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泥だらけのひまわり〜君がくれた傘と、僕が誓った約束〜
第一章:冷たい教室、うつむいた背中
その学校の空気は、赴任初日からどこか冷え切っていた。私――あいかが通うクラスにやってきた新任の担任、川西拓実先生。いつも一生懸命で、生徒の目線に合わせて優しく微笑む、絵に描いたようなお人好しの先生だった。
けれど、このクラスを裏で支配するいじめグループにとって、その優しさは格好の標的でしかなかった。
最初は小さな悪戯だった。授業中にわざと無視をする、黒板消しをドアに挟む、教壇にチョークの粉を撒き散らす。拓実先生はいつも「こら、危ないぞ〜(笑)」と困ったように笑って許していた。その「怒らない優しさ」が、いじめっ子たちの歪んだ加虐心をさらに加速させていく。
気がつけば、それは明確な「いじめ」に変貌していた。
ある日の放課後、私が忘れ物を取りに教室へ戻ると、誰もいないはずの教室から物音が聞こえた。
覗き込むと、そこには一人で机の雑巾がけをしている拓実先生の姿があった。しかし、その机には、油性マジックで酷い悪口がびっしりと書き殴られていた。
それだけじゃない。教卓の上には、拓実先生が夜遅くまで一生懸命に作った授業用のプリントが、ズタズタに引き裂かれて散らばっていた。
「……っ、うそ、やん……」
拓実先生は、震える手でその破片を一つずつ拾い集めていた。いつも明るい先生の背中が、今は驚くほど小さく、孤独に震えている。大粒の涙が、破られたプリントにポロポロと落ちて染みを作っていく。誰も味方のいない冷たい教室で、先生は一人、声を殺して泣いていた。
私は胸が締め付けられるように痛んだ。生徒を信じて、あんなに優しくしてくれている先生が、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの――?
第二章:小さな傘を差し出して
翌日の激しい雨の日の放課後。いじめはさらにエスカレートした。
クラスの主犯格たちが、拓実先生の私物を雨の降る中庭に投げ捨てたのだ。先生の大切な教材や、生徒たちの提出物が入ったファイルが、泥水の中に散らばっていく。
「やめろよ……! これはお前たちの進路に関わる大切な書類なんだぞ!」
珍しく声を荒げる拓実先生を、いじめっ子たちは「あはは! 先生カッケー!」「雨で頭冷やせよ!」と嘲笑い、傘も差さずに中庭へ放り出した。
土砂降りの雨の中、拓実先生は泥だらけになりながら、這いつくばって書類を拾い集めていた。髪からも服からも水滴が滴り、寒さで体がガタガタと震えている。それでも、自分の体より生徒の書類を濡らさないように、必死で胸に抱え込んでいた。周囲の教室からは、その様子を面白がって眺める生徒たちの冷たい視線と笑い声が聞こえる。誰も、助けようとしない。
その時、激しい雨音が、拓実先生の頭の上だけピタッと止まった。
「え……?」
拓実先生が濡れた前髪の間からゆっくりと顔を上げると、そこには、小さなビニール傘を必死に高く掲げて、先生を雨から守っている私の姿があった。私の片方の肩は、激しい雨でみるみるうちに色を変えていく。
「あ、あいかちゃん……? なんで、君が……」
私は何も言わず、ポケットからハンカチを取り出すと、泥で汚れた拓実先生の手を優しく、でも力強く拭った。そして、自分のカバンから大きめのビニール袋を取り出し、泥水から救い出した書類を丁寧に、濡れないように仕分けしていった。
「ダメだよ、あいかちゃん……! 君まで巻き込まれて、いじめのターゲットにされたら……っ、先生、自分が情けなくて……」
拓実先生は、情けなさと悔しさ、そして私の優しさに触れた安心感で、再びボロボロと涙を溢れさせた。大人の男の人が、雨の中で子供のように泣いている。
私は、拓実先生の手をギュッと両手で握りしめた。冷え切った先生の手は、小さく震えていた。私はカバンからノートを引き裂き、ペンで殴り書きしたメッセージを先生に見せた。
『先生は悪くない。私は、絶対に先生の味方だから。もう一人で泣かないで』
その文字を見た瞬間、拓実先生は私の小さな体を衝動的に引き寄せ、泥だらけの服のまま、壊れ物を扱うように(ギューーーッ)と強く、強く抱きしめた。
「ごめん……っ、ごめんなど、あいかちゃん……。先生なのに、守らなきゃいけない立場なのに……。ありがとう……っ、ありがとう……!!」
激しい雨の中、私たちは一つの傘の下で、お互いの体温を分け合うようにして、いつまでも温かく寄り添い合っていた。
第三章:形勢逆転、少女の仕掛けた罠
私は決意した。私の大好きな拓実先生を傷つけた奴らを、絶対に許さない。
実は、私には誰も知らない裏の顔があった。ネットを駆使し、あらゆる情報を瞬時に暴き出す、天才的な頭脳。
私は密かに教室や中庭の死角に、高画質の小型カメラと集音マイクを設置した。いじめグループが「次は何して遊ぶ?」と拓実先生へのさらなる嫌がらせを計画している音声、そして実際に先生の財布を盗もうとした決定的な瞬間の映像を、全て完璧な証拠として記録した。
数日後、いじめグループが放課後の教室で、拓実先生を囲んで嘲笑っていた。
「ねぇ川西先生、今日も雨の中に荷物投げてほしい?(笑)」
拓実先生がギュッと唇を噛み締め、耐えようとしたその時――。
教室の大型モニターが、突如として起動した。
『うわ、川西の財布から一万抜いたわ(笑)』
『明日あいつの車に傷つけようぜ』
モニターに映し出されたのは、いじめグループのこれまでの悪事の数々、顔写真、そして彼らが裏で他の生徒や教師の悪口を叩いていたSNSの裏アカウントのスクールセクションの全データだった。
「な、なんだこれ!? 誰が流して……っ」
顔を真っ青にするいじめっ子たちの前に、私はゆっくりと立ちはだかり、スマホを弄りながら冷たい視線を向けた。
『これ、今学校の全生徒、全保護者、そして警察の相談窓口に一斉送信されるようにタイマーセットしてある。先生に謝る? それとも、人生終わらせる?』
画面に表示された私のメッセージを読み、いじめっ子たちは腰を抜かした。彼らは、自分たちがどれだけ恐ろしい「天才」を敵に回したかを思い知り、ガタガタと震えながらその場に膝をついた。
「す、すみませんでした……っ! 川西先生、俺たちが悪かったです……!!」
涙目になりながら床に頭を擦りつける彼らを見下ろし、私はフッと冷たく微笑んだ。
第四章:君がくれた光、僕たちの約束
いじめグループは全員が厳しい処分を受け、教室に本当の平和が戻ってきた。
放課後、夕日がオレンジ色に染める静かな教室。
拓実先生は教壇に腰掛け、私のノートを見つめていた。そこには、私が描いた、雨上がりの大きなひまわりの絵が添えられていた。
「あいかちゃん」
拓実先生が私を呼んだ。その声は、もう震えていなかった。赴任したばかりの頼りなかった先生ではなく、一本の強い芯が通った、本当に強くて優しい先生の顔になっていた。
「先生な、あの雨の日、あいかちゃんが傘を差し出してくれた時、心の底から救われたんよ。あの一瞬で、先生の冷え切ってた心が、全部温かくなった。……君が守ってくれたこの教師っていう仕事、命がけで全うするって決めた」
拓実先生は教壇から降りると、私の目の前にしゃがみ込み、私の目線を真っ直ぐに見つめた。そして、私の小さな両手を優しく、包み込むように(ギュッ)と握りしめた。
「これからはな、先生が何があってもあいかちゃんを守る番や。君が悲しい時、辛い時は、今度は先生が世界で一番大きな傘になって、君に降り注ぐ雨を全部跳ね返してやるから。何があっても、先生が君の味方やで」
夕日の光に照らされて、拓実先生の瞳が優しく、力強く輝いている。
私は声は出さなかったけれど、心の底から嬉しくて、拓実先生の手を(ギュッ)と握り返した。そして、涙を浮かべながらも、今までで一番優しくて温かい、最高の笑顔((´꒳`))を拓実先生に向けた。
冷たい雨はもう終わり。これからは、二人で支え合いながら、どこまでも眩しい光の中を歩んでいく――。