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目次
遅刻の理由
「ちょっと遅くなる。」
唐突に来た彼からのLINE。
待ち合わせ時間はもう過ぎてしまっている。
私はそっとため息をついた。
#絢香#
今日はとても体が軽い。
なぜなら彼と待ち合わせをしているから。
今日は会社を定時でやめて、夕暮れの繁華街に二人でいく予定だ。
仕事を切り上げ、スキップするように退社する。
「彼氏さんと待ち合わせ~?」
同僚の美里がにやけながら近寄ってくる。
「フフーン。」
それだけで伝わったようだ。美里は手をヒラヒラとふりながら去っていった。
待ち合わせ場所は近くの公園。私は時間より早めについて、ブランコにの柱にもたれかかった。
待ち合わせ時間から10分過ぎ、20分過ぎ、30分過ぎた。
ピコーン
「ちょっと遅くなる。」
はぁ。とため息が出た。
「わかった。」
私はすっかり暗くなってしまった空を見上げた。
寒い。
コートの裾を合わせ、もう一度ため息をついた。
はっはっ。
吐く息が白い。
行きを切らしながら、目的地へと駆けた。
「おい!」
俺はブランコの側にたたずむ人影に向かって言った。
「絢香!」
街灯がつき、お互いの姿がはっきり見える。
「大輝!」
ハッとした風に彼女が振り返る。
「悪い。遅くなった。」
寒かっただろう。不安にさせてしまったかもしれない。
「何で...」
「これ、受け取ってくれないか?」
懐から小さな箱を取り出して、中を見せる。
方膝をついて、絢香の顔をじっと見つめる。
その顔には困惑と、怒りと、驚きが同時に浮かんでいた。
「絢香。俺と結婚してくれ。」
彼女の顔が泣きそうな風にクシャットとなる。
「これって。」
「俺の気持ちだよ。どうか受け取ってほしい。」
罵倒される覚悟でいた。
待ち合わせに遅れ、いきなりプロポーズ。
寒いなか長い時間待たせてしまった。
「はい。」
思わず顔をあげ、そして状況を理解した。
綺麗な手をとり、薬指に指輪をはめる。
俺たちは、
私達は、
満天の星空に祝福され、結婚を誓い合った。
初めて書いて見ました。
いかがでしょうか?
他の作品もよろしくです。m(._.)m
残酷な夜空
私の眼下にはまぶしいビルの群れがある。
私が空を見上げても、ただ白い空間があるだけ。
私はビルの群れを見つめる。
そこには人の生活が、流れがある。
灯りが点ると言うことは、そこに生きるがあると言うこと。
ああ、私はなぜあれに混ざれない。
人の流れとビルの群れと、私には見ることのできない夜空。
私はもう、夜空を見ることはないだろう。
残酷な夜空に思いを馳せて。
私はそっと目を閉じた。
私とは誰でしょうか?
良かったらファンレターで教えて!
好きな人の好きな人
「好きです!」
これが私の限界だ。顔は真っ赤、耳までも赤い。でも、これは私の全力だ。
この思いが先輩に届いたとしたら、いや、届かなくても、後悔はない。
私はしっかり前を向いた。
先輩への気持ちを知ったのは、憧れだった美術部に入部してすぐだったと思う。
繊細で、透き通るように綺麗な絵を描く先輩に、一目惚れしてしまった。
帰りのホームルームがおわると、私は一目散に美術室に向かう。そこには必ず、一番乗りで先輩がいる。
窓際のいつもの席で、静かに準備をしている。
私はそのとなりで、先輩と話ながら準備をする。
先輩は、最近はよく青い絵を描いている。
北極の寒さを連想させる海、その日の夕焼け混じりの空、そして地球。
先輩は青い絵の具をふんだんに使って、その情熱をかきあらわす。
私はそのとなりで茜色の絵を描く。
理由はまだ教えられないけど、夕焼けや朝焼けをよくかいている。綺麗で、残しておきたいと思えるから。
部活が終わり、運が良いと先輩と帰れることもある。時間があったら、学校近くの公園で女子会をして帰る。
先輩と話せるだけで、心が踊る。
この思いをいつか伝えなければならない。これ以上抱え込めない。
先輩。あなたは私のことをどう思っているの?
「○○、帰ろう。」
珍しく先輩から誘ってきた。
グッドタイミング。
今日は時間があるから、どこかで告白しよう。
学校を出ると、赤と青が入り交じる、綺麗な夕焼けが広がっていた。
いつも通り、公園に寄る。
なんだか先輩の様子がおかしい。
気まずい雰囲気が流れる。
「あっ、あの。先輩!」
ん?と先輩が首をかしげる。
「好きです。」
驚くほど自然な声が出た。
先輩は、少し驚いたようなかおをし、顔を赤らめた。
「私も、好き。」
え?今なんて...?
「葵衣(あおい)、好きだよ。」
「先輩。」
名前で呼んで?と、耳元でささやかれる。
「あ、茜先輩。」
「何?」
「好きです。付き合ってください。」
先輩はニコッとはにかんだ。
「はい。」
ああ、私は今、幸せだ。
好きな人の好きな人。それは私だった。
思いが届いた。
赤と青が入り交じる夕日が私たちを祝福した。
「私が青い絵を描いたのは、葵衣が好きだからだよ。」
「私が茜色の空を描いていたのは、先輩が好きだからです。」
ただの帰り道が、キラキラして見えた。
白銀の弾丸
「敵の反応なし、進軍開始。」
指令が下る。
「了解。」
からだ中の筋肉が張りつめる。
私ーエラン・リーヴェルトは、この大陸の東西戦争で、東側の兵士として送り込まれた刺客だ。
幼い頃に両親を亡くし、唯一の肉親である兄は行方知れず。ただ軍部で最高の暗殺者(アサシン)だと崇められている。
標的は敵軍の上官。
かなり危険な任務だ。
「エラン。」
「何でしょう?」
「無理はするな。」
そこではじめて震えが止まらないことに気づいた。
「わかってます。」
震えと緊張と不安に蓋をして、私とは何なのだろう。
音を立てないように進んでいく。
あらかじめ仕込んでおいたマイクで、大まかな状況を把握する。
金網を開け、ゆっくりとロープを垂らす。
好都合だ。と思った。
敵の上官は居眠りをしている。まさか命を狙われているとは思ってないのだろう。
各所に配置させた兵士に気づいかれずに侵入するなど不可能だと。
「終わりだ。」
声にならないくらいの音を漏らす。
顔だけ拝んでおこうと、帽子をそっとはずす。
「兄さんっ。」
何で兄さんがここに?
「誰だよ。」
まずい、どうすれば。
すぐには判断することができなかった。今でも持ち歩いている家族の写真。そこにならんで写っている私と兄。
間違えようがないし、本能がそうだと告げている。
任務か、兄か、
究極の選択。
「ごめん。兄さんっ。」
ズガーン。
撃った。撃ってしまった。
あとは逃げるだけだ。音で誰かがやって来るはずだから。
その後私は軍を抜け、田舎で暮らしている。
あのとき、撃たなかったらどうなっていたのだろうか。
どちらでも構わない。
私はエラン・リーヴェルト。
かつて最高の暗殺者(アサシン)と崇められた元軍人。
その事を、わたしは誇りに思っている。
「さよなら、兄さん。」
旅立ちは突然に
後悔しない。
後悔したくない。
だから、俺の思いを聞いてほしい。
「まだ、死ぬなよ。」
俺は病院のベッドに横たわる恋人、美咲に向かって言った。
「まだ、死なないよ。春君が言うなら。」
俺は不意にしゃくりあげそうになって、涙を必死にこらえた。
ここでなくなんてダサいじゃないか。
「まだ、死んじゃだめだ。」
何回も繰り返す。暗示でも呪いでも良いから、彼女に言い聞かせる。
「方法はある。不治の病なんて嘘だ。」
「人はいつかは死ぬよ。」
「美咲が、美咲が死ぬのは今じゃない。明日でもない。まだ先だ。先のはずだよ。」
「運命だよ。受け入れなきゃ。」
泣かないって決めたのに、二人とも涙を浮かべてしまっている。
そんな日をずっと繰り返してる。
俺ー春(しゅん)は、恋人、の美咲にが病で倒れてから、まともに学校にいっていない。彼女がいない高校生活は、ひどくつまらないものだった。
だから、俺は学校にいかない。
学校側は、心身の不調ということにしてくれているけど。
「学校、行かないの?」
「ああ。」
「何で。」
「美咲がいないから。」
「そんなんじゃ、私が死んでからどうやって生きてくの。」
彼女は笑っていたけど、どこかこの状況を俯瞰しているところがあった。
あきらめている。とでも言うべきか。
「春君は私の分も生きてよね。」
冗談目かしてそんなことを言う君が嫌いだ。
「うっ。」
発作で苦しみ、意味をなさない言葉を叫ぶ君を見るのが嫌いだ。
「つっ。」
たまにこぼす、君の涙が嫌いだ。
大嫌いだっ。
こんな風にしか思えない俺が嫌いだ。
彼女に、もう少し時間をくれ!
彼女が後悔のないように生きる時間をくれ!
俺の願いは、ただ、それだけですから。
どうか、どうか。
彼女に時間を!
夢の中で
最近眠れない日が続いている。
いつからだったっけ。
そう、あれは忘れもしないあの日だったな。
ずっとしまってた記憶。
心の奥に封じ込めてた記憶。
---
「ママ、死んじゃうの。」
小学1年生の弟、大輝がグズっている。
「う〜ん。」
と、困り果てているのは頼りない父。
私はというと、中学2年生の生意気な女子。
この場にはいないけど、お母さんを忘れちゃいけない。
お母さんに病気が見つかったのは、私が2年生になるタイミングでだった。
よく知らない、教えてもらえないけど、悪い病気なのは分かった。
病気のベッドに横たわる母は弱々しくて、少しだけ泣いた。
「ママ、いつ返ってくるの〜。」
相変わらず大輝はグズる。
父は頼りなくて、母はいない。いるけど、ここにはいない。やっぱり少し悲しかった。
朝ご飯は私が作らなきゃいけないし、大輝はまだまだ手がかかる。父をできるだけサポートするために、部活には入らなかった。
「ごめんね。心配かけて。ごめんね。」
ここ最近お見舞いに行くと、母は必ず涙を流しながら謝りだすようになった。母に流れると、こっちまで涙が出てくる。
「ごめんね。ごめんね。」
ううん。とも、そんなこと言わないで。とも、言えず、私は母のてをさすった。
ねぇ。神様。
いるなら聞いて。
母さんを助けてよっ!
いつの間にか寝てしまったみたいだ。
夢の中なのか、フワフワしてる感じがする。
「〇〇」
誰?
「〇〇」
かあ、さん?
「あなたは大丈夫。大丈夫だから。」
母さんっ!
声にならない、なのに涙が止まらない。
「母さんっ!私、私。」
背中をさすられ、嗚咽が少し落ち着いた。
「〇〇は大丈夫よ。前を向いて、しっかり生きなさい。」
うん、うん。
薄れゆく意識の中で、私は何度も頷いたのだった。
そっと、薄目を開けた。
さっきまでの夢、あれは、きっと励ましてくれたんだと思う。
不安で、不安でたまらない日々はいつ終わるか分からないけど、
私なら大丈夫って母さんが後押ししてくれた。
「かあ、さん。」
すうっ、と涙が流れた。
これで悲しむのは最後にしよう。
でも今は、
今は、泣かせてください。悲しませてください。
前を向いて生きていきます。
母さんの分まで生きていきます。
天国で見ていてね。
愛してるよ。母さん。
自主企画主へ
いつもコメント等ありがとうございます!
やる気が満タン越えて、ぶっ壊れそうです。はい。
これからもよろしくです。m(._.)m
旅の終着点
満開の桜もやがては散っていくように、時はどんどん過ぎ去っていく。
私が生きる気力を失い、滅多に外にでなくなってからも、何度も桜は花開き、散り、青々とした葉をつけ、それを落としてきたのだろう。
でも、私の時は止まったままだ。
あの人がいなくなってから、私の時は止まったままだ。
---
あの人は別れ際まで、ずっと私を心配してくれていました。
あの人はとても優しい人だったので、私を1人残して行くのを、心配していたのでしょうけれど、そのとおりね。
あなたがいなくなってから、私は抜け殻のようになってしまったわ。
生きることを諦めたってこういうことね。
あの人とは別れ際に約束を交わしました。
「必ず君へ会いに行く。」
私はその言葉を信じて、今でも待っています。最後の時まで待つつもりです。
でも、なるべく早く来てほしいですね。
私に残された時間はそう多くは無いのですよ。
---
ああ、また冬がやってきますね。
桜は枝だけになって、うっすら霜が降りているときもあります。
枝だけになっても、桜は桜ですね。その風格は揺るぎないものです。
あなたはまだやって来ないわ。
でもあなたはきっと忙しいのでしょう。
大丈夫。もう少し待ってあげますから。
---
「12月24日、午前9時20分。御臨終です。」
静かに医者が告げた。
狭い病室を、重い悲しみが支配していた。
「ばあちゃんは、ずっと待ってたんだんだよなあ。」
そういったのは彼女の親戚の1人だ。
「ばあちゃんは、戦争に行ったきりで帰ってこなかったじいちゃんを、ずっと待ってたんだよなあ。」
鼻を啜る音が響く。
「きっと今頃は、」
「じいちゃんと二人で再会を喜んでんのかな。」
病院のベッドに横たわる彼女は、とても幸せそうだった。
君に勝利を捧げよう
試合終了のブザーが鳴る。
「かっ、た?」
息苦しいのに、心の奥はどこか清々しく、満足感が体中を満たしていた。
「ヤー!」
「メーン!」
気勢を上げ、防具に身を包んだ女子高生が、竹刀を振り回す。
ダーン!
という重い踏み込みの音。
バシンっ!
という竹刀の音。
今日もこの剣道場は活気に満ちていた。
私ー有明由梨は高校2年生。剣道部に所属している。
練習中、つい目で追ってしまっているのは、3年生の東堂絢先輩。
誰にもいったことはないけど、私は先輩のことが好きだ。
いつからかは分からないけど、先輩の強さに憧れた。
先輩のようになりたいと思った。
卒業するまでには告白すると決めているけれど、あまり関係に進展はない。あくまでも先輩後輩の関係であって、たまに一緒に帰る程度。友達とは言い難い。
しかも、先輩の引退の時期は刻一刻と迫っていて私を焦らせる。
だが、進展は無く、そうしている間に引退試合は近づいてきて、私は現在、多忙な日々を送っている。
剣道の団体戦は5人制。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順で相手チームと試合をし、勝者数が多い方の勝ちである。
私はともかく、先輩は絶対レギュラーになれるだろう。
同じチームで共闘!とできればよいが、正直レギュラーになれるかどうかわからないのが現状。
それでも私は諦めきれず、絶対にレギュラーになるぞと息巻いていた。
「先鋒田中。」
「ハイッ。」
「次鋒は入沢、中堅は浜里な。」
「ハイッ。」
部内の実力者たちは次々に名前を呼ばれている。
「副将はー」
「宮坂。」
「大将東堂絢。」
「ハイッ!」
ああ。
名前なかったな。
すこし、というかかなりがっかりした。
個人戦に出られるのは3人だけ。
ここにも私は入っていなかった。
【大会3日前】
「ヤー!」
「ドー!」
大会前なのもあってか、道場はいつもより活気に満ちていた。
「あっ!」
突如響いた悲鳴に皆が練習の手を止める。
「先輩!」
人だかりの中心に、先輩はいた。
たおれていた。
「東堂は、足を捻挫してしまったらしい。」
監督の先生はうつむきながらそう言った。
「大会は、難しいと...」
そんなっ。と場の空気が重くなる。
「東堂のかわりはー」
冷や汗が出てくる。心臓が痛いほど打っていた。
「有明で行く。」
有明、ありあけ、ありあ、け?
「行けるか?」
そこでやっと、私に視線が集まっていることに気がついた。
「私が、先輩の代わり、ですか。」
「東堂が、ぜひお前にやらせろと。」
先輩が?信じられない。
「やってくれるか?」
「やりますっ!」
胸を張って答えた。
かくして、私は先輩の代わりとして団体戦に出ることになった。
---
大会当日、先輩は制服姿で現れた。
今日は応援役だ。
1回戦目は危なげなく勝利。
私も面で2本勝ちを納めた。
2回戦目は大将である私まで勝負がもつれ、何とか勝利した。
今日は体が軽い。
ここぞというときに体が動く。
先輩の代わり、という責任が、かえって私を支えてくれているのだろうか?
私達はついに決勝まで勝ち進んだ。
相手は去年の優勝校。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
勝負は結局つかなかった。
引き分けが5回。
代表者による代表戦が行われることになった。
「有明。」
「はい。」
「行ってこい。」
「はい、ってええ?私ですか?」
「由梨ならできる。」
先輩が皆を代表して言った。
「私の代わりに勝ってきて。由梨ならできるから。絶対。」
絶対、勝つ。
勝って、先輩に告白しよう。
私はそう決めた。
「始めっ!」
開始の合図。
相手と竹刀を合わせ、正対する。
「ハァーっ!」
「ヤー!」
気声を上げ、にじり寄る。
相手が打ってきた。
一本勝負だから、取られたら終わりだ。
体が反応し、動く。
「由梨ならできる。」
「ドォー!」
面返し胴。
相手の面を受け止め、胴を打つ技。
「胴ありっ!」
勝った。
勝負を制したのは、私だ。
あれから時は経ち、私は社会人になった。
「セーンパイっ。」
「由梨。」
待ち合わせ場所の公園で、私は先輩の名を呼ぶ。
「待った?」
「いま来たところ。」
二人並んで公園を出ていく。
二人の手は固く繋がれている。
「先輩、好きで〜す!」
「何回言うの、それ。」
照れているのか、顔が赤い。
「私も、好きだよ。」
今度は私が赤くなる番だった。
絶望
拘束と監禁
リクエスト作品です。
暗い、冷たい、苦しい。
そんな負の感情が、私の体を支配している。
頭がぼうっとしてきて、お腹がなった。
いつまでこうしてたらいいんだろう。
---
私はこの国の国王の一人娘。
溺愛されて育ってきた。
そんな私が、なぜ、こんなところに居るのかというと、誘拐されたからだ。
誘拐したのは多分敵国の人たちだ。
それか身代金目的の平民か。
どちらにせよ、まだ姿を見ていない。
「このまま死んだほうがマシかな〜。」
一国のお姫様なんて、羨ましい。そう思う?
実際は嫌なことだらけなの。
まずは政略結婚させられるってこと。
結婚する相手も自由に選べない。自然と交友関係も絞られてくる。立派な王族になるための訓練もあるし。
「今回は上物だ。一国のお姫様だからな。」
下卑た笑い声、不規則な二人組の足音。
こちらへ向かってくる?会話の内容的に、誘拐犯に間違いなさそうではある。
「おい、生きてるか〜?」
前方の扉が乱暴に開けられ、軋んだ音をたてた。
「...。」
逆光でよく顔を見ることができない。
入ってきたのは体格的に男2人。
見たことも無い小さな武器らしきものを持っている。
「ホントに上物だな。高値で売れる。」
男の一人が武器をこちらに向けてくる。
黒光りする謎の武器は私の額に当てられている。
「これはな、拳銃だよ。」
耳に吐息がかかって気持ち悪い。かと言って、拘束されているため身を捩る事はできない。
「殺されたくなかったら大人しくしろ。」
男は手早く拳銃を壁に向け、バンッ、と一発撃った。
「分かったか?さもないとおまけの頭に穴が開く。」
なるほど。と、内心ニヤリとした。
あれならこの2人を始末したあとに自分に向けて撃つことで死ねる。
「立て。」
私は命令どおり立ちあがった。そして繋がれていないの方の足で男の手を蹴り上げた。
意表をついた攻撃あっけにとられているうちに、床に落ちた拳銃を拾う。
使い方は、ご丁寧にさっき見せてもらった。
手の鎖を勢いよく引くと、驚くほど簡単に外れた。
まずはこの拳銃の持ち主に「お礼」をしなければ。
バンッ
男は額から血を流し、やがて倒れた。
バンッ
もう一人の男が慌てて逃げ出していく。その背中を狙って撃った。
「動くな。急所を外したじゃないか。」
腰を抜かして倒れ込む男の心臓に向けて、もう一発。
バンッ
最後は私に向けて...
バンッ
こめかみから一直線に貫いた。
意識が遠くなり、立っていられなくなる。
さようなら。後悔はなかった。
---
これはその後のお話、というか回想だ。
私の死は、国中を、いや、世界中に知れ渡った。
かつて、争いの時代に暗躍した暗殺者一族の末裔。それが私だ。
そして一国のお姫様でもある。これも私。
あのとき、拳銃を持ったとき、どちらの「私」だったのかわかりますか?
お正月の思い出
「お参り完了っ!」
私は大学時代の友達2人と一緒に、近所の神社で初詣中である。
「おみくじ引いてく?」
「引く!!」
毎年恒例のおみくじ。
今年は何が出るのだろうかと、期待に胸を膨らませた。
「大吉!」
「小吉か。」
「〇〇は〜?」
友達2人はそこそこ良いのを引き当てていた。
「私はね〜、ん?」
私が引いたおみくじには、大凶の文字。
「あ〜」
「これはこれは!?」
マジか、と思った。
「そーゆーときもあるよ!」
おい、他人事だと思って!!
わざと起こった顔をし、アハハハハとわらいあった。
---
その頃、初老の男性が彼女たちの様子を見ていた。
「今年の大凶はあの子か。」
初老の男性は悪魔のように、もしくは死神のようにニヤリと笑った。
「たんまり吸い取れそうだな。幸せを。」
大凶を引いてから良いことばかりが起こるようになった。
今頃悪魔のたぐいは悔しがっているだろうな。
私はね、貧乏神なのよ?不幸なことなんて毎日起こってた。
今までが大大大凶だったなら、大凶って大当たりじゃん!
悪魔の囁き
私はどこにでもいる会社員。名を春という。
多忙な1日を繰り返し、休む間も無い日々を過ごしている。
そんな私の唯一の楽しみはー
ピンポーン
「はーい」
玄関のドアを開けると、そこには彼ー暁斗がいる。
彼は理想の男性だ。
背は高く、顔も良く、勤め先は一流企業。毎回のデートや会話も新鮮で、私の癒やしだ。
「春さん。こんばんは。」
「どうぞ、上がって。」
彼はお邪魔します。と言って靴を揃えた。
彼の振る舞いは紳士的で、スマートだ。
「どうぞ。お土産のワインだ。」
彼は私の好みの高級ワインを持参していて、2人で乾杯をした。
「春さん。俺達そろそろ…」
彼が言葉を濁す。その顔はこころなしか赤い。
「そうね。そろそろ…」
「終わりにしましょうか。」
私はニヤリと笑いかける。
「あーあ。気に入ってたけど、飽きてきたわ。」
顔を引きつらせる彼に向かって手を伸ばす。
彼は腰を抜かしていて、今にも泣きそうな顔をしていた。
「いいわねぇ。その顔、もっと見せてよ。」
人の恐怖や悲しみは、何にもまさるごちそう。
私達悪魔にとっては、ね。
砕けた恋心
私には親がいない。
中3の終わり頃に交通事故でいなくなった。
私はもうすぐ高校生だったから、そのまま一人暮らしをする事になった。
羨ましかった。親のいる人たちが。
どんどん卑屈になっていく私。
私のことが嫌いな私。
普通に生きられない私。
そんな暗闇の中にいる私に手を差し伸べてくれたのは、一個年下の伊織だった。
「セーンパイっ。」
「どうしたの、伊織。」
帰りのホームルームが終わり、帰宅部の私がそそくさと帰ろうとしていると、伊織がはなしかけてきた。
いや、正確に言うと、待ち伏せしていた。
「一緒に帰りません?」
初めての頼ってくれる後輩で、私はつい頷いてしまう。
彼女に甘えてしまっている自分がいた。
彼女を好きだと認める心が、私の何処かに確かにあって。それを口にだせないもどかしさが、最近の私を支配していた。
この思いを口にしたい。だけど、今の関係を終わらせたくなくて、ただただこの幸せな時間を堪能することだけが、私にできる唯一のことだった。
学校にうまく馴染めない私に、彼女は大丈夫だと笑う。
彼女がそう言ってくれるだけで、救われた気がした。
「先輩?大丈夫?」
つい考え込んでしまい、しかめっ面になっていたようだ。
伊織が心配そうに覗き込んでくる。
顔が近くて、赤くなる。
それを隠したくて、私は顔をそらしてしまう。
「伊織~!」
遠くから彼女を呼ぶ声がする。
垂れだろうと顔を上げると…
「あっ!空!」
嬉しそうに手を振る伊織が見えて、次に空と呼ばれた男子が手を振り返すのが見えた。
「私の彼氏なんです。」
照れながらそう告げる彼女は、残酷なまでに美しかった。
バットエンド書いてみました!
夜に会いに行く
あなたとはなかなか会えない。
親が許してくれないから。
私は全部親に決められてきた。
友達も、習い事も、恋人も。
全部私のためだと言うけれど、私はこんなこと望んでいない。
嘆く私の前に、あなたは現れてくれた。
いろいろなところに連れて行ってくれたね。
大きな時計塔や、うさぎのいる森や、フナが釣れる川に、一緒に行った。
嬉しかった。
「ずーと一緒だよ!」
あなたの言葉に、私がどれほど救われたか。
でも幸せは長く続かない。
親に、あなたのことがバレてしまったから。
「うちの子をたぶらかすなんて…!」
「警察に突き出してやる!」
やめて!やめてよ!
彼は私を助けてくれたんだから…
それから彼は来なくなった。
『ずーと一緒だよ!』
そう言ってくれたあなたはもういないんだ。
『考察』
最初は『あなた』だったのに、『彼』に変わっています。
それは異性として意識し始めたことを意味し、主人公は"コイゴコロ"を抱いているということです。
最後はあなたに戻っていますが、これは「ずーと一緒だよ!」といってくれた『あなた』がいなくなってしまい、別の人のようになってしまったことを表しています。
こんな感じで書きました。
閉ざされた世界
期待したらダメですよ!
僕は閉ざされた世界で生きている。
この世界には『果て』があって、見えない壁により、それ以上は進めないんだ。
僕らが住む世界の外には、別の世界があるんだって。
誰も信じていないけど、僕は信じている。
この目で、外の世界を見たから。
外の世界と通じる唯一の開く壁。そこは大人たちから近寄ってはいけないと言われていた、禁断の場所。
僕らの世界を覗き込む、巨大な顔が見えた。
頬に散らばったそばかす。ポニーテールにした栗色の髪の毛。
僕が初めて見たニンゲン。
彼女はよく僕らの世界を覗きに来た。
僕は隠れて見ているだけだったけれど、彼女は大人たちが言っていたような野蛮な人ではなかった。
彼女の前に僕が現れたら、どんな反応をするのだろうか。
そんなある日のこと、僕らの世界を嵐が襲った。
大きな被害がでた。
みんなで片付けをしている途中、いきなり大人たちが倒れ始めた。
僕も、視界がフェードアウトしていく。
薄れゆく意識の中見えたのは、何かのボタンを押すニンゲンの彼女だった。
考察:主人公はゲームの中の登場人物。女の子はプレイヤー。
ゲームの電源が切られ、主人公たちは倒れていった。
こんな感じで書きました。
雨
みんなは雨は好き?私はだーいすき。
だって全部流してくれるから。
雨が降ったあとは、全部綺麗になる。
あの日のことも。全部雨が綺麗にしてくれた。
私がしてしまったこと。私がしてしまった罪を、雨は許してくれた。
赤く染まった地面も、私についた赤い水も、全て雨が流してくれた。
---
「やめろ!やめろ!!」
「ギャーーー!」
「がァァァァー!」
嵐の中、赤い血にまみれた少女。
片手には包丁を持ち、その刃は肉を切り裂く。
真紅に染まりし刃をかざし、肉親までもを葬り去る。
悪鬼のごとく微笑む少女はまさに…
|狂戦士《バーサーカー》である。
「お父さん⤴⤴お母さん⤴⤴なんで逃げるの…」
紅に染まる。
雨が降る。
全て流れ落ちる。
雨は寛大であり、全てを許容する。
同時に、残酷でもあるだった。
あの坂を越えて
『この坂を越えて、会いに行くから。頂上で待っていて。』
その言葉を、信じています。
私が恋した相手は|鈴鹿 一郎《すずかいちろう》といいます。ちなみに私は|一ノ瀬 春子《いちのせはるこ》と申します。
私達はお互い両思いで、親からも認められておりました。なので、将来は結婚するんだと思っていたのです。
しかし、戦争が始まってしまってしまい、その願望が打ち砕かれたのでございます。
一郎さんは戦争に行くことになり、離ればなれになってしまいました。
「一郎さーん!」
村の集落の、桜の木のある大きな坂から、街へ行く彼を見送りました。
「この坂を越えて、会いに行くから。頂上で待っていて!」
一郎さんはそう叫んで、手を振ってくれました。
私はその世中が見えなくなるまで見送りました。
結果、帰ってきたのは小さな骨壺だけでした。
一郎さんは約束を果たすことができないまま、天に召されてしまったのです。
村のみんなは引き止めましたが、私は彼のもとに行くことを決めました。
そっと、足を踏み出して…
夜桜が舞い、月光に照らされながら、落ちていく。
最期に花びらが一つ、舞ったのでした。
決闘
あくまでも練習用なので…
間合いを詰め合う。
ピリピリとした緊張感が、場を支配する。
お互いの息の音だけが、やけに大きく響いた。
相手が飛び出してくる。その切っ先を紙一重でかわし、すぐさま反撃に転じる。
避けられ、追撃される。その刃が、脇腹をかすめた。
お互いに距離を取り、威嚇する。
マズい、と思った。
相手は可成りの手練れだ。出方を間違えれば、確実に殺られる。
先制攻撃を仕掛けた。が、あえなくかわされる。足蹴りをもろに喰らい、よろける。そこに怒涛の連続攻撃。防戦一方になってしまう。
また離れ、またくっついた。
お互いに決め手がない。互角の戦いだ。
相手の突き。柄で弾く。
自分の剣で横になり薙ぐ。剣先が軽く振れ、相手の服に血が滲む。
お互いひどい有り様だった…
終わり
この世界にサヨナラを
眼下でビルが群れている。
様々な色の明かりが星空を覆い隠し、人は蟻のように行列をなして進んでいく。
自分もかつてその一つだったのだと理解する。
社会の歯車として、ただただ働く毎日。ささやかな晩酌を楽しみに、面白くもない作業や会話を繰り返す日々。
思い出すだけでも吐き気がする。
だが、今は解放された気分だ。社会という名の呪縛は解け、自由になった。
数時間前、勤めていた会社を辞めた。
その瞬間から、いや、ずっと前から狂っていたのだろう。
死への渇望や憧れ。
この胸を満たす狂気。
他人には到底理解されないだろう。いや、されなくて良い。
彼らはほんとうの自由を知らないまま生きて、知らないまま死んでいくのだろう。
可哀相だ。縛られたままで生きていくなんて。
靴を脱ぎ、きれいに揃える。鞄をそっと横に置く。
これで自殺だと分かるだろう。無駄に警察の手を煩わさずに済む。可哀想な彼らへの、せめてもの配慮だ。
無駄に高いフェンスを越え、僅かな隙間に足を置く。
体が震える。待ち遠しい。自分の魂は、解放を望んでいる。
ふと、自分が死んだら悲しむ人はいるのだろうかと思う。自分の人生に、なにか意味はあったのか?意義はあったのか?
なんのために生まれてきたのか?
何も無い。悲しんでくれるやつなんていない。意味なんてなかった。
もっと早く気づいていればよかった。
なぜ気づかなかった?未練でもあったのか?
あったのだろう。死へ憧れながら、死のうとしなかったのは、未練があったからだろう。少なくとも、あの頃はまだまともだった。理性があった。だから実行しなかった。それだけのことだ。
勇気がなかったから、怖かったから。こんな自分を、いつか誰かが愛してくれると信じていたから。
身を投げる。
この世に用はない。
結局愛してももらえず、頼られることもなく、息をするだけの毎日。
自分の弱さが、醜悪さが、涙とともに溢れ出てくる。
悲鳴が聞こえる。全てがゆっくりと流れてくる。
こんな自分にも、生きる意味が…
「さよなら。」
視界が暗転していく。痛みなどない。
狼の遠吠え
こらえきれない衝動。
理性で押さえつけ、何度も上書きして。それでも弱いだけの、俺の心。
今日はいつにもまして寒かった。冬だから当たり前と言えば当たり前だが、夜は冷え込む。そっとフードを目深に被った。
俺はこの町の裏通りを、ポケットにてを突っ込んで進む。
道端には怪しげな者達が、値踏みをするように、下品な笑みを浮かべて表通りを見ている。
ここにいる多くの奴等が裏社会の一員だ。俺も例外ではなく、闇バイトをして食い繋いでいる。
そんな俺がまともに学校など行っているわけもなく、こうして歩いているというだけだった。
「そこの君、ちょっと良いか?」
警官服。顔を少しだけ上げると、生真面目そうな嫌な顔が見えた。
こんな夜中に出歩く俺も悪い。俺はまだ中学生だ。本来ならば暖かい家で過ごすのが普通なのかもしれない。
だが、そんな場所などとうの昔に失ってしまった俺には、この裏通りのどこかが寝床だ。家などないし、作る気もはなからない。
「こんな時間に何してるの?親は?」
うぜぇ。と心のなかで舌打ちした。こんな不良少年なんて放っておけば良いのに。
「何もねぇよ。」
俺は吐き捨てるように言うと、その場から走り去る。「待ちなさい!」という声が後から遅れて聞こえたけど、立ち止まりはしなかった。保護されるなんて嫌だ。俺の人生、好きに生きさせろ。
しばらく走って、何回も角を曲がった。いつもより多くの角を曲がり、いつもより長く走った。
どんなに威張っても、不安がる弱い心があって、それが俺を余計にイラつかせた。
だからだろうか。前を深く注意せずに角を曲がったために、人にぶつかってしまった。
「キャッ!」
短い悲鳴。咄嗟に手を伸ばし、引き寄せる。
間一髪、相手は頭を打たずにすんだ。
「ごっ、ごめんなさっ」
少しして我にかえった。怪我は無いみたいだ。
「こちらこそ、すみません。」
目が合う。
動けなくなる。
俺がぶつかったのはとても美しい、同い年くらいの女の子だった。
---
「へぇー、あなたも一人なんだ。」
何の因縁か、彼女とすっかり仲良くなってしまっている俺。
彼女もひとりぼっちだった。
お互い名前は名乗らず、愚痴をこぼしあった。
孤独な者達の、傷の舐めあいにすぎないのかもしれない。だけど、彼女といることに自然と安心感を得ている自分がいた。
「ねぇ。」
であって何日目かに彼女は言った。
「好きかもしれない。君のこと。」
おかしいよね。と、笑う。出会ってすぐなのに。名前も知らないのに、好きになっちゃうなんて。
心なしか横顔が赤い。多分、俺も赤いのだろう。
「俺も、だ。」
やっと絞り出した一言。
それが、俺の、俺達の運命を変えた。
それからは幸せだった。
二人で警官から逃げ、怪しいバイトを繰り返し、笑いあった。
ずっと一緒だと言い合った。
信じていた。
相変わらずの毎日だったけど、学校に行こうか。なんて思えるようになった。
全部、彼女のおかげだ。
あれから何年も経った。
俺たちはもう大人だ。
途中からだったけど学校にも行った。
夢のために努力した。
俺のとなりには必ずといっていいほど彼女がいた。
一匹狼だった俺。ひとりぼっちの俺を。
救い出してくれてありがとう。
もう一度逢いたくて
俺の名前は|日下飛河《ひしたひゅうが》。堕落した日々を送る、高校生だ。
俺は先月、大切なものをなくしてしまった。
それは俺が人間でいるために必要なものだった。
生きていくうえで、欠かすことのできないものだ。
俺がなくしたのは、|髙橋渚《たかはしなぎさ》。
俺の最初で最後の彼女であり、幼馴染だ。
彼女は交通事故でなくなった。トラックに跳ねられ、即死だったらしい。俺は彼女がいない現実に耐えきれなかった。
考えてみてほしい。
幼稚園生の頃から両思いで、中2の春から付き合うことになった大切な人が、たった一瞬でいなくなってしまうことの辛さを。
轢いた本人は今ものうのうと生きているんだ。
渚はもう何もできない。それなのに殺した張本人は普段通り生きていく。その怒りを、どうしようもないほどの悲しみを。
俺はもうどこにも行きたくない。
強いて言うなら渚のもとに行きたい。
かつては自分を自分で傷つけたこともあった。
だけどそれは叶わない。俺の様子を危惧した両親が、半ば監禁する形で俺を閉じ込めた。
危険なものーハサミとか、紐とか、そういうすべてを隠しこみ、俺が死ねないようにしてしまった。
飛び降りたとしても、この高さじゃ死ねない。
かと言って家から出たくない。
渚との思い出の詰まった風景を見るたび、嗚咽が漏れてくる。
--- もう生きていたくないんだ。 ---
---
彼ははベットに座り、宛もなく空を見上げている。
直ぐ側にいるのに、触れることができない。悲しむさまを、これ以上見ていられない。だけど、離れたくない。
矛盾する思いが、私の心を蝕んでいく。
逢いたい、逢って話がしたい。
また一緒にいたい。ずっと一緒だと思っていたのに、叶わない。
何もできない。ただ見ていることしか。
--- 神様、少しだけ時間をください。 ---
---
深夜ー。
俺は微かな物音で目が冷めた。
窓ガラスを控えめに叩く音。
ゆっくり立ち上がり、俺は窓を開ける。すると淡く光るものが部屋に入ってきた。
それは点滅を繰り返し、ゆらゆらと揺れた。
俺は少し躊躇ってから、えい。と手を伸ばした。思いの外温かく、生命を感じさせた。
「何者?」
光はもちろん答えない。
「何なんだよ?」
光は俺の手をすり抜け、机の上においてある写真立ての周りを飛んだ。
写真立てには、俺と渚のツーショット写真が飾られている。
猫の加工が施されたその写真は、初めてのデートで撮ったものだ。
「そいつはもういないんだよ。」
俺は光じゃなく、自分自身に言い聞かせた。
「いなくなっちまったんだ。」
涙が溢れてくる。
もう枯れ果ててしまっていたかと思っていたのに。
「渚…!」
光が弱くなった。悲しんでいるようにも見える。
「逢いたいんだ。」
そう、俺はー
「逢いたいんだよ!!また話がしたい。一緒にいたい!!」
何で…。と思ってしまう。
「何であいつが死なないといけなかったんだよ!轢いたやつは生きているんだ!渚はもういないのに…!俺が!!」
--- 俺がかわりに死んでいたら!!! ---
渚が死んだのは、デートの帰り道。
家の近くの交差点で、信号無視のトラックに跳ねられた。
あのとき家まで送っていて、代わりになれていたら。
光は思い切り点滅し始めた。大きく揺れる。
怒っている…のだろうか。
『そんな事言わないで。』
「え?」
『代わりに死んだら良かったとか、飛河らしくないよ…。』
間違いなく聞こえた、渚の声。
俺が待ち望んでいた、もう一度聞きたいと願った、あの声が…。
『私の分も生きてよ。生きて、生きて、おじいちゃんになってから逢いに来てよ。』
『気長に待ってるからさ。』
眼の前の光に、渚の姿が重なる。
光は一瞬躊躇って、だけど意を決したように窓からでていこうとする。
慌てて手を伸ばしたけど、届かなかった。
生きて、生きて。うんと歳をとってから、逢いに行くから。
俺はまだ混乱する頭を抱え、思う。
生きることを諦めたくない。だけど今はー
--- 泣かせてほしい。 ---
月明かりが照らす闇夜の中、淡い光が見えた気がした。