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目次
1.クランは、旅立つ
「それじゃあ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。無茶をしたら駄目よ」
「大丈夫よ。それに手紙も時々は書くから安心して」
「ああ、充実した毎日を送ってくれよ。グスッ……」
あらら……お父様、泣いているじゃない。そんなに心配してもらえるなんて、わたくしは幸せよ。まだ嫌う気持ちも残ってはいるけれど、しばらく会うことはないし、今は一旦水に流すとしましょう。
今の状況を簡単に説明するわね。
「約束」を必ず守らなくてはならないという、祝福にも似た呪いをもつわたくし、クラン・ヒマリアは、人と会話して、「約束」をして、人の人生を狂わせる危険性に改めて気づき、一度人間関係をリセットしよう、と考えたの。そのために、隣国のサスティーナ国のファブロー学園に留学することにした。
ファブロー学園の留学試験に受かったのがつい最近、そして、わたくしはさっそくサスティーナ国に旅立とうとしている。
説明すれば、ただこれだけよ。簡単すぎたかしら? きっと大丈夫よね。わたくしが言うんだもの、心配いらないわ。安心して。
「いってらっしゃ~い!」
「いってらっしゃいませ」
日曜日、わたくしはお母様と使用人たちの声を背に旅立った。お母様にも会えたから、とても嬉しかったわ。
正式に留学できるのは新年になってかららしい。
旅程も考え、余裕を持たせたら、これぐらいがちょうどいい、となったらしいの。
そして、旅立った。旅程は9日。かなり余裕を持たせたらしいわ。
そして、家を出たわたくしたちの一行は、まず、王都に差しかかった。
「……」
……なぜ、わたくしの聖女姿と似たような服をしている方がいらっしゃるのでしょう?
いえ、そのことは少し前に気づいていたわ。だから、今回問題なのは、なんでその時以上にその恰好をしている方が増えているのか、よ。
クランは知らない。聖女クレアとしての服装が貴族の家に出入りできるようになる立身出世のお守りの意味を持つようになったことを。
二日後。
順調に馬車は進み、今日休む街までやってきたわ。
流石公爵家ね。
馬車の進みがかなり早いわ。それに頻繁に馬も乗り換えるため、スピードが落ちないわ。なんて好待遇何でしょう!
公爵令嬢なんて、普段は面倒くさい役割しかないけれど、今はただ、感謝したいわ。
そして、街の中央の方までやってこれた。その感想は……
「綺麗な街ね」
だった。いえ、ちゃんと驚いてるわ。王都以外でこんなに綺麗な街、今までに見たことがないもの。今までに十分な数の街を見てきたとは言えないけれど、その数少ない経験の中でもトップクラスよ。
その街で一泊した。
宿にも大満足よ。
この街を過ぎたらしばらくは野宿生活となる。いちおう馬車にはわたくしの分の寝床はあるからわたくしはあまり野宿とは言えないでしょうけど。それでも裕福そうな馬車が盗賊や魔物にまったく襲われないとは考えにくいもの。寝床の前に、十分な警護が必要だわ。
それに今までの馬のとっかえひっかえがあまり使えないからね。進む距離も短くなってしまうわ。
今、わたくしたちが持っているのはお父様から預かってきたお金。金貨200枚。そして自分で聖女の仕事をして稼いだお金。ほぼ同数。わたくしが試験を受けたりしているうちに、わたくしが受けた依頼の成果が出たと判断されたらしく、そんな感じになっているわ。……さすがに多すぎないかしら?
そして、服は最小限に持ってきた。
一応多少の文化は違うらしいので、使いにくい服をたくさん持って行っても困るだけだと思うのよね。
そしてサリアとカナン。
そして護衛が数名。この護衛は公爵家の兵士なのだけど、わたくしたちを送った後、一度戻って、わたくしたちを迎えに来るときにはまたこちらに……サスティーナ国にくるみたい。
大変ね……思わず同情してしまったの。
そういえば、護衛の中にケルートもいたわ。
わたくしと同年代なのにもう抜擢されているなんて……本当に優秀だったのね。
果たして、盗賊は現れた。
始めはなめ腐った態度をとって来ていて非常にカチンときたわ。抑えたけれど。
そしてさっさと倒してやったわ。護衛の者が数名のこって届け出を出してくれるらしい。助かるわ。
そして、魔物もやはり現れた。
今回出てきたのはサイガー。珍しく、強いわりに名前が短い魔物だったわ。
この魔物は火属性。そして推定討伐人数400人。この前の交流戦に行くときに現れたがベストラージよりはるかに弱いため、あまり手間をかけずに倒すことができた。
……これ、護衛っているかしら? 申し訳ないけどそんなことを思ってしまった。
「今日はこの宿に泊まろうと思います」
野宿生活が終わった。行程も今日で6日目を迎えていた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
キョロキョロとあたりを眺めていたら、そんなことを尋ねられた。小さな女の子に。
「この街に初めてきたの。面白いなぁと思っていたのよ」
「初めてなの? じゃあモモが案内するよ!」
「いいの?」
「うん!」
モモに案内されるがまま進んだ。
「あのね、ここはね、モモの家なの」
まあ…! なんて可愛らしいのでしょう! 案内するといって始めに連れてくるのが自分の家だなんて。
「あそこはね、むうくんの家なんだ。かっこいいんだよ」
「そうなのね」
「それでね、この前……」
いつの間にか案内が思い出話へと変わっていた。
この子はむうくんという方に懸想をしているのかしら?
「モモちゃん、あなたは可愛いから、それが分かってもらえたらうまくいくわ」
「本当!?」
「きっとね」
そして、モモとは別れた。
……結局、案内はほとんどされていないのだけど……可愛らしいので許しましょう。
「お嬢様、探検はお済みで?」
「ええ、だけどここで一着服を買っておきたいの」
「そうですか? この街は庶民層ですのでそこまで上等な服は無さそうですが……」
「サリア、わたくしは新しい学園ではあまり裕福そうでは行きたくないの。考えている性格にもあまり合わないわ」
そう、馬車でずっと考えていた。
これからどんなキャラで行くべきか。
そして、その結果。
一番楽しく過ごせた、孤児たちと接していたように過ごしたいと思った。
だから、そんなに貴族っぽくいたくないの。喋り方は仕方ないとは思うけれど……
そして……「約束」をはぐらす事については、自分から「約束」をすることはしなければいい。わたくしが相手に持ちかけたら、相手は軽く考えているかもしれない、だったら相手から持ちかけられたことで、出来そうなものを「約束」すればいい、と。
そして、そのためにもこれはキャラとかではなく、はぐらかす、という行動で示そうと思うわ。
……この性格が身に着けば……あちらでも普通に過ごせるでしょうから。
わたくしはそっと祈った。
2.クランは、首都に到着する
七日目。
少し活気がまして、都に近づいているのが分かる。
わたくしは、他の方も着ているような服を着ている。護衛がいるから、一般人と思われることはないでしょうけど……
この日も、宿をとった。
八日目。
雨だった。土もぬめってしまい、思うように進まなかった。昨日までは、予定よりも進んでいたのだけど、ここで一旦戻ってしまった。
そして、九日目。
昨日の雨が嘘のように晴れ、それは最終日だという今日を祝っているかのように感じられる天気だったわ。
「ねえサリア」
「なんでしょうか? お嬢様」
「サリアが調べてきた資料を見せてちょうだい?」
「いいですよ」
これは、わたくしがどこかに行くときにそこが安全で、危険はないか、最近物騒なことが起こっていないか、などを調べててくれているものなの。
そして、今回は、この国……サスティーナ国についてまとめられていたわ。
そして、その資料をみているうちに都に到着した。
「案内人とか雇えないのかしら?」
「いいですよ。ただ…少し待ってもらうことになるかと」
「いいわよ。それくらい」
それよりも、今のうちにこの都を把握しておく方が重要だわ。
あと一週間ちょっとで、新年になるという時期。
皆さん、慌ただしく過ごしているように思える。……今までのは見たことがないのだけれどね。
「あ、この店はとても美味しいですよ。値段もリーズナブルですし、何より目新しい料理を毎回生み出している店です。一時間待ちなどは当たり前ですね」
「そしてこの建物は、ギャザー商会の主な拠点ですね。この商会は、あまりいい噂は聞かないので、注意しておいてください」
などと、とっても役に立ちそうな情報を教えてくれた。
雇う価値はあったと思うわ。満足よ。
そして、わたくしが満足げであるからか、サリアも満足げのように見えた。
「そして、この道を越えたら、ファブロー学園になります」
「案内ありがとう。いろいろ知れてよかったわ」
「は、こちらこそお雇い頂き誠にありがとうございました!」
なにか……この方に、兵隊らしさを感じてしまったわ。
「クラン・ヒマリアです。今日から寮で生活する予定なのですが……」
「クラン・ヒマリア様ですね。聞いております。メイドと執事を一人ずつ連れていいているそうで……部屋はメイドさんとご一緒で構いませんか?」
「ええ」
「そして、執事の方ですが…同じ執事同士の相部屋でもよろしいでしょうか?」
「構いません」
「でしたら、この鍵に書いてある番号の部屋までどうぞ」
「ありがとう」
さっそく部屋に向かうことにした。
「綺麗ね」
「そりゃそうでしょう。ここは国で一番の学園ですよ? その生徒には国も満足して暮らしてほしいのですから、十分な衣食住は確保されているでしょう」
「そうね……」
正直、そこまで考えていなかったわ。
「だったら、食堂も期待できるのかしら?」
「できると思いますよ。お嬢様、分かっていると思いますが、パス券を買ってくださいね?」
「分かっているわ」
「それなら良かったです」
まったく、サリアはわたくしのことを何だと思っているのかしら?
これはひどい話じゃないの?
その後は、荷物の整理をして、夕食を食べに今日は食堂に向かった。
「ねえサリア」
「なんでしょうか?」
「わたくし、思ったのだけど、このパス券、一年間なのよね?」
「そうですよ」
「わたくし、これからしばらく都のものを食べたいのよ。だったら今買ったらマイナスではない?」
「そうですか。では私とカナンの分だけを買いますね」
「いえ、あなた達にももちろんついてきてもらうわよ。だから、今日は普通に買うほうがいいと思うわ」
「……分かりました。そのようにしましょう」
「まあ! 見て! 海産物があるわ!」
「本当ですね。サスティーナ国は海に面しているから当然と言えば当然ですが」
「だけど素晴らしいと思うわ!」
そして、この日は海産物を生で食べたりした。とても美味しかったわ。
ジャネル皇国以来の海産物ね。けれどいろいろ種類が違うわ。やっぱり方向が真逆だし、そういうものもあるのかしら?
「あなた達は、誰?」
喋りながら食べていると、誰かが声をかけてくれた。
「わたくしはクラン・ヒマリア。フィメイア王国からの留学生よ。後の二人はメイドと執事よ。何かあったかしら?」
「いえ、初めて見る顔だったから声をかけただけよ」
「あら、そうなの。それだったら問題ないわ」
「あ、私は六年生で寮長のネイラよ。自己紹介が遅れてごめんなさいね」
「いえいえ、気にしないわ」
「そうしてくれると助かるわ。この時期からというと、新年からの留学生?」
「そうよ」
「何年生?」
「一年生よ」
「だったらちょうど弟がいるわ。ケビンっていうの。優秀だし、機会があったら話しかけてみてね」
すごい家なのかしら?
この学園の入学ってかなり難しいものでは無かったかしら? それに兄弟で受かるなんて……しかも寮長さんを努めているということはネイラさんも優秀だということよね? すごい家ね。
そして、クランの穏やかな日々は……多分始まる。
新年になり、学園に通い始めるまで、あと二週間半。
3.クランは、ただの日々を謳歌する
朝。起床。
そして、着替え、髪の毛の手入れをされながら、サリアとあの日気付いたことは1日言ってはいけない、という「約束」を交わす。
そして、出かける。
カナンとサリアを連れて。
昼。
都の有名なものを食べる。
夜。帰寮。
食堂で夕食を頼む。
◇
あるときは、海に行った。
「これが海なのね!」
「はじめてみました……」
「|私《わたくし》めも僭越ながら初めて海というのを見ました」
「これ、触っていいのよね?」
「「はい」」
そういって海の水を触ってみると……
「冷たっ!」
「おおーこれは冷たいですなぁ」
「冷たっ」
カナンもサリアも触ってくれた。
◇
あるときは、作物を育てる手伝いをしてみた。
「助かりますよ。来てくれてありがとねぇ」
「構わないわ。わたくしもたまには運動もしたいもの。しかも美味しい昼食を振る舞って頂いたもの。気にしないで」
「そうですよ」
「まぁお嬢様ですからなぁ」
カナンは何か言いたげのようだわ。
ちなみに、この日の昼食はとても美味しかった。農家の方がおごってくれたのよ。
(※貴族の場合、農業の手伝いなど普通はしません)
◇
あるときは、学園の図書館に行った。
この日は、新たに買った制服を着ていったわ。
ここからの会話は全部小声よ。
「すごい図書館ね」
「いやはや素晴らしい。今日は一日中いる予定ですか?」
「そうよ」
カナンに答える。
「フィメイア学園より素晴らしいわ……」
そういうわたくしは、本の多さに圧倒されていた。
「ここって、貸し出しは出来るのかしら?」
「どうでしょうなぁ。まだお嬢様は学生ではないですから」
「そうよね……」
本を借りれないことは残念だわ。
その後、
「え!?」
その本の存在を知ってからずっと読みたいと思っていた本を見つけてしまったの!
ずっと昔に書かれていた本で、数がそんなに残っていないと聞いてきたわ。まさか学園の図書館に置いてあるなんて……!
素晴らしいわ。早くこの学園の生徒になりたいわね。そしたらこれを借りられるもの。待ちきれないわ。
◇
またあるときは、森に行ったわ。
魔物も基本的には同じだった。
「あ! コンクルートだわ!」
久しぶりに見た気がするわね。
「ひぇ〜」
あら、サリアが怖がってしまっているわ。そう言えば、サリアもカナンも狩りについてきてもらったのは初めてかもしれないわ。
こんなに怖がっているのなら……連れてこないほうが良かったかしら?
(※一般に、コンクルートが出てくることは平和とはいいません……初心者の場合)
◇
またあるときは船に乗った。
冬だけど、海にも魔物はいるのでそれを倒しに行ったわ。
海にいるから船からでしか倒せないのだけど……それが意外と難しかったわ。簡単な魔物は顔の……呼吸をしているというエラの周りを空気で囲うことで窒息死させられたのだけど、暴れる魔物だとそれを超えて水と触れてしまったわ。そういう魔物には、水刃を差し上げた。水刃はあまり使いたくないよね。便利過ぎて、他のもの使おうとしなくなってしまうから。
この日は、あまり運が良くなかったようで、かなり強いと言われている魔物は出てこなかった。残念になりながら帰った。
そして、次の日もまた船で魔物退治に出かけた。
一応言っておくと、この船は漁で使ってるものにのせてもらっているのよ。本船が留まる場所を決めたら小舟で別行動をさせてもらったの。
そしたら今度は大当たり、|王蟲《オウム》が出てきてくれたのよ! 真下にいたのだけど。これは嬉しかったわ。だって王蟲なんてレアなのよ!
二日目でこれに出会えるなんて、わたくしの運はなんということでしょう? 神々が何かしているのかしら? と思わず疑ってしまったわ。
そして、王蟲を倒して帰ったわ。王蟲は部分が貴重な素材だったり、高く売れたりするから、この日は一日中幸せだったわね。
(※王蟲は普通は一人では勝てません)
◇
そして、そんな風に過ごしていたら、いつの間にか新年になっていたわ。
新年には、このサスティーナ国はお祭りを開催しているみたいなの。
それにも参加してみたわ。
あれは……そう、食べ歩きっていうだったわよね? 歩きながら食事をするの。サリアには公爵令嬢らしくない、と怒られてしまうのよね。
あちらではあまりできないのだから、今、ここでやりたいと思うのは道理ではないかしら?
そんなかんじだったけれど、とても楽しかったわよ。
イベントも行っているようで、魔術競争とかもあったわ。
わたくしはこの前の交流戦の時に大抵で最大のやつを超えてしまったというのにどうやるのかしら? と思っていたら、上に打ち上げて、落ちてくるまでにかかった時間で競争していたわ。
あぁ、それならわたくしも参加すれば良かったわ。そう後悔してしまった。
他の日は……
他の日は……
そう、ずっと平和に過ごせたのよ!
素晴らしいと思わないかしら?
「あら、クラン。どうしたの?」
「あ、ネイラ先輩。いえ、未だネイラ先輩くらいしか学園で喋れる方がいないことにショックを受けているだけよ」
あのあと、ネイラ先輩にはよく話しかけてもらっていて、学園の中では一番仲のいい方になったわ。
……まあ、それ以外の方と、全然話さないからそうなってしまうわよね。
「え? そんなことを気にしていたの? じゃあ紹介しようか?」
「いいのかしら?」
こんな簡単に紹介してもらえるの?
「いいわよ。けれど条件があるわ」
条件? 別に並大抵のものだったら飲むわよ?
「それはね、あなたの実力を教えてもらうことよ」
あら? そんなことでいいの? 至って当たり前の条件じゃない。
「構わないわ。いつがいいかしら?」
「今からでも大丈夫?」
「ええ」
「じゃあ今から行きましょう」
「分かったわ」
それにしても、一体どこに行くのかしら?
4.クランは、闘技場の説明を聞く
とりあえずネイラ先輩について行ってみる。
「ほら、ここよ」
そうして連れてこられた場所は……
「闘技場、かしら?」
「ええ、正解よ」
そう言ってネイラ先輩はにっこりとほほ笑んだのだった。
「あなたは、今から私と戦ってもらうわ」
「え?」
いえ、連れてこられたのだから、戦うことになるのは当たり前だわ。
「安心して、私はSランクよ。初めてのあなたに本気は出さないわ」
「Sランク?」
凄いのは分かるけれど……どういうことかしら?
「あ、そうか。まだ知らないのね」
「多分……教えてもらえるかしら?」
「いいわよ。……もともと私が言い出した話題だしね。
ここでは、簡単にランクが決められているの。弱いランクからDランク、C ランク、Bランク、Aランク、Sランク、そしてSSランク。
まあSSランクにまでなれるのはほんの一握りだから、あまり気にしなくていいと思うわ。あなたがあの編入試験に受かったことは理解しているけれど、それでもSSは厳しいと思うから、まずはSランクを目指してみるといいと思う」
へぇ、興味深い内容ね。
わたくしはこの学園だったら一体どれくらいになるのかしら? とても興味があるわ。
けれど……
「わたくしはまだ正式に学生じゃないけれどいいのかしら?」
そのせいで図書館の本も借りれなかったんだもの。これは気になるところよね。
「そうだったわね? それじゃあ許可証(仮)をもらいに行きましょう!」
そう言ってネイラ先輩は駆け足になった。
元気なのね。ネイラ先輩は。
そう思いつつも、わたくしも急いで後を追う。
「ここよ」
ネイラ先輩は自慢げにわたくしを見る。
けれど、別にここはただの玄関にある事務室よね? なんで自慢げになっているのでしょう?
とりあえず気にしないことにする。
「そうなのね。ありがとう。手続きはどうすればいいのかしら?」
「手続きはね~、なんと、私とというSランクの承認者がいるので、ちゃんとクランちゃんが留学に来た証拠さえあれば一発なの!」
あら、それは便利ね。
もしかして、だから先ほどは自慢げだったのかしら? それだったら納得ね。
「それは頼もしいわ。どれくらいで出来るの?」
うーん、それにしてものらりくらりとかわす、というのはこんな感じでいいのかしら? あまりうまくいっていない気がするわ。
今度にでも、もっとしっかりと考えてみましょう。
「すぐにできるわ。待ってて」
「分かったわ」
自信があるようだし、少しくらいなら待ってみようかしら? どの道他にすることもないしね。
「出来たらしいわよ」
……本当にすぐだったわね。ネイラ先輩は信用することが出来る方かもしれないわ。
「分かったわ」
わたくしは、そう言って受付に行く。
「こちらが許可証(仮)です。正式な生徒となるまで使うことができます。正式な生徒になった際は、発行される学生証で参加することが できるので、こちらは、そこにある箱に入れておいてもらえれば構いません。
何かご質問はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。それにネイラ先輩もいるしね」
「それなら大丈夫ですね。どうぞ、楽しんで励んできてください」
「ありがとう」
ちゃんとした仕組みが整っているのね。感心感心。
「行くわよ!」
「ええ!」
なんだか陽気になってきた気がするわ。きっとネイラ先輩に流されているのね。
……流されている? それはあまり「約束」の呪いを持つものとしては良くないかもしれないわ。ちゃんと意識しておきましょう。
のらりくらりとかわすなら、流されているのもおかしい、という話にもなるしね。
「ルールを説明するわね。個人的な戦いの場合は別だけれど、基本的には持ち込んでいいのは基本的にひとつ。魔法が得意なのなら盾を持ちこむことを推奨するわ。そして、相手が意識不明または降参の意思を示したとき、試合は終了。ここまでは大丈夫?」
「ええ」
「じゃあ次にランクを説明するわね。ランクの種類はさっき説明したから、ランクアップがどうなされるか、だけ説明するわ。
D ランクは五十ポイントでランクアップ出来るの」
五十ポイント? どういうことかしら?
「ポイントは、一つ上のランクの人を倒せば一ポイント、二つ上のランクの人を倒せば二ポイント、三つ上のランクの人を倒せば四ポイント……という風に倍になっているわ。
じゃあ、DランクがSSランクを倒したら何ポイントになると思う?」
D、C、B、A、S、SSだから……五ランク上の相手ということだから……
「十六ポイント?」
「そう!」
「そのポイントが五十でDランクはCランクになって、二十五でCランクはBランクになるの。Bランクは十二ポイントでAに上がって、Aランクは六ポイントでSに上がれる。
ここまでは大丈夫かしら?」
「ええ」
「じゃあ少し特殊な話をするわね。
SランクからSSランクに上がる時のことなのだけど、現在……というかそもそもSSランクは三人しかいないの」
「それはずっと、ということ?」
「そう」
今までの様子だと三ポイントでランクアップかと思っていたけれど違うのね。
「SSランクになるには、Sランクになった後にSSランクに勝負を挑んで、勝てばいいわ」
「それは一回?」
「確か……三戦中二勝すればよかったと思うわ」
ほっ。
それならSSランクの人がいつも勝たなければいけないというプレッシャーにさらされたりはしないというわけね。何だか安心だわ。
それにしても、けっこうちゃんとした仕組みなのね。それに、半分にして切り上げたり、倍にしているだけだから、分かりやすいわ。
「ランクダウンは、それが逆になるの」
「つまり、Cランクは五十ポイントの負けでランクダウンするということかしら?」
「ええ、マイナスが五十ポイント、と表現しているわ」
「なるほどね」
「けれど、プラスのポイントとマイナスのポイントは別物で、一緒くたにすることは出来ないの」
「? どういうことかしら?」
「もし、Cランクがプラスのポイントを十持っていたとしても、マイナスのポイントが五十になれば、ランクダウンになるということよ」
へぇ〜、不思議なルールね。
「もちろん、そのマイナスを減らすことは可能よ。例えば、同じランク、下のランクの人と戦って勝ったら一ポイントマイナスが減るわ」
それだったら下のランクの人が一個上のランクの人と戦うことは増えるわね。
「ただ、二つ以上上のランクの人に負けたら、一回の負けにカウントされるわ」
つまり、無謀な戦いは挑むなということね。
「それで、ここはクランに決めてもらいたいんだけど、今回は公式な勝負をする? それとも私闘にする?」
やばい、説明だけでかなりの部分に行ってしまった……
本当だったら戦わせたかったんだけど。
分かりにくかったらごめんなさい。軽く流してもらっていいです。ランクアップはこちらで勝手にするので
というわけで、次回は戦いです! お楽しみに!
(クランを間違えてランクと打ってしまいそうになった……)
5.クランは実力を計られる
「それで、ここはクランに決めてもらいたいんだけど、今回は公式な勝負をする? それとも私闘にする?」
悩ましく……ないわね。答えは決まっているわ。
「もちろん、公式な勝負に決まっているわ。だけど、本当にいいの? あなたの方にはデメリットしかないと思うのだけれど……」
「なあに、クラン。まさかあなた、Sランクの私に勝てると思っているの?」
「あなたの実力が分からないし、Sランク自体の実力も分からないんだもの。そう考えるのは当たり前じゃないかしら?」
「へえ、ある程度の自信があるようね」
「もちろんよ」
のらりくらり、って難しいのね……
「じゃあ早速申し込みに行きましょう!」
「分かったわ」
よし、今回は流されずにすんだわ。
「あれは6年のネイラじゃねえのか?」
「嘘だろ? あのSランクの?」
「ああ、あの事件のあとから全然戦っていないという話だが……」
「らしいな。……隣にいるのは誰なんだ?」
「誰だろうな? 見たことがねえや」
「ただ、少なくとも戦うことは確実のようだな。これは何が何でも見ねえと! こんどは一体何をやらかすんだろうな!」
「そうだな! 移動しようぜ!」
申し込みに二人で行ったはいいものの、ほとんどをネイラ先輩がやってくれたわ。
それに、ネイラ先輩が噂されているようだわ。そんなに珍しいのかしら? けれど、それにしては不穏な気配も感じるわ。
「これの次の次の試合になりますがよろしいでしょうか?」
「「はい」」
まだ戦いが残っているみたいね。覗いてみましょう。
「今は何ランクと何ランクが戦っているの?」
「今は……BランクとAランクね。勝っている方がAランクよ」
へえ、あれがBランクとAランクなのね。……勝てそうな気がするわ。となると、Sランクとは一体どれくらいなのでしょうね。
試合は、案の定Aランクの方の勝で終わった。
「さて、移動するわよ」
「分かったわ」
話を聞くに、自分たちの試合の一試合前になったら、スムーズに進行させるため、別の部屋に集まってもらうんだそう。
そこで、次の試合が終わるのを、待つ。
「出番です」
とうとうその時が来たみたい。
わたくしは、剣をもって中に入る。
彼女は……盾を持っているっみたいね。魔術がきっと得意なのでしょう。
「ただいまより、Sランク、ネイラ・テルー 対 D ランク、クラン・ヒマリア、の戦いを始めます。……いざ、尋常に用意、始め!!」
ネイラ先輩を見ると様子をうかがっているようだわ。なるほどね。そそれならわたくしから行きましょう。
「水針よ、貫け」
馬車で暇だった時に改良した魔術。水槍より威力が高くなっている。ただし貫ける部分もたいして大きくないから、様子見に適しているのよね。
「火よ、蒸発させよ!」
よし、火力の勝負ね。じゃあわたくしは大量の火をぶつけましょう。
「水よ、消火せよ ……水針よ、貫け」
「火よ、蒸発させよ!」
うーん、これでは進まないわね。
「土弾よ、衝突せよ」
「水と氷よ、盾となれ! ……え?」
驚いてくれたのね、ナイスリアクションよ。この土弾は土を凝縮させているから、簡単には水を含んだりしないし、障壁は簡単に壊せるわ。
ただ、そのあとのネイラ先輩の反応はさすがだわ。冷静に盾で防いでいる。
……その盾を壊すつもりだったのだけれど……勢いが少し衰えてしまったのかしら?
「水よ、飛んで行け 水よ、飛んで行け」
「ん? どういうことかしら、クラン。 ……火よ、蒸発させよ」
「さあ、発動を間違えてしまったんじゃないでしょうか?」
ネイラ先輩の疑問は、わたくしが二回、呪文を唱えたことに対するものね。ふふふ、相手に教えるわけが無いじゃない。
「まあいいか、そろそろ私も行くわね。土よ、飛んで行け!」
「土よ、防げ!」
十本の土の槍が飛んできたわ。だけど、これはなんとか防いだ。……その瞬間、土が壊れたけれど。
「あらあら、大言壮語したわりに弱い防御ね。そのままだと負けるわよ」
挑発してきたわ。あのね……
「それが初心者であるわたくしへの力なのかしら? 力加減も出来ないの?」
そんなことされたらわたくしも挑発を返さずにはいられないじゃない!
そんなことを思って、ネイラ先輩を見たら……いつの間にか、水をかぶっていらしたわ。
「……いえ、ちゃんとあなたの実力にそった力加減をしているわよ?」
「それをあきらかに超えているでしょう」
ネイラ先輩、あなた、わたくしが先ほど放っていた水を受けて、怒っていないかしら?
本当にネイラ先輩に怒られたら、わたくしは魔術では負けるかもしれないわ。だけれどね……
「バレちゃった? けれどそうじゃないと勝てないじゃない。仕方ないのよ。ごめんね、クラン。悪く思わないで頂戴」
やっぱり本気を出してきていたのね。
だったら……
バサッ!
飛んできた土の槍を剣で払う。
「剣を持ってきていたからまさかとは思っていたけれど、あなた、剣も使えるの?」
「そうよ」
さすがに、剣の腕までわたくしに勝てるなんてこと、無いわよね?
わたくしには強みが二つあるんだから、それを活かさなくて一体どうするのよ!
「さて、本戦といきましょうか」
「そうね」
ネイラ先輩も乗っかってきたわね。
それならもう遠慮はいらないわ。
「火よ、焼き尽くせ!」
火が飛んできたわ。
わたくしはそれを剣で払って、ネイラ先輩に近づく。
「水よ、貫け!」
あら、そこは氷で来ないのね。まあ必要な魔力は多いし、大規模なものには向かないものね。
わたくしは、水をよけ、危ないものは剣で切り、ネイラ先輩に近づく。
「土よ、壁へ!」
「土槍よ、壊せ!」
一本、二本、三本、四本、五本、六本、七本、八本、九本、十本、十一本、十二本……
——パリーン!
十二本も使ってしまったわ。もっと鍛錬しようかしら?
そしてわたくしは遠回りをしてネイラ先輩の後ろに近づき、剣の平たい部分でネイラ先輩を昏倒させる。
予想通り、後ろから来られるのはネイラ先輩も想定していなかったようで、勝つことが出来たわ。
「勝者、D ランク、クラン・ヒマリア!」
そういえば、騒がしかった観客席がいつの間にか静かになっているわ。
始めの方は、
「ネイラ様ーー! 頑張ってくださーい!」
「あの噂が嘘だって証明させてみてくださーい!」
「あくどい事すんなよー」
なんて歓声がたくさん聞こえてきていたのにね。
6.クランは、知り合いを紹介してもらう
「ネイラ先輩、起きてください」
ネイラ先輩はまだ気絶している。
「え? ……あ、私、あなたに負けちゃったんだっけ?」
「はい。……ところで、ネイラ先輩はランクダウンにならないんですか?」
今回、わたくしは八ポイントを手に入れた。そして、ネイラ先輩はマイナスが八ポイントでランクダウン……のはずだったのだけれど。
「昔は私もSランク同士で戦っていたからね。大丈夫なの」
「あ、そうだったのね。それなら安心だわ」
「まあこれからはいったんこれを無くしておかないとね」
「あはは……申し訳ないわ」
「いいのよ、私も人見る目がまだまだだった、ということね。気にしないで」
「そう言ってもらえると救われるわ」
心優しいのね。
「あと……」
「なにかしら? 先輩、なんて付けなくていいわよ。負けたのと年齢を鑑みて、私たちは平等くらいじゃない?」
「それもそうね、分かったわ、ネイラ」
「ありがとう。……あなたはこれで大変になってしまうのね」
「どういうことかしら?」
「まず、私に勝ってしまったことであなたは注目されるわ。あることないこと囁かれるかもしれない。それが一つ」
「もう一つは?」
「あなたのランク上げが難しくなるのよ。一応一つ上のランクまでは戦っても損はないから戦ってもらえるでしょうけど……」
ランク上げ、ね。どうしようかしら? そこまで大した興味は抱いていないのよね。
「あ、けれど、新学期になったら闘技大会があるわ。クランは運がいいのね」
「闘技大会?」
「ええ、全学年合わせて九百人程でトーナメント方式で戦うの。もちろん勝てばランクにも反映されるわ」
「へえ、面白そうね」
こちらでは実力を隠さないで過ごしてみる、と決めたし、頑張ってみようかしら?
「女王様も見に来るらしいから、みんな気合が入る戦いなのよね」
女王様も見に来るのね。
……このサスティーナ国は、|王《・》国とはついてないけれど、立派な王政をしいている国よ。ただ、女性が王になる、というだけの。
面白いわよね。
「それは楽しみだわ。わたくしも頑張らないと」
「あ、それで知り合いを紹介するのだったわよね? ……今だったら、ちょうどあそこにいるかしら? ついてきて!」
大人しくネイラについていく。
「ここよ!」
そこは、学園に隣接した森にあった、広場だった。木漏れ日が差してきて、綺麗なところだった。
そして、そこでは、5人くらいの男女がゆっくりくつろいで話していた。
「ん? ネイラじゃん! どうしたの?」
「ヤッホー、ルル! 今日はこの子を紹介しに来たよ!」
「ん? ……はじめて見る気がするけど……誰?」
「この子はクラン・ヒマリア、さっき戦って負けちゃった……」
「え? あなたが!?」
「なになに、ネイラ、とうとう負けちゃったの?」
「あ、レンブリンじゃん。実はそうなんだよね……本気で戦ったんだけれど……」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃないよ」
「……信じられない」
だんだん騒がしくなってきたわね。
えっと、確か、水色の髪の女の人がルル、金髪の男の人が、レンブリン、ということよね?
「……話を戻したらどうだ?」
「あ、そうだね、ヴィール。フィルゲ呼んでくれる?」
「フィルゲ? 分かったよ……って」
ふむ、ルルはフットワークが軽いのね。助かる人材だわ。
「僕?」
「うん」
「今日はお願いがあって来たんだけれど……」
「何?」
「この子、クランと知り合いになって欲しいの」
「また? この前そういうのはやめてって言ったよね? 僕に不向きだ」
「実はね、さっき私、負けちゃった」
「負けた!? っていうかネイラが戦ったの!?」
「そうよ。クランにね」
「……分かった。それならいいよ」
「ありがとう!」
なんだかよく分からないし、複雑な事情がありそうだけれど、ネイラがわたくしに紹介したかったのは、この黒髪のフィルゲ、という方だと言うことよね?
「クラン。この子がフィルゲ。あなたと同じ一年生で、もうSランクになっちゃったという秀才よ」
「あのさ、一年生でSランクになった、だったら私もだよ?」
「あ、ルル……うん、そうだね。ルルも凄いんじゃない? ……いつも一緒にいすぎてよくわからないけれど」
「酷いよ、ネイラ!」
「ついでにルルも紹介するわね。SSランクの三人のうちの一人のルルよ。私と同じ六年生。三年生のときにSSランクになって以来、一度もランクを落としていないの」
……凄いのだけは分かったわ。
わたくしはSランクのネイラでさえ、勝てるのか怪しかったんだもの。きっと勝てないわ。
うーん、一度戦ってみたいわね。
「凄いのね」
「褒められると照れるなぁ」
「自分から振った話題でしょ?」
「まあそうだけど」
「……で、この人がレンブリン。王族よ、男子だから王位を継ぐわけではないんだけれどね」
「王族……」
「ちなみに、Sランクよ」
「そしてこの人はヴィール。同じくSランク。五年生のときにSランクになったのよ」
「皆さん優秀なのね」
「そうなのよ! それであそこで寝ているのはアリア。ついこの間Sランクになった五年生よ。そこまで喋ることはないのだけれど、あそこで寝ているのがほとんどね」
ああ、天才肌、みたいなイメージね。どこが似ているかはうまく言葉に出来ないのだけれど、楽園であったエレナを思い出すわ。あれも天才だもの。
……そう言えば、ここにいる皆さんは、もしかしてみんな呪いにかかったりしているのかしら?
けれど、優秀といえば、わたくしのお兄様はふたりとも凄いはずよね。いえ、ユーリお兄様にはわたくしは勝てるし、そこは別ね。だけれど、エステルお兄様は呪いにかかっていてもおかしくはないのだけれど……かかっていなさそうなのよね。
まあ、いずれ分かるときは分かるでしょう。
「紹介してくれてありがとう」
「いいえ、まあそういうことだから、ぜひフィルゲとは仲良くなって欲しいな、同じ一年生なんだし」
「ええ、心に留めておくわ」
7.クランは、初見の魔物(見た目:鬼)に遭遇する
そして、寮に戻った。
残っている自由時間は、あと三日。四日後に始業式。そして、さっき知ったことだけど、闘技大会があるらしいわね。
ランク上げに興味があるわけではないけれど、大会ならちゃんと結果を残さなくてはね。そう決めたのだから。
その前にちょっと戦ってみたい気もするのだけど……別にしなくても良さそうね。
それなら何をすればいいのかしら?
……分からないわ。
それならまずは、散歩でもしましょうかしらね。
そして、わたくしはは眠りについた。
そして翌朝。パス券を使って朝食を食べ、部屋に戻った。
「あら?」
その前の廊下、そこで荷物を運んでいる少女がいた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
返事を返してくれたわ。
「今日、こちらに来たのかしら?」
「はい」
「そうなのね。わたくしも来たのはこの間よ、留学生なのね」
「そうなんです! ……何年生ですか?」
「一年生よ」
「一緒だ! ……ですね」
「普通に喋っていいわよ?」
「分かり……分かった」
うん、素直で良い子だわ。
そして、わたくしは部屋に入った。
……名前を聞くのを忘れてしまったわ。でも、いずれ分かるわよね? お隣の部屋のようだもの。
そして、散歩に行くことにした。
まずは、学園の裏の森。一応広場を通ってみたけれど、誰もいなかったわ。
森を、奥の方まで進んでみる。
「……魔物がちゃんといるのね」
驚いたわ。
安全のため、と言って魔物がいないようにするものだと思っていたわ。
もうしばらく、ただ進む。魔物を葬りながら。
「?」
流石におかしくないかしら?
魔物の推定討伐人数が上がっているのは別にいいのよ。いえ、外側ではなく内側に向かっているのだから問題ね。
この森に終わりはあるのかしら?
そんな風に思いながらも、ガベストラージのような推定討伐人数五百人の魔物が出てきたわけではないので、先へと進む。
……昼になってしまったわ。
今日は弁当を持ってきていないのよね。
仕方ないわよね。サリアには悪いけれど、魔物の肉でも食べることにしましょう。
魔物の肉って、美味しいものが多いのよね。
ちょうど、推定討伐人数九十人のヌクガットが出てきたので、さっそく狩って、焼いて食べる。
「うん、美味しいわね。味気がないけれど」
これからは塩でも持ち歩こうかしら?
食べ終わり、さらに進んでいく。
だんだんと推定討伐人数百五十人ほどの魔物が現れるようになってきたわ。
さて、次へと進みましょう。
――カサッ
音が、聞こえた。
ちょうど魔物が来てくれたのね。貴重な素材を持つ魔物だったら嬉しいのだけれど。
そう思って、その魔物を見る。
「……え?」
何よ、この魔物。
頭に|角《ツノ》のようなものがあって、二足歩行で歩いている。
二足歩行なんて珍しいわね、何て思うのだけれど、この魔物の名前が分からない。
……これは、完全に推測するしかなさそうね。
けれど、手には棍棒を持っているみたいだし、魔法を使うわけでは無いわよね?
油断は禁物だし、決めつけも駄目だけど、ひとまずは魔法で攻撃してみましょうか。
「火よ、焼き尽くせ」
火は、確かに発動した。だけれど、火が消え、出てきたところにいたのは、無傷の魔物だった。
「水よ、切り裂け」
水も、確かに発動した。だけどそこにいるのは無傷の魔物だった。
……聞いたことがあるわ。
どこか遠くに、魔術しか通らない魔物がいる、と。
また、それと同じ様に、魔術がまったく通らない魔物がいる、と。
これは後者のうちの一種かしらね。
ああ、こんなことだったらあの本に目を通しておけば良かったわ。
まあこうなってしまったものは仕方がない。
大人しく剣で攻撃するとしましょうか。流石に聞くわよね?
わたくしが剣を出すと、その魔物も相対してきた。
よし、これで集中できるわね。
一閃!
試しに、棍棒を切ってみる。
――カキン
見事に跳ね返されてしまったわ。
この棍棒、かなり丈夫なようね。棍棒を避けながら、それ以外を狙う必要があるみたいだわ。
まあだいたいこの魔物のことは分かったわ。
ここからは本線よ。
そう決意を新たにしていると、魔物の方から攻撃をしてくれたわ。
――カキン
……危険ね。少しでも油断すると、剣が折れてしまうかもしれないわ。
しばらく、わたくしの防御が続いた。
魔物は未だ、攻撃をやめる様子を見せない。
これは、わたくしが攻撃側になるよりも、隙をついて攻撃をするほうが良いかもしれないわ。
そう頭を切り替えて、受けることに集中する。
厄介な魔物ね。力強くて、隙がありそうに見えるのに、実際はあまり隙がない。
「ふふふ」
だんだん楽しくなってきたわ。頑張って隙を作りましょう♪
まずは、油断をさせることからね。
そう割り切って二分がたった。
そろそろかしら? わざと、隙を見せる!
そこよ! 一閃!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
そして、首を切られ、魔物は倒れた。
……さて、この魔物、どうしましょう?
始めてみる魔物だし、この国の人に聞いておいた方がいいわよね? きっと答えが返ってくるでしょう。
今は何の魔物かが分からないのが不便だけど……
説明が大変だわ。これごと持って帰ろうかしら? ええ、きっとその方がいいわよね。
よし、これからが決まったわ!
上機嫌なまま、クランは体重の倍以上であろうその魔物を引きずり、学園の方へと向かうのだった。
8.クランは、魔物のせいで目立つ
ふう、ようやくついたわね。
わたくしは、目の前の広場を見て、満足げに頷いた。
その広場には、ヴィール、フィルゲ、アリアがいた。
ヴィールは本を読んでいて、フィルゲは地面に何かを書いていて、アリアは相変わらず寝ている。
……ずいぶん濃いメンバーばかりね。
そして、魔物を引っ張っているわたくしに一番早く反応したのは、以外にもヴィールだった。
「知ってる……!」
そして、その声によって反応してくれたのが、フィルゲだった。
「え、何その魔物!? 初めて見た!!」
「じゃあフィルゲは知らないの?」
「うん!」
「じゃあなんでヴィールは知っているのかしら?」
「うーん、ヴィールはいつも本を読んでいるからね。そこで知ったんじゃない?」
「そうなのね。ねえヴィール、この魔物は何なの?」
「書く……」
書いて教えてくれるということかしら?
「分かったわ。ありがとう」
そして、ヴィールはこんなことを書いてくれた。
『その魔物はオグル。魔法攻撃に耐性を持っている。ここ二百年ほどは存在が確認されていない。住んでいるところも不明。過去は、大陸北部に生息されていたとされている』
「不思議なこともあるのね。教えてくれてありがとう」
「……」ペコリ
ふむ、情報が集まってしまったわね。
これだけでもこのオグルとかいう魔物を引きずってきた甲斐があったわ。
「ところで、しばらくこれを置いて行ってもいいかしら?」
「何で?」
「少し、森に用事が出来たの」
「森に用事? まあいいけど」
「ありがとう、フィルゲ!」
さて、これで心置きなく呼び出せるわね。
「つーちー!!」
「何だよ、呼び出すなら誠意を持て」
いつも通り、土が現れた。
「誠意? 持っているじゃない」
「どこがだよ」
「そうね、例えばコンクルートとドラゴンのどちらを呼び出す? と聞かれたらドラゴン、と答えるじゃない? つまり、呼び出されるには素材とかの価値が無いといけないのよ。そして、わたくしは今回、あなたを呼び出した。これってつまり、あなたの価値を認めている、誠意を持っている、ってことじゃない?
それに……」
「はいはい、分かったからそこまででいいよ」
「そうなの?」
それなら仕方ないわね。言いたいことはもっとあったのだけど、今は言わないでおくわ。
「うん、それで今回はなんの用?」
「あら? 分からないの?」
どう考えても神々が何かをしたとしか思えないのだけれど?
「うーん……最近忙しくなってきたせいで、心当たりが多すぎてどれなのかが分からない」
あぁ……神々らしいわ……
「オグルのことよ」
「オグル? ああ、確かに復活させたよ」
「やっぱり神々なのね……」
「それだけ?」
「それだけよ、だけど理由まで知りたいのよね~」
「理由ねえ、残念だけど、これは神々以外に教えることは出来ないな」
「そうなの?」
「うん」
「なら仕方ないわね。残念だけど今回の追及はこれくらいとしておこうかしら」
「うん、そうしてね」
「あ、そういえば」
わたくしは、一つ、聞きたいことを思い出した。
「この前、わたくし新しい聖女を発見したじゃない?」
「そうだったねぇ」
「あれの賭けには誰が勝ったの?」
「……」
黙り込む土。
少なくとも土は負けたようね。
「ねえ、誰なの?」
「……」
「だあれ?」
「………みんな外したよ……」
「そうなの!?」
もちろん、それってわたくしが関わっているのよね?
うれしいわ。神々の予想を裏切ることが出来たなんて。
これからもこんなふうに外させることが出来たらさぞかし爽快なことでしょう。
けれども、今回は偶然だもの。儲けもの程度に思っておきましょう。
そして、土は消え、わたくしはまた、広場に戻るのだった。
わたくしは、そのままオグルを引きずり学園に向かった。
「おい、あれ誰だ?」
「ん? あ、この前ネイラを倒したやつじゃねえ?」
「あ、それだ! それであれは何なんだ?」
「いや、分かんねえ」
「あ、じゃあ俺、聞いてこようかな」
「え、嘘、行くのか?」
「ん? 来るか?」
「うん、付いてく」
「分かった、じゃあ行こう」
「なあなあ、そこの魔物を引っ張っている美人ちゃん」
魔物を引っ張っている? ……わたくししかいないようなのだけれど、一部違う要素があるわよね? 本当に他に誰かいないのかしら?
「ほら、そこであちこちを見ているあなただよ」
「わたくし?」
「ああ(おいおい、貴族かよ)」
「何か用かしら?」
「実はさ、気になることがあってよ」
「その引きずっている魔物、何?」
ずっとそばで黙っていた男子生徒も会話に参加してきた。
「ああ、これ? オグル、というらしいわ。……そうそう、あなた達、ヨーゲルン先生を知らない? 魔物が専門分野の方なのよね、確か。この魔物のことについて詳しく聞きたいと思うのだけれど」
「ヨーゲルン先生? なら、案内するよ!」
先程広間でフィルゲに誰に見せればいいのか、を聞いたのはいいものの。どこにいるかまでは聞けなかったのよね。チャラそうな方たちだけれど、話しかけてくれて助かったわ。
「ありがとう」
そして、ついて行く。その間もいろいろ尋ねられた。
わたくしに趣味とかの話を聞いてくるなんて、わたくしが公爵だと知って取り入ろうとしているわけでもないのに、何の意味があるんでしょうね。
「ここだよ、多分、中にいると思う」
「ありがとう、助かったわ」
「こんな重い魔物、まじで引きずれるんだな……あ、先生は何を研究しているのかを一部の人にしか言っていなくて、気味悪がられているところもあるけど気にすんなよ」
「ええ、分かったわ」
研究結果を秘匿するのはまあ良いとしても、研究内容を秘匿するの? 変なことを研究しているのかしら?
9.クランは、情報を把握する
――コンコン
「誰だ?」
「クラン・ヒマリアと言います」
「初めて聞く名だな。……それは!?」
そんなヨーゲルン先生の目は、オグルに釘付けのようだ。
「見ての通りオグルです。今日はこのことで伺わせていただきました」
「オグル!? 本当にか!?」
魔物学の先生と言うだけあって、ちゃんと詳しいのね。
わたくしもまだまだだわ。
「そうだと聞きました」
「君が狩ったのか?」
「はい」
「何人で?」
「一人で、です」
「は?」
……何か問題でもあったかしら?
「……まあいい、戦いの内容を教えて欲しい」
「分かりました」
そして、わたくしは説明を始める。
「本当に一人で倒したのか……」
あら、信じられていなかったのね。
話が終わった後の先生は、呆然としていた。
「確かに話を聞くにこれがオグルである可能性は高いが……信じられん」
「あのー」
「なんだ?」
「先生の知っているオグルに関する知識を教えてほしいのですが……?」
「そうだな。確かにこのままだと私が情報を貰ってばっかりだ。こちらからも教えよう」
そして、先生は先生でちゃんと教えてくれた。
1.オグルは集落を作って住んでいた
2.オグル集落のトップには、他のオグルよりもはるかに強い個体が一体いた。
3.色は、何種類もある(クランが倒したのは赤)。色によって、武器が違う。
4.寒い地方にいた。
5.集団行動をすることもある
6.武器や角は丈夫なものが多いうえに、貴重な素材だった
だいたい、こんなところかしらね。
かなりの情報を教えてもらえたわ。
「お前、クランと言ったよな?」
「ええ」
「この魔物を譲ってはくれんか?」
「そうですね……角以外だったら構わないわ」
「そうか。助かる」
いえいえ、こちらとしても処分する手間がなくなってくれるから助かるわ。
「それではそういうことで」
もうこれ以上用事はなさそうだし、帰りましょう。
「ちょっと待て」
「?」
「この紙を与える」
そう言って手渡された紙は、ただの堅いだけの紙のように思える。
「何かしら?」
「この紙を持っているととあることができるようになるのだ。そうだな、今回は目印としてこの薔薇の印鑑を押しておこう。よし、これできっと大丈夫だろう」
「あること?」
「それは秘密だ」
秘密なのね。
「大事に取っておくわ」
「そうだな……出来るだけ持ち歩くように」
「? よくわからないけれど、出来るだけそうするわ」
「うん、それで頼む。じゃあさようなら」
「ええ、さようなら」
いけない、もう夕方じゃない!
それにしても、今日は初めてのことがたくさんあったわね。
昔に見られていた生態を少し変えた魔物が現れて、変だと言われていたのに全然変じゃない先生に会ったのよね。
ここ最近は平和に暮らせてたのだと思うけれど、これでまた逆戻りかしら?
そんなことを考えながら、寮に向かった。
「ただいま、サリア」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「今日は昼食の時に戻れなくてごめんね」
「いえ、少し前に昼を大幅に過ぎたら勝手に食べておいていいと言われていたので大丈夫でした」
そうなの。それは命拾いしたわ。そのときのわたくしをほめたいわ。
「あ、そう。サリア、ここら辺の地図を見せてくれないかしら?」
「地図ならこちらにありますが……」
「ありがとう」
どれどれ。
地図を覗き、学園を探す。
そして、その学園の北に広がっている森を探す。
ふむふむ。
あの森はファブローの森と呼ばれているらしい。学園の名前がそのまま使われていたわ。
そして、そのファブローの森はかなり奥の方……山にまでつながっていた。その山の名前もそのままファブロー山。わかりやすくて助かるわ。
そして、その森は、貴重な鉱物が見つかったりもするらしい。
これはいずれ行ってみなくてはならないわね。
この先のことが楽しみになってきた。
あ、せっかくここら辺の地形を知ったのだから。
「サリア、この学園の新学期早々のスケジュールを見せて」
ネイラが言っていたけれど、確か大会があるのだったのよね。
それはいったいいつなのかしら?
まさか新学期早々に行事があるなんて考えていなかったから、全然見ようともしていなかったわ。
「こちらです。……こういう習慣をつけましょうね?」
「サリアがいるから大丈夫よ」
「はあ……(なんでそんな返事に困ることを言ってくるんですか……)」
あら? 不満そうね。
「どうかしたかしら?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「そう、それなら良かったわ」
えーっと、今が正月の7七日で日曜日よね。そして学園が始まるのが正月十日の水曜日。
その前の日である火曜日には説明会があるみたい。
そして、大会があるのは……正月十五日の月曜日かららしいわ。
思っていたよりもすぐだわ。
他の行事は……正月にはぱっとみ大きい行事はなさそうだし、こんなものかしら?
「ありがとう」
スケジュールをサリアに返す。
「私はお嬢様が成長されたことがうれしいです……」
「大げさじゃない? ただスケジュールを確認しただけよ」
「今まではその日になっても行事を知らないことが多々ありましたからね」
あ、もう。
「なんでばらしちゃうのよ」
「別にいいじゃないですか、聞いている人もいるわけではありませんし」
「それもそうね」
ん? 納得はしたものの、これ、普段からサリアがそう考えていたということよね?
「ちょっとサリア! それならわたくしに何があるのか、くらい教えてくれてもいいじゃない!」
「いえいえ、一介のメイドにはできすぎたお願いですから」
「ちょっと! これからはお願いするわよ!」
「わかりました」
ふう、これで何とかなりそうね。これからは。
今日はさっさと遅くなった夕食を食べて、さっさと寝ることにしましょう。
『寝る子は育つ』とは昔からよく言うものね。
暦について。
1年は364日で一定。
月は13個。それぞれ4週間(28日)。呼び方は正月、1月、2月、3月……12月です。
10.クランは雪を、作ろうとする
「お嬢様! お嬢様、いい加減起きましょう!」
うるさいわね、と思って目が覚めた。
目の前には、少し起こった風のサリアがいる。
そして、外では太陽が真上に近いところまでに登っており……
「あらら……」
わたくしは、つい、そう呟いた。
「あらら、じゃあありませんよ! 一体いつまで寝ているつもりだったのですか!?」
「いつまでなんでしょう?」
わたくしにだって分からないわ。
強いて言うなら……昨日。『寝る子は育つ』なんて考えたものだから、寝すぎないようにする制御が外れたのかしらね。
「はぁ……取り敢えず朝昼兼用のご飯でも食べてきたらどうですか?」
「……。ねえ、サリア」
「何でしょうか、お嬢様」
「あなた、怒っていない?」
「さあ、お嬢様に心当たりがないのなら怒っていないんじゃないでしょうか?」
心当たり、ねえ。確かに起きるのは遅くなってしまったけれど、それだけでサリアはこんなに怒らないわよね?
なら、きっと心当たりはないのだわ。
つまり、サリアは怒っていないということ。
安心したわ。
「まあいいわ。食べに行きましょう」
食堂へと向かう。
その途中、ふと外を見ると、キラキラと光を反射している小さなものが、はらはらと空から降ってきていた。
「雪だわ……」
正月になってから一週間が経っている。
そんな中で、ようやく雪が降り出したのだ。
「これは遊ばなくてはね」
「まだ積もっていませんよ」
「それくらい分かっているわよ。これからのこと」
……いっそ、魔法で雪を作ってみたらどうなるのかしら?
後で部屋に戻ったら試してみましょう。
ようやくついた食堂では、まだ昼の時間ではないからか、人は少なかった。
そして、周りを見渡して気が付いた。
この前のわたくしと同じ留学生の方がいるじゃない……!
わたくしは、さっそく話しかけてみることにした。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「お邪魔してもいいかしら?」
「あ、うん、いいよ」
「ありがとう」
何だか気まずいわ。
えーっと、なにか話題話題。
「そう言えば、雪が降り始めたわね」
「そうだね。何だか安心するんだ」
「安心?」
「そう、僕、北の方のバンゲア帝国から来たからね。雪がたくさん降っていたんだ」
「そうなのね。わたくしはフィメイア王国よ。気候は大してここと変わらないわ」
「フィメイア王国から? へえ、そうなんだ。……あ、僕はシンディって言うんだ。あなたは?」
「そう言えばまだだったわね。わたくしはクランよ、シンディ」
「よろしく、クラン」
「ええ、こちらこそよろしく」
「……」
「……」
「シンディは明日の説明には参加するの?」
「もちろん。じゃないといろいろと分からなくて不便だからね」
「わたくしも参加するの。良かったわ、顔を知っている人が他にも参加するみたいで。一体何人くらいが来るんでしょうね」
「うーん。どうだろう? 分かんないや」
「そうなのね。ごめんなさい」
「大丈夫さ。……クランはこのあとどうするの?」
「このあと? 雪を観察して、魔法で雪を作ってみたいと思っているわよ?」
「雪を作るの!?」
「初めての試みだけれどね」
まず、魔術は二年前はそこまで得意じゃなかったもの。
去年は訓練に勤しんでいたから遊ぶ余裕なんてなかったしね。
「見てもいい!?」
「いいわよ。……けれど何にもならないと思うわよ?」
「いいよ!」
「そう……じゃあ、準備が終わったら廊下で待ち合わせでどう?」
「いいよ! じゃあまた後で!」
「ええ、また後で」
わたくしもちょうど食べ終わったことだしね。
……そう言えば、シンディの皿は少し前に空になっていたわよね? もしかしてわたくしが食べ終わるのを待っていたのかしら?
「お嬢様、行きましょうか」
「ええ」
ずっと端っこで静かに食事をしていたサリアがようやく声を出す。
……いつもながら、気が利くわね。本当に助かるわ。
「あ、クラン! 待ってたよ! はやく行こう?」
……。
部屋に帰って出来るだけすぐ出たつもりだったけれど、そこには当然のようにシンディがいた。
……準備が早いのね。
「ええ、行きましょう」
「シンディはどこか雪の観察にいい場所知っている?」
「うーん、分からないね。来たのも最近だし」
「そっか……じゃあ取り敢えず広場に行こうかしらね」
「広場?」
「そう、裏のファブローの森の手前に、こぢんまりとした広場があるの」
「へえ、そうなんだ!」
広場に向かっているうちに、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
「ねえ、これ、本当にやるの?」
「もちろんよ? だって明日はやる時間なさそうだし、その次の日からは学園がとうとう始まるもの」
「そっか……もっと厚着してくれば良かった……」
「? 火魔術は使わないの?」
「……どうしようかな……」
「何かいいにくいことがあるのなら、言わなくてもいいわよ?」
「うん。今はありがたくそうさせてもらうね」
何か事情があるみたいね。
まあまだそんなに深い間柄ではないもの。いずれはそうなれたらえいいな、とは思うけれど、今は早急よね。
「ねえ見て! とても綺麗よ!」
「僕のものはこんな柄だね」
「あら、柄は同じではないのね。じゃあこっちは……また新しい柄だわ!」
「そう言えば聞いたことがあるかも。確か雪の結晶は一つとして同じジャたちのものはないんだって。似た形のものはあるけれど」
「そうなの? ……あ、これは始めのやつと似ているわ! けれど、確かに少し違うわ。その話、本当かもしれないわね」
「でしょ?」
しばらく二人で結晶を探し、観察した。
「水よ、結晶となれ」
十分観察できたと判断し、一度、作ってみる。
出てきた結晶は、一個だった。
「結晶じゃあだめなのかしら?」
「うーん、結晶だと一つに数えられるんじゃない?」
「そうかも知れないわね。なら……水よ、雪になれ」
今度は、少しだけ、雪が出てきた、が、この吹雪いてきた天候の中で、満足に観察することができない。
「ある程度上手くいったし、いったん建物に帰りましょう」
「そうだね」
11.クランは、自分自身を省みる
「ふう、寒かったわね」
「これで初雪なんて信じられない」
雪は、吹雪いてきたとは言え、まだ積もっていない。
だけれど、寒さを与えるのには、十分だった。
「どこか寮の中でいい場所はないかしらね」
「あ、確か個室を申請すれば借りられると聞いたよ」
「そうなの? それならそうしてみましょう」
「了解」
そこで、初めてわたくしは寮について詳しく知れた。
それ以外にも、談話室や、夜になっても訓練できるための訓練室があることを知った。
この機会があってよかったわ。
たまには訓練に行ってもいいかもしれないわね。
「よし、借りてきたよ」
「ありがとう。じゃあ行きましょう」
「そうだね」
「じゃあさっそく雪を作ってみましょう。……水よ、雪となれ」
はらはら。
ゆっくりと雪が舞っている。建物の中で。
そして、外には吹雪。
なんだか、それが、とても幻想的な光景であるかのように思えた。
「……綺麗だね」
「そうね、綺麗だわ」
結晶を観察してみる。
ちゃんと、違う模様の結晶があった。
「うん、成功だわ」
「ところでさ、魔力は大丈夫なの?」
「魔力? そんなの有り余っているわよ」
そういえば、どれくらいがわたくしの限界なのかしら?
今まで考えてみたことがなかったわ。
今度、何もない時にでも試してみようかしらね。
「そうなんだ……」
わたくしたちは、雪が舞い落ちるのを、見ていた。
「もうすぐ出ましょう」
「そうだね。時間も近づいてきているし」
そして、わたくしたちは部屋に戻った。
「サリア、綺麗だったわね」
「そうですね」
サリアはいつも通り、気配を薄くしていた。
それにしても、サリアの気配は時々存在を忘れてしまうくらいになってきたわね。何か特技にでもなってきたんじゃないのかしら?
そんなことを、ふと思った。
そこから夕方までは、図書館にお邪魔した。
わたくしがずっと読みたいと思っていた本。
『魔物大全』
これは、三百年以上前に書かれたとされていて、その当時、どんな魔物がいたか、どれくらいの強さなのか、などが分かるの。
三百年くらいじゃああまり変わらないと思う人もいるかもしれないけれど、実際オグルなんかは目撃証言が途絶えたし、それに新しい魔物も増えていくもの。
意外と変わるの。
今日の図書館に来た目的は、オグルについて、ちゃんと調べること。
確かに先生とかに聞いて、オグルがどんな魔物かは分かった。だけれど、それだけではなんで神々が今、オグルを復活させたのかがわからない。
そして、それさえ分かれば、対策の仕様があると思うの。
『オグル』
あった、ここだわ
ざっと読んでみる。
うん、知っていることだわ。あ、けれど、これは参考になるかもしれないわ。
オグルの推定討伐人数はこの頃で百人らしい。
この頃の推定討伐人数はどれくらいの指標なのかしら?
はじめから目次をたどっていくと、
『ガベストラージ』
の説明があった。
ガベストラージは驚いたことに、推定討伐人数、千人らしいわ。
今は五百人だといわれているし、昔の人は弱かったようね。
ということは、オグルの推定討伐人数は、五十人というところかしら?
弱っちいわね。
まあオグルは集団で行動することもあったみたいだし、一匹だったらそれくらいかもしれないわ。それに。集落を壊滅させようとしたらもっといるのかもしれないわ。
どうやら神々が復活させたみたいだけど、集落はもう作られているのかしら?
こんど探してみましょうか?
そして、わたくしは『魔物大全』にある、知らない魔物をいくつか読んで、寮へと帰った。
『アクアインプ
水辺の近くに出没する、緑色の推定討伐人数二百人の魔物。物理攻撃を無効にする。水属性が得意。ただし、頭の上の皿は弱点。
また、アクアインプは主に夏に出没するが、似たように物理攻撃無効の性質を持ち、頭の皿を弱点とするものに、ニクスインプは冬に出没する。季節もそうだが、こちらは水色であり。色で識別できる』
夕食を寮にある食堂に食べに行くと、そこにはネイラがいた。
「あら、クラン。こっちで食べない?」
誘われたので、ありがたく同じテーブルにつくことにする。
「そういやクランに関することをフィルゲから聞いたよ」
「わたくしに関すること?」
「そう、オグルを一人で倒してきた、ってこと」
「ああ、それね。それがどうしたの?」
「驚いちゃってね、だからクランにあったらどんなだったのか聞きたいと思っていたのよ」
そうなのね。
それならタイミングが良かったのかしら?
「ねえ、オグル、どうだった?」
「そうね、本当に魔法が聞かなかったわ。ああいう魔物、初めて会ったもの」
「やっぱりそうなんだ……剣で倒したの?」
「そうよ。粗そうな動きをするくせにあまり隙がないから時間がかかってしまったわ」
「そう……けれどそれでもちゃんと倒せるんだ」
「ええ、何とかなったわね。あ、ネイラはもとからオグルを知っていたの?」
「うん、知っていたわ」
「じゃあ角がどんなふうに素材として使えるか知っているかしら?」
「あぁ……ごめんなさい。それは知らないわ」
「まあそうよね。ごめんなさい。無茶なことを聞いてしまって」
「大丈夫よ」
そして、ネイラは食べ終わり、食堂から出て行った。
やがて、わたくしたちも食べ終わり、二人で部屋に帰る。
「そういえばカナンはどうしているの?」
フィメイア学園のとき、カナンが活躍していたのは移動の時だからね。
念のために住んでもらっているけど、正直遠出の時以外あまり必要ないのよね……
「カナンさんなら、今は暇だから、と他の執事の方たちと交友を深めているそうですよ」
そう。
まあカナンだもの。
きっと、自分にはそこまでの役目はない、とはじめからわかっていたのでしょうね。
そうね……
「暇なときは、夕方までに帰るのなら、出かけててもいい、と伝えといて」
「わかりました。明日にでも伝えておきます」
これも「約束」になるのよね。
正直、こういう時は便利なのよ。必ずカナンにその伝言が伝えられるから。
だけど、そんなふうな油断がたまっていって、あのようなことになった。
今のところ、わたくしは「のらりくらりとした性格」を演じられているのかしら?
あまり自信がないわ。
けれど、これからはどんどん人と関わる機会が増える。……多分。
だから、制限的には今日までよね、性格を固めるのは。
だけれど、もちろん大きく変えるのは無理。
わたくしは、そんなことを考え、具体的に性格を想定しながら、眠りについた。
12.クランは、大人しく説明を聞く
「じゃあ行ってくるわ!」
「いってらっしゃいませ」
わたくしはサリアに見送られて、部屋を出た。
今日は無事、寝坊をせずに起きられたし、こんなふうに準備にも余裕を持てた。
とっても順調よ。
「ここが大会議室ね」
今日の説明は、この会議室で行われるらしい。
「大」とついているだけあって、四十人ほどは入れそうな会議室だった。
そして、そこには、もうシンディがいた。
「おはよう、シンディ」
「あ、おはよう。ゆっくりしていたんだね」
「ええ」
……これでも余裕を持ってきたのだったのだけれど。
これでもシンディには遅く感じられるらしい。
しかし、それ以外の人は、まだ十人ほど。
四十人はさすがにこないとはいえ、この部屋を使うことからも、三十人くらいはいるのじゃないかしら?
それだったら、十分に早いといえるわよね。
「それでは、これから説明会を始める。一同、礼」
あれから、だれひとりとしてやってこなかった。
つまり、わたくしが最後だったみたい。ここにいる|生《・》|徒《・》|は《・》わたくしを含め十二人。
そして、新たに入ってきた先生が……三十一人。
うん、確かにこれならこの部屋が必要ね。逆に狭くも感じてしまうわ。
納得ができた。
もちろん、なんで先生がこんなにいるのかについては、わからないわ。
「まずはここにいる十二名の留学生諸君、試験への合格、本当におめでとう。
そんな優秀なのだから、もう理解しているかもしれないが、この学園についてと、明日以降に向けての説明をさせてほしい」
わたくしは調べていないから、本当に助かったわ。
「それでは最初に、先生方を紹介しようと思う。これがすべての先生ではないが、これは各クラスの担任の先生だから、君たちが見かけることも、多くなるだろう。
まずは一年一組の担任、ベンティーナ先生。魔法薬学を教えている」
茶色く、長い髪を持った、仕事がいかにもできそうな女の人が出てきた。
「次に、一年二組、……」
そうして、説明はつづいていく。
一応メモは取ったわ。だけれど、見たとこで、顔とは結び付かないから、少し厳しいかもしれないわ。
「で、私がファブロー学園学長の、サン・フォーバルだ。よろしく頼む」
そういったところで、半分以上の先生が外に出た。
残っている先生と出て行った先生の違いは何なのかしら?
「そして、次、諸君に決めてもらいたいのは、授業についてだ。
この学園は、授業を選択できるようにしている。魔術が得意なものは、魔術をとればいいし、剣が得意なものは剣術の授業をとればいい、というふうにな。
いくつか選択肢があるので、今から諸君らの新たな担任となる先生に伝えてくれ。質問はもちろんしていい」
なるほど、ここにいる十二人の担任になる先生が残っているのね。
納得だわ。
「クランさん、何か質問がある?」
あ、この人は……
「ベンティーナ先生? わたくしは一年一組なの?」
「そうよ。それで質問はある?」
そういえば、今気が付いたけれど、わたくしも先生も敬語を使っていないわ。……何も言われていないうちは大丈夫でしょう。
「教科選択について、何が選択できるのか教えてください」
「え? 知らないの?」
「はい」
だって、きっとなんとかなるじゃない。
「分かったわ。じゃあ始めから説明するわね」
「ありがとうございます」
先生から聞いて、こんなことが分かったわ。
まず、学年で選択の枠組みは変わらない。
だから、実際に、業を受けるときは、クラスは混合になるみたい。
そして、
・剣術、魔術、弓術、槍術、盾術
・戦術学、魔物学、
からはそれぞれ一つ以上の計三つ。
・魔導学、魔法薬学、鍛冶岳、
・採集学、採掘学
からはそれぞれ一つ。
合計五つを選ぶことが出来るみたい。
答えは決まっているわよね。
「剣術、魔術、魔物学、魔法薬学、採集学で」
「わかったわ。難易度はどうする?」
あと、難易度というのもあるみたい。
「もちろん、全部一番上で」
「……本当に?」
当たり前じゃない、それ以外を選ぶ選択肢なんてないわ。
「もちろんよ」
「……分かった。けれど、今年度中はもう変えられないからね」
「問題ないわ」
「……そう。他に質問とかはない?」
「今のところは」
多分、無いわよね?
「そう、それならいいわ」
「……コホンッ」
サン学長が、注目を集めるかのように大きく咳をする。
「では、次の説明に入る」
そこから、わたくしは無事に学生証を手に入れた。
これで闘技場の許可証(仮)とはお別れね。
そして、ネイラに聞いていた通りのランクの説明があった。
まあ、一つ、新たに知ることがあったものと言えば。Sランクが今は二十三人だったことだ。
そして、今度の新年度の大会についても説明があった。
「これは聞いたら分かることだが、大会は最初に、総当たり戦を行い、それぞれの上位二人が勝ち抜き戦へ参加することになる。
だが、総当りについては強いものほど休憩をちゃんと取れるようにしているため、今のうちに勝っておくことを推奨する」
まあ! それはわたくしにとっては不利な条件ね。
……けれど、どうしようもないのよね。
そう思って、諦めることにした。
13.クランは無事に、受け入れてもらえる
「さあ、ではクラン、行くわよ」
「はい」
先生に連れられて教室まで向かう。
「皆さん、今日は編入生がいるわ。紹介するわね。クラン・ヒマリアさんよ」
「クラン・ヒマリアです。フィメイア学園から来ました。魔物を狩るのが好きです。よろしくお願いいたします」
「「よろしくお願いします」」
「クランさんは、魔術、剣術、魔物学、魔法薬学、採集学を取るそうよ。……そうね、アロバン、あなた、とっている科目が同じでしょう? 気にかけてやってね」
「はい……」
「じゃあそのアロバンの隣の空いている席に座って」
「分かったわ」
アロバン、ね。魔術と剣術をを選ぶなんて中々やるわね。戦ってみたいわ。
「あの、アロバン、剣術のところに連れて行ってもらえるかしら?」
「……」
アロバンは、わたくしを見ずに、さっさと歩いていってしまった。
……無口だったのかしら?
まあ方向は同じなのだから、と、アロバンについて行く。
しばらく歩き、剣術場についた。
「君がクランか?」
「はい」
先生に声をかけられた。名前は……覚えられていないわ。見覚えはあるのだけれどね。
「今日は、今度の大会に向けて、模擬戦を行うつもりだが……大丈夫か?」
「ええ」
もちろんよ。
というより、さっそく戦えるのね。嬉しいわ。
皆さんいったいどれくらいの強さなのでしょう? ネイラの魔術ほどの力があって欲しいものだけれど。
「クランは……今日は先生が相手をしよう」
あら、先生が相手なのね。
ここは一年生とはいえ最上位のクラスだし、きっと先生も強いのでしょうね。得をした気分だわ。
「それでは、用意、始め!」
先生が全体に向かって声を掛ける。
それに呼応し、皆が戦い始める。
わたくしも、先生と、相対する。
「来なさい」
「分かったわ」
ふふ、随分と強さに自信があるようね。戦えるなんて楽しみだわ。
まずは様子見。
もちろん、防がれた。
次に、少しだけ強くした。
また、防がれた。
それを、繰り返していった。
まあまあの強さと速さで戦っているのだけどね……
何回攻撃しても、隙を見せてこない。
「そんなもんか」
先生が、そう呟く。
そんなもの? いえ、こんなものではないわ。
わたくしは、さらに速く、強くした。
だけど、それでも防がれる。
「さて、こちらも行こうか」
そう言って、先生はわたくしが攻撃を繰り返しているのに、攻撃に転じてきた。
わたくしは防衛一戦になる。
本当に強いわ……
先生の顔を見る。
先生の顔は……笑っていた。
わたくしも、今のわたくしの実力に、限界を感じ始めていた。
もっと、いろんな方法を試してみないといけないわね。
そう思った時、オグルのいで立ちが思い浮かんだ。
そう思うと、あのオグルの戦い方を、まずは習得してみようかしら?
そう、力強く、粗く見えても隙がなかったあのオグルのように。
「は?」
わたくしは、さっそく試してみることにした。
先生は、わたくしの戦い方の変化に驚いてる。
今がチャンスよね。
速さのために捨てていた力強さで、先生の剣を、弾く。
——カラン
剣は、落ちた。
「……」
先生は、無言だ。
——パチパチパチパチ
拍手の音が、聞こえた。
「え?」
不思議に思って周りを見ると、その視線の先には、わたくしと先生がいたようだった。
「すごいな、お前」
「先生が初見とはいえ負けるなんて……」
「なあ、今度戦ってくれねえか?」
「さっきの試合、凄かったぞ!」
温かい言葉が、わたくしに向けられていた。
……アロバンは、わたくしを睨んでいるけど。わたくし、何かしたかしら? 心当たりはないのだけれど。
「……ありがとうございます」
ふと、口をついて出た言葉は、感謝の言葉だった。
もしかしたら、わたくしはここでの新しい生活を、不安に思っていたのかもしれないわ。そして、その心配が今、払拭されたから、つい、感謝の言葉が口をついて出た。
そう推測したが、それは納得できるものだった。
「いやあ、クランは凄いな。途中までは先生が勝っていると思っていたんだが……。最後、剣の扱いが変わったように見えたが、そこはどうなんだ?」
「最後……ああ、このままだとどうせ負けると感じたので、先日戦ったオグルという魔物の戦い方を、少し真似してみました」
負けるつもりだったのだけれどね。
「オグル……ああ、あれはお前なのか。ヨーゲルン先生がやけに喜んでいたぞ」
「そうなんですね」
まあ予想通りだわ。
「だがそれでもそこまで長い間戦ったわけではないのねだろう? よく真似できたな」
「真似というほどのものでは……。ただ、力強さを優先してみただけです」
「そうなのか……だが、いきなり戦いを変えられるのは、強い強みだな。きっとこれからもお前は強くなるだろう」
まあ、期待されてしまったわ。
だけど、確かにそうよね。
正直、わたくしにおいて、魔術は改良の余地はあるとはいえ、進歩はしなさそう。
だけれど、剣術は、今日、まだまだ伸びしろがあることを発見できた。
わたくしは、まだまだ強くなれるのだ。
そう、気づいた。
今度は、ネイラにも圧勝できるようにしておきたいわ。
学ぶ意欲、努力する意欲が湧いてきているのを感じて、なんだか嬉しくなるのだった。
14.クランは、アロバンを不思議に思う
剣術のあとは、一時間、座学があった。
これは、正直言ってつまらなかったわ。だってどれも知っているもの。
ただ、授業をしたベンティーナ先生のために言うのなら、この授業がつまらなかったのは、けしてベンティーナ先生本人ではなく、そもそもの内容のせいよ。
あ、これはフィメイア学園の授業にも言えることよ。
そして、魔物学の授業があった。
教師はもちろんヨーゲルン先生。
相変わらずわたくしを嫌っていそうなアロバンについて行った。
最上位クラス……どうやら二つに分かれているみたい……の方に入ったが、さっき、剣術のクラスにいた人が、ちらほらいた。
話しかけてみたいけれど……のらりくらりと交わす性格の人が、自分から話しかけたりするかしら? そう考える。すると、話しかけられて、それに答えるほうがのらりくらりとしていないわよね、という考えになった。
だから、さっそく一人の女の子に声をかけてみたの。
「こんにちは。あなた、剣術のときにいた方よね?」
「そうだよ。……クラン、だっけ?」
「ええ。まだ来たばかりでそこまで喋る人がいないの。隣に座ってもいいかしら?」
「いいよ」
良かった。この子はきっと優しい子だわ。
その子は名前をハミエルと言った。
「私、他には盾術と採集術、魔法薬学を取っているの。あなたは?」
「残念ね。わたくしは盾術じゃなくて魔術よ」
「剣術と魔術!? 本気!?」
「ええ。どちらも得意よ」
「そうなんだ……凄いね」
「そこまででもないと思うわよ」
特に魔術なんかは……ね。
ネイラは六年生だから、この学年の中じゃあいいほうかもしれないけど、学園全体となると……。そこまで上位というわけではないと思うわ。
「絶対凄いよ。大会は出るでしょう? やっぱり魔術と剣で出るの?」
「ええ、そのつもりよ」
「……やっぱり凄いじゃん」
ただ出るだけよ?
「そんなに少ないの?」
「うん、九百人中三十人くらいかな。両方使える人はもっといるんだろうけど、実践で使おうと思う人はあまりいないね」
へえ、少ないのね。
となると、アロバンは結構珍しい方なのね。
ちらりとアロバンを見る。
目があったが、睨まれてしまった。
……本当何なのかしらね。
「ん? アロバン?」
ハミエルは注意深いのね。まあまあアロバンと距離はあるはずなのだけど。
「ええ、なぜか嫌われているみたいなの」
けれど、ちょうどいいわ。理由に心当たりがないか聞いてみましょう。
「ああ、アロバンはね……」
「なにか理由の心当たりがあるの?」
「いや、理由はわからないかな。だけど、いつも一人でいるし、多分、そんなに気にしなくていいと思うよ?」
「そう……ありがとう」
結局何でかは分からなかったけれど、あれは普段とあまり変わらないのね。
それなら安心したわ。
そして、授業が始まった。
これは、正直楽しみにしていたのだけど……。フィメイア学園のときまでと、あまり変わらない授業だった。
ちょっと残念ね。
もっといろんなことを学べるかと思っていたわ。
「クラン、来てくれ」
授業後、ヨーゲルン先生に呼ばれた。
「何でしょうか?」
「オグルのことだ。分かったことを伝えようと思ってな」
「本当ですか!?」
それは嬉しいわ!
「ああ、ここに書いているから、ぜひ読んでくれ。疑問点などがあれば、放課後に来てもらっても構わない」
「分かりました。ありがとうございます!」
ふふふ、一体何が分かったんでしょうね♪
そして、わたくしはアロバンが教室から出ようとしているのを見て、急いで追いかけるのだった。
「それでは、今から授業を始めるわよ~」
次に、魔術の授業があったわ。
「そうね〜大会に向けて、皆さんならもう余裕でしょうけど、動いている物体に魔法を当てる訓練でもしましょうか? じゃ〜あ、ケビン、お手本を見せて」
間延びした口調の、その女の先生は、ケビン、と今言った。
ケビン、ね。聞いたことがある気がするわ……
そして、そのケビンと思われる人が出てきた。
「あっ」
思わず声に出す。
そのケビンと思われる人物は、ネイラにとても似ていた。
そういえば、ネイラの弟さんってケビンという名前じゃなかったかしら? 多分、この男の子よね?
ネイラと同じで魔術が得意だったのね。
「じゃあケビン、お手本を見せてみて〜?」
「分かりました」
魔導具が動き出す。
すると、十個ほどの的が縦横無尽に動き出した。
ケビンは。それをはざさずに打っていく。
「さすがケビンね〜。みんなも、ケビンのように、命中率百%を目指してみてね? それではスタート!」
始める? 何を? と思ったけれど、どうやら皆さんは五つある魔導具に並んでいるみたいだし、練習を始めろ、ということみたいね。
わたくしも一番近い魔導具に並ぶ。
ぼんやりと他の人を眺めているけれど、皆さんちゃんと当てられているようね。感心だわ。
わたくしはどうなるかしら?
ちゃんと当てられるとは思うのだけれど、初めてだもの。失敗しそうだわ。
列は進み、わたくしの出番がやってきた。
的が動き始める。
この動きも、実はちゃんとわかりやすいのよね。魔導具を人が作ったんだから規則性があるはずだと思って見ていたら案の定あったわ。
だから……
「水よ、貫け」
的に命中する。
「水よ、貫け」
的に命中する。
すべての的に当たった。
命中率百%!
やっぱり軌道を分かってしまったらこんなものよね。なんだか物足りないわ。
……まだ、アロバンに睨まれているわ。
わたくし、何もやっていないはずなのだけど。
もう一度、魔導具の順番が周り、授業が終わった。
午後の最初の授業は教室で受けるやつだし、昼食休憩の間はアロバンを気にしないで過ごしましょう!
15.クランは、新たな交友を作る
昼食の時間になった。
フィメイア学園にいた時のように、サリアが弁当を作ってくれたので、いつもの広場……ファブローの森の手前の……に行こうと考えた。
とりあえず、行ってみたわ。
そしたら、ネイラ、ルル、ヴィール、アリアの五人がいた。
アリアは寝ているけど、それ以外は広場の真ん中で輪になって喋っている。
さらに、椅子まで準備されているわ。そして。そこに座っている。
この空間にわたくしが入るのはなんだかためらわれるような気がして、わたくしはそっと広場から離れた。
そんなわけで、わたくしは他の昼食を取れる居心地のいい空間を求めて歩くことにした。
わたくしの頭の中には、この前見た地図がある。
そこから、広場っぽい空間を思い出そうと努力する。
……あ!
あった。
ファブロー学園の正門は南にあり、北東に今まで通っていた広場があるのだけどその広場は確か、北西の方にあった。
もちろん、ファブローの森の入口のほうにある。
それに、大きくない。
ここなら、来ている人も少なそうだし、きっとゆっくり出来るわ。
そう思った。
そうと決めたら早速行動するわよ!
わたくしは広場へと向かう。
途中で横に見る森の中は、薄暗く、外のぽかぽかとした暖かさとは反対で、寒そうだった。
広場に着いたわ。
さっそく中を覗いてみる。
うん。良いところだわ。
こじんまりしていて、暖かそうで、なんだか安心できる。
ただ……
——ビュウン、ビュウン
そんな音をたてて、剣を振っている男子生徒が、一人、いた。
これは入ってもいいのかしら?
正直、あの場所はとっても気持ちよさそうだから、入りたい。
だけど、彼は練習している。それを邪魔するのは、なんだか気が引けるわ。
「え?」
しばらく、その男子生徒を見ながらどうするべきか考えていたからか、相手に気づかれてしまった。
「どうしましたか?」
彼は、わたくしにも丁寧に聞いてくる。
「ここで昼食を食べようと思ったのだけれど……いいかしら?」
「大丈夫ですよ!」
彼は、笑顔で、元気に答えてくれた。
そんな彼に好感が持てたのは、言うまでもないこと。
わたくしは、彼を横に見ながら、食事をとることにした。
今日は晴天。二日前に降った雪が嘘かのように、なにもない。
そのことに、少しもの悲しさを感じた。
「ハァ、ハァ」
目の前には疲れていて、冷たい地面に寝転がっている様子の彼がいた。
とうとう練習は終わったらしい。
「大丈夫?」
つい、心配になってしまう。
「大丈夫です、僕は、こんなことをしないと、強くは、きっとなれないので」
確かに、彼の素振りはお世辞にもいいとは言えないものだった。
だけれど、動作を繰り返していることで、はじめの時よりは少し、ほんの少しだけれど、変わっているようにわたくしには見えた。もちろんいい方向に。
「偉いのね。そう思っても実際にそこまでできる人は少ないわよ」
「そうですか? それならうれしいんですけど……実力が伴ってなくては……」
「……ねえ」
「何ですか?」
せっかくだし、と、気になっていることを聞いてみることにした。
「あなた、この学園の生徒よね? 申し訳ないのだけど……あの剣術の腕で入れるようには思えないわ」
「ですよね」
気を悪くすると思ってした質問ではあったが。彼が肯定したことで、わたくしは驚いた。
「実はぼく、もともと魔術で学園に入っていたんです」
「魔術で? じゃあどうして今は剣術をやっているの?」
「魔術の……自分の限界を見ちゃって。自分は出来ないのに周りの人がどんどん出来るようになっていくから、それに耐えられなくなったんです」
ああ、ありそうなパターンね。
「だからいっそ剣術をやってしまおうって」
「そうなのね。やっぱり剣術でも強くなりたい?」
「はい!」
純粋なのね。
「もし良かったら、この昼食休憩の時間なら教えられるけど、どうする?」
「いいんですか! ……あ、けど何もお返しできるものがない……」
礼儀正しい子だわ。この子を教えることに問題わなさそうね。
まあなんと言ったってわたくしの目的は……
「いいのよ、わたくしは人に教えることで自分を成長させようとしているだけだもの」
「そうですか……」
「それでも気になるなら。お互い貸し一つということにしましょう?」
「お互い? いえいえ、そんな! 僕に貸しは要らないです!」
「そう? あったほうがいいと思うけれど……」
なんだかんだ、話し合うことになった。
「……分かったわ。わたくしがあなたに貸し一つ、ということね」
「そうです!」
本当に、わたくしは教えることで得られる自分の技術の向上を狙っただけなのだけど……
ふと、本で見た「教えることは教える側にも得がある」。それを狙っただけなのに……
「あ、そうだ、あなたの名前は何ですか?」
「わたくし? わたくしはクラン・ヒマリア。今日から来た留学生よ」
そういえば。まだお互い名前を知らなかったわね。
今更ながらそんなことに思い至る。
「クランさんですね」
「違うわ」
「え?」
「クラン、よ。わたくしは一年生なのだから」
「そうなんですね! 全然そういうふうには見えませんでした! けれど、教えてもらう側で呼び捨ては……」
「気にしなくていいのに。ところであなたの名前は?」
「僕の名前は、ブライアンです!」
「分かったわ。ブライアン、明日からよろしくね?」
「はい!」
これが、わたくしとブライアンの初めての出会いだった。
16.クランは、ブライアンの考えに興味を抱く
次の日も、わたくしはブライアンの練習を食べながら、時々手を貸して見ていた。
「もっと速く!」
「いや、これ以上は無理ですって!」
そういうものかしら?
「貸して」
「はい」
「ほら、」
——ビュン
「こんなふうに、速くなるのよ?」
「それはわかってますけど、これ以上は無理ですって!」
「うーん……」
何かいい方法はないかしら?
わたくしとの姿勢の違いは……
——ビュン、ビュン
何度か自分で試してみる。
「あなたは、多分腕に余計な力が入っているわ」
「力が? けれど、力を入れずにどうやって速さを上げれば……」
「だから、余計な力がかかっているのよ。もちろん戦いの場では力を入れることも重要だけど、だからといって遅かったら反応できないわ。まずは速さが重要よ」
わたくしは力で先生に勝てたのだけどね。
だけど、その前に先生に抜かれなかったのは速さのおかげよ。
つまり、理想は両方ね。
「そうですか……」
——ビュウン、ビュウン
ブライアンは何度か剣を振ってみる。
けれど、なかなかうまく行きそうにない。逆に、力を抜くことを意識してしまって力が入っている。
「無理そうなの?」
「はい……」
「じゃあ理由を教えて?」
わたくしはブライアンに余計な力が入っているのだと考えたのだけど、もしかしたらブライアンは他のものが原因だと考えているかもしれない。
そう思って、早速聞いてみたの。
「うーん、剣を振り回す、というのは嫌いじゃないんですけど、剣自体が少し動かしにくいかな、と」
「剣自体が動かしにくい?」
「はい」
「どんなふうに?」
「なんていうか……動かすのを邪魔されている? みたいな……」
「ああ、なるほどね」
わたくしもはじめのころはそれを感じていたわ。
「それに、何で両方に刃があるのかも分かりませんって。初心者が二つも使うわけがないでしょう!」
「けれど、実際に狙いを外したときに使えるわよ?」
片方しか使わないとしたら、間違えたときに裏刃を使って攻撃することができないじゃない。
……あら、わたくしだったら試してみることができるかしら?
「じゃあミスらなければ良いんですね!」
「え? まあそうかも知れないわ。だけど、重さはどうするの? 片手になるとしたらこの分厚さが要らなくなって、軽くなるわよ? それは不利じゃないかしら?」
「それだったら」
「でも速さで上回れば……」
確かに、それはメリットね。
「じゃああなたは攻撃の重さを捨てるというの?」
「……かな……」
「その覚悟はあるの?」
正直、わたくしとしては試してみたい気がするわ。
「……分かりません。だけど、試してみたらどっちを取るかは分かりますから」
「じゃあ一度作ってもらうの?」
「それがいいかな……と」
「伝手はあるの?」
「ないです……」
「なら今はどうしようもないわ。諦めてそれで速さを上げる練習をしなさい」
「はい……」
「それに、もしあなたが伝手とお金を得て、その剣を作ってもらったときにもきっと生きてくるわよ」
「……そうですね! 頑張ってみます!」
ブライアンは素直ね。
さて、ちょうど昼食休憩も終わりそうだし、教室に戻りましょう。
放課後。
わたくしは、片方しかない剣を作ってもらうため、外に出かけることにした。
急だったけど、カナンが寮にいたのでついてきてもらったわ。
そして、聖女の仕事で貯めたお金も、持ってきている。
「カナン、今日は鍛冶屋に行こうと思っているの」
「ほう、鍛冶屋ですか……それだったらおすすめの店を聞いたことがありますよ。聞いた話によると、顧客を選ぶ、とか……。その性能は目を見張るものがある、ということらしいですね」
「へぇ、じゃあまずはそこに行ってみましょうか。連れて行って」
「かしこまりました」
カナンが連れて行ってくれたところは、街のはずれの川のほとりにあった。
周りには他の家はなく、煙突からは煙が上がっている。
「ここ?」
「はい。何でもガルーダという人物が優秀なようで……」
「ガルーダ、ね。一体どうなるかは分からないけれど、取り敢えず入ってみようかしら?」
「それがいいと思います」
カナンも賛成なようなので、安心して中に入ることができる。
さてさて、ガルーダとはどんな人物なんでしょう?
「こんにちは〜」
「こんにちは。ご用件をどうぞ」
出迎えてくれたのは、若い女の方だった。
……ガルーダが出迎えてくれるわけではないのね。
確かに、そんなことをしていたら鍛冶がはかどらないし、こんなものかしら?
「新しい武器を作成してもらいに来ました」
「新しい武器? それでしたらその依頼はお断りさせていただきます」
「新しい武器が駄目なの? 普通の人は自分が今使っているのと同じものを注文すると思うのだけど……」
「そうですよ。だから、無理なものは無理ですね(そんな普通の依頼をあの人が受けるわけがないでしょう)」
うーん? こういう人たちはまだ見ぬものに好奇心をいだくと思っていたのだけど……
「お嬢様はどんな武器を作りたいんですか? 剣なら今ので足りているでしょう?」
「うん、そうなのだけど、昨日から剣を教え始めたブライアンって子が、刃なんて両方じゃなくて片方でいい! なんて言い出してね。面白そうだから一回試してみようと思ったの」
「片方しか刃がない剣? それは本当に強くなるのですか?」
「分かんないわ。だから試してみようと思ったの」
「……え?」
あら、さっきまで対応してくれていた若い女性の方が反応してくれたわ。
「どうしました?」
「刃が片方の剣、ですか? 少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか? ガルーダに話を聞いてきてみようと思います」
「? ええ、助かるわ」
けれど、どうして?
今のわたくしの頭上に「?」がたくさんあってもわたくしは驚かないわ。
だけど、取り敢えず話はいい方向に進んだんじゃないかしら?
しばらく、カナンと喋りながら待った。
「なんじゃて! 新しい武器を作ってほしい、じゃと!?」
建物の奥の方から、ガルーダと思われる人物が叫びながら走って来たみたいだ。
うん、この依頼に興味を持ってもらえたようで良かったわ。
17.クランは、刀を発想する
「なんじゃて! 新しい武器を作ってほしい、じゃと!?」
建物の奥の方から、ガルーダと思われる人物が叫びながら走って来た。
「はい」
「どういうものだ!?」
「ガルーダ様、私が説明しますから!」
「邪魔じゃ!」
女性とガルーダが争っているわ。
これは割り込んだほうが良いかしら?
「はじめまして、わたくしはクランと言います」
「ガルーダじゃ!! それで、どんなものを作って欲しいんじゃ!?」
「それはですね……」
わたくしはガルーダに、片方しか刃がなく、速さも十分に得られるものを作りたいことを、その理由も含めて説明した。
「なるほどなるほど。刃を片方にするとなると……こんな感じか? 長さはどれくらいがいいんじゃ?」
「そうですね……ひとまずこの両手剣と同じ長さでお願いします」
「形状は?」
「真っ直ぐで」
「真っ直ぐ、のう……よし、分かった! クランとか言ったか? この後時間はあるのか?」
「ありますけど……」
「少し待て、試作品を作ってくる!」
「! ありがとうございます!」
これは嬉しいわ。思っていたのは何回も作って次の案を考えて……という感じだったんだけど、その手間がかなり省けそうね。
「よし、試作品じゃ。耐久性はあまりないが、どんなじゃ?」
「お借りします」
——ヒュン、ヒュン
「!」
軽いわ。かなり。
そしてちゃんとスピードも出るわね。
そして何より……
「持ち歩きに向いていますね。大して重さもないですし」
「たしかにそうじゃな。では入れ物まで作ってみるか?」
「はい、そうしてくれたら嬉しいです。ですが……」
「ちょっと待て、今作ってくる!」
そう言ってガルーダはまた鍛冶場に向かおうとしている。
「待ってください!」
「……なんじゃ?」
走ろうと……いえ、走り始めていたガルーダが動きを止め、振り返ってくる。
「これ、もっと剣の幅を狭くすることが出来ませんか?」
今の形状は両刃剣が、その幅を均等にして薄くなっただけのものだ。
だけれど、両方に刃があるなら仕方ないならばいざしらず、片方しか刃がないならばそんなにもいらない。
「幅? それだとさらに軽量化がされるのう……よし、試してみよう! まだ時間はあるのか?」
「はい」
「よし、作ってくる!」
今は冬。
まだ時間帯的には遅いとは言えないとはいえ、日が沈み始めている。
「カナン、これ、遅くなると寮には言っておいたほうが良いかしら?」
「そうですね……行ってまいりましょうか?」
「いえ、いいわ。魔術でなんとかするから」
「それならよろしくお願いします」
さてと、何で伝えようかしら?
安心なのは土魔術よね?
『サリアへ
帰るのが遅くなりそうだわ。寮に伝えといてくれる?
クランより』
うん。後はこれを書いた石板を部屋で作り出すだけ
「土よ、板を作れ」
寮の中のわたくしの部屋。そこの入口付近を思い浮かべながら呟く。
魔力が少し、抜ける感じがした。
きっと成功だわ……。初めてやったけど何とかなるものなのね。
「出来たのじゃ!」
ガルーダが随分薄くなった剣と、鞘を持ってきてくれた。
「鋭さはそこまでないのじゃが、試作品としては上出来じゃろうて」
「それは助かります」
そして、また剣を借りて、振ってみる。
——ヒュン、ヒュン
……とても軽いわね。これで攻撃に効果があるのかはよく分からないけれど……
けれどこれだと、軽すぎる剣を安定させるために両手が必要になってくるかもしれないわ。特に刃の長さが長くなってくると、そうしたほうが良さそうね。
それに、もう少し長さがあったほうがわたくしとしては重さを感じられて安心だわ。
そして、次は鞘に入れたものをすぐ出すことをしてみた。
腰に鞘を付けて、剣をそこに入れる。
出してみると……
スムーズにはいかなかった。
両手剣は、剣の長さは同じでも、その分幅が広いからそこまで剣を出すときに引っかかったりはしない。
だけど、この剣は剣の長さは同じで、幅が狭い。
そのことが、剣を抜きにくくさせた。
「鞘に剣が引っかかって抜けにくい気がしますね」
「うーむ、そうか……。……! それなら、剣をカーブにしてみたらどうじゃ!?」
しばらく考えていた様子のガルーダが急に声を上げた。
剣をカーブにする?
「つまり、こういうことかしら?」
はじめのときにガルーダが書いてくれた紙に書き込む。
「抜くときの体制と持ち方を考慮すると、こっち側に刃があったほうがいいから……曲がっている方の内側を刃にする、みたいな……」
「なるほどな、良さそうじゃの! まだ時間はあるか!?」
「はい。多分次で最後くらいでしょうが……」
「問題ない、他に要望はあるか?」
「あ、じゃあ剣をもう少し長くしてくれませんか?」
「剣を? どれくらいじゃ?」
「はじめの試作品くらいの重さのもので」
「ああ、理解した。幅はさっきくらいで良いんか?」
「ええ」
「分かった、じゃあまた作ってくる!」
日は、ほんの少しだけまだ残っている。
もちろん魔導具があるから行動には問題がないんだけどね。それでも時間を意識ししてしまう。そんな効果が夕日にはあった。
また、しばらく待った。
「出来たぞ!」
ガルーダがやってきた。
「どうじゃ!?」
わたくしは、またその剣を借りて、振るってみる。
——ヒュン、ヒュン
相変わらず速い。
そして、多少は重さも感じる。
もちろん、本番はこれよりは重くなるでしょうし、これくらいでちょうど良さそうね。
次に、鞘に入れて取り出してみる。
さっきとは違い、取り入れや少しのカーブで、大分抜きやすくなった。
これならきっと、すぐに出すことができそうね。
「完璧だわ」
「本当か!?」
「ええ。じゃあ本番用の剣を……できる限り速く作ってくれないかしら?」
「もちろんじゃ、できたら連絡しよう!」
「ええ、わたくしはファブロー学園の寮にいるわ。クラン・ヒマリアに手紙を届けたい、と言ってくれればきっと大丈夫よ」
「分かったか、ジュリ?」
「分かりました」
あら、あの女性はジュリと言うのね。
「では、耐久性にも出来るだけ気を使った、鋭い剣をお願いします」
「もちろんじゃ! 久しぶりに腕がなるのう……」
それにしても他の依頼は良いのかしら?
そんなことが気になったけれど、時間も怪しいので、わたくしはさっさと帰ることにした。
18.クランは、フィルゲと戦う
翌日である金曜日。魔術の授業。
わたくしはここ二日の通りに訓練場に来ていた。
教室にいたわたくしが見たのは……フィルゲだった。
見間違えかもしれないけれど……黒髪は珍しいし、きっとフィルゲよね?
一度疑ったせいで自身が持てなくなってしまったわ。
だけど、きっと大丈夫よね? それに、皆さんわたくしが来たばかりでそういうのに疎いと分かっているでしょう。
そういえば、確かに今までフィルゲを剣術でも魔術でも見たことが無かったわね。
思い返してみると不思議だわ。
「こんにちは、フィルゲ」
今まで来ていなかった理由を聞こうと思って話しかけてみる。
「ん? ああ、クランか。どうしたの?」
「あなたを授業で始めてみたから、理由が気になったの」
「あ、あぁ……ちょっと面倒事を頼まれてね……」
「面倒事?」
「そう、編入生の世話というか手伝いというか……ずっと魔術を教えていたよ……」
「編入生?」
「そう、一年生だよ」
「一年生? それってシンディ?」
「うん、そう。知り合い?」
「ええ、少しだけ一緒に過ごしたことがあるわ、寮は隣だしね」
「そうなんだ。まあ空いている部屋に編入生を入れているからね。そんなもんかな?」
「そうなのね。シンディはどうして?」
「あぁ……。それは本人から聞いたほうが良いと思うな。僕の口から言うことではないと思う」
「そう……」
残念だわ。
そういえば、雪を作っているときに魔術について聞いたときも、その日には教えてくれなかったわね。
複雑な事情でもあるのかしら?
「で、そのシンディは今はどうしているの?」
「知らないよ。今のところ僕が関わる相手ではないからね」
……。
独特な考えを持っているのね。
そして、授業が始まった。
「さ〜て、闘技大会まで今日を含めてあと三日ね〜。昨日までの二日間、みんなには動いている的に当てる訓練をしてもらったの。
そこで、今日は、対人戦としてそれをやろうと思うわ〜。
ルールは簡単、五分間魔法を打ち合ってお互いの魔術にぶつけるだけ。互いの後ろには魔導具の壁を用意し、その壁に一つでも魔術が当たったら負けだ。防御魔法はダメよ? あと、攻撃は実体を持つものでお願いね?
じゃあ……フィルゲとケビン、お手本をお願いね?」
「「分かりました」」
「じゃ〜あ、始め!」
さて、二人の戦いは始まったわ。
どうやらというかやはりというか、フィルゲの方が実力はあるみたいね。さすがSランク。
フィルゲがたくさんの魔法を放ち、それをケビンが打ち落とすというケビンの防衛一本の戦いになってしまっている。
そんな状態でケビンがうまく戦えるはずもなく、試合はとても早く終わってしまった。
「うーん、これじゃあ参考にならないわね〜。どうしましょうね〜」
「先生、それならクランとやりたいです」
「クラン? 戦いになるの?」
「やってみないと分かりません」
「まあいいわ。それじゃあ、位置について〜。始め!」
わたくしとフィルゲの戦いが始まった。
「「氷よ、貫け!」」
わたくしもフィルゲも、大量の氷を打ち出すところから始まった。
ただ、そんなに打ち出していても、もちろんうち漏らしが出てくる。それも、大量の氷で対処する。あちらも同じようなことをやっている。
わたくしたちの試合は、拮抗していた。
だけそ、わたくしは限界を感じていた。
わたくしは、ここでまあまあの魔力を使い、技術は総動員している。だけど、フィルゲにはまだまだ余裕がありそうだ。
「すごいな……」
「あのフィルゲと五分五分だなんて……」
「どちらの技術も負けていないわ……」
「あら〜、意外とやるわね〜」
もし、わたくしが聖女の力を解放すればこの試合には勝てるかもしれない。だけど、そんなことをしてこの試合を潰したくない。
魔術を繰り出しながらも、わたくしは一生懸命考えていた。
……あ!
「水よ、雪になれ」
小さく、呟く。
「何か言った?」
「さあ? 気のせいじゃないかしら?」
もちろん気の所為なわけがないじゃない。
その間も、フィルゲは時々土魔術をぶっ込んできたり、上からの攻撃を目論んできたりと忙しい。
わたくしも、それになんとか氷で対応するので精一杯だ。他の属性に意識を変える余裕がない。
……同じ属性とは言え一つを除いて。
「雪?」
フィルゲがそう呟いたのが聞こえてきた。
「そうみたいね。今日は降りそうになかったのだけど、どうしたのかしら?」
先程発動した魔術が、上空からやってきて、今、この場に降っている。
「さあ?」
そう言うフィルゲの目は、わたくしを注視している。
はやく、雪が壁に当たって!
わたくしが数えているものによると、今は戦いを始めてから四分十三秒が経過している。
何もなければ勝敗はつかず、引き分けになってしまう。
それはなんだか悲しいわ。
そう思ってしまうでしょうから、だから速くこの試合が終わってほしい。
——ブーー!
「え?」
その音は、フィルゲの後ろの壁から聞こえてきた。
わたくしの放っていた氷の魔術が当たった気はしない。
……雪が、何とか当たってくれたみたいね。
きっと、フィルゲはいきなりの雪を不思議に思いながらも、まさかわたくしの攻撃だなんてつゆほどにも思っていなかったんでしょうね。
「解除」
皆にも分かるように、声に出して言う。
すると、今まで降っていた雪が、消えた。
「あぁ……」
どうやらフィルゲは気づいたみたいね。
「そういうことよ、今回はわたくしの勝ちね。だけど、真っ向からの勝負だったらきっと負けていたわ。すごいわね、そんなにも実力があるなんて」
「いや、クランも大したものだよ。本当にネイラは君に負けたんだね」
「え? 姉さんが、負けた? この人に?」
ここで急に割って入ってきた声があった。もちろんケビンだ。
「はいは〜い、それじゃあ他の人たちも試合をするわよ〜、相手を決めて、位置についてね」
「クラン、またやらない?」
「もう少し実力をつけてからにしたいのだけど?」
「いいじゃん、僕とのやつで実力をつければ」
「……次はきっとわたくしは負けるわよ?」
「それでもいいよ」
「なら分かったわ。戦いましょう」
「やった!」
そして、わたくしは授業が終わるまで、ずっとフィルゲと戦っていた。
「あのさ、クラン。僕も人のことは言えないと思うけど、なんで魔力が持っているの?」
「さあ、分からないわ」
この授業は、ケビンが始めて知った事実への驚きと、フィルゲが抱いた疑問を残して、終わった。
19.クランは、自分の限界を見極めたい
土曜日になった。
金曜日は、魔術の授業の後、特に何も無かった。
昼食休憩ではブライアンの練習を見て、少し手伝ったり、授業を受けたり。そして、相変わらずアロバンには睨まれたままだった。
それどころか、より睨まれるようになってしまっている気がするわ。
……本当に、わたくしが何かしたかしら?
未だ、分からない。
それはともかく。
今日は、またファブローの森に行って、オグルの集落があるのかを確認すること、これが目的にしようと思っていたのだけど……
一人で森に集落があるかないかを探るのって、とっても大変なのよね。
だから、諦めて、わたくしの魔力の限界がどうなっているかを見極めようとしているわ。
昼食は、サリアに作ってもらった。
これで、一日中外にいられる。
わたくしは、ブライアンと出会った広場の方へと向かっていった。
「確か、今日はブライアンはちゃんとした場所を借りて練習しているのよね?」
それだったら人はなかなあいなさそうね。
わたくしのそんな予想の通り、広場には誰もいなかった。
「さあて、じゃあどんどん魔術を使っていきましょうか」
人は、必ず魔力を持っている。
多い人は多い、少ない人は少ない。これは、すべて神々が運で決める。
そして、大きな魔術を使う際、緻密な作業を行う魔術を使う際は、魔力をたくさん使う。
そして、魔力が切れたら、空腹を感じ、動けなくなる。
わたくしは魔術を限界まで使ったことはないけれど、これは習うことなので知っている。
そして、確かに昨日の魔術の授業、わたくしの魔力は減っていた。それは確かね。だけど、どれくらい減っていたか? それを聞かれると、自身を持って答えられない。
わたくしは、もっと強くなれる。
この学園では、わたくしよりも強い人がいるのだ。だから、強くなれる。そう思うのだけど……
実感はない。
だから、まずはその一貫として、限界を見極めてみようと思ったのだ。
「水よ、雪となれ!」
この魔術の範囲は、今までに使ってきたものの比じゃないくらい広い。
もちろん。学園の中の人には迷惑をかけないように、ファブローの森の方に向かってやっている。
そして、雪の量も増やしている。
……半分くらい減ったかしら?
だんだんと雪の量を増やしていった結果。
わたくしは今、吹雪の中で火を灯し、暖を取りながら昼食を食べている。
自分が作った寒さから実を守るためにまた魔術を使う……
矛盾しているわね。
雪は、もう、地面に積もっている。
……わたくしが灯している火の周りは、暖かく、雪も積もってはいないけど。
ふふふ、これなら雪で遊ぶことも出来そうね。
やってみようかしら?
そんなことを思ったとき。
「火が見えるぞ!」
「誰かいるのか!?」
そんな声が聞こえてきた。
火、ねえ……わたくしが出している火で間違いはないかしら?
分からないけれど、しばらくしたらこちらにたどり着くでしょう。
「やっと着いた……。お前、何をしているんだ?」
男性二人に話しかけられた。
「え? 何をしているって……雪を降らせて、風を起こして、火を灯しているだけよ?」
「そうか……なんでそんなことをしているんだ?」
「魔力を空っぽにしてみたいの」
「はあ? なんだ、その要望は? 理解できるか?」
「できるわけねえだろ」
「それより、わたくしも聞きたいことがあるのだけど……なぜここに来たのかしら?」
「ここらへん一体だけ雪が降っているからだよ!」
「ここの学長に見てこいと言われたんだ!」
「あら……そうなの? 大変ね。お仕事お疲れ様です」
「おい!」
「抑えろ。こいつは常人じゃない」
「そうだな……」
「それで、この雪はいつになったらやむんだ?」
「あら? 説明しなかったかしら? もちろん、わたくしの魔力が空っぽになるまでよ」
「あとどれくらいだ?」
「そうね……朝からしているし……3時くらいまでよ、きっと」
「分かった。そう伝えておく」
まったく。なんのためにあの二人を寄越したのかしらね?
また、しばらくが経った。
さっきのことを教訓に、わたくしが雪を降らしている中に物が入ってきたら認識するように心がけていたのだけど、そのお陰で、森の方から何かが入ってきたのを感知した。
魔物かしら? こんなふうに魔力を使っている中で魔物が現れるなんてね。まずは剣で対処しようかしら?
わたくしは、この前オグルに出会ったことを頭の隅に追いやって、そんな事を考えていた。
……その魔物を見るまでは。
「あれは……インプ? 水色だし、きっとニクスインプね」
その魔物が見えて、わたくしは呟いた。
この前辞書で見たわ。見たのはアクアインプだったけれど、その説明にニクスインプもあった。見た目も似ているし、きっとそうよ。
……そして、彼らには物理攻撃が効かない。
わたくしは、今まで構えていた剣を下ろした。
そして、魔術を放った。
『アクアインプ
水辺の近くに出没する、緑色の推定討伐人数200人の魔物。物理攻撃を無効にする。水属性が得意。ただし、頭の上の皿は弱点。
また、アクアインプは主に夏に出没するが、似たように物理攻撃無効の性質を持ち、頭の皿を弱点とするものに、ニクスインプは冬に出没する。季節もそうだが、こちらは水色であり。色で識別できる』
書いてあったことを思い出す。
狙うは頭の皿!
見るに、頭の皿は氷で出来ているようだから、これを燃やせばいいわ。
わたくしは火魔術を放った。
だけど、水魔術の防御魔法によって防がれる。
「ふふ、昨日のフィルゲとの戦いと比べれば、とても簡単だわ」
わたくしは、火魔術を連続して放つ。
やがて、ニクスインプの防御魔法は破られ、頭の皿の氷は溶かされ、蒸発し。ニクスインプは見るからに弱くなった。
そこをわたくしが叩かないわけがない。
わたくしは、思っていたよりもあっさりとニクスインプに勝ってしまった。
どうせ、またこれも神々が何かをしたんでしょうね。
一体どういう目的でやっているのかしら?
そのことが、異様に気になった。
その後、ニクスインプとの戦闘の甲斐もあって、魔力は思っていたよりも早く空っぽになってくれた。
……これは、確かに空腹を感じるわ。
魔術は自然と止まったので、わたくしはさっさと寮へ帰ることにしたのだった。
ニクスインプを先生のところに持っていってから。
そういえば、先生から手紙を預かっていたわね。今まで忙しくて読むのを忘れていたわ。
今は確か家にあるのよね。
なら、帰ってから読みましょう。
それとは別に、もう一つ手紙も届いていた。
わたくしをそれを読み……それで手紙を読んだ気になってしまい、ヨーゲルン先生の手紙のことをまた、忘れてしまうのだった。
『クラン様へ
ガルーダに頼まれました、|件《くだん》の剣の制作が完了しました。
時間があるときに、当店に起こしください。』