閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
1話 引きこもり
近未来。人類は脳に直接情報を送信する『ブレインネット
』を開発するにまで至っていた。その技術を使って開発されたのがバーチャルワールド『ユートピア』。そこで、依頼を受けたらどんな仕事もこなす『m』という天才ハッカーが活躍していた。彼、いや、彼女かも知れないが、mの正体は未だ誰も掴めていない。はずだった。
|橘《たちばな》|美桜《みお》は普通の男子高校生だった。いや、普通の引きこもり男子高校生だ。ユートピアに引きこもっているということを除いては。容姿は中の上ぐらいだろうか、少し癖のあるふわっとした綺麗な黒髪に黒い瞳。152cmと小柄ながらどこか風格がある。常にシャツにパーカーで耳元には不思議な形をしたイヤリングが片方だけ輝いている。彼はデジタル技術が大好きだった。そのせいで、というのは言い過ぎかも知れないが、そのせいで人とほとんど話してこなかった。その結果がこの現状というわけだ。
「はぁ〜、なんか面白いもんないかなぁ〜」
『ピコン』
美桜の目の前に手紙を持ったアバターがやってきた。
『xさんからお手紙です!』
アバターが喋る。
「お!どれどれ…『開封』。…へぇ、面白そうじゃん!『お受けします。m』っと、よし」
そう言って美桜はユートピアの深部へ潜り込んで行った。そう、彼こそが天才ハッカーのmだったのだ
「えっと〜…あ!ここかな?…ここだ!ふぅ〜ん…どれどれ…なるほど、少しは骨がありそうだな!」
『ビー!ビー!侵入者発見!侵入者発見!』
突然あたりが真っ赤に光り、大きな警報音が鳴り始めた。
「まじか…!」
美桜は急いで逃げる準備をする、と思いきやセキュリティをハッキングし出した。
「警報が鳴ろうと、ここを止めれば全部止まるんでしょ…!」
『あなたがmですか?』
急に背後から声がした。だが、美桜は振り向かない。
『そうだけど何?』
『私は警視庁サイバー犯罪対策課、特務AI捜査班の|A.I.D.A.《アイーダ》です』
『俺を捕まえにきたってこと?』
美桜は気にせず作業を続けている。
『いいえ。あなたに協力して欲しいのです』
そこで初めて美桜の手が止まる。
『協力…?』
美桜がゆっくりと振り向く。そこには、スーツを着たなんとも言えない顔のアバターが立っていた。
『ええ、サイバー犯罪組織、|Terios《テリオス》の捜査に協力して欲しいのです』
スッと美桜の手がA.I.D.A.の側まで伸びる。
『パキンッ!』
その手が握り潰したのはガラス細工のような歯車だった。すると、先ほどまで消魂しく鳴り響いていたサイレンがピタリと止んだ。
『少し、静かな所で話そうか』
A.I.D.A.が美桜についていく形で二人は歩いていた。
『ところで、先程のあなたが侵入していたサーバーは警視庁のサーバーだったのですが、そのセキュリティをいとも容易く破っていましたね』
A.I.D.A.がただ事実を述べただけのつまらない日記のように話し出す。
『ヘェ〜ソウナンダ』
『その能力は噂以上ですね。私たちはあなたを仲間に招待したいのです』
美桜が立ち止まる。
『Teriosについてどのぐらい知ってる?』
その目は先程までとは打って変わってとても暗い光を宿していた。
『はい。Teriosについての情報を開示します。彼らは最近名を上げてきているサイバー犯罪組織です。リーダーの|zeus《ゼウス》を中心とした少し宗教的な組織です。今のところ一般市民への実害は無いのですが、他組織を飲み込み勢力を拡大しています。幹部のような存在が6名いる模様ですがリーダーを含め素性は不明です。私たちがわかっているのは以上で、現在捜査中です』
『ふ〜ん…大したこと掴めて無いじゃん。俺はパス。一人の方が楽だし』
A.I.D.A.はまるでこの答えがわかっていたかのように機械的に言う。
『あなたに拒否権はありません。橘 美桜さん』
『…!は⁈…なっなまえ…ちょっ…セキュリティは作動してるしサーバーも…大丈夫…冗談か?いや、にしては…』
A.I.D.A.は今までと変わらない単調な声で言う。
『明日、あなたのご自宅に伺います』
美桜の回答は聞かず、接続は一方的に切られた。
『ちょっ…!』
広大なユートピアの中で、美桜は一人茫然と立ち尽くしていた。
「明日、来る?家に…?はぁ!!?いや、無理だろ。俺が人前に…?無理無理!あっ…そもそも俺の家を特定できるわけないだろ…きっと出鱈目に違いない、でたらめに…」