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きらめく氷晶と、ひだまりのぬくもり
読んでみて下さいブイズのグレイシア×ブースターのカップルができる小説です!
第一章:雪解けの出会い
その年の冬は、例年になく長かった。
北を囲む岩山の麓。万年雪が降り積もるその場所は、冷気と美しさを司る氷のブイズ、グレイシアにとって最高の安住の地だった。
グレイシアは、自分の周囲に漂う氷の粒子がきらきらと輝くのを眺めるのが好きだった。冷たい風は心地よく、静寂は心を落ち着かせてくれる。彼女にとって、世界は白と青、そして冷たさだけで完結していた。
しかし、その日、完璧な白の世界に、場違いな「色」が飛び込んできた。
「ふぅ……あともう少しで、峠を越えられるかな……?」
雪をかき分けるようにして歩いてきたのは、燃えるようなオレンジ色の毛並みと、首回りの圧倒的なボリュームを誇るもこもこの白い毛を持ったポケモン――ブースターだった。
ブースターは旅の途中だった。もともと温かい南の土地で育った彼は、新しい世界を見てみたくて、この北の地へと足を踏み入れていた。だが、さすがにこの吹雪は、炎タイプの彼にとっても骨が折れるものだった。歩くたびに足元の雪がジュッと音を立てて溶け、それがまた彼の体力を奪っていく。
「凍えちゃうよ……どこかに、風をしのげる場所は……」
ブースターが弱音を吐きかけたその時、目の前に真っ青な瞳を持ったグレイシアが姿を現した。
グレイシアは警戒したわけではなかった。ただ、あまりにも自分の世界とかけ離れた「熱」を持つ存在に、純粋な好奇心を抱いたのだ。
「……そこのブースター。そんなに震えて、どうしたの?」
グレイシアの声は、まるで氷の鈴を転がしたように澄んでいた。
「あ……。こんにちは、グレイシア。ちょっと、道を間違えてしまって。この先の町へ行きたいんだけど、吹雪が強くなっちゃってね」
ブースターは寒さに震えながらも、精一杯の愛想笑いを浮かべた。その健気な姿に、グレイシアの氷のように冷たかった心が、ほんの少しだけ動いた。
「この先の峠は、今の時期は吹雪で通れないわ。……私の住処がすぐそこにあるの。吹雪が収まるまで、休んでいくといいわ」
「本当? ありがとう……! 助かるよ」
ブースターは深くお辞儀をした。その際、彼の体からふんわりと、日向のような温かい香りが漂い、グレイシアの鼻先をかすめた。それは、彼女が生まれて初めて知る「ぬくもり」の予感だった。
第二章:氷の洞窟と小さなひだまり
グレイシアの住処は、氷の結晶が壁一面に張り付いた、美しい青の洞窟だった。
普段なら誰もが息を飲むような絶景だが、今のブースターにとっては少々冷えすぎる空間だった。
「お邪魔します……うう、やっぱりここは涼しいね」
ブースターは身を縮こまらせ、自分の大きな尻尾を体に巻き付けた。
「ごめんなさい、私にとってはこれが快適だから。……そうだわ、あなたが寒くないように、何か敷くものを持ってくるわね」
グレイシアは洞窟の奥から、秋の間に集めておいた乾いた枯れ葉や、柔らかい苔をたくさん運んできた。それを床に敷き詰めると、ブースターは嬉しそうにその上に丸くなった。
「ありがとう、グレイシア。これだけでもずいぶん違うよ。……お礼に、僕の特技を見せるね」
ブースターがふっと息を吸い込み、優しく体に力を入れると、彼の首回りのもこもこな毛が、まるでお日様に照らされたようにぽかぽかと熱を帯び始めた。洞窟全体の温度が上がらないよう、絶妙にコントロールされた、彼なりの気遣いだった。
「わあ……」
グレイシアは思わず声を漏らした。
ブースターの周囲だけ、まるで春が訪れたかのような優しい空気が流れている。
「どうかな? これなら、君の氷を溶かさずに、僕も暖かく過ごせると思うんだ」
「ええ……とても、心地いいわ」
グレイシアは、ブースターから少し離れた場所に座った。近づきすぎれば、自分が溶けてしまうかもしれないという恐れがあった。しかし、遠くにいても伝わってくる彼の温かさは、彼女にとって酷く魅力的なものに思えた。
その夜、二匹は遅くまで語り合った。
ブースターが語る、南の国の色鮮やかな花々の話。太陽の眩しさ。
グレイシアが語る、冬の夜空に踊るオーロラの話。ダイヤモンドダストの美しさ。
交わることのなかった二つの世界が、ひとつの小さな洞窟の中で、静かに混ざり合っていった。
第三章:不器用な距離感
翌朝、外の吹雪はさらに激しさを増していた。峠が通れるようになるには、あと数日はかかりそうだった。
「まだ外には出られないわね」
グレイシアが外の様子を見て戻ってくると、ブースターは朝食の準備をしていた。旅の途中で集めていたという、きのみの数々。
「おはよう、グレイシア! 一緒に食べようと思って。ほら、これはオレンのみ。こっちは……君が好きそうな、冷たいクラボのみだよ」
「ありがとう。でも、ブースター、それは……」
見ると、ブースターが持っているオレンのみは、彼の体温で少し焼きリンゴのように温まっていた。
「あ、ごめん! 触ってたら温かくなっちゃった。食べにくいかな……?」
ブースターは申し訳なさそうに耳を垂らした。
「ううん、そんなことないわ。いただきます」
グレイシアが温まったきのみを口に運ぶ。口の中に広がるのは、甘みと、そしてやっぱり、優しいぬくもりだった。
「……美味しい。私、温かい食べ物って、なんだか新鮮で好きかもしれないわ」
「本当!? よかった……!」
ブースターの顔がぱっと明るくなる。その笑顔を見て、グレイシアは胸の奥がトクン、と跳ねるのを感じた。
日中、二匹は洞窟の中で過ごした。
ブースターは、グレイシアの美しく整えられた氷の彫刻を見て感動し、グレイシアは、ブースターが毛並みを整えるときの、ふかふかとした動きを愛おしそうに見つめていた。
お互いに、相手の持つ「自分にないもの」に強く惹かれていた。
しかし、二匹はまだ、一定の距離を保っていた。
氷と炎。近づきすぎれば、一方が傷つき、一方が消えてしまうかもしれない。その自然の摂理が、二匹の間に見えない壁を作っていた。
けれど、そこにネガティブな感情は一切なかった。ただただ、「相手を大切にしたい」という純粋な気持ちゆえの、優しい距離だった。
第四章:ぬくもりを求めて
三日目の夜。
その日は、この冬一番の冷え込みだった。洞窟の壁の氷が、パキパキと音を立てて厚みを増していく。
ブースターは、枯れ葉の上で激しく身震いをしていた。いくら体内で炎を燃やせるとはいえ、外気があまりにも冷たすぎると、体力を消耗してしまう。
「うう……さむい……」
小さな寝息の中に、苦しそうな声が混ざる。
グレイシアはすぐに気がついた。彼を見ると、いつも輝いているオレンジ色の毛並みが、寒さで少し元気をなくしているように見えた。
(どうしよう……。私が近づいたら、もっと冷やしてしまう。でも、ブースターがこんなに寒がっているのに、見ているだけなんてできない……!)
グレイシアは決意した。
彼女は自分の体から発する冷気のオーラを、限界まで抑え込んだ。自分の体が少し火照るような、不思議な感覚がしたけれど、構わなかった。
ゆっくりと、足音を立てずに、ブースターの寝床へと近づく。
そして、そっと、ブースターの背中に、自分の体を寄せた。
「……っ」
触れた瞬間、ブースターの圧倒的な熱がグレイシアに伝わってきた。少しだけ体がチリチリとするような感覚があったが、それ以上に、言葉にできない幸福感が彼女を包み込んだ。
グレイシアの冷たい体が触れたことで、ブースターはハッと目を覚ました。
「グ、グレイシア……!? だめだよ、僕のそばにいたら、君が溶けちゃう……!」
ブースターは慌てて離れようとした。しかし、グレイシアは自分の前足をそっとブースターの体に重ねて、それを止めた。
「逃げないで、ブースター。……私、溶けてなんかいないわ。ほら、見て」
ブースターが驚いてグレイシアを見ると、彼女の青い瞳は、真っ直ぐに自分を見つめていた。彼女の体は確かに少しだけ、いつもより柔らかくなっているようだったけれど、溶けて消えるようなことはなかった。
「君が、寒そうだったから。……私に、暖めさせて、とは言えないけれど。一緒にいれば、寒さを分け合えると思って」
ブースターは、グレイシアのその健気で、自分を想ってくれる強い気持ちに、胸が熱くなった。体の奥から、本物の炎よりも温かい感情が溢れてくる。
「グレイシア……ありがとう。じゃあ、僕も……君を傷つけないように、一番優しい温かさで、君を包むよ」
ブースターはゆっくりと向き直り、グレイシアを包み込むようにして、その大きなもこもこの尻尾を彼女にかけた。
炎のブースターのひだまりのようなぬくもりと、氷のグレイシアのひんやりとした心地よさ。
二つの体温が、ちょうどいい心地よさで調和していく。
「あったかいね、グレイシア」
「ええ、とても……。世界で一番、安心するわ」
二匹は寄り添い合い、静かに目を閉じた。そこには嫉妬も、不安も、争いもない。ただ、お互いを愛おしむ平穏な時間だけが流れていた。
終章:新しい季節の始まり
数日後、長い吹雪がようやく終わりを告げた。
洞窟の外には、雲ひとつない青空が広がり、眩しい太陽の光が雪原を照らしていた。
峠の道は、すっかり開けていた。ブースターが旅を再開できる状態だった。
二匹は、洞窟の入り口に立っていた。
「吹雪、止んじゃったね」
ブースターが、少し寂しそうに外を見つめる。
「ええ。これで、あなたの目指す町へ行けるわね」
グレイシアもまた、寂しさを隠しきれない目でブースターを見つめた。彼女はこの数日間で、彼のいない世界がどれほど無機質で冷たいものかを、知ってしまったのだ。
ブースターはくるりと振り返り、グレイシアの前に一歩進み出た。
「ねえ、グレイシア。僕の旅の目的はね、世界中の素敵なものを見つけることだったんだ」
「ええ」
「僕、見つけちゃったんだ。この世界で一番美しくて、一番優しい、最高の宝物を」
ブースターは真っ直ぐにグレイシアの目を見た。
「だから、僕の旅はここで終わり。これからは、君と一緒に、この場所で新しい思い出を作っていきたいんだ。……僕を、ずっと君の隣にいさせてくれるかい?」
グレイシアは、驚きで目を見開いた。そして、その瞳から、ぽろぽろと小さな氷の涙がこぼれ落ちた。それは悲しい涙ではなく、嬉しさに満ちた、きらめく結晶だった。
「……喜んで、ブースター。私の世界を、あなたのぬくもりで、ずっと満たして」
グレイシアはブースターに駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
ブースターは彼女を優しく受け止め、抱きしめた。
太陽の光を浴びて、グレイシアの氷晶がダイヤモンドのようにきらめく。
その輝きを、ブースターの温かい毛並みが優しく包み込んでいた。
冬が終わり、二匹の間に、永遠に続く温かい春が訪れたのだった。
(終わり)
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