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#6 若葉は本心を隠す
--- ー花漣視点ー ---
唯は何か考えているみたいだ。お団子を買うときも上の空で、時々悔しそうな苦しそうな顔をする。秋音の話をした時からずっとそうだ。
「ねえ、唯。唯ってば!ちょ、聞いてる?」
「あ、うん。聞いてるよ。」
聞いてると言う割には唯はボーッとしている。花漣は唯のことを放っておいて、近くのベンチに座る。花見客は唯と花漣の他誰もいなかった。桜は立派で、少し葉も出てきて緑色と桜色のコンビが綺麗だった。ふと、強風が吹いて、桜の花びらが宙を舞った。いずれ花は散り落ち、葉になる。そして、また来年に美しい花を咲かすのだ。
「人間の歴史もこんな感じかな………。」
争い、なにかを失い、ようやく気付き、しかしまた争う。お世辞にも桜のように美しくはない。しかし、桜はそのままでも、人間は違う。争いから学び、成長するのだ。
「でも、人間じゃない私がそれを言うのも変だよね………。」
花漣は目を伏せた。桜が見えなくなり、急に暗闇にいるような気持ちになる。しばらく視線を彷徨わせ、脇にあるお団子の入ったプラスチックの容器に目が止まった。花漣は容器の蓋を取ると、中からみたらし団子を一つ取り出した。うん、美味しそうだ。
「いただきます!」
その時、目の前の桜の木が倒れた。花びらに紛れて、赤いものが飛び散る。あれは、血かな?誰の血だろう?そう考えた時、急にお腹の辺りが熱くなり、地面に倒れた。地面に広がる血、痛くて熱いお腹。そうか、お腹を刺されたのか。暴力なら、慣れているはずなのに。
「痛い…………。」
花漣はお腹をギュッと押さえる。動いたらダメって分かった。一体、何に刺されたんだろう。どんどん血が抜けてって、傷口は痛くて熱くて、体は寒い。地面に落ちた団子を見て涙が出た。
「どうして、こうなったんだろう………。」
自分はただ、幸せで平和な生活がしたいだけなのに。なんで、なんで壊されるの。自分のなにが悪かったの。教えてよ、神様。神様が神様に頼むなんて変だと今はツッコんでられる状況ではなかった。そう言えば、唯はどこ。目だけ動かして唯を探す。すると、唯は花漣の目の前にいた。手には何かを掴んでいるようだ。唯の足はじりじりと下がっていて、額には汗が滲んでいた。唯よりも押している何かの方が力が強かったようで、唯ははね飛ばされ、花漣の視界から消えた。やがて、ドコッと鈍い音が響いた。誰もいないけど、花漣はこう願わずにはいられなかった。
__誰か、助けて。
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--- ー唯視点ー ---
秋音のことを考えていても仕方がない。今は花漣とお花見をしよう。そう結論に至ったのが遅すぎた。一瞬の出来事だった。花漣の目の前の木がなぎ倒されて、黒い塊が花漣のお腹を刺した。なんだあれはと考えている暇はなかった。花漣に二回目の攻撃を仕掛けようとしている黒い塊を掴む。掴んだ時に分かった。これは、髪の毛の束だ。何千何万もの髪の毛だ。神様になりかけの中途半端な奴は、瞬間的な力が強い。唯は髪の毛の束に吹っ飛ばされて近くの桜の木に激突する。頭上で桜の花びらがヒラヒラと舞う。
「かはっ………!」
目の前で星がチカチカと回っている。頭を強く打った。勝てない__そう思った。刀もない、秋音の力も借りれない。ゲームオーバーだ。神様になりかけの髪の毛の束が唯の体を掴む。キリキリと体を締め付けていく。
「ぐっ………!」
必死でその髪を解こうとするが、どんどん締め上げられて抵抗する力も弱くなる。もう、終わりでいいのかもしれない。唯は目を閉じて、体の力を抜いた。その時、唯の頬を何かが掠めた。奥の髪の毛に刺さったそれはハサミだった。飛んできた方向を見ると、花漣が立っていた。少しふらついて、呼吸も荒い。
「諦、めるな!」
その目は片方だけ青色に染まっており、闘志に燃えていた。そう、髪は切れるものだ。唯はハサミを使って周りの髪を切り始めた。髪の毛の束がうなり声に似た悲鳴をあげる。後少し、後少し、切れた。と思った時に再び髪が絡みつく。もう握力の限界だ。ハサミを握る力も弱い。いや、この髪さっきよりも薄い。なら、いけるかもしれない。唯は最後の力を振り絞って髪の毛を切った。脱出できた達成感と開放感。それは、すぐに痛みと苦しみに変わった。グサッ、と鈍い音が肩あたりから響いた。再び捕らえられた唯は手をダラリと下げた。髪の毛の束の中心が裂け、ギザギザとした歯が覗く。歯の先は、闇。死ぬ、死んでしまうのか。せっかく、抵抗しようと思えたのに。もう、誰にもあんな思いをさせたくないのに。その時、一つの弾丸が髪の毛の束を貫いた。髪の毛の束は断末魔を上げると、霧状に散った。唯は地面に落下する。この狙撃は…………。唯はニヤリと笑った。
「カラスか………。」
---
--- ー???視点ー ---
ユイと黒い塊の戦いを黒髪の青年が塔の上から見ていた。そろそろ助けるべきだろうか。ユイは邪魔すると偶に怒るんだよな。ユイというか彼が。ユイが刺されたのを見て、そろそろ助けないと、と思いスコープを覗く。
「ねえ、|翡翠《ヒスイ》!」
「何だよ、|雫《シズク》。」
「あたいの出番は?」
「あー、今はないな。」
翡翠は雫の話相手をしながらユイを襲う黒い塊の脳天を狙う。ああいうのは勘が鋭いから気配を隠さないと。そう思うと翡翠は一瞬だけ心臓も息も止めた。そして、引き金を引く。スコープの先で標的が霧状に散って、翡翠は雫を呼んだ。
「やっと、あたいの出番ね!」
「雫は力だけなのに口は達者だな!」
「なにをー!」
「ハイハイ、また貸してくれるか?」
仕方ないと言った感じで雫は力を翡翠の背中らへんに集めた。そこから真っ黒な羽根が二対生えた。翡翠は塔の天辺から飛び降りる。地上は遥か遠く。普通なら死ぬだろうな。翡翠は翼を動かして、宙を舞う。
「毎回なんで翡翠は飛び降りるのよ!!」
「スリルあって楽しいだろ?」
雫は悲鳴っぽい声を上げる。実体がないのになぜ怖がってるのかよく分からない。翡翠は呆れながらユイの元へ向かった。大方、一緒にいた少女もユイも気絶しているだろう。
「全く、無茶するよな~毎回毎回。」
「翡翠は狙撃手だから安全だものね?」
「え、なんでそんなトゲのある言い方なの…………。」
「翡翠、これで傷ついたらメンタル豆腐以下だよ?」
雫の可愛げのない返答が逆に可愛らしい。一人称あたいなの見栄っ張りで可愛いよね。翡翠は目を伏せる。本当は彼女の体も留められたら良かったのだけど。今の彼女は翡翠に取り憑く霊的存在だ。
「ヒ・ス・イ!木ィ!」
「え?」
雫の忠告と、翡翠が木にぶつかったのは同時だった。黒い翼も消滅して、翡翠は地に落ちる。受け身も取れずに派手に着地した挙げ句、坂道を滑り始めた。
「えっ、ちょっ!人が滑れるってこの坂道急すぎでしょ!!」
「翡翠、川ぁ!」
「のぉぅ!」
川に盛大にダイブした翡翠。何とか水面に顔を出すと岸部に向かって泳ぎ始めた。岸部につくと、ぐでっとする。
「大変、だった。」
翡翠は立ち上がると、桜並木の場所に向かい始める。途中ですれ違った少年の声が翡翠の耳に入った。
「変な人。」
変な人__という言葉に変な子という母の声が重なった。そう言えば、彼は無事だろうか。もう顔も名前も思い出せないが。彼は生きているのだろうか。無事にあの家から逃げてこれたかな。
「翡翠、また昔のこと?」
「え、あ、うん。何でもない。」
雫に心配された頃には翡翠はユイ達の元にたどり着いていた。本部まで運ぼうと思った時に気づいた。一人で二人を持つのは無理だ、と。仕方がない、ユイだけでも目覚めさせよう。いや、歩けるわけないか。じゃあ、人目につかない所で回復させようか。ああ、でもそれも運ばないとか。
「ベンチに座らしとけば?」
「確かに。」
あの近いベンチなら運べるか。翡翠は少女とユイをベンチに座らせるとびしょびしょの上着を脱いで、雑巾を絞るみたいに絞った。そう言えば、ユイを拾ったのは自分だったっけな。あの時「強くなりたい」と願ってきた子供が今じゃこんな少年になるなんて。翡翠はユイの肩の傷を見て呟いた。
「俺が勧めた道は正しかったのかな。」
花は散り始め、若葉が出る。それと同じで、翡翠の心に芽生えた若葉が翡翠の本心を隠し始めていた。
おまけ
作者「ひ、翡翠君がギャグキャラになってる!!」
翡翠「え、なに、その驚き方。」
雫「翡翠は豆腐メンタルお間抜けだよ!」
作者「最初はシリアスキャラにさせるつもりが作者と同じ馬鹿に………!!」
花漣「今度は私が死にかけた………。」
翡翠「おまけページ初登場で第一声がえ、なのはマズかったかな?」
作者「ハイハイ、メタ発言しないしない!」
全員「お前がな。」
作者「いや~毎回メタいメタい。そろそろ考察要素も揃ってきたし、考察待ってます!!最近は抽象的に言うのに疲れたので、あとがきではふざけるぜ☆」