須藤ほのか(すどうほのか)は、イケメンでモテモテな皇大河(すめらぎたいが)と幼馴染なせいで、クラスの女子からいじめられてしまう。いじめられて、幼馴染が苦しんでいるのを見た大河がとった、行動とは—————。
【今日も明日も、君の隣で】
一つのお話にすると長いので、シリーズにさせていただきました!
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
今日も明日も、君の隣で #1
「ほーの、はやくきなよ!!」
「たいが、はやいよ!!待ってー」
煌めく白の光。あたり一面の緑色。
「あっ、たいが!よつばのクローバーだよ!」
「へぇっ、どこどこ?」
「これっ!」
最後一枚の葉はとても小さく、四葉と言えるのかはあやしかったけど、それでも幼い2人には十分すぎるくらいのニュースだった。
「わっ、ほのすごい!」
「でしょ!よつばのクローバーにはね、」
————もらったひとをげんきに、しあわせにするちからがあるんだよ!!
「だから、これはたいがにあげるね!!」
「えっ、ありがとう!ほの大好き!!」
「へへっ」
————ジリジリジリッ
「うんっ……」
けたたましく鳴る目覚まし時計の音に、どんどん頭が覚醒していく。
「もう朝か……」
随分と昔の夢を見てしまった。
あの頃の私たちはもういないのに。
完全に目が覚めた私は、ベットから起き上がり、制服を手に取った。
「学校……行かなきゃ……」
細く絞り出した声は、ひどく掠れ、弱々しい響きとともに地面に消えてった。
「行ってきまーす!」
朝御飯をもそもそと食べ終え、いつものように憂鬱な気持ちで家のドアを開ける。もちろん、それを感じさせない声で挨拶しながら。
私が家の外に出た瞬間に、ちょうど隣の家のドアもガチャっと開いた。
「ほの、はよ。」
「…っ!…おはようっ…!」
…っ、最悪だ。よりによって朝から大河に会うなんて。
「……」
な、何!?
「…っ、じ、じゃあねっ!」
さっきからじっと見てくる大河の視線に耐えられなくて、私はさっ、と目を逸らした。
ダッシュで逃げようとした私の腕をパシッ、と掴んで、
「何逃げてんの。せっかく会ったんだから、一緒に行こう。」
いつもの眠たげな、でも少し訝しげな表情で口を開いたそいつ。
皇大河(すめらぎたいが)。
切れ長な瞳、漆黒でサラサラな髪、私とは30センチくらい違うんじゃないかってぐらいの高い身長の、女子にモテそうな、いわゆるイケメンなこの男子は、実は私の幼馴染だ。
「きゃー、皇くんじゃん!!」
「朝から会えるなんて冥福ー!!!!」
そして案の定、女子にモテる。
大河から誘ってきたくせに、特に話すこともなく、気まずい思いで学校へと歩く。
「ってかさ、隣にいるちっちゃい女子、誰?」
「なんか幼馴染らしいよ。ずるくない?」
「あの子、全然釣り合ってないよね。隣歩いてて恥ずかしくないのかなww」
そして案の定、陰口が聞こえる。
—————恥ずかしいに決まってるでしょ!!
そう言いたくなったけど、今の私の状況を考えれば、悪意を振りかざしてる人に意見するなんて、自分から火に飛び込むようなものだ。「仕方ないこと」。誰だってそう言う。
そのまま2人で昇降口に入った。
大河とは靴箱の場所が違うため、離れられたことに少しホッとした。
靴箱を開け、いつもの光景に苦笑いすら漏れてくる私。いろんなものが入れられてる中、私は器用に上履きだけを取り出した。
その時だった。
「ほの、どうしたの。行くよ。」
—————ガタンッ
背後で投げかけられた声に、気づけば私は扉を勢いよく閉めてしまっていた。
びっくりした。でも、反射的に扉を閉めた私を見た大河の方が、もっと驚いてる。
———大河にだけは絶対知られたくない。
その思いが、不自然な行動で恥ずかしい気持ちよりも勝ってしまった。
「……ご、ごめんねっ、私用事思い出したから、先行くねっ…!!」
「ちょっ、ほの…!」
大河が何か言ったけど、私は無視して走り出した。
やっと大河から見えない廊下に着き、しゃがみ込む。
———-「死ね」「ウザイ」「消えろ」
あの言葉たちが一瞬でも大河に見えたと思うと、気が気ではない。
————大河には絶対に知られたくない。
私がクラスで「いじめられてる」ということを。
一つのお話にすると長いので、シリーズにさせていただきました!
今日も明日も、君の隣で #2
———-大河にだけは絶対知られたくない。
私がクラスで「いじめられてる」ということを。
小学校高学年の頃までは割と「頼れるリーダー」だった私が、こんなにも醜く、脆く弱っているところを。
***
始業の時間が近くなってきたので、とりあえず私は教室に行くことにした。
ほんとはこのままサボりたいけど、「あいつら」に「逃げた」と思われるほど嫌なことはない。
誰も私を見ませんように。誰も私を認識しませんように。そう願いながら俯き気味に下を向いて廊下を歩く。
「消えたい」「幽霊になりたい」
こう思うのはいつものことだけど、今日は大河に見られたかもしれない恥ずかしさから、強く、そう思う。
2-Aの看板の前に立ち、軽く深呼吸する。
大丈夫。大丈夫。今日までちゃんと生きてやってこれたんだから。人生80年くらいの中で、たったの3年間辛かったってなんてことないんだから。
————カラカラカラ
そう思い、静かを心がけながら、教室のドアを開ける。
———ザワザワザワ
教室のざわめきがより一層強くなったように感じたけど、それ以上の攻撃はなかった
……かのように、感じられた。
自分の椅子に座った私は、机の中に、ある紙が入っていることに気がついた。
『休み時間、二階階段の踊り場に来て』
ノートの切れ端には、これと言って特徴のない字でそう書かれていた。
また呼び出されて忠告されるのだろう。
"これ以上皇くんに近づくな"と。
***
それから特に大した攻撃もなく、昼休み私は踊り場に向かった。
まだ呼び出した本人らしき人は来ていなかったので、何をするでもなく、私は窓の外をずっと見ていた。
電線に止まっている、燕の親子が目に入る。
「いいなぁ、自由で。」
その時だった。
「……っ!!!」
背中にドンッと重い衝撃がかかった。
やけに周りがスローモーションな気がする。
————ドサッ
「|痛《つぅ》……」
気がついた時にはもう遅く、私は床に倒れ込んでいた。
「階段から突き落とされた」。そう気づくまでに、少なくとも丸5秒はかかったと思う。
「幼馴染だからって、皇くんに媚び売ってんじゃねーよ!!」
「いい気味。そのまま死ねばいいのに!ww」
「「「「www」」」」
悪意に塗れた言葉たち。
今日は、大丈夫だと思ってた。朝から靴箱以外は特に何もなかったし、これでもう終わるのかと。
でも、甘かった。
全ては「これ」のために組まれていた台本だったのだ。
「ねぇ、ナホ、うちら大丈夫かな?こいつ、血流してたよ。」
「大丈夫っしょ。なんか担任に聞かれたら、こいつが勝手に落ちたんですって言えば良いんだよ。とりま急ごうぜ。」
「「「「おけー」」」」
頭がとてもくらくらする。
突き落とした人たちの会話する声だけが、薄れていく意識の中、やけに鮮明に残っていた。
「ほのか!!!」
今日も明日も、君の隣で #3
***
長い長い、夢を見た。
突き落とされた私を、大河が助けてくれる夢。
「ほの」じゃなくて、久しぶりに「ほのか」って呼んでくれる夢。
「ごめんな……ほのかのこと傷つけて……」
大河は私に謝った。
昔の大河は、何かあるとすぐ飛んできて、自分のせいだと私に謝っていた。
ちょっと、昔に戻った気分だった。
***
「んっ…」
真っ白な天井。独特の、鼻につく消毒液の匂い。
「あら、起きた?階段の下の踊り場で落ちてたらしいから、びっくりしたわよ〜。」
優しそうな声が聞こえ、ここが保健室だと、そう認識する。
ああ、そっか。私、階段から突き落とされたんだ。
ん?
「らしい」?先生が運んでくれたんじゃないの?
私の不思議そうな顔に気が付いたのか、保健の先生はにこにこと口を開いた。
「えっと、皇くん?だったかしら。が、保健室まで連れてきてくれたのよ〜。いい彼氏ね♡」
「えっ…大河が?」
ってことは、夢じゃなかった?
そこまで考えたところで、私は我に返った。
「っていうか、か、彼氏じゃな……」
「ええっ!!まだ付き合ってないのぉぉぉ!!先生、もう付き合ってるかと思ってた!!」
一気にテンションが高くなった先生に弁解するべく、私は体を起こす。
「やっ、普通に幼馴染なだけで…」
「えっ、そう?
なんか進展あったら絶対言うのよ?
先生、そういうの大好きだから!!」
「もうっ、先生ぇ…」
いつもおっとりしている先生の意外な一面を見つけ、驚いていると急にふらっとめまいが襲ってきた。
「……っ」
「あらあら、ほのかちゃん。
今は身体中が痛いはずだから、ゆっくり休んどくのよぉ」
横になりながら、自分の腕や足を見つめる。
高い階段から落ちたせいで、身体中にあざや傷がなっていた。自分で言うのもあれだけど、結構ひどい。
身体中の痛さと生々しさに顔をしかめたとき、保健室の戸が「トントン」とノックされた。
「失礼します。2-3の皇です。」
「はぁーい」
えっ、大河ぁ?!!
突然の訪問にあわあわする私をよそに、先生は返事をしてしまった。
「ほ…須藤さんの様子を見にきたのですが。」
「ああっ、ほのかちゃんなら今奥のベットで休んでるわよ。」
先生の図らいにより、あれよあれよという間に面会の場がセッティングされてしまう。
「あああっ!そうだ!!
先生用事思い出しちゃったから、あとは2人でゆっくりしていってね!」
「はいわかりました。」
ちょっ、先生っ!!
なんで行っちゃうのっ?!!
っていうか大河も、なんで真面目に「分かりました」なんて言っちゃってるわけ?!!
語尾に♡マークがつきそうな勢いでそう言った先生と、そんな先生に至極真面目な声色で言った大河に、思わずそう叫びたくなった。
その間にも、大河の足音はどんどん近くなっていく。
ええーい、もうどうにでもなれっっ!!
やけくそで毛布を全身に被った直後、カーテンがシャッーと開いた。
「ほの、起きてるか?」
ほら、「ほの」って言った。
あれはやっぱり夢だったのかな。
「……うん……」
ギシッっと、ベットがなる音がする。
その傾きから、大河が座ったんだとわかった。
「ほの、なんであんなところで落ちてたんだ」
急に確信をつくその問いに、私は慌てて毛布から顔を出した。
「やっ、別に……
階段で足を滑らせちゃっただけだよ?」
「本当に?」
「……うん。
っていうか大河、授業は?」
「ばか、今休み時間だろ」
「……っ、あっ、そっか
で、でも、もうすぐ戻ったほうがいいんじゃない?先生にも「具合が悪いから休む」って伝えておいてほしいしっ。」
大河に嘘をつくことに少し抵抗があったけど、私の今の現状を知られるよりはまだマシだろう。
大河が保健室の戸を開けたときにチラッと見えた、あの少し困ったような、悲しそうな顔は、私の気のせいだと信じたかった。
読んでくれてありがとうございました(*´꒳`*)
最近なかなか書けてなかったもので…
「今日君」#4もお楽しみに〜(*´∇`*)
*さくらいあゆ*