扇神
編集者:雪
扇神の供給が足りない。少ない。という事で
作成したシリーズ。うちの忍野扇は扇くん ・
扇ちゃんで基本別れてます。扇くんは駿河の
ことを振り回して、駿河は扇くんに振り回されます。両者共々恋愛感情があったり
なかったり。小説と言えたり言えなかったり。世界線が原作と違かったり同じだったり色々。
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目次
おうぎポエム
「駿河先輩、百人一首って言えます?」
「唐突だな」
---
現在私と扇君は下校中である。私は軽く走りながら、扇君は自転車を漕ぎながら話している。
「百人一首か…あんまり覚えてないな」
「でしょうね。そうだろうと思いました」
いささか先輩を馬鹿にした物言いである事は
置いておいて、扇君は自転車を漕ぎながらそれについて喋り始めた。
「例えば百人一首の3番目であるあしびきの…」
「百人一首に番号なんてあったっけ?」
「ありますよ。そんな事も忘れてるなんて…
駿河先輩を慕っているとは言え、ちょっと…」
扇君は少し目を細め、私に引いたみたいな顔をこちらに向けてくる。ついでに口元に手を添えて。少しムッとしたが、それも一瞬だった。扇君はすぐに正面を向き、手をハンドルに戻す。
---
「それで、あしびきの山鳥の尾のしだり尾の、
長々し夜をひとりかも寝む、にはこんなにも
長い夜を私はまた、ひとり寂しく寝るのだろうか、っていう意味があるんですよ」
「…ふぅん。で、何が言いたいんだ扇君」
「僕に言わせるんですか、それ。先輩も物好きな人だなぁ流石変態」
扇君は照れたように手を頬に当てて、きゃっ
なんて声が聞こえてきそうなポーズをとった。
いや、ハンドルちゃんと握れよ。
さっきも思ってたけど危なっかしいな。
「駿河先輩の家、行かせてくださいよ。その
まま流れでベットインからのゴールインでも
いいですが」
いつのまにか扇君はハンドルをしっかりと
握っていた。ほんとにいつのまに…?ていうか何だよベットインからのゴールインって。
やることやってんじゃ無いよ。私はもっと誠実な方がいいというのに。それにしてもよくそんなヘラヘラとしながら言えるものだ。
「随分とはっきり言ったな。さっきまで
回りくどい言い方していたというのに。
あと君とゴールインもベットインもしない!」
「回りくどいとは失礼な。雅な伝え方
でしょう?和歌で伝えるなんて」
「まぁそうかもな…?」
「それとも何ですか?あしびきじゃあロマン
チックじゃないって事ですか?しょうがない
先輩だなぁ全く」
しょうがないとはなんだよ失礼な奴だな。
失礼系の後輩すぎるだろ。羽川先輩の更生
プログラムを受けて欲しい。そんな事を考えている間に扇君は私の前方に回り込んで、いつかのバック走をし始めた。本当にそれ、
どうやっているんだ?
「わびぬれば今はた同じ難波なる、
身をつくしても 逢はむとぞ思ふ」
割とそれっぽい雰囲気出しながら言ってきた。
ちょっと気持ちぐらついちゃうだろ!しかも
何でその句なんだよ?!ほぼプロポーズだろ!
……先輩を誑かしおってからに。
「……忘らるる…」
「なんだ、覚えてるじゃないですか。しっかし忘らるるって。凄く遠回しな言い方じゃない
ですか。しかも僕が駿河先輩の事忘れるとでも言いたげな句を選択したようですけど」
忘れる訳ないでしょう?将来結婚するん
だから、忘れたら大問題ですよ
ぱちっとウインクを決めてくる。
あぁもう。腹が立つぐらいには顔がいいから
それにドキッとする。心なしか顔が熱い気も
してきた。赤くなってないかな…
「そんな予定無いわ!ほんとにこの子は……」
「駿河先輩」
扇君がしっかりと、はっきりと私の名前を
呼ぶ。しっかりと。
もろともに あはれと思へ 。
「……考えておくよ」
天つ風 雲の通い路 吹きとぢよ
するがハート
放課後の夕焼け色に染まる教室。
そこに1人、黒い影のような姿があった。
その姿の名前は
---
「ぼーくでーすよー」
「だろうな」
…というわけで、扇君がこの三年生の教室に
いる。なにが「というわけで」何だよと、
言われて仕舞えばそれはそうなのだが、
お恥ずかしいことに語り部である私も分かって
いない。そもそもこのヘラヘラとしている黒い後輩、忍野扇についてもよく分かっていない。私の一番のファンを自称している後輩で、
黒くて慇懃無礼だという事は知っているの
だけれど、それ以外が妙に分からない。
というかそもそも扇君が後輩なのかも怪しい
ぐらいで、いつ出会ったのかも不明瞭だ。
この忍野扇という男子高校生に関する記憶が
軒並み欠如している。というか男子高校生
なのかもすら分からない。
逆になんなら分かるのだろう……?
そんな風に私にしては珍しく熟考していた時。
扇君は、おや、なんて声を出して、つい下を
向いていた私の顔を覗き込んだ。扇君は私より背が低い…と思うけれど、それもあやふやだ。
存在自体がよく分からない。俗に言うUMA
みたいなものなのかもしれない。
「ってうわっ!いきなり人の顔覗き込むな
びっくりしただろ!」
「ようやく終わりました?16文ありましたよ。これ二次創作なんですから原作みたいに長く
書かなくていいんですよ?二次創作を見に来る人は手短に需要を供給したいんですから
そこら辺もっと考えて下さい。そんなんだから僕が出てくるし愚かって言われるんでしょう」
「なんで君は初手からそんなにフルスロットルなんだよ。てか私そんな考えてたか?」
「いえ、原作と比べたらまだまだですけど、
これ二次創作ですから。基本1000文字ぐらいのを見に来るんですよ。あとまだフルスロットルじゃありません。さっきのは準備体操です」
さっきのが準備体操なんて、末恐ろしい子だ。
この子が本気の口論をしたら、確実に負ける気がする。勝てるとしたら…羽川先輩か?
「巨乳先輩に負けるとか屈辱的ですね。絶対
負けたくありません。別に好敵手とかじゃないですよ?なんでしょう、敵対意識があるって
だけで、仲良くしたいと思いません」
そんな仲です、とヘラヘラと笑いながら、
(正確には目が全く笑っていなかった。怖い)
扇君は適当な席の椅子を引いて座った。私の席の近くだったので、私も自分の席に座る。
「教室といえば、駿河先輩はなんでここにいるんですか?僕はまぁアレなんでいいとしても、
駿河先輩がいる理由はないでしょう?」
アレの部分が気になるが、とても気になるが
気にしない事にして質問に返答する。
「たまに来たくなるんだよ。なんとなくだ。
理由なんてなに一つないよ。扇君もそんなもんだろう?」
「いえ違いますが」
「そこはそうですねーとか適当でもいいから
同意するんだよ…」
ふぅ、と息を吐いた。
溜息みたいな、でも違うような息だった。
腕を机に置いて枕のようにして、頭を置いた。
腕が痺れてしまう体勢ではあるけれど、
今はそんな事はどうでもいい。考えたくない。
窓の外を少し眺めて、 腕に顔を埋める。
「駿河先輩元気無いですね、大丈夫ですか?」
「……後輩の手前、本来言わないんだけど。
扇君には何故か隠せないな…」
少し目頭が熱くなる。腕に擦り付けてそれを
振り払う。扇君の方は、絶対に向けなかった。
「僕は全ての物語の聞き手ですから。どんな
お話でも聞き届けて差し上げますよ。言って
みたら案外楽になるかもしれませんしね」
いつもより少し温かいような言い方に、固く
締められた蛇口を開いた時みたいに溢れた。
後輩に向けれるような顔じゃなかったから、
そこだけは意地を張って、自分の腕で顔を
隠し続けた。それでも目から溢れて流れる
それだけは、止められなかった。
---
「あー……目が腫れてるって分かる…」
濡らしたハンカチで目を押さえながら呟いた。
「ほんっと駿河先輩ってすぐ溜め込みますね。なんでもそうですけど。」
扇君は頬杖を突きながらこちらを見ていた。
夕焼け色に教室も私も染まっていたけれど、
扇君は黒かった。その黒に、少しだけ安心も
覚えた事を言える日は、来ないんだと思う。
「はー……もういいかな。あーあ、折角の
放課後無駄に消費したよ」
ハンカチを机に置き、ぐっと伸びをする。
ハンカチを手に取って、ポケットに入れる。
「駿河先輩が無駄に消費したなら、僕も無駄に消費しちゃったんですよ?あーあ、優しい先輩ならどうするのかなー!」
「その見え見えの誘いやめろ率直に言え!」
「えー?後輩に言わせるなんて…先輩も
モノ好きですね。さっすが変態、阿良々木先輩のエロ奴隷を自称するだけありますよ」
「その含みのある言い方をやめろそして
なんなんだよその不名誉すぎる肩書きは!」
「はっはー。まぁいいじゃないですか。
それともあっちの方がよかったですか?
がんばる駿河ちゃん」
「何故知っている!?何故知っている、私が
中学生時代自ら名乗った異名を…!」
「僕は何も知りませんよ」
深夜テンションの産物
なにを書きたかったのか、わたしにもわかりません。それっぽい解釈してクレメンス
「駿河先輩、祈りと願いの違い、知ってます?」
____
忍野扇という子について。忍野扇は忍野扇で、
忍野扇以外の何者でもない。いつか、阿良々木
先輩はそんな風に答えていたと思う。では、
阿良々木先輩はそう答えたのなら、私はどう
答えるのだろう。自分で作った問題だけれど、
自分でもわからない。というよりも、あの忍野扇という人物がわからない。いつ出会ったのかすら明白になっていないし、あの子が、どんな人
なのかも薄れていて、ふわふわとした感覚で、
しっかりと記憶できていない。それでも忍野扇
という人物を認識しているのは、会ってしまう
からだろうか。それとも、私の頭が、私の意志とは別で覚えているからなのだろうか。
忍野扇自身に、忍野扇を説明せよと問うても、
「僕は僕ですよ」なんて答えてるのだろう。それも知ってるような、知らないような気がする。
黒くて黒くて、黒い。それだけは確かに知って
いて、それ以外はよく覚えていない。
不思議な子だ。えーっと、そもそもなんの話をしようとしていたのだっけ?あぁそうだ。忍野扇が
どれだけ黒いのか、という話だった。
多分、そんな感じがする。
_______
「祈ると願うの違い…って、また突拍子も無い事を言うな、扇くん」
「はっはー。突拍子も無い事を言うのが僕の仕事ですからね。で、どうなんです?知ってるんですかー?」
ニヤニヤと少々不気味な笑みを浮かべながら
自転車を漕ぐ扇くんに、ちらりと視線を移す。
私立直江津高校の制服に身を包み、悠々と自転車に乗りながら鼻歌を小さく歌っている。
私は自転車に乗れない為、心の隅で小さく尊敬
しているのだが、やはりなんというか、扇くん
だからか、素直に認められない、尊敬しきれない気持ちがある。というかこの子の仕事、以前は別のものじゃなかったか?しかしそんな疑問も私には訂正することが出来ない。以前の忍野扇の記憶は、いかんせん不明瞭だからだ。
「んー……同じじゃないのか?こう、なんかさ」
「なんかって言われても、駿河先輩にとっての
なんかなんか分からないんですけど…語彙力
無いですね、本当に。皆無です」
少し顔を呆れたように変えて、またいつもの顔に戻してペダルを漕ぐ。扇くんはふうと一息ついた後、黙ってしまった。いつもはよく喋っていた
ような気がするが、この記憶さえも正しいか
分からない。
「………えっ?おい扇くん、君から話を振って
おいて、無視は無いだろう?口を開け言葉を
発しろ!自分で切り出したんだろ?!」
「あーあーあー。聞こえてますから怒鳴らないでくださいってば。駿河先輩の声ってよく通るから怒鳴ると煩いんですよ。ちっちゃい子泣いちゃうんじゃないですか?ドナルドを見た時みたいに」
耳を塞ぎながら、扇くんはようやく口を開いた。
ドナルドって、あの某ネズミの国にいるアヒル(アヒルだったかな…?)だよな?なんなら愛されて無いか?小さい子からも、大人からも。
「えー、駿河先輩あのドナルド知らないで生きてきたんだ、わー、ショックだなー。尊敬し敬愛
してやまないあの駿河先輩が、無知だなんて」
無知とは言い過ぎな気もするが、まぁ知らなかったのだから言われてもしょうがない。
ドナルドダックではないと言うのなら、なんの
ドナルドなのか気になるところではあるが、
飲み込んでおく。
「むちむちのむちだなんて」
「おい漢字にしろ!それだとエロく見えちゃう
だろ!」
扇くんはきょとんとした顔で、
「エロくなって嬉しくないんですか?あんなに
エロ売りしてたくせに?神原駿河、阿良々木先輩のエロ奴隷だ、なんて言っていたくせに?
副音声で、何かいいことあったらエロ、とか
叫んでたくせにぃ?」
と先輩への尊敬が微塵も感じられない文を発した。本当に尊敬しているのか?忍野扇は神原駿河のファンだと、一番のファンだと自称していた
覚えがあるが、本当にファンか?この子。
というか私そんなエロエロ言っていたのか?客観的にこうして聞けば気の触れた人みたいだが…。
「ファンかファンじゃないかはともかく。
駿河先輩、祈ると願うの違いはですね」
自分の為か、人の為かです
………エロエロ言っていたところは、
ともかいてくれないんだな…。
________
「…ふーん…で、それがどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたもありませんよ?
ただ僕は、思いついた事をつらつらと先輩へ文を書くかのように語り掛けているのみですから」
と発したところで扇くんはまた言葉を
閉じた。というよりも言おうとして、飲み込んだという方が近い。扇くんは文を書くかのように
と言ったが、それに肖るなら、筆を止めていた。
その止まった筆の先は、なんとなくわかりそうで分からなかった。知りたくないというのに
近いのかもしれない。
猿の手。私は猿に願った。ただ、それだけというには余りにも愚かで、馬鹿な選択だった。
私は不意に自分の左手に視線を向けた。
そこに意志は無かった気がする。今はもう包帯のないそれは、毛むくじゃらの、獣の手なんかではなく。人の形の、正真正銘人の手に戻っていた。
歯を食いしばった。顎がカチ割れそうな程。
なんでそんなことをしたんだと聞かれても、私に私が分かるわけがないのだが。分かっていれば、願うことなんてしなかった。今もあの時も。
「おやおや、そんなに歯を食いしばったら、
歯並びが悪くなっちゃいますよ〜?」
そんな私の心境を知ってか知らずか、戯けた風に扇くんは言う。剽軽な態度を取って。そこには
何処か、忍野さんの面影を感じた。
その面影が、今は耐え難かった。
「僕が変なこと言っちゃったせいですかね?祈ると願うの違い、なんて教えちゃったせいで。
まぁ誰も駿河先輩を責めはしませんよ。それは
過ぎた事です。あなたが、自分の欲のため
だけに、猿の手に祈らず願ってしまったという
のは、それはそれは愚かな事ですけれど、でも
その選択が全て間違いだったわけでは無かった
でしょう?いつでしたっけね?僕、言ったと
思いますけど、たった一度の過ちも許されない
のなら、人生は窮屈過ぎますからね。駿河先輩は、その過ちが大きかったというだけです。
大きいばかりに、正しい道にも影響も与えましたけれども」
扇くんは、止まる事を知らずに、どんどんと勢いを増しながら喋り続ける。
「猿の手のおかげって事も、割とあったんじゃないですか?猿の手に願って、阿良々木先輩を
ぶちのめしまくって、それで戦場ヶ原先輩と話をつけることができたんですから。まぁ、その心
までキッパリけじめをつけれたかどうかは、僕には分かりようのないところですがね。他に、
猿の手のおかげで、沼地さんと再会できたの
でしょう?沼地さんと、向き合えたんでしょう?阿良々木先輩の言葉を借りるなら、あなたは青春をしたんでしょう?なら、よかったんじゃない
ですか?猿の手に願ってしまったせいで、
あなたはバスケットボール選手という未来を
閉ざされましたけれど、その代わりに人間として成長したんですから。猿の手の事は、包帯と一緒に忘れ捨ててしまってもいいんじゃないですか?
あなたはもう十分、向き合ったと思いますよ」
扇くんは甘いようで甘くない言葉を投げ掛け
続けてくる。私しか知らないはずの言葉も、聞いていたみたいに投げ掛けてくる。蟻を踏み殺す
幼子のように、分からないフリをして。
「大丈夫ですって。猿の手がなければ神原駿河
では無いわけではないでしょう?あなたは、猿の手に、祈るのではなく、願った。それだけです。それ以上もそれ以下もありません。あなたは、
猿の手に願ったその代償を、背負い続けるべきでは無いんです。叔父さんも言っていたでしょう?20歳で猿の手自体は消えるんだと。予定よりも随分早く消えていますけど、それはそれ。
もうあの悪魔の、猿の手によって誰かに害なす
存在にはならないんです。阿良々木先輩のように誰かをぶちのめさなくて済んでいるんです。
もう全てを過去の事にして、やんちゃだった頃の思い出にしてしまいましょうよ?」
「それじゃ、だめなんだよ」
扇くんの言葉を聞き続けて、ようやく声を絞り
上げた。扇くんは目をすっと細めて、自転車の
ハンドルに手をついて、顎を置いていた。依然
タイヤはクルクルと回っているままで、危険
極まりない姿勢を取っていたが、それを咎める
ような気は無い。
「それじゃだめ、とは?もう忘れてしまっても
いいのでは?過去のことにして、流しても」
「流しちゃあ、駄目なんだよ」
そうしてしまったら。
私の、私が犯した罪を。罰を。愚かさを。
無かったことにすることになる。
私が願って。自分の為だけに願って、そのせいで
阿良々木先輩を何度も襲撃した事も、自分が
寝ている間に罪を犯していないかを確認した事もまともに寝る事もできなかった事も、戦場ヶ原
先輩の事を、引きずっている事も、沼地と戦った事も、全部無かったことにすることになる。
目を逸らしただけじゃ、
逃げたことにはならない。沼地なら時間が経てばそれも忘れて解決するさ、なんて言いそう
だけど、これは時間じゃどうしようもない。
どうしようも、出来たらダメなものだ。私が、
私足り得る為に必要な事で、一生背負わなくちゃいけないものなんだ。
_______
「へぇ。まぁ駿河先輩がそうするというので
あれば、従順な後輩としては従いますけど」
扇くんは多少不服そうな顔を浮かべて、こちらに向いていた顔を真正面に戻した。先ほどの危うい姿勢はいつのまにか戻っていて、ハンドルを
握っている。
「僕個人として申しますけれど」
そう扇くんは前置きをして、カラカラと車輪が
回る音がする。
「駿河先輩は阿良々木先輩と同様に自罰傾向が
ありますよねぇ。本来自覚されていてもどっち
だっていいですけど、駿河先輩、あなたは認識
すべきでしょう。そもそも自罰というのは、
僕としてはあまり良い選択とは言えませんよ。
自らを自らが罰する、それは自分の勝手な価値観で自分を罰してしまう事になりますからね。
阿良々木先輩やあなたは、責められて、罪を
唱えられていないのにも関わらず、そうして自分を自分で罰している。正直滑稽と
言えちゃいます。あなたも、阿良々木先輩も。
根が真面目なのでしょうが、真面目すぎます。
羽川先輩は真面目というよりかは、怪物みたいなものですけど。それでも彼女だって、あなた方のように自罰傾向をお持ちになられてはいません。あなたは全てを無かったことになるなんて思っているようですが、そんなことないでしょう?
罰する事でしか、記憶出来ないんですか?いや
確かにあなたは愚かで馬鹿な人ですけど」
最後にさらりと人を貶して、扇くんははぁとため息をついた。
「もうなんかいいです。もうちょっと言いたい
ことはあるんですけどね、それも僕の主観でしか無いですし。駿河先輩はそうするならそうして
下さい。僕は今まで通り、駿河先輩を信奉し尊敬して敬愛する従順な後輩として動きます」
と面倒臭くなったように呟いていた。
私にこれ以上言ったところで意味が無いと判断
したのか、それとも単純に言うのが面倒臭く
なったのか。私に彼の事は分からない。
______
するがホラー
「クラス会?」
「そう!るがーも参加するよね?」
朝のホームルーム前、ではなく昼休みに日傘が
話しかけてきた。最近は扇くんと喋りながら登校しているせいか、予鈴ギリギリに着席していた
からだ。日傘は、最近遅いけど大丈夫?なんて
心配していたけれど、なんだか申し訳なくなる。
本当はただ喋って遅くなっているだけだから。
クラス会に話を戻すとしよう。日傘が意気揚々と話した内容によると、深夜の学校で肝試しをする
らしい。深夜と言っても日没後だが。とにかく
暗い学校を歩き回るものらしい。確か何名かが
驚かしたりするんだとか。私の想像するクラス会って、焼肉とかカラオケとかでわいわいするものなんだが…。私の認識が間違っていたの
だろうか?
「いえ、その認識は間違っていないと思います。僕も駿河先輩から聞いた内容にちょっとびっくりしちゃいましたもん。クラス会で肝試しって」
下校時、何故か平然と横で走っている扇くんに
クラス会について話す。やはり扇くんも疑問に
思っていたらしい。
「しかし阿良々木先輩や戦場ヶ原先輩は、確か
クラス会か何かで肝試しをしていたよな…。
そうなると一概におかしいとは言えないのか」
「というかその肝試しって一人で歩き回るんですよね?駿河先輩大丈夫ですか?本当のおばけが、うらめしやーって出てきちゃったら」
扇くんはおどけた風に言う。流石にこれは馬鹿に
しないでほしい。そもそも沼地と対戦した時
だって、立派な心霊現象の一つだし、その前にも散々怪異は見てきたというのに。私自身、腕に
怪異を宿していた時だって長かった。
「いえいえ、駿河先輩が怪異に接触しまくって
いる事とは関係無く。純粋に、そういうびっくりしちゃうの、耐えれないんじゃないですか?」
あぁ、まぁ確かに。何名かが驚かしにくる、
なんて少し前に扇くんにも話した内容だ。記憶がちょっと飛んでいる気がする、大丈夫かな。
「怪異と人は違いますし。暗い中だと聴覚にも
結構影響します。余計に音を聞こうとしちゃうんですよ。僕が駿河先輩を驚かすなら、普通に背後からおっきな音立てます。それでびっくり
しちゃう人ですから。あなたは」
ふざけんな。普通にディスっているだろ、今の
発言。取り消せよ、今の言葉。
「返事はやなこった、です」
ほんとこいつなめ腐ってやがる。
---
「ほんとに暗いなぁ…」
現在私はクラス会というなの肝試しに参加して
いる。暗く明かりがない学校という背景が、暗さとマッチしていてとても雰囲気が出ている。
渡された一本の懐中電灯で前を照らしながら
コースを歩く。私が歩いているコースは最長距離を歩くコースだ。(ちなみにコースの途中に張り紙があるのでそれを回収しなければならない。途中で別コースに移行しない為のルールだそうだ)
「るがーならこのくらいいけるでしょ!」
と日傘が勝手に決定した。まぁ別に長さが変わっただけだからあまり怖くもなかろう、と私も特に言わなかったのだが。
「……思ったより…怖いなこれ」
扇くんが言っていた通り、無駄に音を聞こうと
してしまう。水道から水が滴り落ちる音。私自身が立てる足音。衣擦れの音。全てが耳に入って、
私の精神を蝕んでいるような気がする。この際
はっきり言おう。怖い。はちゃめちゃに怖い。
扇くんには結構虚栄心で見栄を張っていた
けれど、怖い。先程2回、驚かし要員が出てきたが、ちょっとビクッとしたし。あともう一回
あったか、なかったか…ひー、怖い怖い。さっさと張り紙を回収しようと、教室のドアに手を
かけた時。ふと気がついた。
「………ここ教室とかあったっけ…?」
最悪だ、ほんとの心霊現象にぶち当たって
しまった。今一番気付きたくなかった。入らずに次のところへ行こうかな…いやでももしかしたら私が覚えてなかっただけでここには教室があって中に張り紙があるかもしれない…。
意を決して手を横に引く。そこには普通の教室が広がっていた。どちらかと言うと空き教室の
ような感じだったけれど。ほっとして中に入り、
後ろ手でドアを閉じる。懐中電灯をぐるぐると
回して辺りを照らす。特におかしなものは
無さそうだ。教室の後方で積み木のように
積まれた机の山以外は。なんだあれ。異質過ぎるだろう。この教室自体もなんだか妙な雰囲気で
息が詰まる感覚なのに、あんな物もあるとか
どうなってるんだここ。
「取り敢えずここに張り紙は無いし出るか……」
無駄足だったな、と思いながらドアに近づく。
あと二歩でドアに手が届く、というぐらいの
タイミングで、ドアが動いた。私以外にもここに来た人がいるのか?いや、いるわけがない。
一コースに二人一緒、なんてならないように
一コース一人までになっていたはずだ。それなら今開けようとしている人は誰だ?まずい、本当の本当に心霊現象に遭ったのかもしれない。
だらだらと冷や汗が背筋を伝う。後ろ側のドアは机の山に塞がれていて出られない。袋の中の鼠
状態だ。どう打破すべきか考えているうちにドアが音をたてて開く。
くっ、最早ここまでかっ…!無念
「何がくっ、無念…!ですか」
呆れた声でそう言うのは、なんと扇くんだった。
いつもよりも暗いせいか視認しづらかったが、
間違いない。下手なホラーより緊張した気が
する。先程まで流れていた冷や汗が気持ち悪い。
扇くんは普通に教室に入って教卓に座る。行儀
悪いといいたいけれど、その前に驚きを隠せないままでいた。
「なんでここにいるんですか……いや驚かないでくださいよ、僕の方が吃驚してますからね?」
「…扇くん、なんでここに居るんだよ?」
緊張と恐怖が一気に消えて、純粋に質問をする。
このとっくに下校時間を過ぎている時間帯にいていいのは、クラス会参加者と保護監督の為にいる先生だけなはずだ。扇くんはいていい筈がない。
「そんねお堅いこと言わないで下さいよ。僕
だって、駿河先輩を驚かしてから寝ようと歩き
回ってたんですよ?いないなー、あれれ、もう
帰ったかなーなんて思いながら歩いてたら何故か
この教室にいるし。本当、なんでこの場所に
いるんですか。僕が今この学校にいていい存在
じゃないなら、駿河先輩は今この教室にいていい存在じゃないんです。弁えてくださいよ?自分の立ち位置を」
「はい……?」
「大体あなたは軽率過ぎます。見知らぬ教室が
あるな、入ってみよう。とはならないでしょ。
普通なら、え、怖、入らずスルーしよ。って
なります。神原するーがになって下さいよ」
神原するーがってまた懐かしいものを……
「とにかく、今日は僕もう駿河先輩にちょっかいかける気も、煽る気も無いですから。明日また
遊んであげますから、ほら行った行った」
と半ば強引にも教室から追い出された。
結局扇くんが何故いたのかについてはさっぱり
わからなかったが、まぁそれは後で。
---
「るがーおっつかれ〜!随分早かったじゃん、
まさか走ったんじゃないよね?」
日傘がふふと笑いながら聞いてくる。
走った。めちゃめちゃ走った。もう自分でも
びっくりするぐらいに。廊下を駆けて、階段を
ジャンプした。言い訳をしよう。教室から追い
出された後、制限時間があった事に気がついた。
やばい、間に合わないかもしれないなんて思って走り抜けたら普通に余裕でゴールしていたのが
オチだ。ヤマも無いけど。
「走ったか走ってないかはともかくとして。
るがー、この後二次会あるけど行く?」
同窓会並みのスケジュールだな、なんて思い
ながら日傘の質問に答える。
「いや、今日は遠慮しておく」
「え?どうして?るがーは、行く行く!ぜひ
行かせてくれ!って言いそうなものなのに」
日傘の中の私のイメージがひどい。そんな
行きたいと思われてたのか?私。イベントに参加しまくるタイプだと思われてるのかな…。しかもなんだ二次会に行きたいと言いまくるって。
酒飲みじゃあるまいし私そこまで言わないよ?
「んー、まぁちょっと用事があるんだよ」
「ふーん?あ、まさか"これ"ですかな?」
日傘が手でハートマークをつくる。そこは、小指立てるものじゃないのか?普通に可愛らしいだけだろそれは。
「違うから。私にまず出来ると思うか?」
「そう言われたらそうだね、るがーに出来るとは思えないもん!じゃあ用事があるだけかぁ。幹事に言っておくねー」
日傘は手で作ったハートをぱきっと割って、手を振りながら幹事(らしき人)の元へ去って行った。日傘はさらっとああやって鉄のナイフで刺して
くるから油断ならない。月火ちゃんよりかは
可愛げがあるからまだマシか。
携帯を取り出して、メールを送信する。
誰にって、聞いてしまうとお仕舞いだろう。
リドルストーリーなのだ。正答を用意しない。
「ほほう手抜きですか、駿河先輩。語り手としては落第ですよ?」
なんて扇くんは言いそうなものだが。本編の
阿良々木先輩だってそうだったのだから許して
ほしい。この話にオチなんてないし、ヤマなんてもっとないんだから。
おうぎトーク
「駿河先輩、お話しましょっか」
「君は毎度のことながら前置きが怖いよな」
「はっはー。駿河先輩を怖がらせるのも、僕の
仕事かもしれませんねぇ」
「で、なにゆえ今回は地の文がないんだ?」
「アレンジですよアレンジ。語りも段々同じ
ようになっちゃいますからね。こういう刺激を加える事で、良い物になるかもしれません」
「かもしれないんだな」
「えぇ。絶対とは言い切れませんから。そうだ
駿河先輩。僕、この間阿良々木先輩と面白い
ゲームをしたんです。やりません?」
「一応聞くけど、安全なんだよな?」
「はい、安心安全健全なゲームです。まぁこれ
阿良々木先輩が戦場ヶ原先輩とした物を、僕に
試したらしいので、戦場ヶ原先輩からの
受け売りを阿良々木先輩から受け売りした形
ですけど」
「ふぅん…どんなゲームなんだ?」
「まぁまぁ焦らない焦らない。駿河先輩、小銭を出してください。何円でもいいですよ」
「小銭か?えーっとじゃあ……はい、50円」
「確かに。それじゃあ賭けをしましょう。
んー、裏が出たら、駿河先輩は僕と付き合う
というのでいきましょうかね」
「私の同意がないのに勝手に決定するな、
そしてその賭けなら嫌だ、お断りする」
「えー、じゃあ単純に裏が出たらこの50円は
僕の物という事でいいですか?」
「最初からその賭けにしろよ、なんでちょっと
不服そうなんだよ」
「裏の定義を決めておきましょう。数字の
書いてある方が裏ということで」
「分かった」
「それじゃあコイントスやりますねー」
「うん、私は出来ないから任せるよ」
「へぇ、ちょっと意外です。親指で、
こうやって弾くだけなのに」
「それちゃんとキャッチ出来るのか?」
「よっ…と。なめられちゃあ困りますね。
はい、こちらが結果です」
「菊の花…私の勝ちか」
「いやいや、僕の勝ちですよ?」
「はぁ?どう見たって菊の花が描かれているし扇くんの負けだろう?」
「よぉく見てくださいよ?ほらここ、数字」
「……そういう…まぁ確かにこれは、戦場ヶ原
先輩が思い付きそうなゲームだ」
「それを僕に試した阿良々木先輩は、知識を
得たら、すぐにひけらかしたくなってしまう
タイプだと言えちゃいますよね」
「言えちゃいますよねって…確かに言えるけども言わずに心の中に留めておけよ」
「僕の心の中は駿河先輩でいっぱいですから」
「そんなキメ顔で言っても一ミリもドキっと
しないから」
「残念。駿河先輩ってガード固いですよね。
貞操観念ガバガバに見えて、実は戦場ヶ原先輩よりもしっかりしてるんじゃないですか?」
「どうだろう、私がそんな特別しっかりして
いるわけではないと思うぞ?戦場ヶ原先輩も、
阿良々木先輩にはあんな接し方だけど、扇くんと話すとしたら、阿良々木先輩と同じような
接し方はしないんじゃないのか?」
「おぉぅ、適当に振ったのに真面目に返されて
しまいました…この手に余る言葉のボールは
駿河先輩にぶん投げておきましょう」
「ちゃんと言葉のキャッチボールをしろ。
投げ返せてないから。置いただけだから」
「はっはー。いやぁ駿河先輩をから…お喋り
するのは楽しいなぁ」
「確実に揶揄うのは楽しいなって言おうとしただろふざけんな。君には、先輩を、敬おう
という気持ちは無いのか?」
「ありますよ?ちゃんとしている人には」
「私がちゃんとしていないと言いたいのか!」
「ちゃんとしていると言われると思っていた事に吃驚してます。あなた自分の部屋があんなのでよく言われると思いましたね。愚か者というよりあなたは馬鹿ですかねぇ駿河先輩?」
「ぐうの音も出ない…ぐぅぅ…!」
「出てるじゃないですか、ぐうの音」
「ぐぎぎぎぎ……」
「そんな歯軋りしたら歯並びが悪くなっちゃい
ますよ?歯並びが悪くなったら、阿良々木火憐
ちゃんのように、阿良々木先輩に歯科治療と
いう名のセクハラをさせられるかもしれませんね。あぁでも、阿良々木先輩、あなたの裸に
興味無いんでしたっけ。よかったですね、普通に治療してもらえますよ」
「その時は阿良々木先輩に頼まず普通に歯医者に行くよ…」
「もしも阿良々木先輩のような変態的治療が
お望みとあらば、不肖この僕が務めさせて
いただきますけれど」
「よし決めた。絶対に歯医者に行く。君にも
阿良々木先輩にも頼らない」
「さて、駿河先輩がそんな無駄とも言える決意表明をしたところで。もう締めますけど、駿河
先輩、最後に言い残した事はありませんか?」
「君は副音声でもそうだけど、最後に言い残した事はありませんかって、今から私を殺すのか?」
「おっとバレてしまいましたか。僕の正体を
暴いたからには、生かしておけませんねぇ」
「本当に殺しに来るのかよ!?」
「はっはー。冗談ですよ。しかし僕の駿河先輩に対する愛はそのぐらい大きいという事です」
「君は愛情が劣情になっていそうで怖いな」
「愛情と劣情は、僕からすると同じだと思って
いるのでどっちがどうとかないですよ?」
「私を殺したいぐらい愛が大きいのと同時に、
劣情も抱いているのか……。今後の君との
接し方を考えなくてはいけないな」
「駿河先輩はまた無駄に悩むらしいですが、
今回はここで終わりにしますよ。お相手は、
何かいいことあったらダーク!忍野扇と?」
「何かいいこと…いやなんで副音声みたいに
締めてるんだよ!?神原駿河だった!」
するがウィンドウ
「駿河先輩窓開けるの好きですよねー」
「あぁ、まぁ確かにそうだな」
「冷房付いてるんですから暑くないでしょう?なんでですか?」
「なんでと言われてもな。あー、風だよ風」
「風?」
「そうそう。窓開けたら、風が思いっきり
入ってくるだろ?それが気持ちいいんだよ」
「へぇ?走っている時と近いから、とかも
あるんですかね」
「あぁ、確かにそれもあるかもしれんな」
「自己分析が足りていませんねぇ駿河先輩」
「そこからよくもまぁ罵倒に持っていける
よな…」
「はっはー。しかし駿河先輩、窓から飛び出さないようにして下さいよ?危なっかしいんですから」
「しないよ。どちらかと言うと君の方が
危なっかしい行動が多いよ」
「まぁそれならいいんですけどね」
短編まとめ
--- 生花 ---
「あ、桜だ」
「やっぱり、ひらひらと舞い落ちるのは風情が
ありますねぇ。駿河先輩と比べるべくもなく」
「私と桜を比べるなよ」
「はっはー。でも僕、桜ってすぐに散っちゃうからそこまで好きじゃないんですよね」
「あぁ、まぁ、それは致し方ない事だけれど」
「そもそも、生花より造花の方がいい
でしょう?一生枯れることが無いんですから。プレゼントにはそっちの方が持ってこい
でしょう」
「うーん、枯れるからこそ生花にする人も
いるんじゃないのか?」
「例えば?」
「……羽川先輩とか……」
「あり得そうな話をするのはやめておき
ましょう、ちょっと背筋が凍りました」
「そうだな、やめておこう……」
---
--- 夢オチ ---
「なーでこーだYO!」
「大変だ、千石ちゃんがDJ撫子になって
しまった!阿良々木先輩に電話しなきゃ」
「はっ!私は一体何を…!あ扇さん?!」
「千石ちゃん、意識を取り戻したかい?」
「うっ頭が」
「千石ちゃん!あぁまた意識が!」
「ぐぉぁぁぁぁぉぉぉぉ!」
「怪獣撫子に!咆哮を上げるだけでキレ撫子と変わらないと言われてしまっている撫子だ!」
「あぁん?!なんだてめぇ!」
「噂をすればキレ撫子に!」
「え〜まじウケるんだけど〜それなぁ〜」
「あ!1番まともに見える媚び撫子だ!でも
この子単体で見たら割とまともじゃない!」
「あ、あの…えっと…ごめんなさい…」
「おと撫子だ!チワワみたいでかわいいけれど
この子が1番おかしい!このブルマが!」
「ぶっ殺すんだ!ぶっ殺すんだ!」
「神撫子だ!この子1番頭おかしい!」
「はっ!今過去の私を巡っていた気が
するよ?!一つよくわからないのいたけど」
「千石ちゃん、落ち着いて。今の状況を思い
出して」
「ということは…!!?!」
---
--- 体重 ---
「扇くん細いよなぁ…」
「褒めてくれているんですか?」
「どちらかと言うと健康面の心配をしている」
「はっはー。ご安心を、普通に食べてますよ。
男子高校生に必要な食品摂取量には満たして
います」
「食品摂取量とか言うなよ…」
「神原先輩は逆に、高カロリーなものを食べた分落としてますから、食べても太らないのとは少し違いますよね」
「うん、まぁそうだな」
「僕がそんなに食べちゃったら、吐いちゃう
かもしれませんよ」
「私大量に食べている訳ではないからな!?」
「僕、食べ放題とか行っても、そんなに
食べられないんですよ。いっぱい食べられる人羨ましいです」
「私も別に大食いという訳ではないからなぁ。
阿良々木先輩とかはいいよな、あの人運動
しなくても太らないらしいし」
「ダイエット女子の敵になりそうですねぇ」
「私も正直羨ましいよ。私も運動しなければ
普通に太るからな」
「太った神原先輩も、見てみたい気は
しますね」
「仮に太ったとしても、君には絶対に
見せないよ」
「そりゃ残念」
扇くんと駿河、扇くんと撫子、扇くんと駿河の短編と言えるのか怪しい三本をまとめました。
中間の話は完全にノリで書きました。
反省してます。更生しませんが。
最近ト書を書かず、地の文を書かずという
書き方にハマってしまいました。いや、正直に言い直そう、サボりまくっています。
反省はしても更生はしない。それが私
するがチャット
「なぁ扇くん」
「なんでしょう駿河先輩」
「君、私の事をなんで呼んでる?」
「神原先輩の事をなんて呼んでいるかって質問
ですか?そりゃあ神原先輩でしょう」
「やっぱりな」
「なんですか?後輩の言葉尻を捉えて、いい気になりたいんですか?」
「人聞の悪い事を言うんじゃない。君、私の事を駿河先輩って言ったり神原先輩って言ったりしてるだろ。どっちか一つの呼び方に
固定しろ」
「えー、そんな細かい事気にしませんよ誰も」
「私が気にする大いに気にする」
「ぐちぐち煩いなぁ神原は」
「先輩を呼び捨てにするな。そしてさらっと
タメ口を使うな」
「煩い口はキスで塞いでやろうかって台詞、
ありがちですけど実際されたらちょっとや
ですよね」
「話を飛ばすんじゃない。ちょっとやより結構
嫌だよ?話を遮られてるのと同じだからな
アレ、そういう雰囲気に持ち込んで逸らしてるだけで」
「じゃあ駿河の事なんて呼んだらいいん
ですか?」
「だから呼び捨てにするな。神原先輩か駿河
先輩どっちかに統一しろと言っているんだよ、私は!」
「人生全敗のくせに煩いですね、人生先輩」
「やめろその呼び方!今までの呼び方のうち
1番嫌だ、今すぐやめろ」
「やなこった」
「やなこったじゃないやめろ」
「やめろと言われて嫌だと言っても、その
やめろと言われた行動をするかと言われたら
そうじゃないですよね」
「頭が痛くなるタイプの話をするな!そして
また話を逸らすな!人生先輩とかいう呼名も
最悪だけど話を明らかに逸らそうとされるのもいやだな!」
「煩い口です。キスで塞いでやりましょうか」
「話を遮るな。君とキスするとかあんまり想像
したくないな、できないし」
「なんなら今しちゃいます?」
「そこから一歩でも動いたらこのゴミ山を投擲
するからな」
「ようやくここで周囲の状況を説明
しましたか。おっそいですね、馬鹿じゃない
ですか?」
「だから先輩に向かって馬鹿とか言うなって。
確かに今の今まで何も言わなかったけどさ」
「えー、なんの話でしたっけ?神原先輩が
ベロチュードクとかいう駄洒落に爆笑した話
でしたっけ?」
「違うよ、それ戦場ヶ原先輩の話だろ?しかも
私別に爆笑とかしてないから」
「じゃあ何なんですか?犯人はヤスって話
ですか?僕にネタバレとかいい度胸ですね」
「もはやなんの関係も無い話になってるし。
犯人はヤスとか、なんならタイトルよりも有名だろ。ミステリーとか推理ものが好きな君なら普通に知ってるんじゃないのか?」
「ゲームは専門外なんです」
「じゃあネタバレしてもいいだろ」
「それはなんか違うじゃないですかー、ほら、
こう、なんか、ね?」
「ね?とか言われても分かるか」
「神原先輩だし、わからないのもしょうがない
です」
「本当に腹が立つな〜この後輩」
「はっはー。逆に神原先輩も、扇くんと呼ばずに、扇と呼び捨てにしてもいいですよ?」
「神原先輩もってそれ、君も呼び捨てにしようとしてるじゃないか。嫌だよ、しないよ。何が
あったら君を呼び捨てにすることになるんだ」
「そりゃあ、結婚した時だろ?」
「だからタメ口やめろ。なんだよ、また副音声の時みたいにプロポーズしまくろうとしてる
のか?やめてくれよ、あの後、挑発的な長髪をした阿良々木先輩から、『神原お前、後輩に
手を出し始めたのか…?』って引かれたん
だから。一体どんな勘違いなんだか…」
「確かにとんだ勘違いですね。
後輩が先輩に手を出し始めたと言った方がまだマシです」
「その言い方も最悪だよ」
「あーあ、せっかく神原先輩の家に遊びに来たのに、片付けを手伝わされるとか。
がっかりですよ」
「何にがっかりしているのか知らないけど君、勝手に来てるんだからな?私は呼んでない」
「そうでした。うっかりうっかり」
「君の場合わざとだとしか思えないんだよ」
「ははぁ、ならばノリに乗ってかみまみたと
言っておきましょうか。まみまみま」
「あの八九寺真宵ちゃんよりも噛みまくって
いるじゃないか…」
「八九寺ちゃんも今や神様ですかぁ、感慨深い
ものが無いでもないですね」
「君の場合、八九寺ちゃんの方じゃなくて、
前任の千石ちゃんの方に思うところがあれよ」
「まぁ無いとは言わないですけど、それは私の話であって僕の話じゃないですからねぇ。
八九寺ちゃんも同様ですけど、僕は何とも
思いません」
「なんだよそのふわふわした物言い」
「どうせ神原先輩には分からないことですし
分からなくていいことです。そもそもこの話の始まりを忘れてしまっているような神原先輩
には、殊更意味の無い話でした」
「なんで君そんなに普通の会話の合間に悪口を
言えるんだよ、才能か?」
「才能がある人というのは、神原先輩や、羽川先輩、戦場ヶ原先輩のことを指します。
戦場ヶ原先輩と比べて僕はそんなに上手いこと言えるわけでも無いですからね。才はないと
言えましょう」
「お、おぅ…。戦場ヶ原先輩と比べてしまうと、誰だって上手く言えて無いような気がするけど」
「さ、手を動かしてくださいよ。
まさかほんとにキスでもしないといけないん
ですか?僕はしませんからね、自分でよろしくやってくださいよ」
「君、今自分が、勝手に来て勝手に手伝って
いるという事を理解してるか?」
「勿論」
「じゃあなんなんだその態度」
「ついやりたくなっちゃって」
「ついやりたくなっちゃって、であんな態度
取られた私の気持ちにもなれよ」
「あなたじゃないので気持ちになることは
出来ません」
「なんだよいきなり塩対応だな、あとキッパリ
言い切るんじゃない」
「塩対応の反対って、砂糖対応なんですかね?
その場合砂糖対応って何って話ですけど」
「もう収拾がつかないからやめろ」
「さいですか。じゃあどうやってこの話を
締めるんですか?」
「何で…ってそりゃあここはコールで締めたら
いいだろ?」
「タイガー!ファイアー!サイバー!
ファイバー!ダイバー!バイバー!
ジャージャー!」
「それはアイドルのコール」
「それじゃあ、キャベツとコーンを、
マヨネーズベースのドレッシングで和えた
サラダを作って終了という事ですね」
「それはコールスロー」
「じゃあ患者が看護師に用事や病状の変化を
知らせる為に押すアレを押すんですか?」
「それはナースコール」
「あぁ、キャンプ用品を多く販売している
ブランドの商品を購入紹介すると」
「それはコールマン…ってなんでコールセンターが出てこないんだよ」
「コールガールも行こうと思ったんですけど、
流石にR18くらっちゃうかなってやめました」
「微妙に話が噛み合ってないな。しかもコール
ガールって…本当に言わなくてよかったよ」
「いい仕事したでしょう?」
「してないよ」
「ちぇっ。」
「君はエーミールか?」
「そうかそうか、つまり君はそんな奴
なんだな」
「冷然と、正義を盾に、侮るように私の前に
立っていた…って冷然でも何でもないし君が
正義を盾にするとか想像がつかないけど」
「次にその文が出てくるのは流石ですけれど、僕が模範少年であるという事になりますよ?
何も言わなくていいんですか?」
「とっても誘導されているから正直従いたくはないけれど、聞いといてあげよう、君が
模範少年だったら私はどうなるんだよ」
「んー、悪漢?」
「悪漢?じゃないよ。先輩に向かって言うべき
言葉じゃないだろ、私女だし」
「残念、悪漢は悪者という意味にも使えるん
です。勉強不足ですね」
「うざ…」
「後輩に向かってシンプルにうざとか
言わないでくださいよ。もしも僕が気に病んで泣いちゃったらどう責任取るんです?」
「逆逆、君に私が泣かされてるんだよ」
「結構なお手前で」
「茶道みたいに締めようとするな」
「砂糖?また砂糖対応の話ですか?自分で
やめろと言っておきながら、やっぱり話すん
ですね。ツンデレですか、あなたは」
「違う違う、煎茶の茶に道理の道と書く茶道だと言ったんだ」
「あー、茶頭」
「惜しいけど違うんだよ…誰も茶髪の頭なんて
してないだろ」
「?…あー……これは、またしても神原先輩の
無知が知れ渡ってしまいますね」
「はぁ?」
「茶頭の事を、漢字を見て馬鹿正直に茶髪の頭だと思ってらっしゃるようですが。茶事を掌る頭という意味ですよ」
「えっ、そうなのか?」
「そうです。あーあ、またがっかりしちゃい
ました。阿良々木先輩は愚かな人でしたけど、
神原先輩は馬鹿な人ですね。ふふふ、馬鹿だ」
「笑い方を上品にしても言ってることは大分
酷いからな。先輩に向かって馬鹿な人とか」
「おい神原」
「またタメ口使ってくるよこの後輩…」
「お前それで今後やっていけると思ってる
のか」
「す、すいません…?」
「すいませんじゃないだろ、はいかYESで
答えろ」
「YES…?」
「舐めてんのか」
「君がだよ」
「戻っちゃった」
「なんだその選択肢。はいかYESって。どんな
ブラック企業だ」
「ほら、僕って黒いから」
「そうだな、君は本当に黒いよ。腹黒いしな」
「なんと、神原先輩如きに一本取られてしまい
ましたね。屈辱的です」
「如きとか言うな。屈辱的って…」
「まぁ羽川先輩に負けるよりはマシですし。
いいとしましょう」
「どれだけ羽川先輩の事嫌いなんだよ」
「はっはー。で、いつ締めるんですか?神原
先輩とこうして談笑しているのも、僕はとても楽しいですけれど、しかしちょっとした短編
小説ぐらいの文字数にはなってきています」
「君はなんでこうも、そうやってメタフィク
ションに触れていくのかなぁ…。そもそも
メタ発言って御法度だろ」
「いやいや、その考え方は些か古過ぎますよ?
千石ちゃん(の中の人)は別アニメで服のセンスを嘆いていたじゃないですか。アニメの名前は確かポプ」
「わかった、私の誤認だったと認める」
「誤認だったと認めるって、ちょっと変な感じですね」
「茶々を入れるな。そのアニメは、まぁ
そうだとしても、このシリーズでそういう
メタ的な話はしていないだろ」
「残念、化物語時点から挟まれています。
あなたの初出作品であり、記念すべきシリーズの一作目だというのに、読んでいらっしゃら
ないのですか?」
「私は私が登場するところだけしか読まない」
「流石戦場ヶ原先輩の後輩だけはありますね」
「今思えば、あの時の誉め殺しキャラ、
というか、甘言誉舌キャラも、今じゃ中々
見なくなってしまったな…あの子、元気かな」
「他人事のように言ってますけど、あなたの事
ですからねー。あ、そうだ。久々に誉め殺し
キャラ、復活させてみたらどうです?阿良々木先輩達を久々に褒めちぎってみては?」
「この散らかった部屋には私と君しかいないん
だから言ったとしても意味ないだろ、あと君の前では言いたくない」
「でも、私の前だと普通に言ってません
でしたか?僕の前では言ったことが無くても」
「…?何言ってるんだ?」
「いえ失敬、関係のない事でした」
「失敬というと、君は読んで字の如く失敬だ」
「うわぁ、自分の後輩に向かって酷い
言いよう。阿良々木先輩に泣きついても
いいんですよ?」
「なんだよその脅し」
「戦場ヶ原先輩に言ってもいいです」
「君と戦場ヶ原先輩って面識あったか?」
「いいえ、ないです」
「だろうな」
「そうだそうだ、さっきの神原先輩の"君は
読んで字の如く失敬だな"という発言の意味が、わからない人がいるかもしれないので補足しておきましょう。失敬を分解すると、"失う"と
"敬う"になります。つまり神原先輩は、僕が
神原先輩に対する敬意を失っているという
意味合いで言ったのです」
「やめろよその解説。恥ずかしくなるだろ」
「どうぞ存分に恥ずかしくなってください。
その様子を僕は全世界推定百八十万人の皆様にコンバトラーと叫びながら詳しくお知らせ
いたしますので」
「恥ずかしくなれるか。顔が赤くなるどころか
青くなるわ。あと推定人口少なすぎだろ」
「八九寺ちゃんのセリフを真似しようと
思ったんですけどね、何人だったか
忘れちゃいました」
「そうか…。いやほんと、いつ締めよう?」
「また締め方の話だ。それ4回目ですから」
「一応言っておくが、扇くんが2回言っている
からな?」
「あはは、申し訳ないです」
「その割には笑ってるが」
「あはははは、はははは、あははは」
「笑い過ぎだろ!?」
「はは、あはは、はーっ、ははっ、はーっ」
「落ち着いたか…?いきなりなんで笑い出したんだよ、びっくりしただろ」
「なんか、神原先輩の顔を見たら。ははっ。
笑えてきちゃって。ふふっ。あーほんと。
ははっ。可笑しい人っ。ふふ。
あなたの事好きですよ、ははっ」
「笑いながら好きですとか言われても、一ミリもキュンとしないな。しかも人の顔見て
大笑いするとか。ましてや好きだとかファン
だとか称する人の事を。酷いやつだよ、
君の方が」
「でも僕の事、嫌いではないですよね?
甘っちょろい人ですよねー、あなたも、
阿良々木先輩も」
「ぐうの音も出ないけれど、先輩に向かって
甘っちょろい人とか言うな」
「そっちの片付け終わりました?」
「切り替え早いな…ってもうそっち側
終わったのか?」
「そりゃあ何十分も経ってたら終わりますよ。
一体あなたはいつまでかかるんですか」
「うっ…。い、一旦休憩を入れよう。
あー私、喉乾いたなー、水飲んでくるよ」
「僕の分、持ってきて下さいよ?」
「図々しい後輩め…。掃除の手伝い、
助かってるから持ってくるけどさ」
「麦茶でお願いします、氷入りで」
「やっぱ図々しいな君」
「暑いんですもん、冷房が付いてても冷たい
飲み物くらい欲しくなります。アイスを
所望してないだけいいと思ってください。
斧乃木ちゃん呼び出しますよ?」
「私の家のアイスが食い尽くされるっ?!」
「まぁ、あの斧乃木ちゃんもそこまでは
食べないと思いますけど」
「じゃあ、私キッチンに行ってくるから。
そこら辺のBL読んで待っててくれ」
「誰が読むかってんです…………はぁ」
Truth or Dare
「Truth or Dare」
私はごくりと唾を飲み込んだ。汗が頬を伝って顎を撫で、そしてぽたりと落ちる。
扇くんはにやにやとした笑みでこちらを
見つめる。
その手には、キング。
私の手には、クイーン。
「……Dare」
呟くように、低く答えた。
扇くんは嬉しげで楽しげなあの笑みを浮かべ、
私に難題を突きつけた。
絶対に出来るわけがない、無理難題を。
_____________________
「駿河先輩、真実か挑戦ゲームしませんか?」
扇くんは、私の部屋の掃除の最中、トランプ
片手にそんな事を言ってきた。いや、まずそのトランプは一体どこから持ってきたんだ。
「駿河先輩のこの膨大なコレクションの整理中に発見したんですよ」
勝手に私のものを拾ってゲームをしようと提案しているのか、この子は。今まで何度も感じて
きてはいるけれど、かなり価値観が違うと
思う。ともあれ、数時間程掃除をしていたためかなり脳が休憩を求めていたし、ルールはよく知らないけれど何となく興味が湧いたのでその提案に応じる事にした。部屋の真ん中に何とか作ったスペースにはテーブルが置かれている。水分補給用にお茶とコップが置かれているだけの無駄に幅を取っていたテーブルに腕を乗せ、軽く胡座をかいて畳に座る。真正面に座った
扇くんを見た。
「まぁ、いいけど。でも私、そのゲームの
ルール知らないんだよ」
「おや、そうでしたか。そう複雑でも
ありませんし、やりながらご説明しましょう」
扇くんはシャッシャッとトランプをシャッフルしながらそう言った。そして十分混ざった
トランプの山をテーブルの真ん中に乗せる。
勿論バックが表だ。
「このトランプの山札から一枚引いて下さい。
引いたら相手に見せないように注意して数字を確認してください」
扇くんが先に一枚引いて、私もそれに続く。
少しワクワクとしながら、手札を見てみた。
数字は10。スートはクラブだ。扇くんは自らの手札をさっと見た後、
「自分の手札が確認できましたら、せーので
場に出します。はい、せーの」
そう言って手札をテーブルに出した。
私も慌てて手札を出す。
勿論ここはフェイスが表。
扇くんの手札は、スペードの5。
「駿河先輩の手札の数字は10。
僕は5ですので、駿河先輩の勝ちですね」
扇くんは少し目を細めて、私に言った。
若干不気味な笑みに見える。
少々身構えていると、扇くんは説明を始めた。
「勝った方は、負けた方に『真実か挑戦か』と
尋ねます。真実、と答えた場合、何か一つ質問をして下さい。質問の内容は何でもいい
ですよ。逆に挑戦、と答えた場合、何か一つ
お題を出します。このお題も何でもありです」
「今回の場合は私が勝ったから、私が扇くんに
尋ねる…ってことか」
私はチラリと、テーブルに乗っている、
フェイスが表にされた2枚のトランプに目を
やった。すぐに扇くんの方に目をやると、
扇くんは手の甲を頬に当てて頬杖をついて、
私を見つめていた。
「えぇ、そうです」
扇くんはいつもよりほんの少し低い声で
答えた。そして頬杖をやめ、腕を下ろし
テーブルに乗せる。見透かされたような、
そんな感覚を受けたものの、平静を取り繕って言葉を発した。
「えーっと…。真実か、挑戦か」
「挑戦」
扇くんは間髪入れずに答えて、そして私が出題するお題を心待ちにしているかのような顔を
した。いや、違う。どう揶揄ってやろうか、
というような顔だった。結構、いやかなり
ムカつく笑みだ。さて、少々むかつきながら
でも何かお題を出さなければいけない。
何にしたものか…
「あー…何にしようかな…」
「なんでもいいですよ。たとえ駿河先輩が
どんな変態的なお題を出そうと、僕はちゃんと実行してあげますので」
「その場合は実行せずに諌めろ」
扇くんはまたにやにやとした笑みを浮かべて
いる。その真っ黒い目を少しばかり細めた。
顎に手を添えて、少し考える。数秒思考して、
思いついた事を言ってみた。
「んー…じゃあそうだな、無難にモノマネとかにしておくか」
「無難すぎて面白くないですね。
やりますけれど」
扇くんはこほんとわざとらしい咳払いをした。
誰のモノマネをするのだろう。というか
この子、モノマネとかできるのだろうか。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
「おいそれレイニーデヴィルのモノマネだろ!
何で無駄に再現度高いんだ!」
数あるモノマネの選択肢の中で、わざわざ
レイニーデヴィルをチョイスしてくるあたり中々嫌らしいやつだ。(というかなんだか前も
この子、レイニーデヴィルのモノマネしてた
ような…)それこそ無難に、阿良々木先輩の
モノマネとかでもよかったのに。
「いやぁ、阿良々木先輩は無理ですよ。だって僕、あの人のダブルですし」
ダブル?何のことだろう。
「あぁ失礼。何でもありません」
何でもないらしい。
「まぁそれは置いておいたとしても、あの人の
モノマネなんて不可能に等しいですよ。あんな
ロリコンで報道規制の格好の的でいつテレビに
出られなくなるか分からないやつのモノマネ
とかしたくないです。確実に同類と見られる
じゃないですか」
否定はできなかった。
というか、納得してしまった。
____________________
「あっははは!負けすぎでしょ、神原先輩」
珍しく扇くんが声を上げて笑ったかと思えば、
私の運の無さを馬鹿にし始めた。一発殴って
やりたい。しかし否定出来ないことなので、
なんとかぐっと堪えるしかないのがとても
悩ましい。そもそも私が一番最初の勝負で
珍しく勝つことができたのか謎だったのだ。
私は運の絡むものは基本負けるのに。そして
なぜ私は愚かにもこの勝負を引き受けて
しまったのだろう。ここまで来ると全てを
穿った目で見てしまい、この子は全て目論んでいたような気さえしてくる。最初、私にゲームをしようと言ったあの瞬間から全てを計画していたような。なんて私が勘ぐっている最中、
扇くんは肩を小さく振わせ、時折小さい笑い声を漏らしていた。多分、なんとか笑いを
抑えようとしている最中なんだろうけれど、
当事者である私からするとそれすらもイラッとくる。
「ふっ…あはっ…す、駿河先輩……こんなっ…
こんな運…無いんだっ…」
「笑い過ぎだろ…」
「はーっ…はーっ…ふふっ……はーっ」
扇くんは息を大きく吸っては吐いてを
繰り返し、なんとか抑えようとしていた。
5回目あたりでようやく落ち着いたらしく、
いつもの笑みでこちらを見つめていた。先ほどまでの大笑いはどこへやら、お澄まし顔だ。
「駿河先輩、ほんっとうに弱いですね。僕の
想定を大きく超えてきててびっくりです。今のところ、最初の勝負も含めると5回中4回負け
ですよ」
扇くんはそう言って、テーブルに置かれた
捨て札を突っついた。何も言えない。何か
言えることも無いのでこの際、負け続けている私としてはだいぶ屈辱的なことではあるが、
今までの内容を軽く振り返っておこう。
「真実」
「一番尊敬している人は?」
「阿良々木先輩」
「挑戦」
「僕をちゃんと心を込めて褒めてください」
「……あ。頭がよくてすごいね」
(この後扇くんから何度か抗議があったものの、この挑戦はこれで終わった)
「真実」
「誰かに好かれるために嘘をついたことは?」
「ある」
「挑戦」
「もしも次負けた場合は挑戦を選択して
ください」
最後の挑戦の内容だけなんだそれと言いたい
内容だったけれど、概ね変なものは無かった。扇くんのことだから、何か過激なことでも要求してくるのかと思ったけれどそんな事はなく、内心ホッとしている。
「僕のことそんな事を要求してくる奴だと
思ってたんですか?心外だなぁ」
「先輩に劣情を催してるやつが言っても説得力ないだろ」
扇くんはくすくすと笑って
「僕からすると、愛情も劣情も似たようなものだと思ってますから」
「余計に不安になったよ。その文言がない方がまだよかったレベルだ」
そう言うとまた扇くんは楽しげに目を細め、
にやにやとした笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「そろそろいい時間にもなってきてますし、
次で最後にしましょうか」
「ん。あぁ、そうだな」
そう言いながら山札から一枚手に取る。
扇くんもその後に続いて一枚取った。ちらりと捲るようにしてカードを確認する。
ハートのクイーン。これは確実に勝った。
先ほどの4回で、キングが出たのは2回。
ここでキングが出てくる確率はとても低い。
つまりは殆ど私の勝ちが約束されているようなものだ。今日は本当に珍しい。基本的に一勝もできずに終わることも多いのに、二勝もできるとは。思わず口元が緩んで、にやりと笑って
しまいそうになるのを堪えながら、扇くんに
尋ねる。
「扇くん、準備はいいか?」
扇くんは何も言わず、こくりと頷いた。
その目はにやにやと細まっていて、
とてもとても楽しそうな笑みだった。
一回叩いてみたいな、その顔
「せーの」
2枚のトランプがフェイスを表にしてテーブルに出された。
勝ったのは
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久々に書いた。リドルストーリーにしたのは
作者の気力が尽きたから。それらしく考えて
くれてれば嬉しい