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【第三話】~神の手のひら~
気づいてなかったが、俺はかなりの距離を歩いていたらしい。
それを不自然だと思わなかったことが、少し気にかかった。
五分も歩いたがまだ部屋につかない。
あの通路まで来たときの道のりは嘘みたいに時の流れが早かったのに。
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『ガチャ』
ノアが作業室のドアを開けた。
「ここが俺の作業室で…」
問題を起こさないようにと釘を打っておこうとした途端カイがイルを追い越した。
「ひっろーい!ここがお兄ちゃんの部屋?!」
カイがソファーに飛び込みそう言う。
「ツクヨミを来いよ!ふかふかだぞ!」
「い、いいよ私は!」
ツクヨミが手を横に振る。
相当お気に召したのかカイはしばらくそこを動かなかった。
「カイ。はしゃぐのはいいが壊すなよ。」
「分かってるって! それよりさ! いつあの人のところに連れて行ってくれるんだ?!」
イルは少し間をおきこう言った。
「まずそいつの特徴を教えるところからだろ」
「え?」
このときのカイの顔はまさに鳩に豆鉄砲だった。
「お兄ちゃん場所知ってるんじゃないの?」
「誰かもわからないのに知る訳ないだろ。それにお前は俺たち《帰処|きしょ》のことも何も知らない。」
「そんなことない! 俺たち帰処のことちゃんと知ってる! だよな! ツクヨミ! 」
カイに突然話を振られたことに驚いたのかツクヨミが飛び上がった。
「うっうん…! あの人に教えてもらったから…ある程度は…」
ツクヨミが不安げに言う。
すると、イルが2人に問いかける。
「ここがどう言う場所か分かるか? 」
「えっと…お兄ちゃんがこの島のあらゆる情報の管理をしてる《導座|どうざ》なのはこの部屋を見れば大体…」
ツクヨミの通りこの部屋の机には島や竜についての資料が散らかっていた。
それに続けてカイが自信満々に答える。
「それでお兄ちゃんの後ろにいるお兄さんは島の人を守る護座だろ! 他にも各部署の代表が集まる少数精鋭の《衡議座|こうぎざ》。
これはあんまり知らないけどよく島の外に行く《理座|りざ》。
書類とか施設の設備をする《下座|げざ》。どこの座が合ってるか決めるのもここでやるって聞いた。
そして帰処のトップである《上座|じょうざ》! 」
このときのカイはどうだと言わんばかりに意気揚々としていた。
「ねぇ、お兄ちゃん…ずっと思ってたんだけど何で帰処って各部署の名前を星座みたいにしてるの? 」
ツクヨミが首を傾げる。
イルがしばらく考えるように黙り込んだ。
「…さあな。それで知ってるのはそれだけか? 」
カイとツクヨミが目を合わせる。
「う…うん…」
「導座。そろそろ会議の時間です。」
ノアが部屋に入ってから初めて声を上げた。
「カイ今度は大人しくしてろよ」
「うっ、うん…!」
カイが何回も頷く。
この時イルは確信した。なぜ護座や伏座が2人を見逃したのか。なぜ観測者が連絡してきたのか。
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会議後廊下にて…
イルの歩いている廊下には上を向くと星があった。
「観測者。」
廊下にイルの声が響く。
『まさかこんなに早く連絡をくれるなんて。嬉しいよ。レイヴァルくん。』
観測者は嬉しそうに声を上げる。
「それはどうでもいいそれで上は何て言ってたんだ。」
『「好きにしろ」だってさ。』
「ミスったら責任取れってか?」
イルが呆れた声でそう言う。
『いや、その逆だよ。』
「そうか。」
『ふふっ。』
観測者は突然笑みをこぼした。
「急に何だ。」
『レイヴァルくん今笑ってるでしょ。』
「…」
「そうだな。」
『えー。素直に答えるなんて珍しー。何かあったの?』
「…ずっと見てたくせに」
イルは小声で呟く。
『ひどいな〜。そんなに嫌わなくても良くない〜。僕は結構レイヴァルくんのこと好きなのに。』
わざとらしい声でそう言う。
「…周りには俺の声もお前の声も聞こえないんだから問題ないだろ。」
そうこの通話機器は下座の技術班が腕によりをかけて作った優れものだった。下座は帰処外や中で良く雑用係などと言われていることが多く、問題が起きること多くない。だがたいていのものはどこかの下座の必要性を知ることになるのだ…
『連れないな〜。まあ、変にちょっかい掛けて来たり、嘘つかれるよりはいいけどさ。あっ。そういえばレイヴァルくん僕に嘘ついたことないんじゃない⁈』
すると、途中から愉快な女がイルを呼ぶ声が聞こえた。
「お〜い。バカ幹部〜ちょっときて〜。」
イルが振り向くとそこにはピンク髪で淡い緑色のメッシュと竜の尻尾を持つ竜と人間のハーフの女だった。その者は腕を横に振りながらイルを呼ぶ。
「…」
「どうでもいいだろ。それじゃあ切るぞ。」
イルは観測者に向けてそう言った。
『え!もうちょっと話そ……』
イルは通話を切り、小声で呟いた。
「騒がしいやつだな。」
「いやそれは酷すぎでしょ?」
引くわ〜と女は声を出した。
「…勘違いもほどほどにしろ。戦闘狂が。」
イルは自分の尻尾を撫でながらその女に対して嫌味を言った。
「あ〜あ。ひどいひどい。《ヴェルナ》泣いちゃうな〜。」
「お前が泣いたところで誰も言わないだろ。」
冷たい声で言う。
「うっ…!まあ…確かにそうだけど…これは置いといて…イル子供預かってるんでしょ!私も合わせてよ!」
何か良いたげにうなだれだと思うと、ヴェルナは機嫌を一変させそう言う。
「…必要あるか?」
イルが聞く。
「子供なんでしょ!絶対かわいいじゃん!どこで見つけたの!」
連れてって!と言わんばかりに表情を緩める。
「テヴェルナあいつらのことは知らない方がいい。」
一瞬驚きの表情を見せ、ヴェルナが言う。
「大丈夫だよ。私ちゃんと線は引くタイプだから…」
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あの通路での出来事は、すでに神のひらにあった。
ただそれが、何のための誰のための記録なのかはまだ誰にも分からない。