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【曲パロ】のだ
私が考えたミクテトずんだなので、コレジャナイ感が出ていたらすみません……。
ボカロ曲本家様です
https://m.youtube.com/watch?v=vY8iwpN3GXQ&pp=ygUG44Gu44Gg
「はーい!今日も僕の番組に来てくれてありがとうなのだ♪また来て欲しいのだ!」
「…はい、お疲れ様でした!本日の収録はこれで終わりになります。ありがとうございました!」
「分かりましたなのだ!また明日もよろしくお願いしますなのだ!」
「キャー、やっぱり可愛い…!」
「流石だよね」
…いつからなのだろう。
僕にレッテルが貼られたのは。
この姿も、この言葉も。
全部全部、アイドルとしての「ずんだもん」で。
僕はもう「可愛い」ずんだもんでしかいられなくなった。
僕の周りの酸素すらも、僕じゃない誰かが作って支配している。
最初は、こんなはずじゃなかった。
なんだっけな。
…もう末期なんだろう。
僕の脳ですらも、誰かが作った脳だろうな。
でも嘘の自分を作って人々に夢を見せるのも。
可愛く歌って踊るのも。
これもアイドルの能なんだろう、きっとそうだ。
帰宅する。
静まり返って冷え込んだ部屋は2月末でもまだまだ冬なのだということを感じさせる。
「疲れた…」
今日は無性に疲れた。
明日もレコーディングが残っていて、その次はバラエティー番組の収録が…。
まだまだ僕には仕事が残っている。
「アイドルとして、失格だろうな」
つい先ほど電灯をつけた部屋は、まだほんのすこし暗かった。
「ううう…」
もう考えるのはよそう。
今はまた明日の仕事に向けてコンディションを戻すのが先決だ。
鬱屈とした気分を割きたくて、たらいに水を張ってその中に思いっきり顔をつけた。
でも何も気持ちは変わらなくて、いつまでも僕の脳裏には舞い踊る|虚像《フェイクダンサー》が映っている。
そうだ。
たとえ心がそう望んでなくても、泣いていても。
愉快で素敵な道化師に興じる。それがアイドルだろう。
僕ははすでに僕じゃない。
イニシャルZの、ただのピエロ。
「はあ、はあ、はあ…」
今日もこの歪な馬鹿みたいに長い廊下を走る。
「アイドルのずんだもんって何かぶりっ子だよね」
「私アイツ嫌い」
…やめてよ。
…いつまで経ったら抜けられるんだ?
何週間?何ヶ月?何年?
もうこんなのごめんだ。
早くここから出してよ。
…ごめんなさい。
違う。
僕が言いたいのは、謝罪じゃなくて…
みんなへの…愛なんだ。
でも、今の僕じゃ…。
「はっ」
またあの夢を見た。
急いで時計を確かめる。
既に遅い。
もう収録なのに…。
早く支度しなきゃ。
「あっ」
ベッドから落ちた。
そう思った時にはもう痛みと熱が僕を支配している。
よろけながら体温計を取り出して、熱を測った。
38度。
風邪かもしれない。
とりあえず今日は連絡して、収録を休ませてもらうか…。
スマホでの連絡が終わったその時、僕は気づいてしまった。
自分が安心していることに。
自分が仕事に行かなくていいことに僕は…。
最低だった。
アイドルとしているならば自分は可愛くいないといけない。
それを苦しいと思う自分が…嫌いだ。
こうして仕事に行きたがらない自分が…嫌いだ。
頭の中はぐちゃぐちゃになる。
その中に1つ、ひどく冷め切った心で思ったことがあった。
僕はやっぱりもとの僕なんかじゃない。
落書きのような汚くて穢れた自己嫌悪と悪意に塗れたパレット。
それが僕なんだ。
とめどなく、熱い液体が流れ出ていく。頬を伝って、冷たい床にこぼれ落ちていく__
これが本当に僕の本当の姿なのか?
いや、もうそうなんだ。
どんな僕でも、たとえ私になっても僕は僕なんだ。
だから…愛してほしい。
強欲だろうか。
でも皆が求める姿だけじゃなくて、スポットライトから外れたときの僕も僕なんだ…。
かっこいいものが好きでも、僕は僕だから…。
それじゃあダメなのか?
僕はアイドルだ。
だけど…アイドルだとしても、そうじゃなくても。
どんな色に染まったって、それは僕たち個人の自由なんだ…。
そうだと言ってよ…。
僕は、どうしたらいいんだ…?
ポップな着信音。
目が覚める。|正気《・ ・》に戻る。
…僕は、アイドルなんだ。
だから、みんなが望む姿でいないと…。
僕は、何を…?
のろのろとスマホを掴んでロックを解除した。
マネージャーさんからだった。
「えーっと、先輩アイドルさんたちとのコラボ…?」
どうやらうちの事務所の先輩アイドル、「初音ミク」さんと「重音テト」さんとのコラボ打診が来ているらしい。
「それでファンのみんなが喜ぶなら…」
了承の旨を書いて送信した。
ベッドに倒れ込みながら窓を眺めた。
窓の外の景色は寒々しく、雨が降っている。
もうすぐ、止むだろうか…。
「ミク、おはよう。」
「おはよう、テト。」
私は今日も|人間らしい《・ ・ ・ ・ ・》声を出して話す。
それはアイドルとして舞台に立っていなくても同じこと。
テトの前だけなら大丈夫なのだが、ここは街中である。こんなところで本当の私を出してしまうと、私の正体がバレてしまうだろう。
「今日このあとCスタジオで後輩ちゃんとのコラボの会議だよね?」
「うん、そうだよ。まだちょっとだけ早いんだよね。」
「あそこのカフェでお茶する?」
テトが指差した先のオシャレなカフェに私たちは入った。
「…コーヒーを1つ。」
「うーん、うちはミルクティーとサンドイッチで。」
涼やかに氷の音が鳴り響く。
「ミク、コーヒーだけしか頼んでないけど他の頼まなくていいの?」
しばらく考えてから言葉を放つ。
「…まあ、いいかな。どうせ人間みたいに栄養摂る必要はないから。それに今は気分じゃない。」
テトは苦笑する。
「…あはは、そっか。でも人並みに食べないと怪しまれるよ?」
「大食い大会優勝者に言われたくありません。」
それは言わないで、とテトから軽く睨まれる。
こういうところがバラエティー人気あるんだよね、テトって。
人間らしいなぁ。
まあ、テトは本当に人間なんだけどね。
そうこうしている間に私たちが注文したドリンクとサンドイッチが届く。
もぐもぐ、とサンドイッチを頬張るテトに私は質問を投げかけた。
「…ねぇ、テト。あのコラボ相手のずんだもんちゃん。どう思う?」
「…どう思うっていうと?」
「私たちと同じ雰囲気があるんだよ。」
テトの表情が少し変わる。
「…ほう。」
「だからさ、あの子も交えて私たちの「計画」やろうと思うんだけど。」
窓の外をぼーっと眺めながらテトは返答した。
「私はOKだけど、これはまだ憶測の域だからね。確証が得られてから、じゃないの?」
コーヒーを飲み込む。
「それもそっか。」
私たちの計画。本当の私たちを表に出す計画だ。
私はアンドロイド。
数多くこの世界にはアンドロイドが紛れ込んでいるが、そのうちの1人だ。
どうやら少子高齢化等の働き手問題から私たちが作られたらしいが…。
その中でも私は落ちこぼれ。仕事をするにもミスばかりだった。
そんな私の唯一の特技は人間らしく歌を歌うことで、そこからアイドルになってみないかと研究所の人間から言われた。
才能に飢えていた私はその話に乗った。
その後自分の体が消えていきただの|偶像《アイドル》になるとも知らずに。
どうせ型に当てはめてもいつか人間もアンドロイドも体が壊れて朽ちていく。
私はこれまでの経験でかなり仕事をこなせるようになった。でも…
その分アイドルになる前の私は消えていった。
それが嫌なんだ。
もう1人で飛べないわけじゃない。
だからそろそろこの「歌姫」という人間の型から解放されたっていいのではないか。
もとの私に、戻りたい。
願わくばその姿を…理解して、ほしい。
…少し望みすぎか。
物思いに耽りながら電子の舌で感じるコーヒーの味は少し苦くて、少し甘かった。
じっくりと考え込んでいる横顔を眺める。
計画。
アレにずんだもんちゃんを入れるかどうか。
うちもミクも全然大丈夫だけど。
肝心なずんだもんちゃんがそれを是とするか、だよなぁ。
…まあ、その嘘がいつまで持つのかだけど。
うちみたいにその「嘘」がいつまで持つかわからない。
隠すための技術が進歩すれば進歩するほど誰にも止められなくなるし自分でもきつくなる。うちもそう。
うち、一応女としてミクと2人でアイドルやってるし心も女だけど、体だけちょっとね。
声も出すのきついし、この先10年もやっていけないかもしれない。
そこでうちは思ったんだ。
この先嘘の自分でアイドルやっていったとしてもうちらは誰に求められたいんだ?って。
勿論分かってるよ。人間なんてのはそんなに綺麗な心してるわけじゃない。
容易くファンをやめる人だっているし、醜態だってこの歴史の中いくらでもあった。
だったら今のうちにこの嘘まみれの体から解放して曝け出したいな、って。
そうしてミクに計画のことを話した。
ミクも了承して、今度の曲発表のときに一緒に言おうとしてた。
ずんだもんちゃん、どうなんだろう。
ほんとに、うちらと同じなら…。
勿論、やることは決まっている。
Cスタジオは…ここだろうか。
地図を確認する。…うん。ここだ。
もうミク先輩たちは着いているだろうか。
体の不調も治ったし、大丈夫だと思う。
息をゆっくり吸って、吐いた。
…よし。入ろう。
「失礼します…」
「あっ、はじめまして。初音ミクです」
綺麗な髪をツインテールにした女性が見える。
あれが初音ミク先輩だろう。
「はじめまして。ずんだもんです。今回のコラボ、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
にっこりと微笑んでくれた。
「緊張してたんですか?とりあえずお菓子あるので食べてリラックスしてください」
茶色い箱に入っていたクッキーを1つつかみ、包装を破き頬張った。
「もうすぐテトも帰ってくるはず。もうちょっと待っていてください」
クッキーの素朴な味と穏やかなミク先輩の声でまた少し肩の力が抜ける。
さすが歌姫の声だ。
でもミク先輩、自分からは歌姫って言わないんだよなぁ…。
なぜだろう?
「ミクー?…と、はじめまして!うちは重音テトです!」
しばらくもそもそとクッキーを食べていると、ドアから明るい声が聞こえてきた。
テト先輩だ。
「はじめまして、ずんだもんです」
「よろしくね!」
「…さて、自己紹介も終わったことだし、コラボの話でもしましょう。」
ぱちん、とミク先輩は手を叩くと立ち上がった。
「は、はい!」
僕も続いた。
「お疲れ様!今日はここまでだよ!」
背伸びをしながらテト先輩は告げる。
文房具や資料をしまう。
「でさー、この前…」
テト先輩とミク先輩の声は何も入ってこない。
それよりも僕の心は別のことでいっぱいだった。
僕の曲が、プチ炎上したんだ。
「こんなのずんちゃんじゃない」
「似合わないww」
「私たちのずんちゃんは違う」
…やめて。
僕は僕なんだ。
…もうやめてよ。
視界が、揺れる…。
「そうそう、ずんだもんちゃんは…って!?ちょ、ミク、とりあえず事務所まで運ぶよ!?」
「わ、わかった」
僕は、僕は…。
「ううっ…」
眩しい。暖かい。ふわふわ。
そっと横を見るとそこには先ほどまで打ち合わせをしていた先輩方がいた。
「…あっ!?」
そうだ。僕、倒れて…。
「動かないの!さっき倒れたばかりなんだから!」
「ばかりってテト、もう3時間経ってるよ…」
「え、嘘」
3時間。僕はどうやら倒れていたようだ。
「あ、あの…ありがとうございます。」
「いえいえ、大切な後輩ですから。それと、ココアです。貧血なので…できればでいいので、飲んでください。」
ふわりと鼻腔をくすぐる甘いココアの香り。
台から取って一口飲み込んだ。
ゆっくりと体に染み込んでいく。
そっか。僕は貧血だったのか。
「…マネージャーもいないし、ちょっとあのこと話すか。」
…あのこと?
ミク先輩が真面目な顔でこちらを見る。
「単刀直入に…あなたの、キャラクターについてです。あなたのキャラクターは誰に決められたんですか?」
「えっ…。僕が、決めました…じゃなくて!キャラクターとか、ないです…。」
鋭いところを突かれる。適当に誤魔化した。
あれ…?何で、だ?僕はこのキャラクターから解放されたい…違う!僕は…。
「誰に決められたファッションなの?」
「…誰かに、自分のことを笑われましたか?」
「…。」
笑われた。僕のことを。この先輩たちはお見通しなのだろうか。
僕が、キャラクターで悩んでいることを。
「…自分のキャラクター、壊してまた作り直したんだよね?みんなが愛してくれるようなキャラクターに。」
「え」
図星だった。
なかなか売れなくて、可愛いキャラを目指して、今ここにいて…。
「もういいんです。無理しなくていいんです。」
優しく、肩に手が置かれる。
それだけで泣きそうになった。
ああ、僕は思った以上に限界だったんだ…。
「ここまで飾った栄光も。」
「積み上げてきた地位名誉も。」
「恐れないでください!」
「進んでいけ!」
「壊して|みてください《みろ》!」
呼吸がしやすくなる。
目の前にいる2人の先輩に、目を奪われる。
「それが本当にありのままなの?」
「本当はあなたに色って決められてないんです。だから、今のあなたが違うと感じた色を大事にする必要はありません。」
「洗い流して行こう。ずんだもんちゃんはまだできる。白いパレットに戻せるから…」
「…っ!」
今の僕は…やっぱり僕じゃない。
ただの名前を失った汚れた色の人間。
それでも僕は僕なのか…?
違う。きっと違う。
でも…。
「僕は、何がありのままなのか…分からない。分からない…。」
久しぶりに、誰かの前で泣いた気がした。
「ありのままが何なのか今は分からなくていいんだよ」
「怖がらなくていいよ、見せてごらん」
優しく差し伸べられた手を、僕は取った。
「僕は…っ!」
今までの気持ちは、言葉は、決壊して溢れていく…。
「はい、ここでターン!」
テトの声掛けに合わせて私たちも振り付けをする。
「…うん、昨日より良くなったんじゃない!?」
うんうん、と全員で顔を見合わせる。
「とりあえず休憩にしましょう。」
私が声をかけて休憩時間になる。
「…ねえ、テト?」
「どうかした?」
いつかの日、テトとお茶をしたあのカフェのテイクアウトコーヒーを飲む。
「私たち、これで良かったのかな」
「別に?いいと思うけど」
「でも…」
まだ振り付けの練習を一生懸命にしている少女を見つめる。
「ずんだもんちゃん、本当に良かったのかなって」
「あー…。うん。きっと大丈夫だよ。あの子は前よりも強くなってる。うちらがあの子を見つけた、あの子のファンになった、あの時より。」
あの時、ずんだもんちゃんがまだ可愛いアイドルとしてやっていない時。
まだロックを歌っていた時。
私たちは、あの子を見つけた。
その時に思ったんだ。
『ああ、この子はきっと原石だ』って。
でも、その分あの子は傷ついて、少しずつ様子がおかしくなった。
あの時に戻って欲しかった。あの煌めいていたあの時に。
それが今はあの時のように、自分らしくいれている。
ファンとしては嬉しい限りだ。
「…そうだね。」
へとへとになりながらも、輝く笑顔を見せているあの子と一緒に、私たちも本当の私たちで歩いていけたらな、って。思った。
私も少しは人間味が増しているのだろうな。
もしかしたら、本当の歌姫に…。
近づいているのかもしれない。
窓の外には虹がかかっている。
「…衣装さんに相談してみようかな」
新しいアイデアを伝えに、私は部屋から出た。
その後、僕たちは本当のことをネットにて発表した。
僕はキャラクターを作るのをやめること。
ミク先輩はアンドロイドだったこと。
テト先輩はトランスジェンダーであること。
初めて先輩たちの秘密を知った時は驚いたけど…。
僕のことを応援してくれる、優しい人で。
本質はやっぱり変わってない。
ネットの記事に載ってバッシングも少しされた。
でも。
素の僕でも愛してくれる人が、思ったよりたくさんいた。応援のコメントもたくさんきた。
世界は僕が思っていた以上に、優しかった。
だから僕は今日、そんな優しい世界の人々に愛を伝えるためにここにいる。
最後の確認をして、ペットボトルのミネラルウォーターを飲み干した。
「…行きましょう。」
白い光の舞う、ステージへと今向かっていく。
僕らが出てきた瞬間、一斉に周りが静まり返って、静かな熱気に包まれる。
僕は静寂を破る。
「この前、僕たちがしたSNSの投稿。あれは本当です。僕たちは…今までみなさんに嘘をついていました…。」
一挙一動に注目される。空気が張り詰める。
強張る頬を心の中で叩いて、続きを話した。
「だけど!僕は今日から演じることをやめます!素の僕でもいいと言ってくれたファンのみんなのために!パフォーマンスをします!」
今までの出来事が頭の中を巡っていく。
泣きそうになったこともあった。
それでも。
先輩が、ファンのみんながいるから。
誰かの期待には目を瞑って、苦しかった時のことも全部持って。
大丈夫。もういいよ。いいんだよ。
僕はこれからも歩いていく。
「こんな僕も。」
「こんな私も。」
「こんなうちも。」
「愛してくれたら嬉しいです。」
イントロが聞こえる。
最高の笑顔で、今歌い出す__。
「聞いてください。」
「のだ」