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君のための薬指
その日は結婚指輪を買いに行く日だった。
美優「ねぇねぇ、この指輪よくない?」
美優の薬指には、既に指輪がはまっていた。今日買う指輪は、俺のための指輪だ。ただ
「美優に贈ったのは婚約指輪だぞ?本当に結婚指輪は要らないのか?」
美優「う〜ん、でも結婚指輪を貰ってもそこまで嬉しくない気がするんだよね。プロポーズの時の指輪がいっちばん嬉しいもん!」
そう笑う彼女の花嫁姿を想像して、少し顔がニヤけそうになった。
美優と俺はつい先週まで交際をしていたが、ついに結婚まで持ち込むことができた。
美優「挨拶も済ませたし、後は式くらいかな〜」
「婚姻届とか指輪選びとかまだまだあるぞー」
その話をした途端、逃げるように奥の方の指輪を見に行った。
その時だった。
ガッシャーン!
ドアのガラスが割れる音。その原因は、猛スピードで突っ込んできた車だった。
ショーケースの中の指輪が飛び、割れたガラスが俺の左手に刺さる。
普通は痛がるところだが、あいにく俺の頭には彼女のことしかなかった。
「美優、美優!」
そう名前を呼び、辺りを見渡す。
店内の奥にいたのが功を奏したのか、美優には怪我一つないようだった。
周りからは何かを呼ぶ声や、カメラのシャッター音が聞こえる。
(そんなことせずに美優を安全なとこに連れてけよ..)
それを最後に俺の意識は暗転した。
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目が覚めると、そこは病室だった。
俺が第一に感じたのは、生きていて良かったという安心感ではなく、絶望だった。
左手がない。手首から先がごっそりとなくなっていた。
少しして、美優と医者が病室に入ってきた。
美優は嬉しそうに俺に抱きついて、泣いていた。
医者が言うには、初めに俺に突き刺さったガラスよりも細かいガラスが血管や筋肉などに突き刺さっていたらしい。
俺は指輪を嵌められなくなった。
これに関しては、医者を恨むつもりもない。正しい判断をして、俺を救ってくれた医者を責める術など、俺にはなかったからだ。
「美優。俺、美優のためにとってた薬指。もう戻ってこねぇわ」