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ドラゴンからお嫁さんを護るのも大変だ
「いやだからね、結婚したほうがお互いのためになるっていうかさ」
「」なんで俺に求婚してんのこの人?!
「」この人が男じゃないの?! どう見てもそうだろ?! でもどうしよう?! こうやって見ると本当に綺麗だし……、でもだからといって俺にどうしろと?!
「」どうすればいいんだ?! 誰か教えてくれ!
「」頼むから帰ってくれ!
「」頼むから帰ってくれ!
「」頼むから帰ってくれ!
「」頼むから帰ってくれ!
「」頼むから帰ってくれ!
「」
タケヒトは無意識に世界最大級の召還魔法を放った。
ドカーン。
大陸ごと未来へワープした。
ここは東京都内のコンビニ。レジで客が揉めている。
「おい! お前ふざけんなよ! なんで釣り銭間違えてんだよ!」
「すまんのう。最近、目がしょぼしょぼしててのぉ。よく見えなくてのぉ」
老人は謝りながらもヘラヘラ笑っていた。
「そういう問題じゃねぇだろ!」
男は怒鳴った。
「お前、何回同じことやれば気が済むんだ!」
「そう言われてものぅ……」
「お前がボケてるせいで、こっちは迷惑してんだよ! それに何度言えば分かるんだ! この店では店員の態度が悪いとすぐにクレームが来るんだぞ!」
「それは困ったのぉ」
「だったら少しは自覚して気をつけろよ!」
「うーむ、善処します」
「それ絶対しないやつじゃねぇか! もういい! 帰る!」
男は怒りに任せて商品を乱暴に掴んで、そのまま出て行った。
老人は男が帰って行くのをぼんやり眺めていた。
するとそこへ、もう一人の若い男性が現れた。
「どうしたんですか? 何かトラブルですか?」
「ああ、このお爺さんが会計を間違ったみたいでの」
「え? それマジっすか? でもちゃんと確認したんですよね? それなら仕方ないですよ」
「仕方ない? こんなことが何度もあっていいのか? この店が潰れたらどう責任を取るつもりだ?ええ? どうしてくれるんじゃ? おい」
「あ、はい。すみませんでした」
「ふん、まったく最近の若者は礼儀も知らんのか」
「はあ」
「これでもワシは若い頃は、それはそれはモテたものじゃ」
「」ああ、
「しかし、皆、見た目で判断しおってのぉ。中身を見てはくれんかったわい」
「」あーあ、
「ワシはの、昔は真面目で優しい性格だったのにのぅ。いつからこうなったのか……」
「」あーあ、
「あ、そうだ! おじいさん! 今から飲みに行きましょう!」
「おお! それは良い考えじゃ! 今日はとことん飲むとするか!」
二人は意気揚々と店を後にした。
タケヒトは目覚めた。
ベッドの横にはサトミがいた。
「おはようタケヒトさん。気分はどうかしら?」彼女は心配そうな表情で言った。
タケヒトは起き上がって辺りを見た。清潔感のある白い壁に囲まれていて天井からはモニターが設置されている。テレビも置いてあり外の風景を映し出していた。
「ここはどこなんだ?」
タケヒトはサトミに訊いた。
「病院よ」
「俺がどうしてここにいるのか知ってるか?」
「あなたは公園で倒れていたところを発見されて、救急車で運ばれたのよ」
「そうなのか。俺はあの後、どうやって家に帰ったのか覚えていないんだ」
「あら、そうなの?」
「ところで、あいつらはどこにいったんだ?」
「彼らなら、用事があるからって帰ったわ」
「そっか」
「それよりタケヒトさん、体調は大丈夫?今夜の収録に穴をあけられちゃ困るわ」
「」え?
「」あれ?
「」そういえば、魔王は?
「」まさか、夢だったのか?
「」もしかして、俺が見たのは全部悪夢だったとか?
「」いやいや、そんなわけがない。
「何を言ってるの? 横浜アリーナで魔王と決着をつけるんでしょ?忘れたの?」
「あ、そうだった。思い出したよ」
「もう、しっかりしてよね」
タケヒトは思った。
「(そうか、これは現実だったのか)」
タケヒトは安堵の表情を浮かべた。
そのとき、タケヒトの携帯に着信があった。電話に出ると、相手はサトミだった。
タケヒトは魔王との決戦に備えて、とある場所にやって来た。そこは都内にある廃工場である。かつてここで、タケヒトと魔王が死闘を繰り広げたのだ。
魔王はタケヒトよりも先に来ており、すでに準備万端といった様子だった。タケヒトは、その姿を確認すると彼に近づき話しかけた。
すると彼はニヤリと笑い、タケヒトを睨みつけながら言った。
ようやく来たな。待ちくたびれたぞ。
タケヒトは、まあまあと手を振り落ち着かせるように言い、 さらに続けた。
実はあんたが生きていることは知っていた。なぜなら俺は未来から来たからだ。だからこうして、この場所に来たというわけさ。まあ、俺にとっては二千年後の未来だけどな。だがそんなことを魔王には言わず、あくまでも冷静に対処することにした。魔王のペースに乗せられてはいけないと考えたからだ。魔王はタケヒトの言葉を聞くと、フンッ、と言い不機嫌そうに目を逸らしてしまった。どうやら彼のほうが落ち着きを取り戻してきたようだ。
すると今度は、タケヒトをジロリと睨むように見つめながら口を開いた。
実はな、貴様を殺せなかったことで部下どもから色々言われているのだ。魔王の座を奪われるのではないかと不安なのだ。そこで考えたのだが――……。
その前に、と魔王は話を中断させた。そして突然服を脱ぎ出した。その体は筋骨隆々であり、とてもたくましいものだった。しかも肌は青白く、目は赤く光っている。
その瞬間、タケヒトは悟った。
タケヒトはとっさに身構えた。
次の刹那、両者はぶつかり合った。その力は互角であった。両者一歩も引かず、しばらく攻防を続けた。
だがタケヒトはすぐに、このままでは不利だということに気付いた。その戦い方はまるで素人同然で、隙だらけなのだ。そのことに気づいたタケヒトはまず距離を取り体勢を立て直すことにした。
タケヒトと魔王は互いに距離を離すと、再び対峙した。タケヒトは魔王の隙を突いて魔法を放った。その威力はとても弱く牽制程度のものでしかなかったが、魔王の動きを止めることに成功した。
魔王は焦りを見せた。そして苛立った声で言った。
なぜ攻撃してこない? するとタケヒトは落ち着いた口調で話し始めた。実は、これからあんたと話す内容を伝えるために時間稼ぎをしていたんだ。本当は、もう少し後に伝えるつもりだったんだけどね。
魔王は不思議そうに顔をしかめた。そんな魔王に対し、まず最初に伝えなければならないことがあるんだ。実は、今回の一連の騒動は全て俺の勘違いから生じたものなんだよ。
「はあ?」魔王は呆気に取られたような声を出した。
タケヒトはさらに話を続ける。
俺は未来からやってきたと言ったよな。それは信じてくれなくてもいいけど、これだけは分かってほしいんだ。
俺が過去にやらかしたことは決して許されないことだ。
それは分かっているよ。
「じゃあ、なんで戻ってきたんだ?」
それは……、過去を変えるためだよ。
「どういう意味だ?」
だからつまり、こういうことなんだ。俺は過去の出来事を改変し、未来を変えようとしたんだ。
そのために俺にはある能力が与えられた。それがこの魔法なんだ。
「未来だと?」
未来では、魔物がこの世界にやって来て人々を殺戮していった。もちろん、この世界でもそういう事態になったときのために準備を進めていたけどね。でも実際に起こったことは俺の予想とは全然違っていたんだよ。俺は魔王と直接戦うことを想定して作戦を練っていた。
「ちょっと待て、話が見えないぞ」
いいか、魔王。あんたと初めて会ったときのことを覚えているか?
「……」
魔王は押し黙ってしまった。どうやら、心当たりがあるらしい。そうだ、俺とあんたが初めて会った日だ。
「」もしかして、あのときの会話で何か気付いたのか? そう、それだ。
魔王は動揺した様子を見せ始めた。どうも心当たりがありすぎるようだ。
「それで何が分かったっていうんだ?」
あの日のあの場所でのやり取りが鍵だったんだ。
「どういうことだ?!説明しろ!」
いいだろう。じゃあ順を追って説明するよ。
あの日の朝、俺はあんたの城に行くと見せかけて別の場所へ向かったんだ。その目的は、当時の仲間に事情を説明することだった。俺は仲間とともに魔王討伐の旅に出ようと思っていたんだ。
「」おい、まさかお前たちだけで行かせろって言うんじゃないだろうな?
「」いや、それは無理だ。いくらなんでも危険すぎる。せめて俺たちのうちの誰かを連れて行くべきだ。じゃないと、みんなが殺されるかもしれない。
「」でも、
「」頼む!みんなの安全を考えるならこれが最善策なんだ! タケヒトが必死になって説得すると、魔王は渋々ながらも承知してくれた。それからタケヒトたちは魔王城へ赴き、事の経緯を全て伝えた上で同行を申し出た。
「」おいおい、マジで言っているのか?!本当ならヤバいどころの話ではないぞ?!下手したら世界が滅びかねない! 魔王は驚愕の表情を浮かべた。それは当然の反応と言えるだろう。しかしタケヒトは自信に満ちた顔で応えた。ああ、マジだぜ。それに今なら分かるだろ?あんたじゃ絶対に勝てないってことがさ。
「」た、確かにそうかもしれんなぁ。でも油断はできないぞ。魔王の強さは底知れぬものがあるからな。
「」ああ、それは俺も知っている。だから、こうして対策を立てたんじゃないか。
「」どんな方法を使ったんだ? それは教えられない。ただ、安心してくれ。きっと上手くいくはずだから。
「」分かった。信じるよ。