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【曲パロ】たぶん終わり
主人公がお亡くなるになるシーン等あります
表現は少し薄めにしたつもりですが、苦手な方はご注意を
大変すばらしい本家様動画: https://m.youtube.com/watch?v=GiDo4s1x9Mw
身体が半分、いやそれ以上何もないところに乗り出す。思考が止まる。
「嘘、でしょ?|早乙女《さおとめ》くん…?」
いくらなんでも信用できない。こんな終わり方じゃあ納得なんてできるはずもない。
柵の向こうで恍惚とした笑みを浮かべる男は、私の言葉を聞くようすはなく。
そのまま私は涼しい風を浴びながら落ちるはめとなった。
「どうして…?」
数十分ほど前のことである。
「ねぇ、|冬子《とうこ》?聞いてるの!」
いつのまにか眠くなっていた私は、その言葉で目が覚めた。
「あっ!ごめんね!」
「もう…まあいいわ、冬子ってさ…」
その後の言葉で、私はフリーズした。
「どの男子狙ってるの?」
「はっ、はぁ!?ななな、な、何を言ってるの!?」
どの男子を狙っているって。私は好きな男子などいない。
しかし最近は知らず知らずのうちに近づいてしまうのだ。本当に、無意識のうちに。誤解されても無理はないかもしれない。
特にコウくんの近くで…なんでだろうか。
「えーっ、でもさ?最近の冬子、いろんな男子から人気でしょ?しかもイケメンから!!はーっ、羨ましいわー…で、誰狙いなの?」
「誰も狙ってないってば!」
私は本当に分からないうちになのだ。気づいたらコウくんを始めとした男子たちに近づいてしまうだけなのだ。
「冬子とイケメン…例えばコウくん、本当に少女漫画とか乙女ゲームのヒーローとヒロインみたいだったよ?」
「この世界にはヒーローもヒロインもいないの!馬鹿なこと言わないでよ!」
「えーっ、でもこの前冬子さ『信じることは美しく、素敵な恋が実るの…!』とか言ってたじゃん!!」
私はそんなこと言ってない。
反論しようとしたそのとき。教室の外から声が私にかけられた。
「|糸川《いとかわ》さん、いる?|圭《けい》くんが呼んでるよ!」
「え、早乙女くんが?」
委員会はもう繁忙期も過ぎているし、私に声をかける理由はあまりないように思った。
不思議に思いながら教室の外に出る。
「…冬子さん、屋上」
廊下には、端正な顔を少し赤らめている、私を呼び出した張本人がいた。
「えっ、あ」
彼は口数が少なく、意思疎通が難しい。よく分からないまままま引っ張られるように屋上へと走った。
「…これ」
「…?」
屋上にて手渡されたのは、小さな封筒。ハートのシールが貼られている。
これは、まるで…。
ラブレターのようではないか。
いやいや、そんなことはないだろう。自分の馬鹿な考えを振り切って封筒を開けようとする。
「…いや、やっぱいいや」
体が突然吹き飛ばされて、柵の向こうに落ちて、私は…。
「…?」
「ねぇ、冬子?聞いてるの!」
意識が覚醒する。
「…嘘でしょ」
確かに、私は落ちた。屋上から。猛烈な痛みを感じて、気づいたら…。
ここにいる。なぜ?
「…ごっ、ごめん!」
先ほどのことは私の夢だったのだろうか?そう信じたい。
「もう…まあいいわ、冬子ってさ…」
私はその後の言葉でまたフリーズすることとなった。
「どの男子狙ってるの?」
この言葉、聞いたことがある。
そう。確かに、先ほど聞いたのだ。
私が落ちる、数十分前に。
「男子を狙ってるとか、ないよ?」
咄嗟に笑顔を作り、誤魔化す。
まさか、先ほどのものは予知夢なのだろうか?
いやいや、流石にそんなわけ…。
「えーっ、でもさ?最近の冬子、いろんな男子から人気でしょ?しかもイケメンから!!はーっ、羨ましいわー…で、誰狙いなの?」
まただ。また聞いたことがある。
「あはは…だから狙ってないよ…。」
「冬子とイケメン…例えば光くん、本当に少女漫画とか乙女ゲームのヒーローとヒロインみたいだったよ?」
一字一句。まごうことなく先ほど聞いた言葉。
…なんとかして、せめてこの言葉を言わせないようにしなければ。
そうしたら、少しは。
「…そっ!!そういえばさ!!昨日の夕飯なんだった?」
「え?夕飯?はぁ、そんなことどうでもいいでしょ。この前冬子さ『信じることは美しく、素敵な恋が実るの…!』とか言ってたじゃん!!誰狙いなの!」
ダメだ。話が戻ってしまう。どうにかして流れを変えなければ。
するとその時。
「|糸川《いとかわ》さん、いる?|圭《けい》くんが呼んでるよ!」
…そ、そんな。まさか。ここまで同じなんて。
冷や汗が滲み出る。
「さ、早乙女くん…どうしたの?」
「…冬子さん、屋上」
どうしてそうなるのよ!?
「お、お話ならここでも聞くよ?それとも、またどこか別のところで…ああもう、ちょっと止まってってばー!!」
ずるずると引きずられるように私は屋上へと連行された。
「…これ」
「うっ」
あああ、いつか見たラブレター!
「あ、ありがとう!…ということで私はお暇しますね、それでは」
ドン。
「ダメ。ここで俺のものに…愛してるよ、冬子さん」
ふわり、と涼しい空気がまた触れる。
ダメだった。
今日、家に帰れたら。私のお気に入りのテレビ番組を見て。お母さんの特製ハンバーグを食べて。あったかい布団で寝て。
しあわせを噛み締められたはずなのに。
私は、このしあわせ一歩手前の地点で死ぬの?
そんなの理不尽だ。
また、熱いほどに痛い傷を負う。
目線をずらすと、そこには鮮血がたまっている。
ああ。私が思っていたよりも、死というものはグロテスクなものだったようだ。
ここで、私の命は。
たぶん終わりね。
「ねぇ、冬子?聞いてるの!」
ああ…また、此処に戻ってきてしまった。
それから適当に会話して、どこか他人事のように思えて。早乙女くんに引っ張られて、また当たり前のように落とされる。
「…ふふ。これで冬子さんの1番は俺」
早乙女くんが分からない。
もし、私のことが好きなら。なぜ私を殺すのか?
必死に考える。
でも、私は。落ちた瞬間。
「もういいや」
どうせ、考える時間は残酷なほどに多くあるのだから。
「ねぇ、冬子?聞いてるの!」
「…うん」
「もう…まあいいわ、冬子ってさ…」
聞こえる言葉をスルーしながら考える。
私は1つの可能性に辿り着いた。
私がタイムリープしているという可能性。起こされる時点から屋上から突き落とされるまでをぐるぐるとループしているのかもしれない。
まるで、残機の無くならないゲームのように。
そこからは、虚ろに繰り返すだけだった。
私がいろいろなことを話しかけても。ラブレターを受け取ろうとしなくても。開こうと試みても。
結局、自分の尻尾に噛みついているだけ。何も解決には近付いていなかった。
次第に、私は何もしなくなる。考えて動いたって、何も変わらない世界。
屋上の温かさ。段違いの熱さを伴う痛み。恍惚とした表情を浮かべて私を殺し続ける早乙女くん。
美しく燃えるその瞳は、また私に向けられる。
明日、明後日先も。
たぶんこのまま、同じね。
ああ、でも嫌だ。
何かに火がつく。もう何度目かも分からない。
私は嫌だ。このまま、しあわせ一歩手前で同じように苦しみ続けるのは…嫌だ。私のプライドが許さない。
ひらりと舞うスカートと共に早乙女くんが見える。
何で、早乙女くんは私を殺し続けるのか。
その目の輝きを知って、私のしあわせを手に入れる。
私は、悲劇のヒロインで留まっていられないんだ。
飛び起きる。当たり前のように、私は教室で友達と話していたようだ。
「ふ、冬子!?」
「ごめん、急いでるから!」
教室から飛び出して、彼を探す。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
いた。廊下で立ち尽くしている。
「早乙女くん、来て」
まずはこちらのペースに持っていく。
知らないものを積極的に知ろう。
もしかしたら、ヒントが分かるかもしれない。
中庭に着いた。流石に屋上は怖かったので、人も多い中庭を選ぶ。恋人たちや友人グループで活気があった。
「ここでもいいや。冬子さん、これ。」
渡された悪夢の手紙。これを読めば何か変わるのだろうか。
ひったくるように手紙を取り、少し離れた。
警戒しながら封を開けようとして、気づく。
制服は、紅く染まっていた。
顔を上げると、また嬉しそうな笑みを浮かべながら私に刃を突き立てる彼がいた。
「…なん、で。」
「…好きだから。」
バリエーションなんていらない。
私が気づいているよりも、ずっとずっとグロテスクだった。
彼の声で答え合わせされた、あと数分の命の中で、必死に考える。
彼はなぜ、私を殺すのか。
答えは単純なのかもしれない。
すぐそこにあるのかもしれない。
また起きる。数えきれないほどの終わりを経験した。
それでも。それでも起きる。
「今度こそ、早乙女くんの笑顔の理由を知る」
そして、私はしあわせを掴むんだ。
中庭にて。その麗らかな光の中で、熾烈な戦いが起こっている。
私がナイフを避けたことに驚いた早乙女くんは、少し手の力を緩めた。
私はさっとナイフを奪って突きつける。
「何で私を殺そうとしたの?教えて。何であなたは笑っているの?」
「…はは」
楽しそうに彼は笑って、こう言った。
「好きだから」
やっぱり答えは単純だ。単純だけど、深い。
彼は私のことが本当に好きなのだ。
好きで、好きで、しょうがないから。このような行動をしている。
彼の瞳は、私への愛の光で満たされている。
「…そう。だったら」
「私と一緒に、天国へ向かいましょう。」
虚ろなゲームをここで終わらせる。
違和感。
ループする世界、言ったことのないセリフ、いつの間にかしている行動。
そこから生まれた一つの仮説。
この世界は、本当にゲームなのではないかということ。
私が知らない記憶は、誰かが私を「キャラクター」として動かしている時のものであり、私のものではない。
この世界には、「ヒーロー」と「ヒロイン」がいる。
そんな非現実的なこと…いや、ループ自体が非現実的なんだから、あり得るのだ。
私がこのループから抜け出すためには、ゲームをぶち壊す必要がある可能性がある。
ぶち壊す、とは…私が自分の意思で死を選ぶこと。
この予想もつかないエンドのシナリオから大きく外れた行動をすることで、何か変わるかもしれない。
その先に本当の「終わり」が待ち受けていようと、「しあわせ」になろうと、今よりはマシだと私は信じている。
私は早乙女くんに刃を突き立てた。彼は、私を落とした時のような満面の笑みを浮かべている。彼にとっての愛は、私とは大きく異なるようだ。もうそれも、関係ないかもしれないが。
でも、その瞳の輝きの訳を知れて良かった。
私も心置きなく死ねる。
早乙女くんからナイフを引き抜き、私に刺した。
紅が舞い散る。
自分が選んだものだとはいえ、痛いものは痛かった。やっぱり、私が気づいているより死はグロテスクだ。もうこんな思いはしたくない。
崩れゆく視界の中で天を仰いだ。
何の根拠もないのに。本当に直感的に。分かった気がする。
ここが最後だと。
「たぶん終わりね」
「やばいやばい、パソコンの電源切ってない!」
|陶子《とうこ》は焦っていた。このままだと電気代について母親から叱られる、と。
ものすごい勢いで自室に入り、パソコンが置かれている台へと駆け寄る。
「えーっと…あ、あれ?直ってる!?あのループエンドから!?」
パソコンの画面には、今流行りのゲーム「信愛の乙女」のスタート画面が映し出されていた。
「信愛の乙女」とは、いつか素敵な恋が出来ると信じる可憐な少女が学園で美男子たちとの恋愛を楽しむ、という乙女ゲームだ。
「信じることは美しく、素敵な恋が実るの…!」という主人公のセリフがキャッチコピーである。
「はぁ、良かったぁ…。あやうくコウ様の攻略が出来なくなるところだったんだから!早乙女とか言う男もなかなか顔は良いのに、性格が、ねぇ…。」
スタート画面に映る端正な顔の青年を睨みつける。青年は俗に言う、ヤンデレだった。主人公とのエンドはどれもろくでもないものである。
中でも、主人公を殺し続けるバッドエンドは陶子にとって、ひどくつまらないものであった。それがバグを起こして|延々と繰り返される《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》のだから、陶子は困り果てていたのだ。
楽しげに陶子はイスに座った。
「さてと…攻略の続きをしましょう、冬子ちゃん?」
パソコンの画面で美男子と共に微笑んでいる冬子…いや、名もなきこのゲームの主人公。
果たして、彼女は本当にしあわせなのか。
それとも…?
早乙女圭→さ おとめ けい
→おとめ けい
→おとめけい+む
乙女ゲーム
糸川冬子→糸 川 冬 子
→糸冬
終
しょうもないですね〜