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【第二部】第二戦区「プレコグニション」
数日後──
「いや〜、珍しく襲撃がないな。こんなこと初めてだが…。」
フェリックスが頭の後ろに腕を回し、手を組んだ状態で笑いながら呟く。
「あんたがそんなこと言ってたら攻めてくるでしょうが……。」
フェイが呆れたようにため息をつき、腕を組んだままそう厳しく指摘する。フェリックスは「おっと、すまない!」と肩をすくめて、全く反省していない様子で笑った。
「いや、でも、フェリックスの言う通りだ。カイが死んでから、全く動く様子が見られない。偵察部隊に聞いてみても、『全く変化がない』と言っている。なぜだ…?」
イーサンが珍しくフェリックスに同意し、顎に手を当てて考え込むように視線を落とした。確かに、カイが死んでから、ルミナスも、ガイアも全く動いていない。それをきっかけに、ピタリと攻撃をやめてしまった。
「……なんででしょうか…。」
アースも片眉を上げて、考えるように目を閉じたが、全く理由が思いつかない。頭の中にハテナが思い浮かぶばかりだ。
「まっ、そんなこといちいち気にしていたらしょうがない!すぐに動けるように準備してさえすればいいさ!」
フェリックスがパンパンと手袋をはめた手を叩き、場の空気を自身の圧倒的光属性(陽キャ)のオーラで半ば強引に塗り替える。
「そうだねぇ…いちいち気にしていたら、いざという時に体が動かない。」
フェイも頷き、イーサンも顎に当てていた手を下ろした。
「……何してるんですか〜?」
突如として可憐な、鈴を転がすような可愛らしい声が背後から聞こえる。ハッとして後ろを振り向けば、ピンク髪の少女が立っていた。
「うわぁっ!?」
アースは思わず声を上げ、びくりと肩を振るわせて体勢を崩して尻もちをつく。
その様子が心底面白いのか、少女は目を細めてクスクスと笑った。いや、自分たちと同じ軍服を着ているあたり、この子も軍人だろう。可愛らしい見た目であるため気付かなかったが、よくよく見れば軍服を着ている。
「あぁ、あんたは…アースの後に入ってきた子か。総司令官が言っていたよ。」
フェイがその顔を見て、思い出したように指を鳴らした。
「はじめまして!私、ナディール・エスペランサって言います!ナディールって呼んで下さい!!階級は二等兵です!…で、貴方がアース君?」
胸に手を当て、自信満々に言うように自己紹介をすると、体勢を崩したままのアースの方に少し体を折り曲げてずいっと顔を近づける。あまりの距離感の近さにアースは動揺し、どうすればいいのかわからず、目を泳がせるだけだった。
「こらこら、アース君が困っているじゃないか!離れてあげなさい!」
フェリックスが苦笑いしながら、ナディールの肩に手を置き、アースから離れさせた。
「え〜、いいじゃないですか!同じ二等兵なんだし…。」
不満に思ったのか、口を尖らせ、フイッとそっぽを向いて不貞腐れる。
「同じ二等兵とはいえ、アースの方が長く軍人やってるから先輩だぞ。先輩を敬えよ。」
イーサンがため息をつき、相変わらず不機嫌な様子でナディールに向けてそう注意した。
だが、イーサンの言葉にアースは1番衝撃を受けていた。
「せせっ、先輩!?俺がですか!?」
目に見えてわかるように目を極限まで見開いて目を丸くし、頬を赤らめて動揺を隠すことなく声を荒げながらもそう尋ねる。
「え、そうだよアース。階級は同じだけど、あんたの方が先に入ってんだから…。」
フェイもつられてそのアースの言葉に呆気に取られながら、アースのその言葉に対して返した。
「そ!だから、よろしく!アース先輩?」
ナディールがすぐさま面白がるように、小悪魔のような笑みを浮かべてアースを揶揄う。
それを見たイーサンは「先輩には敬語をつけろ!」とアースを援護するように(?)野次を飛ばしている。
「え、あ、う、うん…よ、よろしくね…!!」
アースは未だに困惑したままだが、なんとか状況を飲み込み、笑顔でそう言った。
一方でフェリックスは、その様子を遠くから眺めながらも、ふと違和感を覚え、誰もいない、開けた森の焼け跡を見つめる。
「(………?気のせいか…?)」
心の中で疑問に思いながらも、ふと彼の脳内に、見知らぬ記憶が流れ込む。いや、見知らぬ記憶というより、それは未来を予知したもののように見えた。
だが、ノイズがかかったかのように記憶は見えづらく、鮮明に見ることはできなかったが、何やら見たことがある姿がその記憶の中にあった。
流れ込んだ記憶はいつの間にか消え、フェリックスはハッとして顔を上げる。
「……何だったんだ、あれは。」
フェリックスの能力は「予知」のため、その能力の効果の一つとして今起こったように、未来の記憶が現在のフェリックスの頭の中に流れ込む。それら全てはノイズがかかったようになっているため、はっきりとは見ることはできないが、必ずそれはいずれ起こることとして表れる。
「………………。」
フェリックスはいつもの明るい笑顔を消し、それが何かを考え込むように腕を組み、片手を顎に当てて考える。
「まぁ、気にしてもしょうがないか!」
口癖のようにその言葉を呟いて切り替えると、アースたちの方へと歩み寄り、明るく振る舞いながら会話を続けた。
彼が切り替えた時、一瞬、いつも輝いていた彼の瞳のハイライトがなくなっていたのは誰も知らない。
(第二戦区:プレコグニション 終)