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【曲パロ】IMAWANOKIWA
原曲様リンク。私がいよわさんの沼にハマり始めてきっかけの1つの曲です。
https://m.youtube.com/watch?v=OVwCr2MESfo
ドラマを見るのが好きだ。
特に、甘いハッピーエンドになって終わる、そんなドラマが好きだ。
今見ているのもそうだ。生き別れた母親と娘が時を経て再会する、そんなドラマ。
途中は2人にそれぞれ試練が降りかかり、見ているこっちまで辛くなったが、やっと幸せになれてよかった。
「おかーさん、何見てるの?」
幼い娘がこちらを覗き込む。
「んー?ないしょ!」
「なんでよーぅ?あたしも見たい!」
「まだあなたには早いわ。あと、そろそろ9時だからもう寝る時間よ」
「えーっ」
膨れっ面の娘が、たまらなく愛しい。
幸せな「今」と甘いハッピーエンドで終わった「ハッピーエンド」に浸って眠る。
この時間がとても好きだった。
そして土曜のドラマを観た後の日曜日は、寝室の窓から差し込むささやかな光とそよ風で起きるのだ。
それから、私の愛する天使が元気に起きてくるのが、とても楽しみなのだ。
それは、窓からの光は入ってくるが体を暖めるにはほど遠く、そよ風もひんやりと冷たかった冬の朝だった。
私がさっきまで寝ていたとは思えないほど冷たい布団の中でもう一度縮こまる。
あの日がフラッシュバックする。
飛び散る鮮血、赤く染まった帽子、あなたの匂いが、色が、こびりついたガラス片。
気持ち悪くなって、吐き気がして、誰も信じたくなくて。もう誰にも会いたくなくて、いやあなたには会いたくて。布団に入り、出ては雲に隠れる太陽を、窓をこっそり睨んでいた。
そうしてしばらく…1時間ほどだろうか。
結露した窓に、小さな翼が見えた気がした。
小さな四肢が、踊るように空を飛んだ気がした。
白い羽根が、私の視界一面を舞った気がした。。
まさか、あなたなの…?
いやいや、気のせいだろうと目を閉じようとして、パッと開いた。
確かにいた。
ああ。
よかった。
ここにいたのね。
あなたは。
間違いなくあなたは…
思わず声がこぼれた。
「私の天使だ。」
私を甘く誘惑する光り輝く|天使の輪《エンジェルヘイロー》。
艶々した黒髪。それを引き立たせるような美しい純白の翼。
それを仰ぐように必死に見つめる哀れな|私《サクリファイス》。
ああ、やっぱりあなたがいれば私はもうそれで幸せなのね!
ふふふ、と何ヶ月かぶりの本当の笑みが溢れる。
その綺麗な漆黒の瞳に、心も体も、全て奪われてしまう。
でも。
あなたはもう…
あなたがいないと私はもう…
全てが嫌になってしまうの!もう何もできないの!
今はただ。
「もっと。もうちょっとだけあなたと居たいなって。思ってしまうの。」もうどこにも行かないで。
そう言って、私は窓を開けてあなたを抱きしめようとした。
でも、それを拒否する私がいた。
その叫びを振り払って、暗い心は見ないで。あなたの翼に触れようとした。
けれども、あなたはそのまま飛んでいってしまって。
一瞬の白昼夢のように。
チカチカと光が瞬いて、呼吸ができなくなる。
やめて!どうして!
あなたは私にとって大切な大切な…天使だから。
ねぇお願い、戻ってきて…
もう離れ離れなんて絶対に嫌なのに…
ぎゅっと目を瞑った。
あの日が蘇る。
あの朝はいつもと同じ、どこにでもあるような朝だった。
私はあなたに目玉焼きとハムとヨーグルトを朝食として出して。
またこれー?と言いながら美味しそうに食べるあなたを見て。
そして帽子をかぶって元気に
「いってきます!」
と言ったあなたを見て。
私は笑ってそれを見届けて。
それがあなたの最期の言葉になるとは知らなくて。
…あの日、私の娘は神に奪われた。
私が仕事をしていると、夕方、一通の電話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし、--さんのお母様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうですけど…」
不審に思う。
「--さんが先ほど交通事故に遭われて、現在病院に搬送され…」
空気も時も全て凍ったように感じられた。
汗だくになりながら急いで病院に行った時にはあなたは白いベットに横たわっていた。
先生から告げられた言葉。
信じたくない、そんなわけない。
でもその体温の感じられない体が、力無く横たわる体が、その事実が本当だと訴えかけている。
私の無力さを訴え掛けている。
視界が暗くなっていって、その日の最後の記憶で憶えていたのは、輸血の血の点滴の色が鮮明だったことと、窓からひどく冷たい風が吹き込んでいたことだった。
ドラマを見るのが好きだ|った《・・》。
ドラマを見るのが嫌いになった。
ドラマの中でも繰り広げられていた幸せな光景は、もう訪れないことを知っているから。
ハッピーエンドに浸るのが好きだ|った《・・》。
でも、もう空想のハッピーエンドに浸っても、もう何も意味がない。何も気持ちが和らぐことはない。
寒々しい光とそよ風が、私に残酷な朝を告げる。
錠剤を飲みながら思い返す。
此処にないもの。それから此処に居ない人のことを。
今では汚れて見える凍った床の、小さなアパートに、あなたが来てくれたらどんなにいいのに。
あなたがこの部屋から連れて行ってくれたら、どんなにいいのに。
いや、きっと連れ出してくれる。
今日も来てくれるはずよ。
…ほら、こうしていつも来てくれるの。
「もう、ちょっと!いつもより遅かったじゃない?」
ねぇ、どこに行こうか?私はどこでもいい。あなたといられるならば。
…ああ、でも。
あの日のこと、思い出すかもしれないなぁ…
いつものようにあなたに|後光《エンジェルヘイロー》は差して。
私はあなたに尽くす。
噛まれたみたいにジンジンと頭が痛い。これもいつものことだけど。
喋りかけて、そっとキスをするふり。触ると消えてしまうのが残念ね。それでも、あなたはいつも微笑んで返してくれるの。
夢のような時間はあっという間だ。
パッとあなたの姿は消えてしまい、あとには絶望感と頭痛だけが残る。
嫌だ嫌だ嫌ダイヤダイヤダイヤダ
モウクスリヅケデモイイ!ソレデモカマワナイノ!
ダッテアナタニアエルノダカラ!
ソレガワタシノシアワセ!
ワタシハタダユメガミタイダケナノ!
ネェ、ソレグライイイデショ?
ネェ、ネェネェネェ!!
アーア…マタノマナキャ…クスリ…
ワタシハタダ、アナタト…モット…モウチョットダケイタイッテ…
オモッタダケナノニ!!ナンデ!!
ナンデナノヨォ…
懐かしい思い出が打ち寄せては消えて、また打ち寄せてくる。
結婚も本気で考えていた、そんな彼氏に突然それはそれはこっぴどくフラれて逃げられた。けれど、あなたは私のお腹に、すぐそばにいてくれた。
あなたを初めて抱き上げたときのあの感覚。母性。
折れてしまいそうに細い腕。小さな足。ふよふよした肌。その綺麗な瞳は、生まれつきね。
それからあなたは元気に育って、いろいろなあなたを見たわ。記念日もたくさんあった。
黄色いカバンを背負って保育園に行く姿。
初めての小学校。可愛らしい帽子と赤いランドセルがよく似合っていたわね。
赤じゃないと嫌!って頑なに言っていたわね。
ランドセルを買った時のあの笑顔。
あの笑顔が太陽のように眩しかった。
大好きな笑顔。
私の唯一。
…ああ、これが走馬灯なのね。
|後光《エンジェルヘイロー》差すバルコニーから、|私《mother》はやわらかく微笑む|あなた《daughter》に手を伸ばす。
今まで触れなかったあなたに確かに触れた。
感じたの。翼の温かみを。
窓を開けてバルコニーから飛び出す私。
あなたに掴まればもう怖くないの!
とろけた視界であなたとしっかりと見つめ合う。その透き通った綺麗な瞳はどんなことも忘れさせてくれて、見ているだけでとっても幸せなの!
もう全て奪われてしまってもいい。あなたなら。私の心も、体も、魂さえも。
あなたがいないと私はもうダメだから。
「いっそのこと、お母さんも一緒に天国を見に行こうかしら?」
そう言って私は笑った。あなたも私が世界一好きな笑顔で笑ってくれた。
そうよね、クスリなんてものに頼らなくたって。
夢を見るだけなんて馬鹿なことしなくたって。
ここから一緒に天国に向かえば、もう一緒よね…!
あなたはグズグズしてた私を迎えに来てくれた。そうでしょ…?
|今際の際《IMAWANOKIWA》より、ありったけの愛を込めて。
今、あなたと一緒に、私も飛び立っていく。
間違いなくあなたは私の天使だった。
でももう違うわ。
もうあなたは神に連れ去られてしまう天使じゃない。
もうずっとあなたのそばにいる。絶対絶対私と一緒よ。離すわけない。
私の。
お母さんの、大事な大事な娘だもの。
疲れたけど楽しく書けました。原曲様本当にありがとうございます。