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命に嫌われている。
晴瀬です。
リクエスト頂きました。
ありがとうございます。
人が死にます。
大分主人公が捻くれてます。
生きる少年の話です。
死にたいと言った。
「え…?ちょ、え?何びっくりした…。そういうこと言わないでよ心臓に悪いんだから笑」
「私だってそう思うことあったけどさ、生きてたら楽しいことあるから」
「何?意味分かんないんだけど。勝手に死にたいごっこしてろよ」
曲を聴いた。
「死にたいなんて言うなよ」
「諦めないで生きろよ」
テレビをつければ『若者を勇気づける詩』なんて肩書でこんな歌が流れている。
そんな歌が正しいなんて、馬鹿げてるだろ。
実際自分は死んでも良くて、でも周りが死んだら悲しくて。
「それが嫌だから」っていうエゴで生きていた。
生きている意味なんて、真面目に考えたところで辛くなるだけだからそんな考えも捨てた。
だから「貴方は何故生きているんですか」そう問われたところで答えられるはずもない。
「親が、友達が悲しむでしょう」
僕が死んで悲しむ親は、友達はどこにいたっけな。
全部、綺麗事なんだよ。
自分に関係ない他人が生きていようが死んでいようがどうでも良くて、誰かを嫌うこともファッションで。
ほら、一見汚くてもさ、綺麗に着飾ればファッションなんだよ。
僕みたいなセンスのない人間が人を嫌うのと、センスがある人が他人を嫌うのとでは雲泥の差があるんだよ。
僕みたいな子供でさえそんなことも分かりきっているのに大人はまだ「平和に生きよう」なんてほざいてて、なんて、なんて素敵なことでしょう。
そんなことを考えていると、思い出してしまう。
―――じゃあね、ハルキ
―――ユウマ?何、してんの
―――ごめんね、ハルキ
フラッシュバックした。
あいつの、最期が。
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あいつは、|結真《ゆうま》といった。
元気で、明るくて、悩みなんて1つもない顔した僕の、友達、だった。
4年、くらい経ったんだろうな。
僕と結真は11歳だった。
ある日僕は結真の家に遊びに行った。
結真の家には親がいなかったからリビングで結真はスマホを弄って、僕は本を読んでいた。
遊ぶ、といっても2人でゲームをするとか話すとかそういうのじゃなく、2人同じ空間で各々別のことをして過ごすっていう、2人ともただその雰囲気がその空気が好きで心地良かったんだと思う。
結真は優しい。僕がまともに家にいることが出来ないから、それを分かっているからよく家に呼んでくれた。
いつものことだった。
いつものように、過ごしていた。
突然、結真が言った。
「この人、死んじゃったらしいよ」
誰だったか、名前は覚えてない。
確か有名な俳優だった。
「ニュースになってんの?」
僕の問いに結真は首を振った。
「いや、それを嘆いて誰かが詩を書いたんだって。それに音楽当ててもらってYouTubeに出したらめっちゃ流行ったらしい。今それ聴いてた」
ふうん、と僕は相槌を打った。
「いいよね、そうやって死んだら曲まで作ってもらってさ。羨ましいや」
結真はそう言って小さく笑った。
「そうだね。でもそうしてもらえるようになるよ。結真なら」
お世辞なんかじゃない。
本気でそう思ってた。
結真がいるだけで場は和むし、結真は学校でも人気者だから。
「そっかぁ。じゃあさ、俺が死んだら|春来《はるき》が曲作ってよ」
「無理だよー」
僕は笑った。
そんなに事を重く受け止めていなかった。
何故今から生とか死とかそんな話をしているのか。
何故滅多にこんな話をしない結真がそう言い出したのか。
そこに、その時疑問を持てばよかった。
そうすれば、結真は死ななかったかもしれないのに。
「この曲めっちゃいいよ」
「へー、そんないいんだ」
「うん」
僕の興味はその曲から既に離れていた。
今考えれば結真はどうにかしてこの話題で僕と話したかったように思う。
「俺、感化されちゃったかも」
僕に聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言った結真を僕は本から視線を上げ見詰める。
「何?感化…?何どういうこと」
結真は笑った。
僕は、何も気付かなかった。
結真が何を伝えたかったのか僕は、見落として知らないフリをした。
嘘だと見えなかったフリをして、結真を縛ろうとした。
「結真」
僕は無意識に名前を呼んだ。
結真は走った。
キッチンに走り、棚を開け何かを持った。
「ナイフ」
僕が呟いたときにはもう遅かった。
「春来、止めないでね」
「結…」
「春来」
結真は笑顔だ。
笑顔で僕を咎めた。
笑顔でナイフの柄を持ち刃先を自分の首に向けた。
「結真?」
時計の秒針の音がやけに耳に響いた。
「じゃあね、春来」
「結真?何してんの。
おいで、こっちに、来て」
「春来」
「結真、お願いだから、こっちに来て。
それ置いて、こっちで、速く。駄目だ。駄目だから、結真」
「春来。辛くなったら不死身になるって、SF映画みたいなことを考えるんだよ。
辛くなくなるから」
「結真、何言ってるの?速く、こっちに来てよ、冗談はよして」
「春来。少年だったお前はいつか大人になるんだ。
大人になって年老いて、いつかは枯れ葉のように朽ちていくんだ。
だから、さ。ね?春来」
「何だよ、結真。速く、こっちに、速く。結真。冗談でも怒らない。
ちゃんと、結真。向き合うから。僕は、結真にも、自分にも。
だから結真。お願いだから」
「ごめんね、春来」
結真はナイフを降ろさない。
「ごめんね、春来。守って、あげられなくて」
血が舞った。
紅が飛んだ。
僕の、名前を呼ぶ声が部屋に響く。
その日は、結真の母親の誕生日だった。
それに何の意味があったのか僕は未だに分からないフリをし続けている。
僕は、命に嫌われている。
結真を生かしたかった、結真に生きてほしかったと嘆くくせに自分の命はどうでもいい。
自分より人の方が大事、なんて綺麗なもんじゃない。
人はどうでもいい、自分だけ逃げてしまいたい、ただそれだけ。
価値観を、エゴを押し付け合っていつも誰かを殺してみたいと思っている。
いつも誰かを殺してみたい、その思いを誰かが曲にして発信してみれば人が死ぬ。
結真のように。
軽々しく死にたいだとか、軽々しく命を見てる僕は結真に、命に嫌われている。
きっと僕が大人になったところでお金も稼げないただの駄目人間になっているだけだ。
一日中寝て食べてだらだらだらだら惰眠を貪って、生きる意味なんていつまで考えたところで見付からない。
無駄を自覚しているのに、酸素を吸って二酸化炭素を吐く。
結真が死んだ光景を、死んだ事実を時折思い出してこの傷を『寂しい』とその一言だけで済ませていいのか、そんなくだらない意地ばかり抱えて独りで眠っているんだろう?
少年だった僕は青年に変わっていく。
そして大人になって、いつかは年老いて誰にも知られず枯れ葉のように朽ちていく。
その間に僕はずっと、独りでSF映画のような想像を繰り返す。
その度に、結真を思い出す。
不死身の体を手に入れて一生死なずに生きていく。
そんなことがあれば、きっと辛い。
何度考えても今は自分が死んでもどうでも良くて、それでも周りに生きてほしい。
でもそんな矛盾を抱えて生きてくなんて、きっと怒られてしまう。
『正しいものは正しくいなさい』
『死にたくないなら生きていなさい』
そんな簡単なことも解らない僕はいつだって悲しんでいる。
何かに怒って、悲しんで、辛くなって。
『それでもいいなら、ずっと一人で笑えよ』
僕の記憶の中の11歳の結真が、そう言った。
僕は、いや僕らは命に嫌われている。
幸福の意味すら分からず、生まれた環境ばかり憎んで簡単に過去ばかり呪う。
自分は悪くないと高を括って人に罪を着せた。
自分の保身にばかり走った。
結果人が死ぬ。
それでも、幸福だって別れだって愛情も友情だって、すべて滑稽な夢の、幻想の戯れで結局は金で買える代物で。
それを信じたくなくて。
明日死んでしまうかもしれない。
すべて、今までやってきたすべてが無駄になるかもしれない。
朝も夜も春も秋も、変わらず誰かがどこかで死ぬ。
夢も明日もいらない。どうでもいい。
君が生きていたなら、それでいい。
そうだ。
僕はそれが言いたかった。
結真が、生きていたらそれでよかった。
僕は、僕は結真以外に人を死なせちゃいけない。
本当は、そういうことが詠いたい。
命に嫌われている。
結局いつかは死んでいく。
『君だって、俺だっていつかは枯れ葉のように朽ちていく。』
僕の名前を呼ぶ結真の声が聞こえた。
それでも僕らは必死に生きて命を必死に抱えて生きて、
殺してでも、
足掻いてでも、
笑って、
抱えて、
生きて、
生きて、
生きて、
『生きろ』
そう、言いたかったんだろう?
結真。
お前の分も、生きてやるから。
お前の伝えたかったことを、僕が代わりに伝えるから。
結真。
『じゃあさ、俺が死んだら春来が曲作ってよ』
結真の声が鮮明に蘇った。
曲を、作ろうと思う。
人を、殺すんじゃなく生かす曲を。
タイトルは、『命に嫌われている。』
命に嫌われている。/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=0HYm60Mjm0k