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二、炎の少女
最後まで読んでください。
黒蝕襲来から三日後。
ASTRAL KNIGHTS本部。
巨大な円形会議室には重い空気が流れていた。
総隊長のレオン・ミステリアを中心に、幹部たちが集まっている。
壁には世界地図が映し出されていた。
赤い印が無数に表示されている。
「三日間で確認された黒蝕の発生数は五百二十七件。」
副隊長アルト・ブレイドが静かに告げた。
「増えすぎだろ……」
カイルが顔をしかめる。
「しかも発生場所がバラバラだ。」
アリシアも腕を組む。
レオンは黙って地図を見つめた。
その時。
会議室の扉が勢いよく開いた。
「お、おはようございます!」
ノアだった。
慌てて頭を下げる。
時計を見ると開始時刻を五分過ぎていた。
室内が静まり返る。
「遅刻。」
ロゼが冷たく言う。
「うぅ……ごめんなさい。」
しゅんとするノア。
レオンが苦笑した。
「まあ座れ。」
「はい!」
ノアは急いで席へ向かう。
しかし椅子の脚に足を引っ掛ける。
「きゃあっ!」
ドンッ。
盛大に転んだ。
会議室はさらに静かになる。
キルが額に手を当てた。
「本当に騎士かお前は。」
「き、騎士だもん!」
ノアは真っ赤になった。
その様子を見てエリアがくすりと笑う。
張り詰めていた空気が少し和らいだ。
しかしアルトは地図を指さした。
「笑っている場合じゃない。」
全員の表情が引き締まる。
「今朝、新たな黒蝕反応を確認した。」
映像が切り替わる。
場所は海に囲まれた小都市。
港町ミラージュ。
「住民、およそ二万人。」
アルトが説明する。
「二時間前から連絡が途絶えている。」
会議室がざわついた。
「まさか……」
キルが呟く。
アルトは頷いた。
「救援部隊も消息不明。」
ノアの拳が握られる。
レオンが立ち上がった。
「調査に向かう。」
彼は周囲を見回した。
「ノア。」
「はい!」
「キル。」
「了解。」
「ロゼ。」
「問題ない。」
「そしてカイル。」
カイルがニヤリと笑った。
「待ってました。」
四人の任務が決まった。
初めての本格共同任務。
ノアは少しだけ緊張していた。
しかし。
その目には決意が宿っていた。
数時間後。
飛行艇はミラージュ上空へ到着した。
窓から外を見る。
だが。
誰も言葉を発しなかった。
港町は壊滅していた。
建物は崩壊。
道路は砕け。
黒い霧が漂っている。
「酷い……」
ノアが呟いた。
飛行艇が着陸する。
四人は街へ足を踏み入れた。
シンと静まり返っている。
人の気配がない。
風の音だけが聞こえる。
その時だった。
カラン。
遠くで何かが転がる音がした。
ノアは反射的に剣を抜く。
「誰かいる!」
次の瞬間。
黒い影が飛び出した。
「来るぞ!」
ロゼが叫ぶ。
黒蝕だった。
しかも十体以上。
「いきなりか!」
カイルの身体から雷が走る。
ドォン!!
黒蝕の群れへ突撃した。
「喰らえぇ!」
雷撃が炸裂する。
数体を吹き飛ばした。
だが。
さらに影が押し寄せる。
「多い!」
キルが光の槍を放つ。
眩い光が敵を貫く。
その横でノアも駆け出した。
炎の剣が燃え上がる。
「はああああっ!」
炎刃一閃。
黒蝕が真っ二つになる。
以前より動けている。
ノア自身もそれを感じていた。
するとロゼが叫んだ。
「右だ!」
「え?」
振り向く。
黒蝕が背後にいた。
間に合わない。
そう思った瞬間。
バキッ!
氷槍が黒蝕を貫いた。
「油断するな。」
ロゼだった。
ノアは苦笑する。
「ありがと、兄さん。」
「まだ終わっていない。」
ロゼは周囲を見渡した。
違和感があった。
敵が弱すぎる。
ルシアンが関わっているならこんなものではない。
その時。
地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……。
「な、なんだ!?」
カイルが足を止める。
黒い霧が一箇所へ集まっていく。
中心部。
港の広場だった。
やがて巨大な影が姿を現した。
高さは二十メートル以上。
異常に巨大な黒蝕。
身体から黒炎を放っている。
「嘘だろ……」
カイルの顔色が変わった。
ノアも息を呑む。
これまで戦った個体とは別格。
完全に怪物だった。
巨体が動く。
たった一歩。
それだけで地面が陥没した。
「グオオオオオオオ!!」
咆哮が響く。
建物の窓ガラスが一斉に砕け散った。
キルが前へ出る。
「ノア、下がれ!」
しかし。
ノアは首を振った。
「私も戦う!」
恐怖はある。
でも。
逃げたくなかった。
守りたい人たちがいる。
その気持ちだけは誰にも負けない。
怪物が拳を振り上げる。
落下。
ドガァァン!!
大地が吹き飛ぶ。
四人は回避した。
「カイル!」
ロゼが叫ぶ。
「任せろ!」
雷光が走る。
カイル最大出力。
青白い雷が怪物へ直撃した。
だが。
「効いてない!?」
怪物は無傷だった。
圧倒的な防御力。
絶望的な差。
キルの表情も険しくなる。
だがその時。
ノアは気付いた。
怪物の胸。
黒い核のようなものが見える。
「あそこだ。」
ノアが呟く。
「核がある。」
ロゼも見た。
確かに存在する。
「破壊できれば倒せるかもしれない。」
キルが頷いた。
「やるしかない。」
作戦が決まった。
カイルとロゼが足止め。
キルが援護。
そしてノアが核を破壊する。
危険すぎる作戦だった。
だが他に方法はない。
戦闘開始。
雷が走る。
氷が舞う。
怪物の注意が引きつけられる。
その隙にノアは駆けた。
全力疾走。
だが途中で黒蝕が立ち塞がる。
「邪魔!」
炎で薙ぎ払う。
さらに前へ。
前へ。
核まであと少し。
しかし怪物が気付いた。
巨大な腕が振り下ろされる。
避けられない。
その瞬間。
光の壁が現れた。
キルだった。
「行け!」
「キル!」
ノアは涙を飲み込む。
止まらない。
飛び上がる。
核の目の前。
炎を極限まで圧縮する。
剣が眩しく輝く。
「みんなの想いを……!」
炎が爆発する。
「届けぇぇぇぇぇぇ!!」
渾身の一撃。
炎の刃が核を貫いた。
一瞬の静寂。
そして。
ドォォォォォォン!!
怪物が大爆発した。
黒い霧が空へ消えていく。
風が吹いた。
静かだった。
やがて。
崩れ落ちそうになるノアをキルが支えた。
「やったな。」
ノアは笑う。
「うん。」
その時だった。
パチ……パチ……。
拍手が聞こえた。
全員が振り向く。
そこには一人の男が立っていた。
黒いコート。
赤い瞳。
不気味な笑み。
「なかなか面白い。」
空気が凍りつく。
ロゼの目が見開かれる。
「お前は……」
男は帽子を取った。
「初めまして。」
ゆっくりと礼をする。
「NIGHTFALL幹部。」
「ゼノス・ブラックハートだ。」
ノアの背筋に寒気が走った。
現れた存在。
最強の闇使い。
その本人が目の前にいた。
ゼノスは微笑む。
「期待以上だ。」
そして。
まるで獲物を見るような目でノアを見た。
「特に君。」
「ノア・アークライト。」
名前を呼ばれた。
なぜ知っているのか。
誰も理解できない。
ゼノスの笑みが深くなる。
「君は必ず私の前へ来る。」
「それが運命だからな。」
黒い霧が広がる。
消える直前。
ゼノスは最後に告げた。
「竜神ルシアン様も君に興味を持っている。」
「次に会う時を楽しみにしているよ。
姿が消えた。
静寂だけが残る。
誰も言葉を発せない。
ノアは拳を握った。
なぜ自分なのか。
なぜ敵が自分を知っているのか。
分からない。
しかし一つだけ確かなことがあった。
黒蝕との戦いは始まったばかりだ。
そして。
自分にはまだ知らない秘密がある。
遠くの空では再び月が黒く染まり始めていた。
読んでくれてありがとうございました。