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最高のグループ_3話
激闘は数分で決着した。
しかし、その静寂は勝利の歓喜ではなく、重苦しい絶望によって支配されていた。
倒れ伏したヴァンパイアたちの群れの中で、あの「個体」だけが動かずに立っていた。
顔を覆うフードの隙間から覗く瞳は赤く濁り、その肌は病的なまでに白く変色している。
しかし、その身に纏う鎧と剣の構えは、
かつて自分たちが守れなかった仲間――「カイト」のものと酷似していた。
悠斗「……おい、嘘だろ……? なんであいつがここにいるんだよ……!」
大剣を地面に突き立てたまま、悠斗の膝が震える。
彼は叫びたい衝動を抑え込みながら、声を絞り出した。
かつて共に笑い、今はもうこの世にいないはずの友人の姿を見て、彼の心は激しく揺れ動く。
莉音「……っ、やだ……そんなこと……」
いつも明るく振る舞っていた莉音が、その場に崩れ落ちた。
彼女の手から溢れていた治癒の光が消え、代わりに涙が頬を伝う。
回復魔法で傷を塞ぐたびに思い出した「あの日の叫び」が、
今この目の前の光景と重なり合い、彼女の精神を鋭く抉った。
菜乃「……動くな。あいつはもう、私たちが知っている『彼』じゃない……」
菜乃の声は低く、震えていた。
彼女は盾を構えたまま一歩も動けない。
守りたかったはずの仲間が、敵の眷属として立っているという事実。
それを突きつけられた衝撃に、鉄壁の防衛魔法すら維持するのが困難になっていた。
柚子「……冷静になりなさい。感情で動けば、全員が傷つくわ」
柚子は震える指先を隠すように拳を握りしめながらも、毅然と言葉を発した。
彼女の瞳には涙はなく、ただ冷徹なまでの分析と、「仲間を守らなければならない」という強い意志だけが宿っている。
しかし、その内側では同じく激しい動揺が渦巻いていた。
夜雨「……見て、僕の魔力に反応しているよ。あいつから溢れ出ているのは、死者の執着と、強烈な渇望だ……」
夜雨は顔を覆いながら呟いた。
彼の高い魔力感度は、あの個体が人間としての意識を保てず、
ヴァンパイアとしての本能に侵食されていることを正確に捉えていた。
それは「悲しい」という言葉では言い表せないほどの歪なエネルギーであった。
那央「……全員、下がれ。今すぐだ」
那央の指示は鋭く、そしてどこか切実だった。
彼は指揮官として最適解を導き出そうと必死に脳を回転させているが、その視線はあの中の個体から逸れることができない。
すると、動かなかった「カイト」の姿をした者が、ゆっくりと顔を上げた。
口元から溢れ出すのは血のような粘液。
そして、彼(それ)は掠れた声で、聞き取れないほどの呻き声を漏らした。
それは言葉ではなく、ただの苦痛の叫びであった。
悠斗「……カイト……? お前、生きてるのかよ……! なんでこんな姿に……!」
悠斗が我慢できずに駆け出そうとした瞬間、那央の声が響く。
那央「悠斗、止まれ!! それはもうあいつじゃない! 罠だ、Red Fangの策略だ!」
その言葉と同時に、「カイト」の姿をした個体が異様な速度で地を蹴った。
ヴァンパイア特有の超人的な身体能力。
それはかつての友人の動きとは明らかに異なる、捕食者のそれであった。
柚子「……防御魔法を展開! 菜乃、前へ!」
柚子の指示に従い、菜乃が再び盾を構える。
しかし、襲撃の威力は凄まじく、彼女の防壁に亀裂が入る。
莉音「やめて……お願いだから、もうやめて!!」
莉音が叫びながら治癒魔法を放つが、それは敵への攻撃ではなく、自分たちの精神を守るための祈りのような光であった。
彼女の絶望は、周囲の空気を重く沈ませていく。
夜雨「……僕が出すよ。これ以上、あいつに触れさせないために」
夜雨がその身を解放する。
彼の魔力数は1846――一般人の数倍から十数倍にも及ぶ膨大なエネルギーが、
森の木々を震わせるほどの衝撃波となって放たれた。
漆黒に近い紫色のデバフが「カイト」の周囲に渦巻き、その動きを強制的に停止させる。
那央(……くそっ、俺たちのせいで……)
那央は拳を血が出るほど強く握りしめた。
自分たちが守れなかった過去への後悔が、今この瞬間の決断を鈍らせる。
しかし、彼は指揮官として立ち上がった。
那央「……いいか、みんな。俺たちはあいつを殺すためにここにいるんじゃない。あいつを守るためにここに来たはずだ。……でも、今のあいつは『敵』として立っている」
那央の瞳に涙が浮かぶ。
那央「最期まで、最高のグループとして……彼を、そして自分たちを護り通せ! 攻撃開始!!」
その号令と共に、6人は再び剣と魔法を交差させた。
かつての仲間への愛憎と、守れなかった後悔、そして目の前の残酷な真実との間で揺れながら。
彼らは「最高のグループ」としての誓いを胸に、
血の通わぬ友人を討つという最も過酷な任務へと踏み込んだ。
雨は止んでいたが、森にはただ冷たい風だけが吹き抜けていた。
この戦いの果てに待っているのは、救済か、それともさらなる絶望への入り口か。
物語の幕は、まだ上がったばかりであった。