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番外
使わせて頂いた楽曲 番外
カンザキイオリ様
晴瀬です。
『あの夏が飽和する。』その後を描いた話です。
"君"の話です。
透明。それに色なんてない
強いふりして、可愛いふりして、怖いふりして
2年4組。涙田 麻衣
やっぱ、違うよ。こういうの。やりたいことはやりたい。言いたいことは言いたい。恋もしたい。
1年4組 長瀬 景子
それだけ。何もない。
窓から見える景色も全て背景だ。
それは僕の視界を蝕んでいく
鳥が鳴いているのに、つまらない怒号が今日も
鼓膜を叩く
そんなものだ
絵に潜む怪物はまだ姿を見せない。
今日も、今日ですら、
別に僕になにかある訳じゃないけど、尻尾ぐらい見せてもいいんじゃないかと、
思えるほど伊達に絵を描いていない
1年1組 間 寛太
春。もうこれ以上生きられない。
私は使われない教室で一人でいた。
2年4組 千葉 優香
私には何もないすがっていては溺れるだけ。
それが嵐を呼び雨を降らせる道だとしても
机上に座すは、無垢な白。
私はそこに鉛を押し当て、謎を解く。
1年2組 的場 葵
赤い糸は裂けないの。
運命って信じる?
君はどう思うかな?一目惚れ。「リナリア」って
1年2組 加藤 真冬
雨が振り続けてる。
僕だけはこの体温を失わない。
失ってたまるか
3年3組 日野 陽一郎
夏が始まる。
3年3組 赤城 啓介
何一つ救えなかった少年。
エゴだと言われたらそこでおしまいだ。
行きつくとこまで行って、
笑えないところまで落ちて、
君がいるのが今の場所で。春は終わった。
時間は巻きもどれないって本当らしい。
夏が始まる。
君は半袖が嫌いだ。
もう、多くは語らない
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「すみません、赤城啓介さんですか?守山昌樹さんについて、教えて頂きたいことがあって」
「僕は、大蔵皐月の、弟です」
「誰にも僕は、姉の、あの事件の真相を知らない」
「僕は海外に行ってたんです、留学というかそんな感じで」
「僕が日本にいれば、姉といれば、姉も、守山さんのことも、救えたかもしれない」
「僕は知らないといけないんです」
「姉はもう、帰ってこないから」
赤城啓介の話
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君の名を、|守山《もりやま》|昌樹《まさき》と言った。
1年前、僕達が高2だった頃、夏の間3ヶ月ばかり学校から姿を消した。
その|間《かん》、君は色んなことを思って考えていた。
多種多様の人間が混在するこの学校で、たくさんの思いを持った人たちの間を縫って君はその思いを抱えて生きていた。
「僕に話せることなんてないよ」
「もう終わった話だ、もう、多くは語れない。僕も君もあまり思い出したくはないんだ」
「だけど1つ語れることがあるとするならば、僕は君を救えなかった」
「そう、君は繰り返していた」
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僕らは2年で初めて同じクラスになって。
守山…昌樹は危なっかしい人だった。第一印象はそんな感じ。
すぐに消えちゃうんじゃないかって思った。いつもふわふわ漂っているようで、地面に付けばパチンって弾けて消えてしまう。
そんな儚い印象が強かった。
だからかな、僕らは仲良くなった。
移動教室とかのときに話すくらいだったけど、僕は親友だったって信じてる。
夏休みに入ったばかりのとき、君は…昌樹は皐月、君のお姉さんだ、大蔵さんと旅に出た。
死ぬための旅に。
大蔵は、人を殺したと言っていた。真意はわからない。真実かどうかもあやふやなんだけど、昌樹はそれを信じた。
二人で犯罪を犯しながら生きて、最期の最期で捕まった。
その時に、大蔵は自分で首を切った。
昌樹は、窃盗罪とかそんな犯罪犯してたからさ、罰金とか払ってそれで、学校に来れなくなって。
3ヶ月ぐらい経った、もう寒い頃に帰ってきた。
僕が何があったのか尋ねても、昌樹は黙って首を振るだけで。
君は多くは語らなかった。
大体過ぎたことは、気にしないようにしている。
僕が気にすることじゃないし、昌樹が帰ってきたその事実だけで十分だから。
大蔵とは、1年の頃同じクラスで。仲まあまあ良かったんだよ。
ただ1つ、時間が経ってその話をしなくなった頃に昌樹は突然言った。
「皐月が消えたんだ」
君がいなくなったんだ、って。
昌樹は大蔵の名前を言えなくなった。皐月と呟いて泣いてしまう。
昌樹は更に脆く弱く、儚くなった。
皐月のことを君と呼ぶようになっていた。
あの事件は、昌樹に大きな傷を残していた。
今更終わった話を、もう結末が変わらない話を繰り返すなんてそれこそ無様だと思った。
だけど昌樹は話しだしたんだ。
「1つ語れることがあるとすれば」
「君を救えない悲しいストーリーだったよ」
「僕と君ならあのとき、何か大人に伝えられることがあったかもしれないのに」
「僕らの声はどっかですれ違ってしまったよ」
僕だって大蔵を救えなかった。
1年の頃同じクラスで、仲は良かったのに。
君も、大蔵も救えない悲しい話なんて、僕は見たくもなかったんだ。
君だってきっと見たくもなかったはず。
なあ?
ここからはよくある話かもしれない。でもよくある話をしてみたかった、かな。
いつも、僕らは"よくある話"なんてできなかったから。
僕らは知らないことばかりだったんだ。
春はもう、終わってしまった。
それからはあんまり変わらないさ。
僕だって未だに親友とは、昌樹とは仲がいいままだ。
昌樹のその、左手だって。
大蔵がナイフを取ろうとしたとき、そのナイフが昌樹の左手の掌に当たった。軽く傷がついて薄く血が滲んだ。
昌樹は、その傷を治したくなかった。
その傷はあの事件のたった1つの痕跡で、大蔵が生きていた証で、昌樹にとって絶対に消してはいけないものだから。
昌樹は自分で傷をつけるようになった。
左手のその部分とその周りを少し。
傷が消えそうになると作り、その傷が消えそうになると作り、それを繰り返して依存した。
でもそれが昌樹の心の支えで、生きている証で。僕は黙って見守ることにした。それが一番、いいと思ったから。
時間が経っていって、昌樹は少しずつ笑えるようになっていった。
本当に安心して、良かったと思う。
だけどそれでもまだ何かしたい僕はエゴだ。
でも時々、ふとした瞬間泣くことがある。いつでも昌樹は不安定で。
戻れない、変わらない悲しいストーリーの中を君は精一杯に生きて一人であがいていたんだね。
「君を救えない悲しいストーリーだったよ」
君は何度でもそう言う。
君はずっと、大蔵を救えなかったことを後悔している。
脳の中で大蔵のすべてが飽和して潰れてしまう夜が続いて。
この話はどうでもいいわけがないんだ。
昌樹の中で考えたいのは、大事にしたいのは自分が罪を犯したことでも、目の前で人が死んだことでも、人に迷惑を掛けたことでも、勉強が遅れたことでもない。
大蔵皐月という人間が昌樹の前から姿を消したこと。
そんな話はどうでもいいわけがないんだよ。
そんな話はどうでもいいわけがないんだよ。
君が生きてて、本当に良かった。
それだけ。
それだけしか今は歌えないけれど。
「君を救えない悲しいストーリーだったよ
僕らの声はどっかですれ違ってしまったよ」
僕は忘れてはいけない。君がこれほど苦しんだことを。
君をずっと、守っていくことを。
君を救えない悲しいストーリーなんてさ見たくもないんだ。
見たくもなかったんだ。
悲劇のその先を生きていくんだ。
生きていくしかないんだ。
過去は取り戻せやしないさ。
君も僕も弱いままじゃいられないだろう!?
僕が君を守っていくって自分勝手に決めたよ。
大切な人を失った昌樹を救えるのはきっと僕しかいない。
君を救えない悲しいストーリーなんて見たくはないんだ。
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中学生の頃、学校中で姉の嘘の噂が出回ったとき黙って傍観していた
事件があった当時1年2組 涙田 麻衣
学級委員長で、中学の生徒会長をやっていた。高校に入り新しい風を吹かす
当時中学 3年5組 長瀬 景子
クラス中を巻き込んだ女子同士の喧嘩を眺める寡黙な美術部員
当時中学 3年1組 間 寛太
病気を患い生きる希望を無くした。夏になる前に死のうと思っていた
当時 1年2組 千葉 優香
自分の非力さに絶望し全て終わる前にすべての謎を解こうとした
当時中学 3年2組 的場 葵
守山昌樹が学校に戻って新学期が始まりすぐ一目惚れした。この恋に気付いてほしかった。リナリアの花言葉は『この恋に気付いて』
当時中学 3年6組 加藤 真冬
冷え切った家庭、冷え切った彼女との関係、冷え切った友人関係、冷え切ったクラス
当時 2年1組 日野 陽一郎
守山昌樹の友達、守ると誓った。本人以上に夏を怖がる
当時 2年4組 赤城 啓介
様々な感情が渦巻くこの学校で。
偽りの自分も、何の意味もない絵も
私たちは制服の裏側に隠した。
死にたくなるような夜も、
焦がれるような片思いも
ずっと隠して生きてきた。
決められた答えを出すことも、立ち止まらない勇気だって
自分らしさを探すのも、守れなかった痛みだって
まるで広い海の真ん中にいるみたいに
悩んでる。抱えてる。
僕らは、
群青に溺れる。
『番外』/鏡音レン
https://m.youtube.com/watch?v=Bx6Lj1yc8w0