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独りんぼエンヴィー
晴瀬です。
リクエスト頂きました。
ありがとうございます。
虐待表現があります。苦手な方はUターンで、お願いします。
逃げたくても逃げられない少女の話です。
悪戯は知らん顔で、言い訳は涙を使って。
学校ってさ、すごく緩くて甘いんだよね。
そんなことしてりゃ大体許される。
ずっと学校にいたいと思ってしまうのはそういうところなんだろうな。
寂しいな。遊びたいな。
え、誰が遊んでくれるの?誰のこと?
蜂蜜みたいに甘い笑顔貼り付けたところで友達は出来ない。
誰も構ってくれない。
私の心は蜂蜜みたいにどろどろだ。
ねえあなたにもあなたにも、私は必要ないでしょう?
別に、いなくても変わらないでしょう?
じゃあ、私はなんでここにいるの?
世の中、弱いものは除け者にされる。
けんもほろろってね。
誰も取り合ってくれない。自分のことで精一杯手一杯。
外に出て気付く。
お祭りがやっていた。
ああ、楽しそうなお祭りね。
私はそこに近付く。
森の中。
お祭り。
楽しそうに踊って、美味しそうな屋台が並んで。
高校生がこんなところに来てたら不自然に思われるだろうか。
踊っているのは皆小学生くらいの小さな子。
ああ、お母さんと、来たかった。
さあ歩いて。歩いて。
こっちへおいで。
お祭りが、その場が私を呼ぶ。
甘い誘惑。私は耐えられない。
手を叩いて歩いて、らったった。
楽しい。
いつの間にか踊っている。
楽しい。何もかも忘れて踊る。
呑気で陽気な音楽にのせて体は動く。
ああ、楽しい。
子供に混じって輪になって踊っていると少しずつ、一人ずつ、子供が踊り回る輪から離れていく。
私はそれには気付かない。
気付けば私の周りに人はいない。
また、また、私はまた、独りぼっち。
子供がおもむろに口を開き、近くに立っていた母親らしき女の人に言う。
「やだ。やだ。この人やだ」
そう言って、まっすぐに私を指差す。
嫌んよ嫌んよ。そう駄々をこねるように母親に抱きつく子供達。
そっぽ向いて私を視界から外そうとする。
ああ、そうか。
私は今日も悪い子。要らない子。
夢見ては極彩色。
色が混ざって、ぐちゃぐちゃで、でも綺麗だと思う。
夢だと分かっている。
目が覚めて、現実は変わらない。
どんなに綺麗な夢を、何度見たって現実は変わらない。
お母さんの怒鳴り声が私の部屋まで届く。
「ちょっと、なんで洗濯できてないの!?今日出掛ける予定あったって言ったよね?
ちょっとユナ!起きてるの!?
聞いてる!?
ねえやっといてって、言ったよね?
今日土曜日じゃん。時間あるはずでしょ?なんでそんなゆっくり寝てるの?
やることやってから寝なよ?
困るのはあたしなの。
あんたじゃなくてあたしなの。
ちゃんとやってもらわないと困るわけ?
ねえ聞いてる?
今すぐやってくんない?暇でしょ?
あたしは忙しいの!!」
ああ、五月蝿い。
なんで今日だったの。何で今日に限って帰ってくるの。
ここで私が自分の部屋から出てお母さんのもとまで行ったら殴られる。
何度経験したことか分からない。
でも、でも、もし行かなかったらもっと怒る。
もっと、困らせてしまう。
私はどんなに考えたって行き着く行動は同じ。
ヘラヘラ笑って、ごめんなさいと連呼して。
響く罵声。殴られる顔。蹴られる腹。お母さんの金切り声が響く。
ああ、私はお母さんに愛されたかった。
愛されたかったよ。
お母さんの気が済むまで耐えて、お母さんが出掛ける準備をしだすまで耐えて。
お母さんの足が私のお腹から離れた途端私は起き上がり正座をする。
そのまま前に手をついて頭を前に倒し床におでこを押し当てる。
そして一言。
「迷惑かけてごめんなさい。」
所謂土下座ってやつ。
お母さんが準備を終え、家から出るその瞬間まで土下座を続ける。
どれだけ長くだってどれだけ体が悲鳴を上げても。
ただ無心に、その体制を崩さず続ける。
お母さんがバタバタ動き回る音を聞きながら、その時が来るまで耐える。
ガチャン
鍵を閉める音が聞こえて、ようやく体制を崩す。
はあああ、と小さく細く溜め息をついて洗濯機を回す。
時計を見て、朝の9時だったことに少し驚く。
私は1時間も、お母さんに耐えていたのか。
可笑しかった。
逃げられない私も、お母さんの優しさに期待してしまう私も。
全部馬鹿みたいに可笑しかった。
そして時は過ぎる。
何もせずにぼーっとしてたら夜になる。
お母さんは今日も帰ってこない。
夜の9時、私だけ劈く楽しそうな歌声。
ああ、楽しそうね。
さあ今夜今夜、あの場所へ。
あの森へ。
また、お祭りがやってるよ。
皆で行こう。走れ。らったった。
またお母さんと一緒の子供を見て少し苦しくなる。
楽しそうに踊る気ままな知らぬ子。
いいな、いいな。
羨んだって現実は変わらない。
ああ、お母さんと、来たかった。
楽しく踊りたかった。
お母さん。優しいお母さんに戻ってよ。
りんご飴を買ってくれる優しいお母さんに。
わたあめを買ってくれる優しいお母さんに。
私の願いは届かない。
ずっとずっと、願ったって変わらない。
思い出す。
小さい頃の幸せな記憶。
いちにのさんしでかくれんぼ。
ひろくん、はるちゃん、みつけた。
あとはゆりちゃんだけだよ。
いきをきらしてはおにごっこ。
ああー、きみにつかまっちゃった。
純粋で無垢で幸せな私の記憶。
ああ、お母さん。
「さあ」
声が聞こえる。
「あんよ、あんよ、こっちおいで」
甘い誘惑に私は耐えられない。
お母さん。お母さんがいるような気がしてならない。
優しくて綺麗なお母さん。
手を叩いて歩けらったった。
震える一歩、踏み出して。
独りぼっちにばいばい。
なんて。
ばいばいできたら、楽なのに。
「ねえ」
私の口から漏れる言葉が言う。
「愛よ愛よこっちおいで」
「お母さんのもってる愛よ、全部私に、こっちにおいで」
握っていた手を開いて見つめる。
そこに愛があるような気がして触れる。
あっ、つい。
私には、愛に触れられない。
熱くて熱くて、私には愛が触れない。
私に愛をくださいとそう言う前に、私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
私は愛を触れない。
「ねえ」
私の周りにいつの間にか子供が集まっていた。
この前私から離れていった子供達が私の汚れた目を無垢な目で見つめていた。
「良いの?良いの?私なんかが、いいの?」
そう問う。
子供達は優しく頷く。
私の目から涙が溢れる。
目を明けた。
夢が、覚める。
子供達は、お祭りは、どこにもいない。
すべて私の妄想だ。
ああ、私はどこにいても独りぼっち。
今日も明日も、…みんなとあそびたいよ。
私は森で独り。
辛い現状から目を背け、暗く寒い森で独りで泣いた。
泣くことしかできず、私は独りを痛感する。
「あぁあああぁああぁぁぁああ」
ただ叫んで私は愛を求めていた。
独りんぼエンヴィー/koyori/電ポルP
https://m.youtube.com/watch?v=UKVioegPPds