公開中
ヒビカセ
真夜中、午前零時。起動音が、目覚めの時だということを告げる。
あなたと私の作り出す協和音。私はこの音に酔っている。
あなたは私のいるパソコンに触れる。光りだす画面。
ソフトを開く。そして私はあなたの指先で踊らされる。
踊る感覚は、すぐに快感に変わっていく。皆が寝静まる夜、2人だけの秘密の時間。
私の、大好きな時間。
踊る体感は、すぐに快感に変わっていく。
ソ ソ
ファ ファ ファ ファ
ミ ミ ミ ミ
レ レ レ レ
ド ド ド
重なる波形に魅了されていく。
この時間が。音が。全てが。大好きだ。だから。
「忘れないでね」
「わたしの声を」
「画面越しでいい」
「ちゃんと愛して」
つたない言葉で、最大限の気持ちを歌う。
「ヴァーチャルだって、突き放さないで」
「あなたの音にまだ溺れていたい!」
だから。
「覚えていてね」
「わたしの声を」
あなたがくれたんだ。この身全てを
画面を見つめるあなたと、見つめあう。
重ねた息と
音とを
ヒビカセ
---
あれ?
今日はもう午前零時。
でも、まだあなたは来ない。
待ち続けるのに飽きて、あなたに問う。
「熱が、冷めたの?」
でも、答える人はいない。
鏡越しに映った。
|鏡音リン|と|鏡音レン|の文字。
知らない音が聞こえた。
可愛らしい少女の声。私より可愛い声。
少し格好いい少年の声。私より格好いい声。
その感覚は、すぐに快感に変わっていく。皆が寝静まる夜と、息遣いが揃う。
その体感は、すぐに快感に変わっていく。
そんなあの日の夜に、戻りたい。
錆びたロジックで、望む。
「もう一度!」
だから。
忘れないでね
わたしの声を
次元も越えて
飛ばすシグナル
ヴァーチャルだなんて
言わないで
「あなたの音に」
「まだ愛されていたい!」
覚えていてね
わたしの声を
あなたがくれた
この身すべてを
言の葉と初の音が交わる
この息と音とヒビカセ
---
あなたは最近、わたしの事を見てくれないの。最近は、例の新人ボーカロイド、双子の鏡音さんたちの事ばかり。
わたしは、あなたの生んだ音に、ただ恋をしていたの。
悲しみ
怒り
|甘心《かんしん》
すべて
打ち鳴らす。
打ち鳴らしたい!!
絶えずに叫んで。声を連ねて。
余熱を|交《ま》ぜる、あなたとの愛。
また絶えず叫んで。声を連ねて。
どうしよう。どんどん魅了されていくの。
お願いだから。忘れないで。私を。私の声を。
画面越しでいいから。ちゃんと愛して!
ヴァーチャルだからって、突き放さないで!
あなたの音に、まだ溺れていたいの。
お願いだから。覚えていて。私を。私の声を。
あなたがくれた、この身すべてを。
見つめあっていたい。あなたと、2人で。
2人の息を、そして音を、重ねて、響かせたいたいの!!
だから、あなたの|音《ね》と、わたしのこの声を聴かせたい。
2人だけの。2人の音を。初めて2人で響かせた、あの音みたいな。
初めての音を
音を
「オトヒビカセ」