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【曲パロ】命に嫌われている。
リクエストありがとうございました!ちょっと遅くなって申し訳ないです。
文がこんがらがっていますが、どうぞ……。
本家様。
https://m.youtube.com/watch?v=0HYm60Mjm0k
起きた。
いつも通り起きた。
昨日と変わらない天井、昨日と変わらないベッド、昨日と変わらないアラームの電子音。
そして昨日と変わらない僕。
いつも通りの、怠惰で満たされた僕だった。
だからいつも通りに、顔を洗って適当なパンを頬張って適当に歯磨きする。テレビをつける。
「本日の音楽はこちら!最近巷で話題になっている、新進気鋭シンガーソングライターのアノ曲です!」
綺麗なアナウンサーが、綺麗なことを訴える曲を紹介していた。
誰も死なないでほしい。みんなに生きていてほしい。そんな気持ちを込めた曲。
だから、死にたいなんて言うなよ。諦めないで生きろよ。このワンフレーズだけは覚えていた。
正直、腹が立った。朝、起きたばかりだから全てのことに苛立ちやすくなっていたのもあるし、もともとこんな曲が嫌いだったからだ。こんな曲が正しいなんて馬鹿げている。
だって僕は、ぶっちゃけ僕の生き死にとかどうでもいいから。
実際、僕は死んでもいいと思っている。「生きる」と「死ぬ」がほぼ同じ順位で、死ぬための努力が面倒くさいのでわずかに「生きる」が勝っているだけだ。日々、51対49で決着がついている。
他の人間はたぶん違うのだろう。
周りが死んだら自分が悲しくなる。
だから、他人に「死なないで」って声かけて助けた気になって、自責の念にとらわれないようにしている。ただのエゴ。
自分が悲しまないために他人をなんとかしている。自分のメンタルさえよければ。他人が生きてもどうでもいい。それがデフォルトである人がその実多数派かもしれない。
誰かの悪口だって、人を死に至らしめるいじめだって、その実ファッションかもしれない。自分を飾り立てて、「あなたと同じ」って主張していく。自分さえ安全ならいいのだから。
……僕は特にいじめられてもないし、無視されているわけでもないし。地球のどこかには僕より不幸な子なんてごまんといるのだろう。
それでも考えてしまう。永遠に満たされない。考えるだけ無駄な問い。
果たして、こんな僕の世界は「平和」と言えるのだろうか。僕は「平和に生きている」って言えるのだろうか。
もし言えるのだったら……なんて、素敵なことなんでしょう。
漫画喫茶へ行くために、僕はいつも電車を使っている。
今日も乗客は互いの顔なんて見ずに、手元の光る板を見つめている。僕もそうする。
毎朝のニュースの時間だった。適当に1番上のニュースをクリックする。
映し出されたのは、いじめられた少年が起こした殺人事件のニュースだった。
今日も、画面の向こうで誰かが死ぬ。
そういう人がいる限り、きっと朝聞いた曲のようなものが生まれるのだろう。それを嘆いて誰かが歌う。誰かに届かせるために。ひいては自分のメンタルヘルスのために。
さらにそれから、さっきの少年のような奴が生まれるんだ。ナイフを持って走って、相手の命をほいと絶っていく。
そこまで考えたところで、現代人にしては珍しくスマートフォンを閉じる。窓の外、流れゆく景色を眺める。
集団で登校する小学生。カバンを抱えて走る社会人。友人とはしゃぐ女子高生。あの人たちも、朝聞いたような曲を好んでいるのだろうか。
だとしたら。
僕らはきっと、命に嫌われている。
価値観もエゴも全部ひっくるめて曲に詰め込んで、歌われた人たちをいつも殺し続ける。命の終わりを美化して、自分のために殺したがっている。
そして、それを軽々しく電波に乗せる。聴いて、軽々しく死にたくなる。軽々しく殺したくなる。
軽い。薄っぺらい。そんな、冷めた目で見てる僕がいる。
そういうことしてるから嫌われるんだ。
今日も起きた。
いつも通りの部屋だった。
することもないので漫画喫茶に行こう。そう思ったのだが、財布は悲しいくらいに軽かった。
仕方がないので惰眠を謳歌することにした。
街に行って、金を稼いでこなきゃいけない。いや、普通に就職しないといけないか。
そうは考えつつも、ふかふかなマットレスの上から動けない僕は末期なのだろう。目を閉じて、柔らかな温もりに浸る。
無駄だ。
何も生産することもなく、資源を無駄に使って、地球温暖化を促進してただ息をする。1人きりで。「生きる意味」ってものがないんだと思う。
こんな奴でも一丁前に寂しさは感じるのだから、面倒臭い。
いや、「寂しい」という言葉で僕のこの傷が表せてたまるものか。寂しい以上の何かが、ずっと僕の中に巣食っている。
ここから出たくない。
この気持ちは誰にも理解されないし、理解されたくないんだろう。
だから、今日もベッドで意識を飛ばす。
……やっぱり、こういうこと考えるのも無駄なのだ。
今日もこうして、酸素と時間だけを浪費する。
部屋は暗くなっていた。夜が訪れていた。
朝からたくさん寝たので目がこれ以上眠りたくないと訴えている。距離にして一桁歩のキッチンに行くのが、普段より楽だった。
カップラーメンを作ることにした。お湯を注いだらそれで終わりだから、省エネできて楽である。
気づいたら一日が終わろうとしていた。気づいたらカップラーメンが完成していた。それと同じように、僕も気づいたら立派な青年になっていた。
そしていつか、朽ち果てる。
このまま何の成長もなく、誰にも知られず老いていく。道路脇の枯葉みたいに、そよ風で吹っ飛ばされてそのまま終わり。
でも、現実味もなくて。
面倒くさいことをズルズル後回しにする僕の性分もあってか、不死身の体なんじゃないかとか思ったりもする。
一生死なずに、このままぬるま湯に浸かるように生きていくんじゃないかって思ったりもする。
ただのSFじみた、僕の妄想。
そんなことを考えながら、ラーメンの不健康で中毒性になりそうな味を体に染み込ませる。ふとしたことから生を味わう。
味わったとて、僕の生と死のティア表は変わらない。でも、ある人にはそれが適用されない。矛盾していた。永遠の謎だった。
大切な人はいる。そばにいてほしいって思う人はいる。世話焼きで、生真面目で、頑固。
この気持ちは、エゴじゃないって信じたかった。自分のメンタルヘルスのためじゃないはずなんだ。
その人のためなら、生きていたいのかもしれない。ほんの少しだけはそう思えるから。だから、僕は終わらせる選択肢に辛勝できている。
このまま、この気持ちがふわふわしたままぼうっと生きていたらあの人に怒られてしまう。
「正しいものは正しくいなさい。」
そうキッパリと言う声が脳内で再現された。
「死にたくないなら生きていなさい。」
ラーメンを啜るのをやめた。
彼女の口調を真似して、僕も僕に言いたいことを言ってみる。
なぜか悲しくなった。そう言われるのは、言うのは嫌だった。それを口にした途端に、一気に死ぬという選択肢が追いかけてくる。
ふいに、気づいた。
軽々しく死にたくなって、軽々しく自分を殺したくなったことに、気づいたら。
嫌っていたものたちと、僕も同類だった。
「そうだったのか。」
じゃあお前は、ずっと1人でヘラヘラ笑ってろよ。
あいつらだけじゃなくて、僕も。
僕らは、命に嫌われている。
幸せを感じるのが下手くそで、過去と環境を憎むようにできている。
あの時、ああしていたらとか。自分はこういう親の元に生まれたから、こういう学校にいたから人生がおかしくなった。そう考えることだって少なくないんだろう。
だから、さよならが大好き。薄っぺらい歌の中の「死」っていう単語が大好き。無理にその単語を近づけている。
悲観して、諦めて、他責になって、簡単にさよならしようとする。
本当の別れとか、経験したこともないのに。
「……ラーメン、どうするか。」
食欲がどこかに飛んで行った。
箸を洗うのもラーメンを生ゴミとして処理するのもする気が起きなくて、硬くて冷たい床に寝転がった。
はたからみたらすごく滑稽な様子なんだろう。
やっぱり、怒られるかな?こんなことを考えたら。
あの人は、怒るかな?
背中と床に挟まれたスマートフォンが、早く取り出せとばかりに震える。
こんな僕に連絡する物好きなんて、どうせあの人だけなんだ。
そういえば、なんであの人と出会ったんだっけ。
思い返す。遠いあの日のこと。
幸福も別れも愛情も友情も、全部結局はカネで買えるって思ってた僕に、どこか周りとは違って異常に冷めていたであろう僕に近づいてきたあの人。
打算なんてなかった。ただあの人は近くにいた。
楽なんだって、あの人は言ってた。
『明日死んじゃうかもしれないんだよ。』
何かと理由をつけてあの人は毎日のように何かに誘った。
そのころから順序付けがうまくいかなかったから、とりあえずついて行っていた。
ある日の経験が、僕の何かを変えることになるとも知らずに。
『すべて無駄になるかもしれないんだよ。』
人並み以上に輝いていた、気がする。
夢って言えるようなものも見つけられたから。
『朝も夜も春も秋も必ずどこかで人は死ぬんだよ。』
だから、やりたいことをやる。
そう言って飛び立った。とにかく眩しかった。
君がいないと、何もできない気がしたから。本当はいなくならないでほしかった。
バイトを必死にして、お金をこつこつ貯めて、大枚はたいて機材を買ったのはなぜ?
『まだ死んでいないから。命ってやつに嫌われてはいないはずだから。』
記憶の中のあなたは、この世界の人間の中で唯一命に嫌われていないようで。
命に嫌われないように頑張っていた君が生きていられれば良かったんだ。
それが僕のエゴだった。
「まだ僕は死んでいないから。命ってやつには、嫌われているけど。」
そうだ。
本当は、あの人のような生き様を応援できる歌を歌うのが夢だったんだ。
すっと頭の中にその言葉が浮かんだ瞬間、冬が終わって草花が目覚めるように、何かの芽が萌える。知らず知らずのうちにかけていたコールドスリープが解かれる。ランク付けが変わっていく。
衝動のままに動く。
……狭くカビ臭いクローゼットの中。確かに「それ」は入っていた。
しばらく弾いていないけれど、歌っていないけれど、上手くできるだろうか。
上手くできなくても、「いい歌だった」「いい引きっぷりだった」と言えればそれでいい。この体の中から湧き上がってくる熱を使いたいだけだから。
生きるために。
僕は、僕らは命に嫌われている。
いつかは絶対に歌えなくなる。笑えなくなる。氷のように冷たくなる。枯れ葉のように朽ちる。
近くて遠い終わりというものは、あの人にも僕にも絶対にやってくる。
それを承知で僕らは生きていく。終わりが来ると分かっていても生きていく。
誰かを傷つけて、自分を殺して、必死こいて大切なものを抱えて笑って、ときたま落としそうになって抱えなおして、歌いたいことを歌っていく。そうやって、生きていく。
辛くても苦しくても、生きて生きて生きて生きれば。生きたいって思えば。
いつかきっと、命に好かれるようになれるだろう。
だから、生きろ。
壊れていた楽器は修理して、カップラーメンばっかりだった食生活も見直して、イチから音楽を勉強し直して……。
あの人から届いたメッセージに既読をつけていこう。こうしてまた助けてもらったお礼をしたい。
でも、きっと最初にやるべきことはこれだ。
紙に書き殴ったコードを整理した。
紙に書き殴った歌詞を整理した。
名前を記した。
ファイルに綴じる前に、タイトルをつけた。右端にはっきり、濃く書いた。
「命に嫌われている。」
これが一番、ふさわしいのだろう。