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意味が分かると怖い話:夜道
誤字、脱字がある可能性あり。
「何でもOK」という方だけ。
深夜二時。静寂に包まれた住宅街に、乾いた足音が響いていた。
その音は一定のリズムを刻みながら、アスファルトの坂道をゆっくりと上ってくる。窓の隙間から外を覗くと、薄手のコートを着た一人の男が、ヘッドホンをつけながらスマートフォンを片手に歩いていた。
「あ、もしもし……」
男――高橋(たかはし)の耳に、スマートフォンの通話越しに小さな声が届いた。電話の相手は、遠く離れた実家に住む母親だった。
母は、今夜高橋が実家に帰省する予定であること、そして「夜道を一人で歩くのは危ないから、せめて電話をつないでおきなさい」と心配してくれたのだ。
「うん、今ね、駅から続く一本道を歩いてるところ。街灯が少し暗くて不気味だけど、もうすぐ住宅街の角を曲がったら実家まで一直線だから大丈夫だよ」
『そうかい……。夜道は本当に気を付けなさいよ。変な事件も多いんだから』
「はは、分かってるって。もうすぐ着くから、切っていいよ」
『ううん、もう少しだけこのままでいさせて。声が聞けると安心だから』
母親の少し甘えるような、しかし我が子を案じる温かい声を聞きながら、高橋はふっと笑った。
駅からの帰り道はいつも長い。幼い頃はこの坂道がやけに遠く感じられたものだ。周囲の家々はすでにほとんどが消灯しており、視界に入るのは自分の足元と、前方へ伸びる頼りない自分の影だけだった。
「ねえ、母さん。明日は何を作ってくれるの?」
『お前が好きなハンバーグよ。それと、カボチャの煮付けもね』
「やった、楽しみだな。……おや?」
その時、前方の電柱の陰から、黒いフードを目深に被った人物がひょっこりと姿を現した。
男は高橋の方をじっと見つめている。距離はおよそ二十メートルほど。街灯の光がその人物の顔を隠しており、表情は全く読み取れない。ただ、微動だにせず、真っ直ぐこちらを見据えていることだけは分かった。
(……なんだあいつ? 夜中に気味が悪いな)
高橋は少し警戒しながら、スマートフォンのマイク部分を手で覆い、ひそひそ声で母親に言った。
「母さん、ちょっと前方に変な奴がいるんだよ。もしかしたら変質者かもしれないから、警察に通報する準備しといてよ、冗談抜きで」
『えっ……! ほんとに!? 大丈夫なの、高橋! すぐに逃げなさい!』
「大丈夫だよ、まだ遠いから。こっちは男だし、いざとなったら走って逃げるさ。それじゃ、ちょっと声をかけられたら怖いから、電話はスピーカーにしてポケットに入れておくね」
高橋はスマホをコートのポケットに押し込み、通話をつないだまま前を向いた。
近づくにつれて、フードの男の輪郭がはっきりと見えてくる。男は両手をポケットに入れたまま、一歩も引こうとしない。すれ違いざまに何かされるかもしれないという緊張感が、高橋の背筋を冷たく撫でた。
(頼むから、何事もなく通り過ぎてくれ……)
十メートル。
五メートル。
三メートル。
すれ違う瞬間、高橋は息を止め、身体をわずかに相手から遠ざけるようにして早足で通り過ぎた。
男は最後まで声を発せず、ただじっと高橋の後ろ姿を見送るような気配を感じた。――ふう、と高橋は小さく息を吐き、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「ふう、なんともなかったよ、母さん。ただの変な人だったみたい。もうすぐ角を曲がるから……」
しかし、返事はない。
通話画面を見ると、電波のマークはしっかりと立っているが、相手からの音声は全く聞こえない。
「母さん? 聞こえてる?」
『……』
かすかに、スピーカーの向こうから「ザー……」という風の音のようなノイズと、遠くで犬が遠吠えするような音が聞こえるだけだった。
「もしもし? 母さん、どうしたの? 電波悪い?」
高橋が首を傾げたその時、背後から、かつて聞いたことのない奇妙な音が聞こえてきた。
ジャリッ……、ジャリッ……。
砂利を踏みしめる、重い足音。
それは、さっきすれ違ったはずのフードの男が、驚異的な速さでUターンし、猛烈な勢いで追いかけてくる音だった。
「うわっ!」
高橋は恐怖に駆られ、振り返ることもできずに全力で走り出した。
心臓が激しく脈打ち、足がもつれそうになる。角を曲がればすぐ実家だ。そこまで逃げ切れば、両親がいる。
「母さん! 開けてくれ! 早く!」
叫びながら角を曲がり、実家の玄関の扉に飛びついた。
ガタガタと鍵を開けようとした瞬間、背後から追いついてきた男の手が、高橋の肩をガシッと掴んだ。
「ひっ……!」
恐怖で声が出なくなった高橋の耳元に、掴みかかった男が冷たく低い声で囁いた。
「……お前の後ろ、誰だ?」
息を呑む高橋の頭上で、ポケットの中のスマートフォンから、恐ろしく不気味な母親の声がスピーカーを通して静かに響いた。
`『……ねえ、高橋。私を置いて、どこに行くの……?』`
**解説**
この話の恐怖の正体は、「実家にいるはずの母親が、実はすでに死んでいる(あるいは行方不明であり、電話の相手が母親ではない、あるいは霊である)こと」ではない。
最大の恐怖は、会話の序盤にある。
母親は「今夜、高橋が実家に帰省する予定であること」を知っており、夜道を心配して電話をつないでいた。
しかし、物語の終盤、追ってきた男に「お前の後ろ、誰だ?」と言われた直後、ポケットの中のスマホ(=実家にいるはずの母親からの電話)から聞こえた言葉はこうだった。
『……ねえ、高橋。私を置いて、どこに行くの……?』
実家にいるはずの母親が、なぜ「私を置いて(=同じ空間にいながら、あるいは高橋が一人でどこかへ行ってしまうかのように)」と言っているのか?
そして、電話の向こうから聞こえていた「風の音」や「犬の遠吠え」は、実家の室内から聞こえる音ではなく、高橋が歩いているまさにその夜道の音だった。
つまり、高橋が駅からの帰り道だと信じて歩いていたその場所には、最初から実家などなく、高橋は実家に帰るどころか、何者かに連れ去られてすでに命を落としていた(あるいは異界に迷い込んでいた)。
先ほどまで電話で話していた「母親」の正体は実家の母ではなく、ずっと高橋の背後をピッタリと歩き、彼の耳元で囁き続けていた「何か(霊、あるいは異形の存在)」だったのだ。
すれ違ったフードの男が「お前の後ろ、誰だ?」と聞いたのは、高橋の背中にピッタリと張り付いて、スマホを通じて話しかけていた「それ」の異様な姿(あるいは高橋に憑りついているもの)が見えたからにほかならない。
いやー、KOWAIKOWAI。
めちゃくちゃ怖い。
怖すぎる。
もう眠れんわ。