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目次
僥倖のクリームソーダ
一話完結にしたかった。
寒い冬、暗い外からの雪を掻く音を聞きながら、鼻歌を歌っていた。
グツグツと煮えるスープを少しすくってお皿に乗せる。
ゆっくりと口に近づけ味見をすると、少し物足りない感じがしたので塩を加えた。
頷き弱火にして蓋を閉める。
私はいつものようにエプロンを外して分厚い上着を着た。
玄関のドアを開くと、昨日よりも冷たい風が家の中に入っていった。
ライトの光を頼りに父と姉弟を探しに行く。
家の裏側に行くと、雪だるまを作る弟と、せっせと雪を搔く父が居た。
「ご飯できたよ。ってまた雪で遊んでるー。」
弟はごめーんと軽く返事をすると晩御飯に待ちきれず、先に家に入っていった。
「いつもありがとうな、|璃乎《りお》。」
スコップを床に突き刺し、汗を袖で拭く父。
都会にいたときは冬に汗なんか掻くことあるのかと思っていたが、それは今では普通になっている。
母が亡くなってからは、父は料理が出来ないので代わりに私がやっている。
もう高校生でもうすぐ大人になるんだからこれくらいできないとね。
父が家に戻っていくと、私は癖でポストの中を確認した。
「よし、今日はもうn…」
すると普段は来ない時間に、珍しく手紙が入っていた。
小さく、少し古びている。
左端には明院璃乎と送りての名前しか書かれていなかったが、取り合えず開けてみた。
中を見ると、不思議な文字があった。
『今夜、お前を送る。』
ただそれだけの文字が刻まれていた。
嫌がらせか何かかなと家に戻ろうとした。
すると足元にあった大きな石に躓き、不意に転んだ。
そして転んだ揺れで屋根に積もっていた雪が落ちてきた。
落ちた雪は私を覆いかぶさり、転んだ衝撃か何かで私は意識を失った。
---
「ううん…暑い……あれ暑い?」
灼熱の暑さで目を覚ますと、さっきいた場所と全く別の《《森》》にいた。
木々の葉の間から差し込む光に照らされ寝ぼけた体が一気に覚める。
さっきは真冬だったのに、今はまるで真夏のようだ。
もしかして意識を失っている間に誰かに連れ去られて熱帯雨林気候にでも来させられたのだろうか。
着るだけでもムシムシする上着をさっさと脱いで袖を捲った。
「真翔大丈夫かなぁ」
弟を思い出していると、森の奥から何かを射る音が聞こえた。
誰かいるのだろうか。
取り合えずどこか分からない此処から出るために人を探さなければ。
そう思い、射る音の方に歩いた。
音が近くなったと思えばいつの間にか一本の木を挟んだぐらいの距離にいた。
その人は男で馬に乗っていてクロスボウで何かを狙っていた。
明らかに日本人らしくない格好をしているし、どちらかと言うとおとぎ話に出てきそうな雰囲気だ。
男を観察していると向こうがふとこちらに振り向き、気づいたよう。
男は馬から降り、こちらに近づいて言った。
「君…どうして此処に?」
明らかに外国人なのに何故か言葉が解る。
「私も分かりません。突然気づいたら…」
困惑していると、男は取り合えず馬に乗れと言ってきたので言う通りに乗った。
「俺はクレス。クレス・リド・ルーストだ。君は?」
やっぱり外国人なんだ。
「えっと私は、璃乎です。」
「そうか《《リヲ》》か。良い名だな。ところでリヲはどこから来たんだ?近ければ案内出来るが。」
「日本から来たんですけど…」
クレスは驚いた顔をしている。
「二ホン?そんな国はないはずだが…この世界には主にメーズとハリウスとラガンとルーストの4つしかないが?」
え?じゃあ此処は地球じゃない?
ってことは私は…異世界転移してるって事⁈
「それになんだその格好は。この国では法律で女性は|スカート《ドレス》以外着用禁止なんだぞ
?」
「そうなんですか⁈」
不平等な法律ね…
スカートなんてあまり着た事ないんだけどなぁ
「知らなかったのか?リヲは一体何処から来たんだよ。…取り合えずバレる前に俺のところに来い。家ないんだろ?」
私は頷くとクレスは不思議に思ったようで困った顔をしていたが、少し笑顔になっていた。
馬に乗ったのが初めてで、とても風が気持よかった。
少しすると見たことのない町が見えた。町の奥には城が建てられている。
クレスはどんな所に住んでいるのかなと興味が沸いた。
しかし、クレスが入ったのは城だった。
「ちょ、本当にいいですって!」
「いえいえそんなの気にしないで。クレス様はあなたをお気に召されたのだから。こんな事初めてだわ。クレス様は狩りばかりして女の事なんて興味一つもなかったのに。」
メイドさんが言っていることを全く理解できない。
お城に入ったらクレスさんが急にメイドを連れてきて私にドレスを着てこいなんて。
今はドレスを選ばされている。
本当にこのままでいいのに。
森にいたからか少し汚れてるけど家に帰ったら洗えばいいし。
まぁ家の帰り方が分からないんだけど。
ドレス選びに躊躇していると、馬に乗っていた時とはまた別の…王子のような格好をしたクレスさんがやってきた。
「まだ選んでなかったのか。」
「すみません。でもいいんです!私がドレスを着る理由がありませんし。」
せめてメイド服がいい。
「じゃあ俺が決めてやる。」
私の言葉を無視して選び始めると、周りのメイドさん達はコソコソと何かを話していたり、笑顔になっていた。
「よし。これだ。」
クレスさんが選んだのは瑠璃色のドレスでスカートが徐々に淡い色になっているのが綺麗。
所々に花の刺繍がされていて私が着てもきっと似合わないだろう。
メイドさんが私に着せると、サービスと言って髪やメイクも整えられた。
メイクは苦手な方なので薄くしてほしいと言うと、元々が別嬪さんだからという別の意味で薄くなった。
なんかなぁ。
案内され、クレスの居る所へ行くと、クレスはこっちを見て驚いた。
少し顔が赤くなっている気がする。気のせいか。
「いいんじゃないか。」
「そ、そうですか?」
「あぁ、とてもよく似合っている。丁度これから食事だ。一緒にどうだ?」
「あぁはい。分かりました。」
食堂に行く途中、クレスさんは言った。
「リヲは珍人だな。本当に一体どこから来たのやら。」
「いやぁあはははは。ところで珍人って?」
異世界からやってきたとは恥をかいても言わん。
「この世界には4つの国で別れていると言っただろう。そしてその国ごとで瞳の色が違う。ここルーストは主に赤系統だ。他は黄、緑、青系統で別れる。しかしリヲはどれにも当てはまらない銀色の瞳だ。何か特別なのかもしれない。」
はぁ。
「そして更に、リヲの黒曜石のような美しい髪は見たことない。長く、清らかで美しい黒髪はリヲが初めてだ。この世界には数十人黒髪がいるがリヲのようなどこから見ても美しいのはリヲだけだな。」
シャンプーのせいかな?
「なぁリヲ、もし良かったらここに住まないか?」
「え?う、嬉しいですけど…」
「ならよかった。じゃあこれから世話になるな。」
クレスは黒曜石より美しい微笑みでそう言った。
でも、私は知らなかった。
この世界では一緒に住むというのは婚約と同じで、そして珍人は狙う対象になるという言うことを。
ノリで書きました(笑)