里美たちにいじめられている亜美が、隠れたトイレの個室で出会ったのは、謎の少女・レイ。レイは里美たちを成敗すべく、かくれんぼで勝負する。
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目次
かくれんぼ1
「もういいかーい」
という声とともに、くすくすと笑い声が聞こえる。
わたし___|亜美《あみ》は、いじめられていた。|里美《さとみ》と、|弘子《ひろこ》と、|穂《みのり》と、|乙葉《おとは》に。
かくれんぼという名のいじめをうけている。鬼はわたし以外の4人だ。
そして、わたしはトイレに隠れた。昼休み、30分だけの辛抱だ。トイレの個室なら、鍵も開けられない。床がつるつるしているから、肩車して、上から行くのも不可能だ。
「まぁだだよ」といっても、彼女らは来るだろう。昨日は、図工室に隠れた。でも、見つかってしまったのだ。
きょうこそは。トイレの個室なら___
---
「___て。ねえ、起きて」
「きゃああっ!?」
「しっ。追われているのよね?」
目の前には、4人___ではなく、知らない子がいた。清楚なタイプの子だけど、いったいどうやって、ここに来たのだろう。
「いま___」
「昼休みは、あと25分」
30分中の、25分。つまり、あと6分の5も残ってるのだ。
意識がまた遠くなりそうだった。
「何やってるの?」
「__かくれんぼ…」
ガタガタと震える、微かな声。その子はわたしが見たことないくらい、真剣な顔をしていた。
「…これだから、最近のやつは…。貴方、名前は?わたしはレイ」
「…亜美」
「亜美、ね。わかった。追ってるのは?」
「里美と、弘子と、穂と、乙葉」
「わかったわ。遊びと騙っていじめるやつらには、本当の遊びを見せつけてやらなきゃだから。個室、出ててもいいわよ。食い止めるから」
その瞬間、カチッという音がした。
「時を止めたわ」
「えっ、そしたら、空気も止まって__」
「空気以外、つまり、生きる上で欠かせないものを止めた。地球の自転は、とてつもなくゆっくりになっているわ。狂ってしまうから、なるべく手短に終わらせる」
かっこいい女性、とはこの人のことなんだ__
---
わたし___レイは、亜美という少女に出会った。いつも通り、遊ぶ相手を探していたら、とてつもなく邪悪なものがいた。
しばらくすると、亜美はいじめられていると告白した。わたしはいじめているやつの名前を聞き出し、時を止めた。そして、体育館が誰もいないことを確認し、わたしは里美らを体育館へ連れ出した。
カチッ____
時間が進んだ。
かくれんぼ2
「キャッ?!ここ、どこっ」
「ああ、良かったわ。幸い、狂いも最小限ね。これなら、あとでなんとかなるわ」
慌てふためく4人を見て、わたしはため息を付く。
「あんた、誰よっ」
「ああ、わたし?レイよ。貴方が亜美をいじめていると知って」
「いじめてなんてないわよっ、遊んでるだけ」
「はいはい、『遊び』の名を汚すものは___」
--- 「**`本当の遊びで消えてしまいなさい`**」 ---
大丈夫だ。いまなら、きっといけるはず。
「さっそくだけど、かくれんぼしましょう。この学校中、どこでも隠れていいわ。タイムリミットは昼休みが終わるまで。移動はナシ。もしわたしが、昼休みまでに貴方たち4人が、1人でも見つからなかったら、わたしの負け。全員見つけることができたら、わたしの勝ち」
「へぇ」
リーダー格であろう子が言った。
「あたしは里美」
「弘子だよ」
「穂です」
「乙葉よ」
「ふふ、じゃあ、隠れるタイムリミットは2分。その間、わたしは体育館でしゃがみ込んでいるわ。移動はナシだから」
「ったく、分かってるっつーの」
かくれんぼ___
それは、わたしが、死んだ遊び。
---
2分たち、さっそくわたしは取り掛かった。
この学校の地図は、頭に入れてある。時を止めた時、拝見した。おそらくだが、彼女らは姑息なことをしている。体育館倉庫とか、生ぬるいことはしないだろう。
校則違反になるため、他の教室へは入らない。クラス名簿を見た時、彼女らは全員6年2組ということも確認済みだ。そして、鍵がかかっている、音楽室・理科室・図工室などは隠れられない。
___学校中といっても、行動範囲はそんなに広くない。
彼女らは浅はかだから、『学校中』というワードを『とても広い』と思い込んだだろう。そして、有利だと思っただろう。でも、実際はむしろ狭い。校庭、図書室、教室、廊下、体育館ぐらいを探せば、すぐにあぶり出すことができる。
わたしは瞬時に体育館倉庫を探した。ホコリを被っている道具の中で、少しだけ、ホコリがないものがある。跳び箱の下。
ミスリードではないだろう。あんなことで、容易に思い込み、決めつけるやつだ。
「見ぃつけた」
「ひぃ!?」
出てきたのは、細身で華奢な穂だった。
穂は体育館のど真ん中に座らせた。
___次は、何処へ行こう。
かくれんぼ 3
里美、弘子、乙葉が、まだだ。
体育館は、もう念入りに探した。もういなさそうだ。
次の当ては___教室だろうか?
---
6年2組の教室。わたしは、あまり人に見える体質じゃないので、安心して潜り込むことができる。
教室といっても、隠れられる場所は殆どない。教卓の中に潜り込むとか、それぐらいしかできない。念の為、いろいろ探してみたが、いなかった。
あとは、トイレ。亜美が隠れていた場所だ。そういうことで、全てのトイレ(教師用を除く)を探してみたが、いない。
廊下だって、隠れられない。ということは、図書室だろう。
---
わたしは図書室に来た。こじんまりして、嫌に静かすぎず、落ち着ける空間。そういうのは、貴重なものだ。
今日の図書委員当番の掲示を見る。木曜日は『|大田悠羽《おおたゆうは》』、『|桜井友奈《さくらいともな》』、そして『|石塚乙葉《いしづかおとは》』。
カウンターに座っている5年生ふたりに、声を掛ける。勿論、見える体質に変えてから。
「すみません」
「あ、はいっ。借りますか?」
「いえ。探してて、人を」
「人…?」
「石塚乙葉」
「いしづ…か…おとは…。あっ、あの6年生!?」
「そうなの」
はあ、とため息をつく友奈。
「あの人、いっつもサボってるんです。見てないですけど」
「うーん…里美、弘子は?」
「さとみ?ひろこ?」
「あっ、ひろこって。あいつじゃない?」
あいつ、と言っている当たり、たぶん嫌なやつなのだろう。
「金髪に染めてて、マンガを借りてった人。遅いなあ、もたもたすんなよ、って先週。まだ返してないんですよ」
「金髪」
確かに、彼女は金髪だった。
「今日、来てたはずです。なにか急いでるみたいで」
「へえ…因みに、どこに?」
「第二に行きました」
隣にある第二図書室に行ったのか。確かに、あっちは棚が並んでいて、わかりにくい。
パタパタと第二図書室へ行く。だが、どれだけ探しても、弘子はいなかった。
「へえ…準備室、ねえ」
息を呑む音が聞こえた。第一図書室と、第二図書室の間の通路。ここには、季節のおすすめ本とともに、準備室がある。
図書委員なら、入っても違和感はない___それに、第二図書室へ行ったと思わせることもできる。ゆっくりと、ドアノブに手をかけ、ドアノブを下げる。
そこにいたのは、金髪が非常に目立つ弘子。
「見ぃつけた」
「いやあっ!?」
かくれんぼ 4
その後、
「もういいや。乙葉、運動場の自然園にいる。もう、レイに賭けてやる」
と弘子が白状した。
速攻で、岩や草が生い茂る自然園に向かうと、乙葉がいた。
「見ぃつけた」
「レイっ!!?」
あのびっくりした顔、逆にわたしが驚いた。
タイムリミットは、あと10分。
廊下、教室、体育館、図書室、トイレ。全部探した。なのに、なんでいないのだろうか?空き教室だって、ないことは確認済みだ。職員室にこっそり忍び込み、鍵がかりられてないかも確認した。いけるところなら、どこへだっていった。1階、2階、3階。立ち入り禁止の屋上も行った。広い校庭だって、もう散々確認した。
なんでいない?自殺?いや、そんなわけない…。
---
亜美の様子を確認しに、わたしはトイレに向かった。
「亜美」
「わあ!…ッレイ」
「いま、里美以外、全員見つけたわ」
「本当!良かった」
「でも、どこを探しても、見つけられないの。校庭、教室、体育館、図書室、トイレ、屋上、廊下を探したわ。あと、隠れることができそうな場所は?」
「いや、ないと思う」
そうよね…と、わたしは相槌を打つ。
「でも、あの姑息な里美のことだから。ルール、絶対破ってるよ」
「破ってる…ルール…。なるほど、その手はなかったわ。ありがとう」
平気でいじめをするやつが、ルールを守るのは考えづらい。
これは____それなりのことをしなくちゃね。
---
わたしはすぐに、トイレに向かった。トイレなら、人目につきにくいし、何より隠れやすいのだ。
試しに、入口のところで声をあげてみせた。
「ここには…いないのね」
すぐに、ガタガタっとドアがゆれた。ひとつの個室だけ、ゆれている。そのドアの下から、足がのぞいている。
「ふふ」
わたしは、ひゅっと上へ上がった。そして、里美を見下ろして、言った。
--- **「`見ぃつけた`」** ---
「きゃあああああああ!!!」
青白くなる、里美の顔。
「言ったよね、ルール。移動しちゃいけない。ここはずいぶん確認した。ほんと、変わってないね。似てるね。ほんと、なにもかも。あなたの母親___《《|加藤佐奈《かとうさな》》》に」
「どうしてっ…」
加藤佐奈。|高橋真那《たかはしまな》。|石塚和子《いしづかかずこ》。|竹島優花《たけしまゆうか》。
それぞれ、加藤里美、高橋弘子、石塚乙葉、竹島穂の母親だ。
そして___
わたしを殺したやつ。
かくれんぼ 5
時は20年ほど前に遡る__
当時小6だったわたし・|遊佐零花《あそされいか》は、いじめられていた。
佐奈、真那、和子、優花に。
その時、わたしは「かくれんぼしよう」と言われた。わたしだけが逃げで、ほかが鬼。
わたしはトイレの個室に隠れた。怖くて、怖くて、殴られないか不安だった。電気を消しているから、暗くて、何がどこにいるかわからない。
まるで、亜美と里美たちみたいだった。
亜美は、わたしが来たから助かった。だけど、わたしのもとに、『レイ』は来なかった。もともと、遊びは好きだった。なのに、|遊び《いじめ》を受けていたから、余計に嫌いになった。
「見ーっけた」
リーダー格の里美が来た。
その瞬間、個室のドアがガチャガチャとなにかされた。「出てこいよーっ」という和子や真那、優花の声がした。
その瞬間、光が漏れた。個室のドアが開いた。そこには、意地悪そうな笑みを浮かべる、佐奈たちがいた。
「零花、見ーっけた」
「ああっ!?」
きゃはははは、と、みんなは高らかに笑った。そして、優花がわたしを個室から出した。
「えいっ」
「よいしょ〜っと」
怖くなって、目をつむった。そして、ドンッという衝撃が、下半身にあった。
トイレの奥にある、換気用の窓。小学生がすんなりと入れる大きさの窓。
その窓から、わたしは突き落とされた。
「きゃあああああああ!!!」
本当に、意識を失いかけた。
__「きゃはははは!」__
微かに、4人の声が聞こえた。
ああ、1階に隠れればよかったな…
次こそは、本当に遊びを嗜みたいな…
---
ピーポーピーポーと、煩いほどに救急車の音が鳴る。それは、|遊ヶ丘小学校《あそがおかしょうがっこう》へと向かう。ローカルニュースのアナウンサーが、いつもより真面目な顔をして、ニュースを読み上げた。
「遊ヶ丘小学校の小学6年生・遊佐零花さん12歳が、トイレにある換気用の窓から飛び降りて亡くなりました。警察らは自殺の可能性とみているそうです」
このニュースは、やがて全国の新聞にも載ることになった。
同級生に聞き込みを行ったが、4人を除くすべての人が「知らない」とそっけなく答えた。
ただ、4人だけは、少しばかり青ざめて「知りません」と話していたという。警察は「仲が良かったんだな」と思い込み、4人を疑うことはなかった。
かくれんぼ 6
「そんな…」
「わかる?わたしは、貴方の母親に殺された幽霊。神に認められて、『遊び』を使えるようになった。はじめの1年は、貴方たちに執着して、復讐するために少しずつ近づいていた。でも、最近は純粋に遊びを楽しんで、ルールを守らないやつにはお仕置きをする。そんな感じのことをしていたわ。いつの間に
か、ぶろぐ?なんかで有名人になったりもした。
__今のわたしなら、貴方たちを殺すことだってできる。遊びを馬鹿にするやつは、わたしが絶対に許さない!」
悲鳴をげて、里美は逃げた。
「逃げるな!」
カチッ、と時を止める。タイムリミットだって、いくら時を遅めているからといって、のこのこしてられないのだ。
彼女は仲間のいる体育館へ向かっているようだった。
「遊符『あやとりの罠』!」
指先から、紅い糸があらわれる。その糸は里美を捕まえるために、どんどんのびていく。
「何よっ、これっ!?」
「遊符『花見の吹雪』!」
桜の花吹雪が、里美を通せんぼする。その隙に、糸が里美を縛る。
「助けてっ…!」
それでも、彼女は必死に体育館へ向かう。糸を引きちぎり、彼女は走った。
---
体育館には、乙葉、弘子、穂がいた。彼女らは、必死の形相で走ってくる里美とわたしを見て、悲鳴をあげた。
「きゃあああああああ!!!」
「遊符『かごめかごめの生贄』」
「ひぃ…!?」
すると、歌が聞こえてきた。
♪かごめかごめ かごの中の鳥は いついつ出やる
夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ♪
「かごめかごめ…!?」
すると、彼女らのまわりを、少女がぐるりと囲み、かごめかごめをした。後ろの正面だあれ、のところで、足のない、透明で透き通った少女が後ろに来る。
「きゃあああああ!!」
「逃さない。遊符『人さらいの花いちもんめ』」
また、歌が聞こえてきた。別の歌。
勝って嬉しい花いちもんめ 負けて悔しい花いちもんめ
あの子が欲しい あの子じゃわからん
相談しましょ そうしましょ
強制的に手を握らされた彼女らは、悲鳴をあげた。この世のものとは思えない。
「負けた」
彼女らのチームは、負けた。きゃはははは、という笑い声とともに、少女らは消えた。
「遊符『魂の羽付き』」
コーンコーン、と乾いた木の音。羽付きだ。
羽根は『魂』とかかれた、白いボール。それを、謎の2人の少女が遊んでいる。
「あっ、落ちちゃった」
「きゃああっ!?」
にやり、と微笑む少女は、また消えた。
「遊符『禁忌の人形』」
「なにこれっ!?」
ぐるりぐるり、と人形が、彼女らを囲む。けらけらけら、と笑い声をあげながら。
「遊符『ハンカチ落としと鬼の証』」
「はい、貴方たちが鬼」
突然あらわれた少女が、ハンカチを落としていった。にょきにょき、と彼女らの額からツノが生える。
「遊符『帰ってこれない通りゃんせ』」
また、歌が流れてきた。
とおりゃんせ とおりゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
ちっととおしてくだしゃんせ ご用のあるものとおしゃせぬ
この子の七つの祝いに お札をおさめにまいります
行きは良いよい 帰りは恐い 恐いながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ
「いやあああーーっ!?」
それから、彼女らは、わたしの目の前に二度と出てくることはなかった。
---
20年ぶりに、遊ヶ丘付近で全国ニュースになった。
加藤家、高橋家、石塚家、竹島家の母親と小6の女子が、突然行方不明になったという。奇妙なことに、その母親らは、20年前の事件で動揺していた4人だったという。