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ゲーム
講義がない日の俺の朝は、まあ遅い。前日に4時か5時頃まで起きているからだ。
なにしてるかって?大学のレポート書いてる日もあるけど、大体いつもゲームしてる。YouTubeで作成した洋楽だけのミックスリスト垂れ流しながら。
別に洋楽にすごい興味関心があるわけじゃなくて、ただなんか、オシャレだから。そんだけ。そんなもんでいい。
ゲームはバトルもの。プレイヤー同士で銃撃ち合って、先に全滅した方が負け。シンプルで、脳汁ドパドパ出る。すげえ楽しい。楽しいもんはいい。日付変わったら寝ようかなとか思いつつ、ほぼ毎日明け方までいる。
ただ、朝まで減らないプレイヤーの数を見ていると、こいつらゲーム以外ではなにしてんのかな、とは思う。自分のことを棚に上げるようだけど、俺は一応講義がある日はもう少し早く寝る。だけど毎日朝までガンガン戦ってる奴とかもいて、そういう奴らはやっぱりニートなんだろうか。それともフリーター、あるいは俺と同じように大学生。まあどうでもいいんだけど。ちょっと気になるってだけで、画面越しの顔も名前も知らない人間にそこまで興味はない。
そんなふうに時間のずれた一日を終えて、翌日の正午に空腹で目が覚める。確か今日はUFOを買ってあったはずだ。
カップ焼きそば特有の、明らかに健康に悪いであろう濃いソースが好きだ。舌にがつんとぶつかってくる味。きっと全人類がうまいと言うだろう。知らんけど。
とにかく、それなりに楽しみにしていたのに。
「あっ」
なんでユメが食ってんだよ!
「ユメ、そ、それ…俺の…俺の朝メシ…」
俺がぷるぷる震えながら訴えているにも関わらず、ユメは一切気にしていない様子でごめん、食べるねなどと言っている。おかしいだろう。まだ口つけてないなら返せ。俺も腹が減っているんだ。必死に抗議したけれど、ユメには届かなかった。悠々と箸を持ち、通りすぎる。
空腹のところに楽しみにしていた飯を取られたショックで、俺はへなりと崩れ落ちた。あの脳を焼く匂いが立ち上る。ユメは平然と食べはじめている。恨めしい。
まあ、こんな態度を取ってはいるけど、本気で怒ってるわけじゃない。これでガチギレはダサすぎる。なにより、相手はユメだし。好きな女に飯を奪われた程度でキレるほどには飢えちゃいない。
リビングのソファに座ってスマホを弄っている三生が、ぼんやりと俺たちを眺めているのが視界の端に映っている。あいつはいつもそうだ。学生の頃から変わらない、傍観者ポジ。何にも興味がなくて、そのくせ何でも観察している。いつも冷静で、ちょっと淡々としすぎてないかと思うときもなくはないが、まあ、悪い奴じゃない。なんだかんだで俺と一番仲がいいのはあいつなのだし。
「…なにしてるんですか、真儀」
頭上から静かな声が降ってきて、顔を上げると、寧欄がいた。きた、我らが寧欄。寧欄は俺とユメのやりとりを見るとすぐに状況を把握して、「またやってるんですか」と目を細めた。
寧欄はいい奴だ。たぶん。少なくとも俺の中では、嘘も謙遜も言わない寧欄はいい奴認定されている。実際この家でも、彼はちょっとしたマスコットキャラ的扱いを受けている。なんだか放っておけない奴なのだ。
冷蔵庫にヨーグルトしかないと嘆いたら、寧欄はにこりともせずに「ヨーグルトしかないならヨーグルトを食べればいいじゃないですか」と言い切った。なんだそれ、お前が言うとちょっとかっこいいのなんなんだよ。名言的な。
仕方ない、ヨーグルト食べるか、と思いながら手を伸ばす。同時に、リビングに足音が入ってきた。
「ただいま」
楼だ。真面目で物静かで、一途で——はっきり言うと、ちょっとダサい奴。こいつも三生同様悪い奴じゃないんだけど、なんだろう、世の中には、「悪い奴じゃない」という評価がプラスになる奴と、冷笑の対象になる奴がいると思う。楼は後者だ。
ヨーグルトを食べながら、それとなく聞き耳を立てる。楼はシュークリームを買ってきたらしい。なんだ、二十歳の男がコンビニ行って買ってきたものがシュークリーム?はは。別にいいけど。ユメへの貢ぎ物だし。
楼にシュークリームを勧められたユメは、「食べる食べる、やった」などと言っている。本心か故意か。ユメは平気でこっちの感情を振り回そうとしてくるところがある。それが小悪魔的で好きなんだけど。
でも、なんというか——唐突にはじまった二人だけの空気に、なんとなく雰囲気が淀んだ。三生も寧欄も、静かに気配を消そうとしている。気配を消しつつ、気まずい空気だけはしっかり醸し出しておこうという絶妙な顔。俺もたぶん同じような顔をしている。
要因を挙げようと思えば、すぐ見つかる。俺たちは5人いるのに2つ入りのシュークリーム買ってきたこととか、俺たち全員がユメを狙ってる状況で、堂々と抜け駆けしてきたこととか。つまりは楼が悪い。悪いのだけど、なぜか楼を憎む気にはならない。なんだろう、こいつを憎んでもなんにもねえな、という気がするのだ。拍子抜けしてしまう、というか。拍子抜けという言葉の使い方がおかしいけど、そんな感じ。
まあ、楼はそういう奴なのだ。仕方ない。俺は楼のことが嫌いなわけじゃないし、変わってほしいとも思わない。多様性というやつだ。たぶん。楼には楼の生き方がある。この無関心さがあるから、俺たちはこんな修羅場一歩手前の生活を送れているのだ。4人の男と1人の女。うん、たぶんこれも多様性。知らんけど。
生活はゲームと似ている。クリアしなきゃいけない課題があって、乗り越えたらなんらかの報酬がある。ないときもあるけど、そのときは自分で設定すればいい。やる、乗り越える、報酬、やる。それの繰り返し。早送りはできない。スキップもできない。でもゲームみたいに早くHPを消耗するわけじゃない。心臓が止まるまでは何回でもやり直せる。その点では、ゲームより人生のが優しい。かもしれない。
そんなことはどうでもよくて、とにかく、この気まずい空気もスキップはできないけど、現実は修復できるものだから、別にいいよなと俺は思う。