公開中
妖怪リブート【第二話】
「うわぁぁ灯!? なんでここにいるんだよ!?」
翌日、部屋のドアを開けた瞬間、あおいは絶叫した。ベッドの上には灯が当然のような顔で座り、いちご大福を頬張りながら妖怪図鑑を読んでいたのだ。
「なんでって、昨日協力するって約束したじゃん」
「何勝手に俺の部屋でくつろいでんだよぉ!? ていうかどこから入ってきた!?」
灯は部屋の隅の年季の入った押し入れを指さした。
「この部屋、古い押し入れがあるでしょ。押し入れって、この世とは違う世界と繋がってることが多いの。そこからだけど」
「『そこからだけど』じゃねえよ……!」あおいは頭を抱えた。
「そんなことより、今日は早速会いたい子が居るの。メリーさんって知ってるよね?」
「妖怪」のワードにあおいは目を輝かせた。
「ああ! 捨てられた人形が、何度も携帯に電話をかけてくるやつだろ? 『私メリーさん。今ゴミ捨て場にいるの……』って段々自分に近づいてきて、最終的には『あなたの後ろにいるの』ってやつ!子供の頃やろうとしてたな⋯⋯」
「君……どれだけ妖怪に会いたかったの?で、そのメリーさんも今、消えかけてるの。最近ってほら、詐欺が多発してるでしょ? だからメリーさんからの非通知番号は、みんな詐欺だと思って出られないらしいの。すぐ近くのゴミ捨て場にいるって言う情報があるから」
「 じゃあ早速会いに行こう!」
夕暮れのゴミ捨て場。山積みのゴミ袋に挟まれ、ドス黒いオーラを放つボロボロのアンティーク人形が座っていた。あおいたちが近づくと、ガラスの目が不気味に動き、こちらを睨みつけて喋り出した。
「何よ? 見せもんじゃないわよ。私はあんた達、人間のせいでこんなことになってんのよ……! 大体、捨てること自体おかしいのよ! 最初は可愛がって、最後は無責任。妖怪になってもそうよ。最初はあんなに驚かれたのに、次第に電話にすら出て貰えなくなって……!」
怒りで這い寄ってくるメリーさんに、あおいは目を凝らしてつぶやいた。
「メリーさん……やっぱり君を捨てた奴がおかしいよ! そのワンピース、昔めちゃくちゃ高価で、今も珍しいと言われてる縫い方じゃんか!! レースもボタンも髪の毛も……全部めちゃくちゃ細かく作られてるし……!!」
完全に毒気を抜かれたメリーさんは、ドレスの裾をいじりながらニヤニヤとし始めた。周りのドス黒いオーラは薄まり、純粋な妖力が増えていく。
「そう⋯⋯?なら尚更、また人間を脅かしたいわ!」
灯があおいのスマホを指さす。
「君、現役でスマホ使ってるでしょ。解決策ある?」
「お、俺に振るの……? うーん、そうだな。普通の電話に出て貰えないなら、LINEのグループ通話とかに強制的に入っちゃうとか? 出来るならだけど」
「確かに! それなら、逃げられないし恐怖も増すわ……灯さん! 妖力を分けてくれない?」
「まあ、妖怪復活のためならいいよ。どーぞ」
灯が紫の人魂を流し込むと、強力な妖力を得たメリーさんはカッと光った。
「ありがとう、灯さん! 成功したら行くわね、ばいばーい!!」
メリーさんは一瞬にして姿を消した。あおいが「人形を捨てた覚えのない人が出たらどうするんだ?」と尋ねると、灯はぽつりと言った。「……人形を捨てたことのない女の子なんて、
居ないよ」
薄暗い女子高生の部屋。ベッドの上で少女が親友とスマホで笑い合っていた。
「でさー、うちのおばあちゃん、今更昔の人形のこと話し出してさー。ウケるんだけど」
『え〜、マジで時代遅れ! 超ウケる!』
「え……なにこれ? スマホのバグ?」
突然、画面の背景がどす黒い砂嵐のノイズに切り替わり、冷たく低い声が響く。
『……私、メリーさん。今ゴミ捨て場に居るの』
少女が眉をひそめた瞬間、元の通話画面に戻る。いたずらだと思ったが、その後も奇妙なバグが続いた。
『……私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』
「い、家の前まで……?」
『……私、メリーさん。今、あなたの……』
ブツッ、と通話が切れた。暗転した画面に恐怖で青ざめた自分の顔が映る。その直後、耳の後ろから甲高い声が響いた。
「あなたの後ろにいるの」
「いやぁぁぁぁ!!!!」
「成功した! 成功したよ2人ともーっ!」あおいの部屋の窓が勢いよく開き、メリーさんが小さな身体を弾ませて飛び込んできた。「あ、メリーさんだ」灯は大福を食べながらいつも通りの無表情で出迎える。
「本当か! なあ、今度俺のスマホにも電話かけてくれよ!」
「いいけど、貴方グループ通話する友達いるの?」
「うぐっ……! そ、そんくらいいるわ!」
メリーさんの正論ストレートパンチにあおいは悶絶する。
「良かった。これでメリーさんが無くなる危機は免れたね」
灯が少し明るい顔をした直後、いちご大福をモグモグさせながら部屋の隅をひょいと指さした。
「ところで君、さっきから気になってたんだけど……。あそこでお菓子食べてるおじいさんだれ? あなたの家族?」
「え……っ?」
あおいはギクリとして、恐る恐る振り返る。そこには、見知らぬおじいさんが、いつの間にかちょこんと座ってお茶をすすっていた。