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それだけ?
放課後。
私は職員室に行こうと、自分の教室の前を通りかかった。
ふと、足が止まる。
教室の中に人影があった。
窓際の一番後ろ。
葛葉だった。
机に座りながら、スマホを弄っている。
「葛葉くん?」
「......先生?」
葛葉がゆっくり顔を上げる。
「まだ帰ってなかったんだ」
「うん」
「珍しい」
「何それ。」
葛葉が少しだけ眉を寄せる。
昨日までなら、会話はここで終わっていた。
でも、今日はなぜか気になった。
「いつも、放課後まで残ってるの?」
「...まぁ。」
「そっか」
私は教室の中まで入る。
葛葉の隣の席まで行き、壁に寄りかかる。
「朝、苦手ですか?」
葛葉の指が止まった。
「...なんで?」
「毎朝遅刻してるから」
「それだけ?」
「それだけです。」
葛葉は少し黙った。
それから、スマホを机の上に置く。
「朝、起きれないから」
「そうなんですね。」
「...信じてない?」
「信じてます」
「即答なんだ」
「今、貴方が嘘をつく理由がないので。」
「...変なの。」
「よく言われます」
「先生も?」
「葛葉くんも?」
そんな会話を続けていると、
葛葉がふと、窓の外に視線を向けた。
グラウンドでは陸上部が練習していた。
「...先生」
「はい?」
「俺が遅刻しても、怒らないの?」
「怒る必要があるなら、怒ります」
「じゃあ今は?」
「怒るより、聞いた方が良いと思ってます」
「葛葉くんが、どうしてこうなったのか。」
葛葉が黙った。
しばらくして、小さく笑った。
「無駄だと思うけど。」
「なんでですか?」
「だって、葛葉だから。」
その言葉を聞いて、少し引っかかる。
昨日、他の先生が言っていた言葉。
『だって、葛葉ですから』
葛葉も、同じ言葉を使う。
自分に掛けられた言葉を、自分で。
「その言葉。嫌いですか?」
「...別に」
「じゃあ、好きですか?」
「...さぁ。」
葛葉が少しだけ笑った。
「私、しばらくその言葉、使わないことにします。」
葛葉がこちらを見る
「なんで?」
「まだ葛葉くんのこと、何も知らないので」
「......」
「知らないのに、分かったつもりになるのは違うかなって。」
葛葉は何も言わない。
ただ、少しだけ笑った。
「やっぱ変。」
「そうですね。」
窓の外から、6時を知らせるチャイムが鳴る。
葛葉は暫く黙っていた。
「明日は、もうちょい早く来るかも。」
小さな、独り言のような声だった。
私は聞こえないふりをした、
「そうですか。」
「...聞こえてんじゃん。」
「聞こえました」
「最悪」
そういいながらも、
葛葉の表情は、昨日より柔らかく見えた。