公開中
親子(?)の日
徳
親子の日なので。2歳差?関係ねぇ!
五月晴れの強い日差しの中、上坂凪は少しだけ窮屈さを感じていた。世間は「親子の日」らしい。
「仲の良い姉妹ですね。お姉さん、新作のサンダルいかがですか?」
駅ビルの入り口で声をかけられ、凪は足を止めることなく、銀縁の眼鏡を指先で押し上げた。
「……いえ、親子です。行こう、奈希」
短くそれだけ告げて、凪は歩を速める。背後で店員が「えっ」と絶句する気配がしたが、振り返る必要はない。隣を歩く奈希は、眠たげな半眼のまま「……ん」とだけ返し、気怠そうに凪の後に続いた。
18歳の母と、16歳の娘。
誰に説明しても、好奇の目か、同情の視線が返ってくる。それが分かっているから、凪は群れるのを避け、たった一人で歩くことを好んできた。
「ねえ、奈希」
「……なに」
「やっぱり、その……『お母さん』って呼ばれた方が、外聞はいいのかな」
不意に口を突いて出た言葉に、凪自身が驚いた。自由人でいることに誇りを持っているはずなのに、世間の「普通」という波に、一瞬だけ足元を掬われたのかもしれない。
奈希は足を止め、無機質な瞳でじっと凪を見上げた。
凪は居心地が悪くなり、視線を逸らそうとする。その瞬間、奈希の手が、凪の脇腹を不意にツンと突いた。
「ぴゃ…!」
静かな通路に、似つかわしくない可愛らしい悲鳴が響く。
凪は両手で口を押さえ、顔を真っ赤にして硬直した。
「……何、今の」
「な、奈希……いきなり何をするの。驚くじゃん……」
「凪は、凪。お母さんごっこなんて、似合わない」
奈希は突き放すような口調で言ったが、その手は凪のシャツの裾を、所在なげに少しだけ握っていた。
「呼び方なんて、記号でしかないでしょ。私は、凪がいい」
無気力な声の中に、確かな拒絶と、それ以上の信頼が混じっている。
凪は眼鏡の奥の瞳を和らげ、ふっと息を吐いた。クールな仮面の下で、娘の言葉が何よりの「癒し」として染み渡っていく。
「……そうだね。奈希にそう呼ばれるのが、私も一番落ち着く」
凪は奈希の頭に軽く手を置こうとして、恥ずかしくなって自分のポケットに突っ込んだ。
「帰ろう。……帰りに、少し遠回りして散歩していかない?」
「……暑い。けど、凪が一緒なら、いいよ」
歩幅を合わせることはしない。けれど、二人の影はアスファルトの上で、かずかな距離を保ったまま並んで伸びていた。