公開中
柿
「かき、かき」
僕の背に負われたゆめが、しきりと言う。僕の視界の端にはゆめが握りしめた柿飴の棒がちらついていて、僕はてっきりその飴のことを言っているのだと思って呑気に返事する。
「そうだねえ、美味しい柿の飴だね」
「ちがう、かき、かき」
「んん?」
ゆめのちいさい指がしめす方向を見ると、路傍に柿が落ちていた。はちきれんばかりに円く熟れた、おおきな柿だった。
見あげれば、重たそうに枝をしならせた柿の木が、民家の垣根からはみ出している。濃緑の葉に混じって、あざやかな柿が顔を覗かせていた。
「本当、柿が落ちてる。美味しそうだねえ」
「かき!かき!」
はしゃいだゆめが手足をふりまわす。今日のゆめはご機嫌だ。そこの駄菓子屋で、僕に飴を買ってもらったからだ。
通りすぎるときにも、つやつやと照る赤丹色が目をよろこばせる。ほほえんだまま通りこした。
兎に角も柿の色には、どこかほっこりする風情がある。去年たべた柿のしゃくりとした食感が蘇ってきて、思わず口許がゆるんだ。
飴をしゃぶるあいまに、ゆめはふんふんとしきりに歌をうたう。隣人のこどもが学校で習ってきた歌らしく、ゆめがまだしらないような言葉を使っているのがおかしい。
黄色がかった路をゆく僕の足音と、ゆめの調子のはずれた歌と、飴をしゃぶる音がする。
それにあわせて頭のなかで、しゃくしゃく、がしゅり、じゅわっと、柿を噛む音がする。
かたい皮、渋みのなかにひそむ甘み。あざやかに主張するあの朱色。
たまらなくなり、八百屋に寄って柿をひと袋買った。うちに戻って包丁をつかう。ゆめが足下にじゃれついてきて少しあぶなかった。
まだ青さも残っていてゆめはきらったが、僕はおいしくいただいた。白い皿に大ぶりな柿はよく映えた。