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魔王は頼りがいのある大人でいい人だったよ
魔王は少し悩んだ様子だったが、最終的には承諾した。こうしてタケヒトたちの旅が始まったのである。タケヒトは、あの日のことを鮮明に思い出していた。魔王の言動から察するに、どうやらタケヒトたちが何を企んでいるのか全く理解できていないようだ。魔王は、タケヒトたちに不信感を抱いているようである。
「」で、どうやって過去に戻るつもりなんだ?
「」
まあ見てなって。
タケヒトは右手をかざし、魔法を発動させた。すると、タケヒトの目の前に映像が現れた。そこには一人の少女が映し出されていた。その髪の色は黒で長い髪を後ろで束ねていた。服装は着物で、腰には刀を差していた。彼女は真剣な表情で前を見据えている。
「」まさか、これは貴様の記憶なのか?
「」そう、その通りだ。
タケヒトはさらに続けて、映像を早送りするように指を動かした。すると場面が次々と切り替わっていった。
やがてタケヒトは手を止めた。すると映像に映る風景に変化が見られた。そこは荒れ果てた大地だった。草木は一切生えておらず、岩が転がっていて地面はデコボコとしていた。遠くの方には巨大な山がそびえ立っていた。
魔王は息を呑んだ。その光景は、あまりにも凄惨なもので、魔王はかつて自分が行ったことを思い出したのだ。
タケヒトは映像をさらに進めた。すると、どこかの屋敷のような場所の映像に切り替わり、そこでタケヒトと魔王の戦いが繰り広げられた。
「」なるほど、そういうことか。
魔王はすべてを理解したようで、納得したように呟いた。
「」これで分かったか?
「」ああ、よくわかったよ。つまり、貴様は俺を殺すためにここに来たわけか。
タケヒトは首を振った。
違う。俺は未来を変えたいだけだ。そのために魔王の力が必要なんだ。
「」
ほう……。
そこでタケヒトの脳裏にある考えが浮かんだ。そして、それを口に出すことにした。
ところで、魔王は人間と仲良くしたいと思っているのか?
「」ふん、馬鹿にするな。そんなことできるはずがない。
タケヒトは思った。やはりな、と。そこでタケヒトは、自分の計画を話すことにした。それは実に単純なものだったが、実行するのは容易ではなかった。
まず、魔王に協力してもらう必要があった。そのために必要なことは、魔王を改心させることだ。そうすれば自然と人間と共存しようとする意識が生まれると思ったからだ。
「」
魔王は、しばらくの間黙ったままだった。そして静かに口を開いた。
もし仮に、私が協力しなかったらどうするつもりだ?
「」そのときは、力づくでも連れていくさ。
魔王はしばらく考えたあと、フッと笑みを浮かべた。
「」面白いじゃないか。やってみるがいいさ。タケヒトは、ありがとうと言って礼を言った。
こうしてタケヒトと魔王の協力関係が成立したのだった。
その後、タケヒトは魔王を連れて過去の世界へと戻った。魔王は終始不機嫌そうな顔をしていたが、タケヒトは気にせず話を進めた。
タケヒトはまず、魔王に人間のことを好きになるように仕向けることにした。そこでタケヒトは、ある人物に会いに行くことに決めていた。その人物は、タケヒトが未来から来たときに最初に出会った人物である。彼は、とある村で村長をしている。その村に行けば、魔王が興味を示すような何かがあるに違いないと考えたのだ。その道中でタケヒトは、魔王の過去について訊ねてみた。魔王は、その質問に対してあまり語りたくなさそうな態度を見せたが、渋々答えてくれた。その話は、タケヒトにとって衝撃的なものだった。
魔王は元々は普通の青年で、名前はサトルといった。彼の両親は、ある日突然魔物によって殺された。魔王は両親を殺した魔物たちを憎んだが、同時に自分も魔物になってしまうのではないかと恐れていた。だがそんなある日、魔王はある不思議な体験をしたのだという。
魔王は夢を見たという。その夢の中に出てくる場所は森で、自分は森の中にいたらしい。そしてそこに現れた奇妙な生物と一緒に行動することになったそうだ。
魔王はその生物の言葉を理解できたらしい。
魔王は、その生物からいろいろなことを教えてもらったそうだ。しかしある時を境にして、その生物は姿を消してしまったらしい。
それから魔王は自分の能力に気付いたそうだ。どうやら魔王の能力というのは、相手の心を読むことができるというものらしい。だが魔王は、この能力をずっと隠し続けてきたそうだ。
魔王は、自分が魔物になってしまったのではないかと思い込んでいたようだ。そのため、他人と深く関わることを恐れていたという。そんなときに出会ったのが、その謎の生物だったという。魔王は、その生き物に親近感を抱いたそうだ。それから魔王は、その生物を探し続けていたらしい。
魔王は、その生物のことを思い出すたびに胸を締め付けられるような痛みを感じていた。それほどまでに魔王にとっては大切な存在だったようだ。
魔王の話を聞いているうちに、タケヒトは何とも言えない気持ちになっていた。もしかすると、この男は本当に悪い奴ではないのかもしれないと感じたからである。
やがて二人は目的の村に到着した。魔王は初めて見る景色に興味津々の様子だった。タケヒトが魔王に話しかけると、魔王は素っ気ない態度で返事をしたが、どことなく嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。
タケヒトは、その村の村長の家を訪ねた。タケヒトが用件を伝えると、しばらくして家の中から一人の老人が出てきた。その顔を見て、タケヒトは驚いた。なぜなら、タケヒトが想像していた人物像とはかけ離れた姿をしていたためだ。タケヒトは一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直した。そして、挨拶をして名を名乗った。
すると、その老人は目を大きく見開いた。
もしかして、君はタケヒト君かい?! タケヒトは驚いて声が出なかった。
まさか、お爺ちゃんのことを覚えているの?! その言葉を聞いた瞬間、タケヒトの頭の中で何かが弾けた。そして、次々と記憶が蘇ってきた。
そうだ、俺はこの人を知っている。俺は、この人に命を助けられたんだ。
その日、俺は一人で散歩をしていた。俺はいつものように森へ行って遊んでいた。俺は木登りが得意だったので、木の上に登って辺りを見渡していた。すると、遠くの方で何かが動いているのが見えた。俺は不思議に思って目を凝らした。すると、それが動物だということが分かった。俺はわくわくしながら、さらに観察を続けた。すると、それは大きな熊だということが分かって、俺は恐怖を感じた。
どうしよう、逃げなきゃ……! 俺は怖くなって、その場から逃げ出した。それから俺は必死になって走った。すると運良く、崖の下に落ちることができた。助かったと思いながら下を見ると、そこは谷底になっていてとても深かった。しかし、安心することはできなかった。俺は必死に上を目指したが、途中で体力の限界を迎えてしまい、そのまま意識を失ってしまった。
次に目が覚めたときには、俺はベッドの上で横たわっていた。周りを見渡すと、そこには知らない大人たちがいて俺のことを見ていた。彼らは俺が起きたことに気づくと、大喜びした。どうやら俺のことを心配してくれていたみたいだ。
そのうちの一人が俺に近づいてきて、大丈夫かと声を掛けてきた。俺がうんと答えるとその人は良かったと言って笑顔を浮かべた。その人の顔はとても優しかった。
しばらくすると、俺のお腹が鳴ったのでみんなで食事を取ることになった。その人が言うには、俺の両親は俺を庇って死んでしまい、俺だけが生き残ったのだと聞かされた。
その夜、俺の心は悲しみに包まれた。両親がいなくなってしまったという事実を受け入れることができなかったのだ。
次の日になると、俺は外に出て両親の墓を作ることに決めていた。俺の両親はどんな人たちだったのか知りたかったのだ。
穴を掘っていると、背後から誰かの視線を感じ取った。振り返ってみると、そこには昨日のあの男の人がいた。どうやら俺の後を追ってきたようだ。
こんにちは、おじさん。
俺が挨拶をすると、彼は俺を睨みつけてきた。
俺はおじさんのことが怖いと感じていた。そのせいで体が震えていた。だけど、勇気を振り絞って話しかけることにした。
ねえ、お父さんとお母さんはどんな人だったの? その質問を聞くと、彼は険しい表情になった。そして何も言わずに去って行った。
その日の夜、またあの男の人と会った。その人も両親のことを知りたいらしく、墓を作るのを手伝ってくれると言った。
二人で協力して作業を進めていると、彼が俺にこう言ってきた。
お前はどうしてそんなに泣き虫なんだ?その質問に対して、俺はうまく答えられなかった。ただ、悲しくなって泣いてしまうということを伝えた。
すると彼は優しく微笑んでくれた。そして俺の手を握ると、こう言った。
いつかきっと強くなれよ。
彼の手は温かく感じた。その手がまるで父親のようだと思い、俺は彼に抱きついた。すると、彼も抱きしめ返してくれた。
やがて墓が完成し、俺たちは両親の名前を書いた。
タケヒトは思い出したのだ。自分の本当の父親を。
タケヒトは涙を流した。その涙は止まらなかった。
俺の父親は、俺が生まれる前に病気で死んだんだ。だから俺は、一度も父さんの顔を見たことがなかったんだ。
俺には兄貴が一人いたんだが、そいつは親父が死ぬと同時にどこかに行っちまったよ。それ以来、俺はずっと独りぼっちだったんだ。
その話を聞いたタケヒトは、魔王に謝罪した。
ごめんなさい……。
魔王は何も喋らずに黙り込んだままだったが、やがて口を開いた。
もういいさ。それに今更謝られても遅いんだからな。それよりも早くここから出してくれ。