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日常3:光と闇
ミアレシティに夜の帳が下り、プリズムタワーのイルミネーションが街を色鮮やかに彩り始めます。仕事終わりの4姉妹がセンターの外へ出ると、夜風が火照った体に冷たく刺さりました。
4. 帰り道:遠ざかる光と近づく闇
「お疲れ様でしたー!」
一歩センターを出れば、そこはきらびやかな別世界です。
つばさとらこは、さっきまでの「完璧なスタッフ」の仮面を少しだけ緩め、肩を寄せ合って歩きます。
「ねえ、見て! あのショーウィンドウのドレス、すごく綺麗……」
らこがふと足を止めました。高級ブティックのガラス越しに飾られた、フリルたっぷりのドレス。今の彼女たちが着ている制服も立派ですが、それはあくまで「借り物の居場所」です。
「……らこ、行こう。暗くなると路地裏は危ないから」
しおんが静かに妹の背中を押します。
光の溢れる大通りを外れ、街灯が一つ、また一つと減っていくごとに、彼女たちの足取りは慎重になります。華やかなミアレの影、そこが彼女たちの「現実」が待つ場所でした。
5. 帰宅:廃屋という名の城
「ただいま……」
ガタガタのドアを、外れないようにそっと持ち上げながら開けます。
家の中は、昼間の熱気が逃げてひんやりと冷え切っていました。電気は通っておらず、拾ってきたロウソクに火を灯すと、大きな穴が空いた壁の影が不気味に揺れます。
「よしっ、夜ご飯の準備だよ!」
つばさが努めて明るい声を出しました。
「夜は……えーっと、豪華に『お粥の温め直し』! 今朝よりさらにお米が柔らかくなってて、高級リゾットみたいだよ!」
実際には、鍋の底に残ったわずかな米粒を、多めの水で再び煮ただけのものです。
4人は薄暗い1階の床(畳も腐りかけているので、段ボールを敷いています)に輪になって座りました。
「……いただきます」
このみが、震える手でお椀を持ちます。
温かい水のようなお粥が、冷えた喉を通っていきます。たった2口分。胃袋を満たすにはあまりにも足りませんが、4人で分け合うその温もりだけが、彼女たちが「今日も生き延びた」という証でした。
「……ねえ、つばさ姉ちゃん」
このみが、暗闇の中で小さな声を漏らしました。
「私たち、明日もあそこで働けるよね? 追い出されたりしないよね?」
親に捨てられた記憶は、ふとした瞬間に彼女たちの足をすくいます。「自分たちはいつかまた捨てられるのではないか」という恐怖。
「大丈夫だよ、このみ」
つばさが、このみの頭を優しく撫でました。
「ジョーイさんも、みんなも、私たちのこと必要だって言ってくれたでしょ。私たちはもう、自分たちの力で立ってるんだから」
6. 就寝:夢の中のガレット
寝る準備といっても、ボロボロの制服を脱いで、大切にタンスへしまうだけです。
4人は2階の、一番雨漏りがマシな一角に集まりました。
「……しおん姉ちゃん、寒い」
「……おいで。みんなでくっつけば、少しは温かいから」
しおんが中心になり、4人は古い毛布を共有して、芋虫のように身を寄せ合います。
壁の穴から見える夜空には、ミアレの明るい光のせいで、星がほとんど見えません。
それでも、らこは天井のシミを指差して笑いました。
「ねえ、あのシミ、ちょっとミアレガレットの形に似てない?」
「えー、どこどこ? ……本当だ、ちょっと焦げ目のついたガレットに見える!」
つばさが乗り、二人の陽キャな笑い声が静かな廃屋に響きます。
「……ふふ。おやすみなさい、みんな」
このみが、姉たちの温もりに包まれながら、ようやく安らかな顔で目を閉じました。
「おやすみ。いい夢を……。明日はもっと、いい日になるよ」
しおんが最後にロウソクを吹き消しました。
真っ暗な闇の中、4人の小さな寝息だけが重なります。
お腹は空いていて、家はボロボロ。
けれど、明日もまた、4人で「あの場所」へ行く。
彼女たちは夢の中で、きっと、昼間に約束した焼きたてのガレットを、お腹いっぱい食べているはずです。