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桃色の記憶
2025/08/13
従姉妹の綾ちゃんに、久々に会うことになった。最後に綾ちゃんと会ったのは4年前。10歳だった私は14歳に、13歳だった綾ちゃんは17歳になっている。そう考えると綾ちゃんの存在がやけに遠くに感じけれど、実際に会ってみれば笑顔で迎えてくれた。久しぶりーっとハイテンションで挨拶を交わして、綾ちゃんの部屋に行く。白で統一された、清楚な部屋。4年前とは違う部屋に、心臓が早くなる。前は全体的に桃色の部屋だったのに、今は白なんだね。そう早口で伝えると、綾ちゃんはきょとんと首をかしげたあと、「覚えてないやー。」とおかしそうに笑った。その、鼻の詰まったような笑い方は4年前と変わっていなかった。「あ、そっか。まあ、そうか。4年だもんね。」変な奴だと思われなかったかと心配で、汗をかきながら答えた。
「変わったねー。美憂ちゃん。」不意に言われたその言葉に、えっと驚く。「大人っぽくなった。」私からしてみれば、綾ちゃんの方がずっとずっと大人っぽくなっている。「そうかな、成長かな…。」曖昧な返事をした。綾ちゃんがメイクをしていることに、今気づいた。前は、メイクなんてわかんないと言っていたのに。
私のスマホの振動音が部屋に響いた。「誰から?てかスマホ買ってもらったんだね。」綾ちゃんの言葉に、スマホを取り出しながら頷いた。通知を確認して、友達からだったと伝える。「ふうん。」その声がやけに艶っぽい。数秒の沈黙の後、「飲み物なにがいい?」と綾ちゃんが言った。明るい声だった。「麦茶か、オレンジジュースか、コーヒーか。」「あ、じゃあ、ジュースで。ありがとう。」「了解。」軽やかな足取りで部屋を出ていった綾ちゃんは、しばらくして、おぼんを持って戻ってきた。何をするでもなく正座して待っている私を見てもっと気楽にしなよーと笑った。「どーぞ。オレンジジュースね。」オレンジジュースの入ったコップを受け取る。綾ちゃんはコーヒー。「コーヒー飲めるの?」何気なく聞くと、綾ちゃんは口角をあげた。「もう17歳だからね。」私は小さく笑った後、そっかぁと答えた。コーヒーの香りが部屋に広がっていく。それが、ちょっとだけ息苦しかった。
冷めた視線はでもちょっとぬるい
まえがきわに
2025/09/18
「私にばっかり押し付けないでって言ってるじゃん!」
捺実が叫んだ。班活動で調べたことを、クラスメイトの前で発表する時間のことだった。うちの班の発表はぐだぐだで、席に戻りながら「ダメダメだったね。」と小さく笑い合っていた。捺実の大声に、クラスが水を打ったように静まり返った。そのあと一気にざわつき、クラスメイトの声で溢れかえる。「え、なになに?」「やば!キレてんじゃん。」いつもおとなしい捺実の大声は、クラスのみんなに大きな衝撃を与えたようだった。
「え、どうしたの、捺実?」捺実の幼馴染である遙が、動揺した様子で訊ねる。捺実はくちびるを震わせながらこぶしを握りしめた。「みんな何もしなかったじゃん。私が全部1人で調べてまとめたのに、なんで文句ばかり言うの。」私は何も言い返せなかった。私だけじゃなくて、班の全員が気まずそうに黙り込んでいた。全員、捺実に任せておけば大丈夫だろうと思って、何もしていなかった。捺実も「わかった、やっておくね。」と笑っていたし、不満を言われることもなかった。捺実はいつもそうだった。大人しくて優秀で優しくて、弱音を吐かない。だから強い人間なんだと思い込んでいたけれど、そうではないのかもしれなかった。「ごめん…。」班の誰かが言った。誰の声なのかはわからなかった。私の心がそんなことを判断する余裕もなかったからだろう。みんなの視線が痛かった。みんなに悪者だと認識されることへの恐怖とか、みんなの前で告発まがいのことをした捺実への苛立ちとか、罪悪感とか、焦りとか、そういうの全部が私の喉を締め付け、言葉を出せなくした。
捺実は深く息を吸って、班の全員を1人ずつ見つめたあと、心底軽蔑したような瞳で言った。「もういい。」そして踵を返すと、教室を出て行った。クラスメイトがまたざわついた。本来は事態を収めるべきなのにずっとあわあわと戸惑っていた担任が、捺実を追いかけていった。体から一気に力が抜け、私は自分の席に座った。私を責める捺実も、叱るであろう先生もいなくなったことに安心していた。「俺は謝ったのに…。」班の男子が、椅子に腰を下ろしながら小声で呟いていた。先ほど謝罪していたのは彼だったのだと理解した。私も謝っておくべきだったと思った。例え捺実の心に届かないような表面上だけの謝罪でも、謝ったという事実があれば、それだけで良いから。
うわああああ
父が死んだ日、母は笑った。
パスワード教えてみたいなコメント来たら個別で教える =͟͟͞͞(:3ꇤ[▓▓]=͟͟͞͞(¦3[▓▓]=͟͟͞͞(¦[▓▓=͟͟͞͞( [▓▓]
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この作品ってジャンルなに!!??
追記:サイコホラーらしい。初めて知ったジャンル‼️‼️‼️
見えない人は山吹とノート。音楽室はない。
(見たい人は、)ファンレターであなたのユーザーネームあるいはユーザーページのリンクを教えてくれたら、私がパスワード付きコメントを返すよ。
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雑巾の味
2025/10/08 雑巾の味
浅井律の毛先から、少し濁った色の水滴がぽたぽたと落ちていくのを、私はぼうっと眺めていた。今は掃除の時間だけれど、掃除に集中できるわけもなかった。浅井が頭から被っている濡れた雑巾が、ずるっと肩に落ちた。「やだー、うっかりしてて転んじゃった!」浅井に雑巾を投げた櫻美玲が、お茶目に笑いながら浅井の方を見た。転んだ拍子に雑巾を投げてしまったようだった。「浅井くん、ごめんね? ただでさえ汚い服が、もっと汚くなっちゃった!」弱く笑いながら、浅井は雑巾を取って返そうとしたが、櫻はそれを受け取らなかった。
「浅井くんの汚い顔に着いちゃったんだもん、使えないよ。」だからそれ、あげるね! と櫻はにっこり笑った。それはこの世の何よりも美しく可憐な笑顔で、きっと浅井以外の全員が見惚れてしまったのだろう、先ほどまであった小さな笑い声が無くなった。櫻の完璧な表情は、まるで天国にいるかのような不思議な感覚にさせた。浅井の嗚咽で、私は意識を現実に連れ戻すことができた。浅井は泣いていた。クラスメイトの始めた見た涙に、数人が動揺したように声を上げた。担任が来たら、やばくない? と誰かが言い、まあ大丈夫でしょと誰かが答えた。うちのクラスの担任はこのいじめをあまり大事にしたくないようで、今のところ見て見ぬふりをしている。
「男なのに、情けねーなー。」このクラスで1番背が高く体もがっしりとしている男子がそう言って笑った。確かに、浅井は情けなかった。女子よりも背が低く、体力もなく、肌の色も白かった。華奢で細くて、腕なんかは私が少し力を込めるだけでも折れてしまうんじゃないかというくらいだった。「もっと筋肉、つけりゃいいんじゃねえの?」その男子は涙を流したまま一歩も動かない浅井の、男子にしては長い髪の毛を掴み、ぐいと引っ張った。浅井はやめてと男子のことを突き飛ばそうとしたが、あんな貧弱な腕では突き飛ばせるわけもなかった。
私はふと今が掃除の時間であることを思い出して、教室の隅のロッカーを開けてホウキを取り出した。それを見て、櫻が可愛らしい声を出した。「あーっ、そうじゃん、掃除の時間じゃん! 浅井くんのせいで遅れちゃったあ。」声とは反対に、つららのように冷たく尖っている視線を浅井に向けたあと、櫻は跳ねるように新しい雑巾を取りに行った。急速に「掃除の時間」に戻っていくクラスメイトらの中で、浅井はただ震えていた。ホウキを持ったクラスメイトが、このゴミ大きすぎーと浅井を掃こうとした。クラスに笑いが溢れ、それに合わせたのか単純に面白かったのか、私の口元にも小さな笑みが浮かんだ。それが少し嫌だった。でもすぐに、周りに馴染めている証拠なのかな思い直して、喜びを感じた。その喜びを噛み締めてみたら、なんだかすごくまずかった。汚れた雑巾みたいだと思った。汚れた雑巾を食べたことなんて、一度だってないはずなのに。
あとがきがき
女の子
2025/11/24 女の子
彼女に告白されたのは、私たち以外誰もいない、17時45分の下駄箱だった。外から入ってくる朱色の光が眩しかった。彼女の口から唐突に放たれた好きという単語に、私はまず戸惑った。一秒の間に、断るという選択肢が出た。私は彼女のことを恋愛対象として見たことがなかったし、好きでもなんでもなかったからだ。次の一秒で、しかし案外、私のことを好きな人と付き合ってみてもいいのかもしれないと思った。さらに数秒、考えた。そのあと、目の前で顔を赤くし視線を泳がせている彼女に私は言った。「うん、付き合おう。」彼女は安心したようにはにかんだ。女の子、という感じの初々しい笑顔だった。初めて彼女が可愛らしい顔立ちをしていることを知った。
その日は一緒に帰った。緊張しているのか口数が少ない彼女との空間は、居心地が悪かった。それは私の心の表面に、薄い罪悪感が張っているからなのかもしれなかった。やっぱり断れば良かったという後悔が一瞬顔を覗かせた。
彼女に別れを告げられたのは、私たち以外誰もいない、17時55分の教室だった。冬になりかけの秋だった。日がだんだんと短くなっていて、教室は薄暗かった。彼女は付き合い始めた頃よりもいくらか大人っぽい笑顔を浮かべた。2ヶ月でこんなに表情が変わるものなのだなとなんだか驚いた。女の子ではなく、女性に見えた。
「聞いてる? ねえ。」私が10秒ほど返事をしないでいると、彼女は困ったように笑った。別れ話を始めているというのに、そのような空気ではなかった。普通の、どちらかといえばくだらない日常会話をしているみたいだった。「聞いてるよ。」彼女がまっすぐ私の目を見つめてくることに耐えられず、視線を時計にずらしながら頷いた。どうして彼女がいつもと同じ調子でいられるのか、私には全く理解ができなくて、たぶん彼女は大人なんだろうと感じた。遠くにいると感じた。ほんの少しの恐怖も感じた。「じゃあ…さよなら。」時計の長針がカチッと動いた。17時56分。彼女は私の返事を聞くことなく席を立ち上がり、教室を出て行った。どうして別れを告げられたのか聞けなかったなーとか、私は別れることを了承してないのになーとか、まあどうせ了承していたけれどとか、女々しい考えがいくつか浮かんできた。
薄暗い教室は肌寒かった。
パワー‼️‼️
無題833
いじめ表現あり。フィクション。
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🈚️〜〜〜〜〜〜〜。
いもうと
駄
2025/12/18 いもうと
妹が生まれた。お母さんは愛おしそうな目で生まれたばかりの妹を見る。壊れ物を扱うような手つきで抱く。私はそれが嫌い。お母さんだけじゃない、お父さんも妹に目をやるの。私のことなんてどうでもいいのかなって思う。もちろんそんなことはないんだろうし、誰も悪くないけど、けど、私は私から両親の視線を奪った妹が、ほんの少し嫌い。
「ただいまー」玄関のドアを開け、私は声を張り上げた。靴を脱いでランドセルをほとんど落とすみたいにして降ろす。「外さむかったあ。雪、降ってるよ」返事はない。お母さんと妹は、もしかしたら買い物に行ってるのかも知れない。ランドセルを引きずりながらリビングの方に行った。「おかあさ…」言いかけて、お母さんが床で寝ていることに気づいた。横には妹もいて、やっぱり寝ているので、たぶん妹を寝かしつける時に一緒に寝ちゃったんだろう。ちょっとつまんない気持ちになりながら、でも無理に起こしちゃいけないことはわかっているので、私は自分で自分のおやつを用意することにした。もう背伸びしないでも届く冷蔵庫を開け、プリンを一つとる。あと、スプーン。静かなリビングで食べてもあんまり美味しくなかった。
数分で食べ終え、暇になった私は、妹の顔を覗き込んだ。寝ている妹は、小さくて暖かそうでふやふやしていて、簡単に壊れてしまいそうだと思った。ちょっと興味が湧いた。憎いとまではいかないけど、ちょっとの怒りを込めてツンツンして、ちょっと仕返しみたいなことをしてやりたくなった。頬に触れた。柔らかい。簡単に形が変わる、マシュマロみたいだ。この鼻をつまんだらこの子は息ができなくなるんだろうなとか、息ができなくなったら、この子は死んじゃうなとか、頬をふにふにしながら考える。私は簡単にこの子を殺せてしまうのに、お母さんは全然私のことを警戒していないことに、変な罪悪感を抱く。私はこの子を簡単に殺せてしまうことに、恐怖も抱くの。
あんまり美味しくなかったプリンのカラメルが、喉の奥で甘味と苦味を増して気持ち悪い。甘いのに気持ち悪いなんて、初めてだ。私は自分の手を妹から離して、キッチンに走った。蛇口を捻ると水が勢いよく出てくる。手を洗う。石鹸を使って、何度も、念入りに、洗う。
作
賞味期限が2年くらい前に切れてた。新しいのはもう売ってない。
タイトル長!
2025/12/23 賞味期限が2年くらい前に切れてた。新しいのはもう売ってない。
「みづきちゃん、頭いいねー。」勉強がちょっとできただけでそう褒められた。
上達がちょっと早いだけで褒められた。言うことがちょっと大人びてるだけで褒められた。
中1までは神童だった。でも今はもう平均的な子。小学生の頃イキってただけに恥ずかしい。勉強は中の上だし、友達はあんまりいないし、顔も整ってるわけじゃない。物事の要点を掴むのが早いって、それだけがアイデンティティだったのに、中学生になったら周りの子に追いつかれてきて、私はただ早熟なだけだったんだと知った。
ここで、狂ったように努力できたら、私はまた天才として返り咲けるのかもしれない。平均的な子はできない。だから私もできないし、やりたくない。平均でいいじゃん十分じゃんと基準を下げ続ける。まだ下はたくさんいるもんと視線を落としていく。
小さい頃は私は日本最高峰の大学に入って大企業に就職してお金持ちになれるもんだと思ってた。そう言う可能性を私は秘めていると信じていた。小さい頃は神様もいたし、サンタさんもいたし、お化けもいた。親は老けないし死なないと思ってた。小さい頃は純粋で、自分を無条件に愛せていた。悲しみなんて知らなかった。自分がいつも遠くにいた気がした。ぼんやり、よくわかっていないまま他人を褒めてた。他人に褒められたら、疑いもせずに喜んでいた。良くも悪くも自己中心的だった。他人に気を使いすぎて疲れるということがなかった。
幼稚園の頃に戻れたらなーみたいなことを、1ヶ月に1回くらいの頻度で考える。あのとき、私の輪郭は曖昧で、ふにゃふにゃしていた。自分で輪郭を決めることがなかったから、どの方向にも伸びていけた。今みたいに輪郭を自分で決めて自分で自分を無意識に縛り付けているようなことがなかった。それに、あの時が1番神童っぽくて、1番すごいすごいって言われてた時期だったから。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、
昔から平凡だったら、まだマシだったのかもなあ。
「あーーー」長すぎやろ。
あの子は甘い地獄
リストカット表現あり。
2025/12/24 あの子は甘い地獄
「みて」彼女はそう言って自身の袖をまくり、細い手首を私に見せた。そこにはいくつかの赤い線が走っていた。私は息を呑んだ。
放課後の私たち以外だれもいない教室は、薄暗く、無音で、冷たい。数秒の沈黙の後、彼女は失望したように視線を落とし手首を隠した。その動きに我に返った私は、何を言うか決めていないまま、口を開いて声を出した。
「わ」私も。そう言った。長袖をまくって手首を出した。私の手首にも、彼女のと同じような赤い線がいくつも走っている。彼女はほんの少し目を見開き、私の顔を手首を交互に見やり、静かに笑った。
初めて見る彼女の笑顔は、想像より大人びていて、想像より美しくて、想像よりぐろかった。心臓が1回大きく波打って、嫌な音を立てた。彼女は言った。「アタシたち、友達ね」ほとんど反射的に、嫌だと思った。ずっと仲間が欲しいと願っていてたった今それが叶ったのに、この先に待っているのは底なし沼なのだと、救いの真逆にあるものなのだと、直感してしまった。生暖かい、ドロドロとした、例えるならげろみたいな、やつ。
私は無理やり口角を上げて曖昧に頷いた。鈍く輝く彼女の瞳から目を逸らしカバンを手にとった。私が帰るらしいと察した彼女は、目を細めた。
「また明日ね。ゆうかちゃん」私を苗字ではなく名前で呼ぶその声は、溶けかけの甘いチョコレートみたいだった。「うん。また明日…」嘘をついた。教室を出て、廊下を走った。体力なんてないから、すぐに苦しくなった。校門を出るまで一度も振り返らなかったし、振り返る余裕もなかった。
肺に流れ込んでくる冬の空気は、教室のそれよりもずっと冷えていた。肺が削られているようだった。でも、あの甘さに比べたら、こっちの方がずっとまし。
なんかーなんていうかーボケボケのどろどろのぐろぐろの醜い醜いしたやつ書きたいんだけど無理でした。
何が澱む
メリークリスマス🎅
2025/12/25 何が澱む
今日は雪が降っていた。私がコンビニで弁当を買って家に帰っている時、元クラスメイトに会った。
「奈那?」セーラー服に身を包み、暖色のマフラーに顔を埋めた竹口は、私を見て驚いたような声を上げた。無視して通り過ぎることもできず、私は視線を曖昧に動かしたまま口を開いた。「…ひさしぶり。」竹口は口角をあげ、久しぶりだねと言った。1年前よりも可愛らしくなっている気がした。
まだ11時半なのに竹口が外にいるということは、今日は中学校は半日だったのか。焦りのような、嫌悪のような、後ろめたさのような、よくわからない感情の中で考えていると、竹口は口を開いた。
「奈那が学校に来なくなって、もう、1年とか? ほんと久しぶりだね。」少しどきりとしながら、小さく頷いた。それで終わり。沈黙が場を支配する。コンビニの袋が手から落ちそうになったので持ち直す。寒いはずなのに手には汗が滲んでいた。この場から早く離れたいと思ってはいるが、それを言えるわけもなく、私はマスクの下で口をもごもごと動かした。「元気? マスクしてるけど…。」不意に問われ、ほとんど反射のように視線を竹口にやった。目が合う。「元気…マスクは、インフル予防で。」竹口は柔らかく笑った。可愛いというより、綺麗で大人びていた。たぶん、竹口は成長していた。身長も高くなっているし、髪型も、ボブだったのが低い位置でのポニーテールになっている。目の奥に何があるのかわからないのも、成長なのかもしれなかった。
「そっか、元気なら、よかった。」私はなぜ竹口はそんなふうに笑い、そんなことを言えるのか、理解ができなかった。
雪が降っていた。私の肩に落ちてきてすぐに溶ける。コンビニ弁当も冷えてしまう。まあそれは、家に帰ってチンすればいいだけなのだけど。
口を開いて声を出しかけて、やめた。私が不登校になったのは、竹口が原因だよと、そんなことを言ってもどうにもならない。
「じゃあね。」竹口は私に手を振って歩いて行った。私も歩き出す。竹口の足跡が積もった雪に残っているのが視界に入り、私はそれを、足跡とは逆向きに踏みつけていった。喉の奥に酸っぱい塊が迫り上がってきて気持ち悪い。竹口のそれをどれだけ踏みにじっても、惨めなのは変わらない。
クリスマスだから雪よ。