石を二つか木の棒を二つ」
村長は、響から手渡された石二つ、木の棒二本を持って戸惑う。
「一応答えたので、これで帰ってもいいですか?」
「まあまて、お主は森で生活できるのか?」
「いえ……」
だけど響は簡単なサバイバルセットは持ってきていた。今はライセンが持っているが。それを使えば大丈夫なんじゃないか、と響は思う。
「魔物がでるんじゃぞ?」
魔物。それを響は怖がっていない。だってここは地球。たしかに初めにあった魔物というものは恐ろしかったが、本当に恐ろしいものなら放置されているわけがない。そんな期待も、あったかもしれない。
「知っています。」
「食事はどうするんじゃ?」
「我慢します。」
だって、親と会うまでの辛抱だから、そう思う響。
「この近くの村を教えてくれませんか?」
(そうだ、最悪他の村にお邪魔してまた出かければいい。)
「村……あんまり交流はしてなくてなぁ。分からんのじゃ。」
「そうですか……」
その時、響は閃いた。そして、それを実行することにした。
「とりあえず!村にておこぼれをもらえば食事はたぶんできます。心配しなくていいですよ。」
「まあ、それなら。」
どうやら、村長の許可をもらえたみたいだ。
「では、知識は与えましたし……│明《・》│日《・》│か《・》│ら《・》出かけようと思います。」
「うむ、今夜まで泊るんじゃな。」
「はい!」
何を喜ばしげに言っているのか。普通はもうお世話になるべきではなく、さっさと村から離れるべきであろう。そして、村長も村長だ何を当たり前尿に言っているのか……これが、ここの当たり前だったらと思うと、戦慄が走る。
12.再び神子光臨
「はぁ。はぁ、ぜぇ、ぜぇ。……着いた!」
響が再び神子として崇められた村に着いたのは、夕方であった。優しい村長は、響に弁当を持たしてくれ、響としては感謝しかない。そして、今回は奪われるようなことはなかったし、魔物で出会うようなこともなかった。
どうやら響は運がいいようだ。それとも始めに魔物に会うことで、悪運は使い切ったのか。何はともあれ、響にとっては非常にいい展開が続いていた。
「みなさーん。」
「神子様!?」
「おーい、ヒビキ様がやってきたぞー!」
「何!?」
「本当だ!ヒビキ様だ。」
ドタドタドタドタ。
「ようこそ、ヒビキ様、して、本日は何の用で?」
「しばらく他の村を転々と移動することにしました。この村にもその途中としてやってきました。」
「そうですか、修行、というわけですね。」
「そうです。」
流石は響。時と場合をちゃんと考えている。いつの間にか、神子の態度で皆に接していた。
「あ、そう。今晩泊りたいんだが、お邪魔してもいいですか?」
「いいですとも!」
「あと、隣の村がどれくらい先にあるのかも知りたい。」
「分かりました、お教えしましょう。」
「馬も一頭欲しいのですが……」
「いいですとも。」
「何か仕事を手伝うから……え?いいのですか?」
「いいですとも、それよりもヒビキ様は本当にうちの村に泊っていただけるのですか?」
「もちろんですよ。」
響は、こんな簡単にうまくいくとは思っていなかった。たしかに、思いつきとしてこの村だったら簡単に馬をくれそうだな、とは思ったものの、やはり馬一頭はかなりの価値をここの昔を真似している集落では必要だから、心配になって、つい、仕事で代用しよう、というのが口をついてしまった。
だが、この村は響の予想を超え、当たり前のようにくれた。
「よーし、皆、ヒビキ様が乗るのにふさわしい馬を用意しろ!」
「「「「はい!」」」」
響、唖然。
そして、次の日の朝、一頭の馬が響の前に連れてこられた。
ちょこん、とその馬は立っている。
「どうですか?ヒビキ様。つい7日ほど前に生まれた、ヒビキ様が乗るのに一番適した馬ですよ。なんて言ったってこの馬の両親は二匹とも足が速い、さらにこの毛並みを見てください!素晴らしいでしょう!それに、この子は生まれたばかりだからまだ名前を付けていないんです!けがれてもいませんし、まさにヒビキ様が乗るのに適している!!この馬だったら、ヒビキ様も誰の手も借りずに乗ることができるでしょう??」
そうでしょ?そうでしょ?とばかりにその馬の子供を自慢してくる村長、そして周りでうんうん頷いている村人。そして、いまもちょこんと立っている馬。
(え?ちょっと待って、子供の馬?いずれ速くなるって?いや、私が速さを欲しいのは今なんだよ――!!しかも、馬の育て方なんて知っているわけないじゃん!さらにさらに、名前も付けてほしい?だと?いい加減にしろや!)
響の心の中はかなり荒れているもよう。だが、表面にはそれを全く出さない響。
「では、あなたにはカグラという私の名字をつけてあげましょう。」
その瞬間、村人がどよめいた。
「なんと……神子様の名字をいただけるなど……両親も鼻が高いでしょうなぁ。」
馬に、そんなことが分かるはずがない。
「なんと素晴らしき名前……俺もいただきたい……!」
これには少し響も引いた。
「ありがとうございました。大切に育てます、また、いつか連れてきますね。」
「ぜひ!」
「何から何までありがとうございました!」
そう言って村を出ていく響の手には、お弁当があった。
(……あ、隣の村の情報聞くの忘れてた……)
13.遭遇
そして、響は歩き、いや、カグラは歩き始めた。
隣の村の情報を聞き忘れたとはいえ、今の響にはカグラという足がある。
大丈夫でしょ、と安心していた。
……背中に怖気を感じるまでは。
それを感じたのは、昼過ぎのこと、お弁当を食べ終わったころだった。
(何?)
慌ててあたりを見回したところ、それはいた。見た目は……そう、オオカミのような感じだ。
逃げるべきだと判断し、響はカグラを走らせる。
(なんでこいつはそんなに体力があるの!?)
響は走らせながらそのオオカミに悪態をついた。もちろん、カグラも十分な体力は持っている……というか、カグラは響が走れ、としなくても逃げただろう。カグラはそんなに響に愛情を抱いているわけではないし、それ以上にオオカミが怖かったのだ。響は、落ちないように、頑張った。
オオカミのスピードが上がった。
(噓でしょ!?)
響は悲鳴を上げる、しかし、オオカミはなぜか響たちを、追い抜いた。
カグラは響が合図を出す前に、減速した。すると、オオカミも減速した。
そして、疲れたカグラは、立ち止まった。オオカミも、立ち止まった。
響は、カグラから降りようと思ったのだが、オオカミが怖くて降りられなかった。
オオカミは、響たちの隣にやってきた。それは、響に、背中に乗っていいよ、と言っているようで……響は、カグラからオオカミに乗り移った。
すると、オオカミはゆっくり走りだした。
(え?)
カグラは、一応ついてきてくれている。
(これってもしかして、オオカミの巣に持っていかれるの!?逃げなきゃ!?)
響は、オオカミから飛び降りた。
ひどく危険な行為である。背中だったらオオカミが食べるということはないというのに、自分から降りて、食べに来てもいいよ、と言っているかのように、動かないのだ。
オオカミは、近づいた。カグラは、離れてオオカミと響を見守っている。
(え?何々?)
オオカミは、響をなめた。
(はぁ!?)
もちろん、響がオオカミから飛び降りたときについた傷を、である。
いつしか、響のオオカミに対する怯えは消えていた。
オオカミ……実際は別の名前の種であるが、ここではオオカミと呼ぼう……は、退屈していた。家族の中でも自分が一番早いからである。一週間前に生まれたばかりであるのにかかわらず。何時も見かける獲物の足が速くないことは、数回追いかけたら分かった。そんな時、初めて見る獲物がいた。
オオカミは、「追いかけっこしようよ。」と、近づいていく。
そして、その獲物が逃げ出した。かけっこ、スタートである。
オオカミは、感心した。追いつけなかったからである。それがいつまで続いただろうか?その生き物の、スピードが落ちた。
オオカミは、「今だ!」とばかりに追い抜く。すると、他の動物と同様に、スピードを落とした。そして、本来ならここで負けた代償として食べてやるつもりだったが、オオカミは、そうしないことに決めた。この動物と仲良くなって、もっと追いかけっこをしてからでも食べるのは遅くない、と思ったからである。
オオカミは、あまりにも無知だった。
世の中を見れば、カグラより速い馬などたくさんいる。そして、オオカミより速い魔物もたくさんいる。
……オオカミは、判断を間違えた、かもしれない。それは今後の響の活躍によって変わる。
響は、オオカミを見て、一緒に連れていきたいな、と考えている。しかし、見た目はオオカミだ。お母さんたちが許すはずがない。
(そうだ!)
響は思いついた。このオオカミを犬だということにしよう、と。
日は沈みかけている。響たちと一匹のオオカ……犬は、村を探しに行くことにした。
「あのー今夜、泊めてもらってもいいですか?対価は、農業の知識です。」
「知識をくれる?お前さんはもしや神子かい?」
(ここでもかい!?)
響はずっこけた。
「あと、この馬と犬もお願いします。」
「……犬?かい、これが?そしてお前さんは神子なのかい?どっちなのさ。」
響は、なんて答えるべきか、迷った。
14.ある老婆
と言っても、数秒だ。
「ええ、神子ですよ。修行中ですが。修行の一環として、ひとつだけ知識を授けて回っているのです。」
そして、響はまた演技を始めた。
そして、ここにきて響は遠慮というものをやめた。今までは、知識を与えることは大変にさせるだけだと考えていたのだが、皆が表面上でも欲しいと言ってくれるのだ。使えるものは何でも使う、の精神で、そういうことも使い始めることにした。
もちろん、クイズ形式にはするが。
「そうなのかい!?こりゃあ驚いた。あたしゃ生きているうちに一度は神子に会ってみたいと常々思っていたのさ。これでいつ天に召されても悔いはないよ。」
(大げさな設定だなぁ。)
「もう夜も遅い、あたしンちで良ければ貸してやるよ。」
「ありがとうございます!」
響はありがたーくそのお誘いに乗っかった。
「ところで、この馬と犬も大丈夫ですか?」
「……いいさ。」
老婆は少し逡巡したものの、認めることにした。
その腹の中は……
(神子様をあたしンちが泊めれば、これはあの世でも自慢できるぞ!)
などという、しょうもないことであった。
ただ、そのしょうもないことのために魔物を庭に招き入れたのだから、油断できない。
朝になった。
ドンドンドンドン!
扉がたたかれる音で、響は目が覚めた。
「おい、婆さん、なんでお前のうちにターネリアがいるんだよ!?」
(ターネリア?)
響は疑問に思う。
「おはようございます。お婆さん。」
「おはようございます、神子様。ちょいと待ってくだされ。もうすぐ朝ご飯を作り終えますから。」
「ありがとうございます。」
響はもちろん、ありがたくいただくことにした。
「婆さん、この嬢ちゃんは誰なんだよ。神子様とか言っていたようだが。」
「そのままさ。この方は神子様だよ。」
「だから神子ってなんだ?」
(え?)
この中で一番驚いたのは響ではなかろうか。
響は、この村の人はみんな神子という存在を崇めているのだと思っていたからだ。それなのに、神子様を知らない人がいる。
「天に愛されしお方さ。今回も農業に関する知識を一つ授けてくだそるそうさ。」
「だから神子って……婆さん、たしか他村出身だったな。」
「そうさ。その村での伝承だよ。神子という存在は、頭がよく、想像力が豊かであり、我々に恩恵をもたらしてくれるのさ。今までにも何人も来たことがあるのさ。だけどあたしゃ見たことが無くてねぇ、心残りだったのさ。」
「そうか、それでなんでターネリアがいるんだ?」
「神子様が連れてきたんだよ。ああそうだ、彼らにも餌をやらなくてはいけないねぇ。ちょいとおまち、今とってくるよ。」
「ありがとうございます。」
「なあ……名前はなんて言うんだ?」
「ヒビキ・カグラです。」
「ヒビキ……様?はなんでターネリアなんか連れているんだ?」
「ターネリアというのは何でしょうか?」
さっきからずっと気になっていたのである。
「ターネリアは、あの魔物だよ。ヒビキ様?が連れてきた馬じゃないほうのやつ。」
「そうなのですね。なぜ連れているか……分かりませんね。強いて言うなら私が神子だからでしょうか?」
響は面倒くさいことを神子の所為にすることを決めた。
「なんだよその理由。」
「何だと言われましても……その通りですよ。……あ、で。私はこの村に一つ知識を授けることにしたんですが、今、困っているようなことはありませんか?」
「困っていること、なぁ。特にねえな。」
「では、今育てている作物と、それの育て方を説明してもらっても?」
「ああ、いいさ。」
そして聞いたところによれば……この村も、灰を使っていないということが分かった。そうと決まれば同じことを言うだけである。
「石二つ、または木の棒二本で作ることができるものでできるものを肥料とすると、育ちがよくなりますよ。」
「なんだ?それは?」
「考えてください。」
この村のことは、良く分からなかったが、響は弁当と犬とオオカミの食料、そして、犬がターネリアという名前の魔物であるというどうでもいい情報をもらって、村を出た。
(このターネリアにも名前を付けてあげないとな……)
15.最後の旅?
(ターネリアの名前かぁ)
響は迷っていた。
(馬のほうがカグラだからな。)
響はずっと考えていた。そして、その間もカグラとターネリア……いや、犬は響をカグラに乗せたまま進んでいく。響は何の指示も与えていないのに、山の周りをぐるりと回っている。この犬たちは響の考えが読めるのであろうか?
そして、響は思いついた。
(せっかく親には犬だというなら犬らしい名前はどう?)
と。
「あなたの名前はポチ。」
かなり極端な名であった……。
「ゥオン!」
響は……これがカードの「ワオン!」の音に聞こえてしまった。
(何?今ワオンって言った?鳴き声も犬じゃん!!)
笑ってしまった。
オオカミ……いや、ターネリア……いや、ポチは、なぜ笑われたのかが分からなかった。ただ、響が笑ったのを見て、遊んでくれそう、と思った。
「わふわふ(ついて来いよ!)」
そう言ってポチは先導し始めた。どこへ向かおうとしているのかは、分からない。そして、カグラがそれについていくと、ポチはスピードを出し始めるのだった。
「ゥオン!(遊ぼ!)」
そう言ってポチはほぼ全力で走り出した。カグラも慌ててついていく。響は……またもや落ちないことに必死であった。
「わふわふ(満足!」
しばらくして、ポチはスピードを落とした。響もそれに倣う。いつしか、昼は過ぎていた。響たちは、水場を探す。
しばらくすると、見つけることができた。
そこで、少し遅い昼食を食べた。カグラとポチにもあげた。
そして、しばらく休憩した。
「いこうか。」
そして、小一時間ほど休憩した後、また進みだした。今度はそこまで急がなかった。
そして、それが6日続いた。
(もう裏側は超えているよね?)
そう思う。だけど、自分の住んでいた家は、見つからなかった。
響は、引き続き進むしかなかったのだ。
響たちは知らない。
ポチと駆けっこしている間に、2日分の距離を進んでいることに。
そして、この日も夕方に村を見つけた。
(どんなに大きい集団で、この真似事をやっているのかな?)
響には、こんな大規模にそれをしようなんて考えることが信じられなかった。
楽しませてもらってはいるけど。
(あれ?この村に見覚えあるくない?)
響は既視感を感じた。
そして、村の中を歩いていくと……そう、たった10日ほど前に見た村長宅ではない大きい家と見た目が全く一緒だった。
(もしかしてこの家も村長宅ではないの?)
―—コンコン
「誰だ?……ってお前、この前のガキじゃねえか。」
「え?この前の偉そうなおじさん?」
「おい!その言い方は何だよ!」
「いやだって偉そうじゃん。」
「あ?」
「そういうところ。」
「あ?まあそれは置いておくとして、一体何の用だ?」
「いや、私も混乱していて……たぶんこの山を一周したってことかな?8日で、となるけど……。じゃあ村長さんのくれた情報が間違っていたのか。だけど……。」
(私が住んでいた家は、無かった。)
「一体何が言いたいんだ?」
一人でぶつぶつ言っている響を待ちかねたのか、偉そうな人は口を挟んできた。
響は、核心を聞いてみることにした?
「ここってどこまでの範囲がこの昔の生活のまねごとをしているの?」
「あ?何言ってんだお前は。我らにそんな真似事をする余裕があるわけねえだろう。」
「え?」
「そもそもお前は何を言っているんだ?」
(なんで分からないの?もしかして、ここは、昔のまねごとをしているわけじゃないの?)
そして、響は答えを出した。
(そうか!何故か分からないけど私は昔の世界に来ていたんだ!)
そして、それだったら洞窟の先に言ったら帰ってこれないわけだ、と思い、
(え?帰る方法無いの?)
と、茫然するのであった。
16.エピローグ
「……おい!聞こえてんのか、ガキ!」
「え、あ、はい。聞こえています。」
「で、自分なりにまとまったか。」
「はい!」
(すごい、この人、私が今混乱しているということを正しく見抜いている。)
響はこの人に対する評価を改めた。
「あのーお願い、いいですか?」
「あ?それは村長にしろ!」
どうやらそこは前来た時と変わらず譲れないらしい。
「はあい。」
響は仕方なく村長宅に向かった。
「あのー」
「誰だ?ってこの前の嬢ちゃんか。どうした?」
どうやら村長のほうも響のことを覚えていてくれたようだ。
「質問があって来ました。」
「……一問だけな。」
「ありがとうございます!では早速ですが、地図を見せていただけませんか?」
「チズ?なんだそれは?」
(え?古い所は地図がまだないのかな?じゃあ……)
「いえ、気にしないでください。では、近くの大きい都を教えてくれませんか?」
「馬で14日かかるぞ。」
「構いません。」
どうやら響の一日の進み具合は早いほうであるとこの前の山の一周で学んだ。今回も8日くらいで着くだろう。響はそう軽く見ていた。
「だったら、セントラルという大きい都がある。ひとまずはあっちの方向に行くといい。村にであったらセントラルはどこか、と聞けば教えてくれるだろう。」
「セントラルという都ですね。ありがとうございました。」
そして、響は気づいた。
(どこに泊めてもらおう……)
結局、村の中で野宿した。カグラとポチのおかげで、不自由なく寝ることができた。
そして、その日の朝から、また響の旅は始まった。