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坂本の苦悩 第一章
プロローグを先にお読みください。
数日後、俺たちは列車に揺られていた。
窓の外を流れる景色は、都会から次第に深い緑へと変わっていく。
「景色最高じゃん!」
中村が窓にへばりついてはしゃいでいる。その隣では、彼女の友人である渡辺が「綺麗だね」とスマホのカメラを向けていた。
「ねぇ、あと何分で着くの?」
中村が渡辺の袖を引っ張る。しかし彼はスマートにニコッと笑って答える。
「予定では、十五分ぐらいだよ。あとちょっとだね。」
流石、中村に裏でかっこいいと言われているだけある。俺は渡辺にこんなことを聞いた。
「そういえば、渡辺さんの下の名前って聞いてなかったですね。」
「|颯太《そうた》です。そちらは?」
「俺は|涼真《りょうま》です。今回はよろしくお願いします。」
「私は|優愛《ゆあ》です。」
「知ってる。」
俺と渡辺の声が重なった。それを聞いた中村が大きな声で笑い、渡辺は恥ずかしそうに頭を掻く。
「名前、《《さかもとりょうま》》なんですね。ちょっと面白いです。」
渡辺がこんなことを俺に言うが、子供の頃の嫌な思い出のせいで、なるべく話題にはしたくない。俺はなんとか話題を逸らそうとする。
「ですよね⋯⋯あ、彼女はいるんですか?」
さっきまで楽しそうに笑っていたはずが、この質問をした瞬間に二人は黙り込んだ。しまった。俺は咄嗟にそう思った。しかし渡辺が口を開く。
「⋯⋯俺はいたことないですね、はい⋯⋯」
「いたことないの?意外!」
よかった、なんとかなったようだ。
「こう見えて人と話すの苦手なんですよ⋯⋯」
「えー?でも私とは普通に話せてるじゃん。」
「それは⋯⋯」
渡辺は中村からすぐに目を逸らす。横顔がわずかに赤らんでいるように見えた。俺は渡辺の心情を察した。中村は気づいていないようだ。
――まもなく、化蛾、化蛾、お出口は左側です。
アナウンスが流れる。車両が古いのも気になったが、スピーカーも経年劣化が目立っているようだ。
「ずーっと座ってたから身体が固くなっちゃった。」
中村が身体を伸ばす。すると次の瞬間、鉄と何かが激突する、生々しい鈍音が足元から突き上げた。そして列車がゆっくりと減速する。
「二人とも大丈夫?」
心配そうに見つめる中村。俺と渡辺はうなずく。
――ただいま、鹿槍駅と化蛾駅の間で、列車が動物と接触した模様です。現在、運転士が⋯⋯
動物と聞いて驚く。周りを見るが、皆スマホを触っていたり、楽しそうにおしゃべりをしている。地元民はやはり、衝突事故には慣れているようだ。
しばらくすると、職員らしき人物がやって来てこんな案内をする。
「これより、係員の誘導により車外へ避難していただきます。お降りになる準備をお願いいたします。」
少し声が震えている。
対応が早い、さすがローカル線。そう思っていたのだが、地元民と思われる人たちは、《《驚いた》》様子だった。
「せっかくの旅行なのに面倒くさいことになったね。」
渡辺が残念そうにするが、中村がこんなことを言った。
「でも線路に降りられるなんて、なかなか無いことだよ?ラッキーじゃん。」
中村はいつもポジティブに捉える。羨ましいものだ。
後ろに目を向けると、線路脇で駅員たちが慌ただしく動いているのが見えた。一瞬衝突した動物が見えた気がしたが、すぐにブルーシートで覆われ、何の動物かは分からなかった。ただ、大型だということはすぐに分かった。
線路をしばらく歩き、鹿槍駅に着くと、駅員から輸送依頼書を貰った。それほどまでにひどい事故だったようだ。
化蛾駅までタクシーに揺られていると、運転手さんがこんなことを言った。
「お客さん、化蛾には近づがねほうがいいよ。女の幽霊出る噂があるし、なによりトンネルで行方不明者がいっぱい出でらすけ、封鎖すればいいども」
「幽霊なんてホントにいるんですかね?」
俺がそんなことを呟く。
「さあ、分がんねね。すたども目撃者がいっぱいいるすけ、いねどはへり切れねがな。」
日本語のはずなのに、全く理解できない。そんな時に中村が口を開いた。
「明日、私達そのトンネルに行く予定なんですけど大丈夫でしょうか⋯?」
理解できるなんてすごいな。俺はそう思った。
「正直さへるど、心配だな。でぎれば大人数で行ったほうがいいよ。」
トンネルに行く?初耳だ。俺は中村に言った。
「俺、心霊系は無理なんだけど。」
「あー心配しないで、渡辺と私で行くから。」
ずるい。一瞬そう思ったが、俺は大の心霊嫌い。誘われても行かなかっただろう。
駅に着く。料金は約千円、都心より安くて助かる。まあ、料金は鉄道会社が払ってくれるがな。
ちょうど龍火旅館までの無料バスが来ていた。十分ほど乗り、目的地の旅館に到着した。爺さんの古い写真より新しく、何度も増築されているようだ。ファミリー層が多そうというのが最初の感想だった。ここは温泉だけの利用もできるらしく、地元民の憩いの場になっているようだった。
俺達はのれんを潜って中へと入った。
2000文字超えた⋯⋯だと⋯⋯?