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【第一章】2.窓越しの密談
コンコン、と向こうの窓をノックしてしばらくすると、カーテンがシャッと開いた。
青に影が加わったようなマッシュ風の髪と、小さい頃からずっと一緒の私ですら目の色をあまり見たことがないという究極の糸目。それと、女子ウケが激しい整った顔面。
私の幼馴染であり同級生の、|中村 翔太《なかむら しょうた》だ。
翔太は私の顔を見ると少し驚いたように(あまり表情は変わっていないが)窓を開けた。
「どうした?顔死んでるけど…」
「親に塾に入れってさっき詰められた」
「……なるほど」
妙に納得した雰囲気を言葉にまとわせながら、彼は寝巻き姿のまま身震いした。二つの窓の間を冬に近づいた空気が通り抜けていく。
「星羅の成績じゃしょうがないだろうな…」
「うっ……ほんと、塾とか無理なんだけど」
両親の圧を思い出したら頭痛がしてきて、塾の嫌さも相まってそりかえりながら頭を抱える。それを苦笑しながら眺めていた翔太は、ふと思いついたように質問を投げかけてきた。
「どこの塾通うの?」
「知らないよ。お母さんが勝手に決めると思う」
「え、じゃあ俺とおんなじとこ行く?|東陵《とうりょう》個別塾って言うんだけど…」
翔太が中二の春から塾に通い出したことはなんとなく知っていたが、塾の名前は初めて聞いた。しかも個別指導のところだったのか。
「え、どんなとこ?」
「んー、個人経営の塾で、塾長が教えてくれる。個別塾だけど10人くらい一気に教わるかな。なんかみんな仲良し!って感じだわー」
「ちょっと調べてみてもいい?正直、翔太がいるんなら塾行けるかも」
あまり知っている人がいるかどうかわからん塾に投げ込まれる可能性もある中、幼馴染と一緒に通えるということはでかい。一人で勉強とか絶対無理だし。どうせ行くなら知り合いがいるところがいい。
「え、何?俺に惚れてるカンジ??」
「んなわけないでしょー!このモテ男が、寝言は寝て言え!」
お前に惚れるわけないだろ!
反論しようと思い窓から身を乗り出すと、翔太の方からスマホの着信音が聞こえた。窓枠に置かれている彼のスマホを見ると、女の子の後ろ姿のアイコンと『Rico』という文字が目に入った。
「あ、リコからだ」
「うわ、彼女か…1ヶ月前くらいに言ってた一個下の?」
「いや、あの子とはもう別れた。別の子別の子」
……え?…別の子?
ちょっと待て、と言おうとしたところで、向こうの窓が閉まる。翔太はスマホを耳に当てたまま、カーテンも閉める。
こちらも窓を閉めて、カーテンを完全に閉める。『今日はもう閉店』の合図だ。
「せいやぁっ!!!!!!」
気合を入れてベットに倒れ込んでしばらくジタバタすると、口から今考えていたことが出ていった。
「女の乗り換え早すぎじゃない…?どう頑張っても|翔太《あれ》に惚れる要素ないと思うんだが…」
やっぱ顔かぁ。だからすぐ別れるのね。
そんなことを思いながら、意外とすぐに眠気はやってきて。私は暗いところにふっと落ちていった。
顔がいいクズ男、中村翔太降臨。
星羅とは幼馴染ですが、お互い親友っていう雰囲気なので恋愛感情は一切ございません。