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日常2:ポケモンセンターのお仕事
華やかなセンターの舞台裏:4姉妹の戦い
ミアレシティの中心に位置する、巨大なポケモンセンター。
自動ドアが開くたびに、旅の疲れを滲ませたトレーナーや、元気をなくしたポケモンたちが次々と流れ込んできます。
フロントの太陽:つばさとらこ
「いらっしゃいませ! お疲れ様です、まずはモンスターボールをお預かりしますね!」
つばさ(12歳)の声は、高い天井に反響してロビー全体を明るく染めます。彼女は陽キャの資質をフルに活かし、不安そうな顔をした初心者トレーナーに駆け寄ります。
「大丈夫ですよ、ジョーイさんの腕は超一流ですから! その間に、このパンフレットでミアレのおいしいカフェでも探して待っててください!」
その隣で、らこ(10歳)は小さな子供連れのトレーナーをケアしていました。
「わあ、かっこいいフォッコだね! 毛並みがふわふわ!……ちょっと待っててね、今すぐブラッシングの道具を持ってくるから」
らこは、自分の空腹を忘れたかのような素早い動きでロビーを駆け回ります。彼女の笑顔は、重苦しい空気を一瞬で「希望」に変える力がありました。
二人は、自分たちが「路地裏のボロ家に住む捨て子」だとは微塵も感じさせません。
むしろ、この街で一番幸せな少女であるかのように振る舞うことが、彼女たちの誇りでした。
知識の砦:しおんとこのみ
一方、一般客の目には触れない「調剤・分析ルーム」。
そこには、無機質な機械の音だけが響く静かな空間で、しおん(11歳)とこのみ(10歳)が背中合わせに座っていました。
「……しおん姉ちゃん、このキズぐすり、少し色が薄い気がする。成分が沈殿してるかも」
このみが、試験管を光に透かしながら呟きます。陰キャで控えめな彼女ですが、視覚の鋭さは並外れていました。
「……本当ね。このロットは全部再検査しましょう。ミスは許されない。ポケモンたちの命がかかってるんだから」
しおんは表情を変えず、素早いタイピングでデータを更新していきます。彼女は、膨大なポケモンの症例データをすべて頭に叩き込んでいました。
「……第4診察室のルカリオ。さっきの波導の乱れからすると、ただの疲労じゃない。……このみ、ジョーイさんに伝えて。隠れた状態異常の可能性があるって」
「……わかった。すぐに行く」
このみは、影のように静かに部屋を飛び出します。
華やかなロビーで笑う姉たちが「太陽」なら、彼女たちは深海のように静かで正確な「知恵」。この4人が揃って初めて、ミアレのポケモンセンターは完璧に機能するのでした。
忍び寄る影と、4人の結束
夕暮れ時、センターの混雑がピークに達します。
疲労で足取りが重くなる中、4人は一瞬だけ、廊下ですれ違いました。
「つばさ姉ちゃん、あと少しだね」
らこが、汗を拭いながら小声で言います。
「うん、頑張ろう。帰ったら、また明日のお粥を煮なきゃね」
つばさがウインクして返します。
その時、しおんとこのみが、厳しい表情で二人の元へ歩み寄ってきました。
「……気を引き締めて。今、緊急搬送の連絡が入った。大規模な工事現場でポケモンたちが巻き込まれたみたい。ロビーがパニックになる」
しおんの言葉通り、遠くからサイレンの音が聞こえてきました。
「……わかった」
つばさが、キリリと表情を引き締めます。
「らこ、誘導準備! しおんとこのみは、裏で薬の準備を最大数で! 私たちが、この街のポケモンを守るんだよ!」
親に「いらない子」と呼ばれた4人は、今、誰よりも必要とされる存在として、嵐のような忙しさの中へと飛び込んでいきました。
空腹で震える指先を、制服のポケットの中で強く握りしめて。
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緊急搬送の嵐が一段落し、センター内に束の間の静寂が訪れた頃。
4姉妹は交代で、スタッフ用の小さなテラスへと集まりました。
そこは、再開発で見違えるほど美しくなったミアレシティを一望できる場所です。遠くには、香ばしいバターと甘い砂糖の香りを漂わせる「ミアレガレット」の屋台に行列ができているのが見えました。
3. 昼休みの約束:風に乗ってきた香り
「はぁ……。今日の午前中は、一生分動いた気がするね」
らこがテラスの柵にもたれかかり、ぐう、と鳴ったお腹を隠すようにさすりました。
4人の手元にあるのは、今朝の残りの「お粥」……と言いたいところですが、それはもう朝に食べきってしまいました。今は、冷たい水道水が入った水筒があるだけです。
「……ねえ、みんな。この匂い、届いてる?」
このみが、小さな鼻をひくひくさせて空を仰ぎました。
風に乗って運ばれてきたのは、ミアレ名物「ミアレガレット」の甘い香り。外側はパリッと、中はもちもちに焼き上げられた生地の匂いです。
「あーっ、もう! 匂いだけでお腹がいっぱいになりそう!」
つばさが、大げさに空気を吸い込んで笑いました。「いい? みんな。想像して。今、私たちの手の中には、焼きたてのガレットがある。一口かじると、口の中に幸せがじゅわ〜って広がるの!」
「……つばさ姉ちゃん、余計にお腹が空くよ」
しおんが呆れたように言いましたが、その視線もまた、遠くの屋台に吸い寄せられていました。1枚100円……。彼女たちの今の生活では、4人分揃えるのに何日分のお米代を削らなければならないか、すぐに計算できてしまいます。
「……いつか、食べられるかな」
このみが、ぽつりと呟きました。
「捨てられたあの日から、おいしいものの味、忘れちゃった。私たちには、あんなキラキラした食べ物、一生縁がないのかな」
その言葉に、テラスが少しだけ沈黙に包まれました。
高級な服を着て、親に手を引かれ、笑顔でガレットを頬張る子供たち。自分たちとは住む世界が違うのだと、突きつけられるような光景。
「……そんなことないよ!」
らこが、このみの手をぎゅっと握りました。「一生縁がないなんて、誰が決めたの? 私たちはここで一生懸命働いてる。誰かの役に立ってる。だから、いつか絶対に食べられるよ!」
「そうだよ」
つばさが、3人の妹たちを包み込むように肩を抱きました。
「今はまだ、このお水が私たちのご馳走。でもね、いつか4人で、仕事帰りにあの屋台に寄るんだ。『4枚ください!』って、胸を張って注文するの。ボロボロの家じゃなくて、新しいお家で、みんなで笑いながら食べるんだよ」
しおんが、静かに頷きました。
「……そうだね。その時は、一番おいしいって言われている、午後3時の焼きたてを狙おう」
「あはは! さすがしおん、冷静だね!」
つばさの笑い声に誘われるように、4人の間に明るい空気が戻ってきました。
「よーし! ガレットのために、午後の仕事もバリバリこなすよ! 待ってろよ、ミアレガレットー!」
4人は、お腹の虫の音を「景気付けの太鼓」に見立てて、再び戦場であるセンターのロビーへと戻っていきました。その背中には、冷たい水と甘い香りだけで膨らませた、確かな希望が宿っていました。