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【第二部】第一戦区「フェリックス・ミラー上等兵」
─数時間をかけて拠点へと戻ったアースたちは、軽く傷の手当てもしてもらいながら、神妙な面持ちで座っていた。
切り替えようとしても、受け止めきれない。伍長であったカイの裏切りと死亡に、拠点に帰ってからも、各々動揺を隠せずにいた。
「─おいおい!何だこの空気は!?」
と、突如場違いなほどに明るい声が響き渡る。声がする方へと視線を向ければ、十字架のような動向をして、片目の白目が黒目になっている男性がその場に立っていた。
「うるせぇよ、フェリックス。お前も報告聞いただろ。」
イーサンが背を丸めながら、不機嫌そうに眉間に皺を寄せてフェリックスと呼ばれた男性を睨みつける
「おっと、すまんすまん!いや〜、イーサンは相変わらずだなぁ!」
睨まれても気にしないようにフェリックスは太陽のように明るい笑顔で笑った。
「えっと、誰ですか‥?」
アースは会話に追いつけないまま、その二人のやりとりを聞きながらそう質問した。
「自己紹介がまだだったね!俺はフェリックス・ミラー!階級は上等兵だ!イーサンの一個上だな!」
くるりとアースの方へと向き直り、軽く自己紹介をした。陽キャオーラが凄いため、あまり分からなかったが、イーサンよりも上の階級ということは強いのだろう。
だが、アースの注目はそれよりフェリックスの目の方に向いた。本来ならば白目であるはずの場所が黒く、瞳が白と反転している目だ。
これは先ほどのカイの時と同じように、「人外化」している予兆だが…本人は理性も全然失ってないように見える。アースが不思議に思いながらじっと見つめていると、やがてフェリックスも気づいたのか、「フフッ」と笑って口を開く。
「この目か?いや〜、俺も過去に能力使いすぎて人外化しかけたことがあってな!本来ならば人外化し始めた時点で理性を失い、元に戻ることができないはずなんだが…」
一瞬言葉を切るも、そのまま続ける。
「イーサンとカイが止めてくれたんだ。そのおかげで、俺は理性を取り戻しすことができたのさ。こんな事例は今まで発見されなかったからわからなかったが、どうやらある特定の行動によって、人外化は治るらしい。だが、それが何かは未だわかっていない。それで、俺の目は後遺症として目が人外化しかけた時のまま、残ってるってわけ。」
トントン、と目元を人差し指で叩き、衝撃の過去をアースに話した。アースはそれを聞いて驚きに目を見開いて、息を呑む。
「(まさか、人外化を治めることができたなんて。その方法が何か分かってさえいれば、カイ伍長は……。)
俯いて動揺を隠せないアースを心配したのか、フェイが歩み寄り、震えるアースの背中をポン、と優しく叩いた。
「あんたも、誰も何も悪くないよ、アース。そう気にすんな、って言っても、アースはまだまだ新兵だからな…まぁ、先輩として、師匠として言っておくよ。」
フェイはアースの前のしゃがみこみ、アースと視線を合わせる。
「この先、こんなことが数え切れないほどある。軍人として歩んでいる以上、それは避けられないことだ。だが、いちいち泣いて、悲しんでいては何も解決しない。だから、強くなるんだ、アース。強くなって、お前の手で、敵から仲間を守れ。」
フェイは励ますように、軍人として長い間いるものとしてそうアースに告げると、アースの頭をポンポンと撫で、微笑んだ。
「フェイ、師匠………。」
アースは過去の自分を救い出してくれた、自分が心から尊敬する師匠の言葉に思わず涙をポロポロと流し始めた。今のアースは、18歳という年相応の子供のように酷く幼く見えた。
それを見たフェリックスとイーサンはキョトンとしたように固まりながらも二人で目を見合わせ、やがてフッと笑うと、泣くアースの近くに歩み寄る。
「ま、俺らがいるからな!心配するな!お前は一人じゃないからな!!」
フェリックスがニカっと笑い、アースの背中をバシンと強く叩く。
「こいつの言うとおりだ。お前は一人じゃない。だから、一人で溜め込もうとするな。少しは俺らを頼れ。」
いつも不機嫌でキレ散らかしているイーサンの口からは思い付かないほどの、優しく、不器用な言葉がかけられる。
「おっ、なんだイーサン?さっきはずっと不機嫌だったくせ、開き直ったのか?」
フェリックスがそれを見逃さず、揶揄うように意地悪そうに笑みを浮かべて指摘する。
「うっせぇ!!別に、心配してるわけじゃないからな!お前みたいな若い奴に死なれると胸糞悪いんだよ!」
フェリックスの言葉に耳まで顔を赤くし、フイッと顔を背けた後、すぐに視線を戻し、照れ隠しかのように言葉を紡ぐ。
「あんた結局アースのこと気にかけてんじゃないか!」
フェイがすぐさまツッコミを入れ、フェリックスが隣で心底愉快そうに満面の笑みで笑っている。
「…フフッ……。」
アースも泣き止み、目をこすりながらその強くて騒がしい先輩たちのやりとりを、微笑みながら見つめていた。
「(イーサン一等兵たちみたいに、ボクも強くなって、仲間を守れるようになりたい…!)」
心の中でそう決意し、空一面に広がる青空を見上げた。
(第一戦区:フェリックス・ミラー上等兵 終)