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悩む角には福来たる
参加です。
エセ関西弁ですし、キャラクターは一人しかいませんが、それでもよろしければ。
パソコンのディスクトップには様々な記事が映し出されている。
それがあるゲームの配信記事であるが、共通しているのはかなり難しいミステリー系列のゲームということ。
そのゲームの記事を見ながらややクリーム色に薄い緑の瞳、かなり顔の整った若い男性は頭を掻きながら、あるいはしばらく考え込んだりしながら記事のサイトから少し大きめに映されたゲームをプレイしている。そして、おもむろに手を離して〖221B〗と名札された個室の扉から出ていった。
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「あれ、日村さん。クリアできたんですか?」
重そうな本を数冊、抱えながら黒髪の青年が先程、個室から出た人物へ話しかける。
「いや...まだだよ。結構難しいみたいで、ひとまず休憩がてらにね」
「なるほど、お疲れ様です。休憩するのは良いですけど、夏休みに入って小さい子も漫画を読みに来たりするので、ぶつかったりしないように気をつけて下さいね」
「分かってるよ。涼くんは、それをどこに持ってくんだい?」
「ああ...子供たちがそのままにした本を元の場所へ戻そうかと。読書感想文でもあるのか、難しい本を借りる子もいるみたいで」
「へぇ...夏休みの宿題ってやつだ。とりあえずその作業、無事に終わるといいね」
「ええ、日村さんもゲームの方、解けると良いですね」
涼くん、と呼ばれた青年が日村さんと言う男性に踵を返して去っていく。
それを見送って近くにあった本を手に取った。パラパラと紙の捲る音だけが辺りに響く。
暫くして、その音を止めると棚へ本を戻し、陳列された棚の森を歩き始めた。
そこから30分経って、ベストセラー小説が並べられた棚へ来た頃、後ろから何かがぶつかった感触がした。
「うわっ」
「なんやっ?」
特徴的な瞳に四つ葉のクローバーを頭に飾った背の低い小学生高学年くらいの女の子だった。
おそらく、宿題のテーマにする本でも探していたのだろう。
「わ、ほんまにすんまへん!」
「ああ、いや...こっちこそ気づかなくて申し訳ない」
反射的に謝った彼女に腰を屈めて、言葉を投げ掛けた。
「君は読書感想文のテーマを探してるのかな?」
「お、せやで。兄ちゃんは何探しとん?」
「私は、ただの気分転換だね。君、名前は?」
「.........」
日村がそう聞けば、少しむっとした顔でこちらを見る彼女。
まるで、文句でもあるような顔を察したのか先に日村が続けた。
「私は日村修だよ。ここに滞在している」
「...!...うち、木翡四葉や!」
「木翡さんか。素敵な名前だね」
「おおきに!読書感想文のテーマが見つからんなんて、どうして分かったん?」
「なんとなく、そう思っただけだよ。君が浮かない顔をしていたから」
「兄ちゃんの方が浮けへん顔をしてるように見えるで?」
「へぇ、そうかい。観察力がいいね」
「ありがとさん。そや!うち、幸運をもたらす程度の能力を持っとるん!」
「...能力?」
能力。ああ、子供の言うことなのだから、そういうことなのだろう。
なんとなく、悪い意味ではなくその純粋さが微笑ましく思う。
「そりゃあ、素晴らしいね。私は少し悩んでることがあるから、その悩みが解決できるようにしてもらおうかな」
「かめへんで!ここで会うたんもなんぞの縁やさけ!」
「あ~...ああ、それは...ありがとう」
おそらく、かけてくれるのだろう。
四葉は何か目を閉じて祈ったかと思うと、すぐに目を開け、口も開いた。
「かけたで!その悩み、ええ方向へ傾くとええな!」
「...それは...えっと、なんだか良くなりそうだね。かけてくれて、有り難う」
「かめへん!かめへん!ほな、宿題があるさけ、もう行くな!またな!」
「またね。気をつけて帰るんだよ」
また、去っていく人を見送る。気分転換も上々である。
これ幸いと、個室に戻りパソコンへ向かうと、先程まで解けなかった問題やステージがすらすらと簡単に解けるようになっていた。
あの女の子の言う能力なのか、それとも自分の努力なのか定かではないが...きっとあの女の子の力なのだろうと結論づけてキーボードを打つ手を動かし続けた。
やがて、そのゲームをクリアした頃に和戸涼...涼くんが職場の人から貰ったと、マカロンを差し入れしてきた。
そのマカロンを口の中で溶かしながら、何故だか、今日はとても有意義な良い日だったと思わずにはいられなかった。