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悪い人
使わせてもらった楽曲 悪い人
syudou様
晴瀬です。
悪い人の話です。
この品性も意味もない毎日にあたしはずっと殺され続けている。
あたしの思いも、気持ちも、考えも、全部が|無碍《むげ》にされてあたしは死んでいる。
だから、なのかな。
いつまで経っても認識されないけどさ。アナタを求めてあたしは行ってしまう。
繁華街の場末のバー。
あたしが行くといつもアナタは静かに、安い酒をちびちび呑んでいる。
半端なアナタがよく似合う、唯一の酒だと思う。
その酒を呑むアナタを見てやっぱりやめられてないんだな、とあたしは少し嬉しくなる。
ねえ、やっぱりそうでしょう?アナタはきっと逃げたい。
ずっと逃げたいんだ。
ねえ、あたしだってそうだもん。
逃げたい。
だから、ここへ来るんでしょう?
それに、この人生や身を滅ぼすほどに誰かに強く愛されたいんだ。
そうだろう?オマエもきっと。
だから忘れたって忘れたって求め合うんでしょう?
だから、ここへ来るんでしょう?
言えない、なんて言えないな。
ああ、もう、アナタにつけられるこの痛みさえも愛おしい。
これは危ない。まともではない。
初めて見て、思った。
アナタは異常だったもの。
でも、ねえ。
分かっていたって、胸は踊る。
ほら、アナタだってまたこのザマ。
あたしだってこのザマ。
醜くて、穢らわしい。
アナタのタバコとあたしのアザ。
アナタの着けるタバコはあたし大好き。
アナタがあたしにつけるアザは、本当に愛おしい。
だから、アナタは悪い人。
暴れ出す躁。ああ、溢れ出しそう。
アナタの狂いようを見てるだけで、狂っていたって、あたしは凄く楽しい。
あら楽しそう。アナタの隣りにいる女はだあれ?
あたし以外にも、あのバーで出逢うのね?
アナタの思想をあたしは覗いてみたい。
あたしはあんなにアナタを愛しているのに、オマエは忘れるのね。
いつもいつも、朝起きたら、ね。
でもあたしは分かるから。
本当に、アナタは悪い人。
可もなく不可もなく生きるよりも、アナタと共に奈落を選ぶの。
そっちの方が、楽しいでしょう?朝、アナタに「誰?」と言われる絶望を味わえる。
夜、「愛してる」と繰り返すアナタを間近で見ていられる。
ねえ、幸せでしょう?
あたしは、生きる理由を見つけられる。
そうなの。あたしはきっと消えたい。ずっと消えたいな。
でもアナタのおかげであたしの身体に貼ってある絆創膏はどんどん増えて。
ああ、あたしは生きているんだって、生きていけるんだって思えるんだよ。
そう思わせてくれるのは、愛があるからでしょ?
あたしにも、アナタにも。
絆創膏が増える度にアナタから確かな愛を汲み取ってしまうの。
そうなの。あたしもきっと…。
痛いし、苦しいけどそんなもので咎められるほどの気持ちじゃない。
痛い、けど会いたいの。
後ろめたいほど、アナタから酒の匂いと強い香水の香りがした。
アナタは夜突然起きて叫ぶのよ。
『愛してくれ』って。
あたしはアナタを抱き締めて、「愛してる、愛してるわ」とアナタの名前を呼ぶ。
そして誰かへの憎悪を垂れ流して、色んな人を困らせるのね。
隣の部屋の人とか、その隣の部屋の人に苦情をつけられたホテルの従業員さんとか。
あまりに言葉が汚いから皆驚いてアナタを取り押さえるの。
酒に酔ってると、あたしは弁解して。
取り押さえられながらアナタは自傷をする。
怒鳴りながら、嘆きながら、叫びながらアナタは爪を突き立てて腕を引っ掻く。
皮膚が赤くなって、更には血が滲む。血が流れて、アナタは発狂して。
でもあたしは分かってる。
怒鳴っていたって、目は悲しい。
孤独を飼い慣らせないアナタは弱い人。
そんなことであたしの気を引いて、あたしはまんまと丸め込められちゃうんだから。
癒やしてあげる、満たしてあげる、そうあたしが囁やけばアナタは途端に静かになって。
今した自傷の傷を見つめる。
「痛いの痛いの飛んでいけ」
あたしは微笑む。
アナタはボロリと泣いた。
虚勢を張って、人の悪口を大声で叫ぶアナタも、情が垣間見えるアナタもあたしは大好きだから。
全部、あたしは気付いてる。
アナタは弱い人。
この世全てに値札を貼ろうと、大人も子供も意地を張ったって、無償の愛ほど|悍《おぞ》ましいものはないから。
あたしもアナタもよく解っている。
だから対価を求めるし、"一夜限り"の設定なの。
一夜限りだと、思っているのはアナタだけだけれど。
これは危ない。まともではない。
何度会ったってあたしはそう思う。
アナタはいつも何かに怒って、悲しんで、喜んで、嫌ってる。
これはおかしいと、分かっていたって胸は踊る。
アナタとあたしで「もう呑まないで」「明日のことを考えて」そう言い合う時間もあたし大好きなのよ。
本当にあたしは恋だし、愛なの。
あたしはアナタのために喚いて。
明日のために、泣き叫ぶの。
『なんで覚えてないの』と。
ほら、愛された分、愛すのがルールだから。
アナタは、ほら。
悪い人。
あたしに、アナタに逃げ道はない。
誰も、許してはくれない。
でもあたしだけは、許してあげるから。
仕返しも、介抱も凄く手が焼ける。それでもアナタの足掻くさまさえも映えるなんて。
本当にアナタは悪い人。
本当に、
弱くて。
アナタは悪い人。
そして弱い、
アタシは悪い人。
悪い人/syudou
https://m.youtube.com/watch?v=qCLFfQZA0Gs
コールボーイ
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