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【櫛河町私立探偵:プロローグ】謎っていうのは群れたがる
私立探偵とは、個人や法人からの依頼を受けて、
法律の範囲内で、事実調査や証拠収集を行う民間業者のことだ。
だが、法律の範囲外で好き勝手する探偵はなんと呼ぶのだろうか。
「それはただのトンチキ野郎だ」
「...お前、心でも読んだか」
「お前がぶつくさ独り言言ってたんだろ」
そうか、口に出てしまっていたか。
トンチキ野郎、というのは的を射ている。
そもそも法律を守っていないんなら、それは犯罪者だ。
大真面目に探偵の真似事をしている犯罪者、ということになる。
はたから見れば頭がおかしいだろう。
なら、私はどうだろうか。
法律の範囲外にはまだ出ていない。
だが、法律を守っているかと言われれば怪しいところだ。
「お前はトンチキなりかけ野郎だな」
「また口に出ていたか?」
「いや、思っただけだ」
「...心外だな、失礼なやつだ」
さっきから私の考え事を遮ってくるこの男は、二階堂という。
少々抜けてるところがあったりするが、場の盛り上げがうまい。
兄貴分という言葉を人の形にするのなら、恐らくこいつになる。
ただ、こいつはただ場の盛り上げがうまいムードメーカーではない。
過去に起きた事件、その全てを記憶している驚異的な記憶能力。
そして、その事件を簡潔に説明することが出来る語彙力と知識力。
奇跡的なバランスが噛み合っている、奇跡のような男だ。
「それでどうだ?依頼の方は」
「いや、まだ目ぼしいのは。電球交換の依頼なら来ているが」
「そりゃあ...やっこさんに教えてやるんだな、何でも屋の電話番号を」
「うちは探偵だって言ったさ、でもこのざまだ」
うちの探偵事務所は、まだ知名度がない。
それも当然だ...うちは公安委員会に探偵業をやると届け出をしていないのだ。
それを伝えると、二階堂は豆鉄砲をくったように目をぱちぱちさせた。
「えっ、そんじゃ法律破ってるじゃないか」
「でもそこまで派手に破ってるわけではないだろ」
「黙れトンチキ野郎」
恐らく、電球交換の依頼は冷やかしなどではなく
本当にうちを何でも屋だと思っている人間の仕業だ。
うちに依頼をするときには、複雑な裏ルートを通る必要があるのだ。
だが、ごくたまに何も知らない人間が入り込んでしまう。
それは裏ルートが複雑ではないからじゃないのか?というツッコミは
とりあえず頭の隅の重箱の片隅にでも置いておこう。
私は椅子から立ち上がり、壁にかけてあるコートと帽子を手に取った。
そんな私を見て、二階堂がどこかに行くのかと尋ねた。
「依頼がないなら、捕まえに行くだけだ」
「依頼を捕まえに行く探偵は...あー、その。新感覚だな?」
「無理にフォローしなくてもいいんだぞ」
「ならそういう意味不明な行動は控えるんだな!」
二階堂の言葉に耳が痛くなりながら、私は事務所の扉を開いた。
すると、扉の前にいた男に真正面からぶつかりそうになった。
北朝鮮から見た日本列島くらい、邪魔な位置にいてくれるものだ。
私は顔を上げて、そいつの顔を確認した。
顔を確認してすぐ、その男が三ツ谷だと分かった。
「お前、良いご身分だな。しばらくサボっていたくせに」
「ちょっと用事があったんですよ。そもそもここは
僕らに給料を出してくれていないんだから、いつ休むかは僕らの勝手です」
「よく言った三ツ谷!」
「黙れ二階堂」
三ツ谷という男は、素性が知れないやつだ。
だが外出するときはよく顔を隠したがるし、
しょっちゅう二階堂に、ある事件の時効について聞いている。
そのある事件というのは、パソコンから口座情報が抜き取られたというもの。
ここまで聞いただけだとありふれているが、被害者は100人以上。
それも、たったひとりの犯行だと予想されているものだ。
「ちなみにだ、時効は最近廃止された」
「えっ!?」
「ははは、今のは嘘だ。廃止されたのは殺人だけだ」
「からかわないでくださいよ、心臓に悪い...」
あそこまで動揺するということは、
やはりあの事件はこいつが犯人か...
だが、こいつの犯罪に対する視点は面白いものだ。
今思うと、犯罪者側の視点だったから面白かった、ということなのだろう。
どっちにしろ、貴重な従業員だから通報はしない。
「それで一ノ瀬さん、依頼は来ているんです?」
「今その話をしていたんだ。ちゃんとした依頼の方は
あまり来ていないから、こっちから捕まえに行こうと思ってな」
「なんですかその豊臣秀吉みたいなマインドは?」
「変な喩えをするな」
そうして今度こそ事務所を出ようとした瞬間、
電話がジリジリと甲高い音を立てて鳴り響いた。
その音に耐えられないといった様子で、二階堂が電話を取る。
「はい二階堂です。はい、はい...ええ合ってます。
一ノ瀬の...ああそれです。それで...はあ、では今からでもどうぞ。住所は...」
話が終わったようで、二階堂が受話器を置く。
久しぶりの依頼だな、と二階堂は目を輝かせていた。
こいつは簡単に言うなら、事件マニアだからだ。
でないと数々の事件を全て記憶だなんて、
手間も時間も、脳に負担がかかることもしないだろう。
だが、この日からだ。
おかしな依頼が相次ぐようになったのは。
キャラ説明【一ノ瀬】
色々危ないというか、結構危ない人。
法律は派手に破らなければ大体セーフだと思っている。
推理力や人の能力などの見極めはピカイチだが、
若干価値観が普通の人間とはズレている。
かなりの方向音痴。噛んだあとのガムは飲み込むタイプ。
身長:178cm
体重:58kg
性別:男性
年齢:27歳
性格:ややドライな性格。少し天然。