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4 その左手が大切で
「行こうか、アシュリー」
ジェス様がお休みの日、ジェス様のエスコートで馬車に乗る。今日はお買い物……ではなく、以前おっしゃっていたジェス様の「宝石好きの友人」の方にお会いします。
「はいっ!」
その方が、是非私も一緒に来て欲しいと言ってくださったらしく、私もジェス様の御友人にご挨拶したかったので、一緒に会いに行くことになった。
「ルーファス様とは、いつから仲がよろしいんですか?」
グラツィア王国騎士団長、ルーファス・ベール様。
お会いしたことはないけれど、有名な方なので噂程度なら聞いたことがある。
「ルーファスは、私の学生時代からの友人なんだ。思ったことはすぐ口に出すし、顔にも出るから不用意に敵をつくってはいたが……素直で良い奴だ」
「ふふっ、ジェス様はルーファス様が大好きなんですね。お会いするのがもっと楽しみになりました」
「……別に大好きなどではないが…………」
ジェス様は、ルーファス様に久々にお会いするらしく、感情がお顔にあまり出ないジェス様でも、いつもより嬉しそうにしているのが分かる。
素直な方……読心能力を持っているジェス様にとって、触れなくても内側が分かる相手というのは、とても貴重で信用できる存在だったと思う。
そんな、ジェス様の大切な方に会えるなんて、すごく嬉しい。
「到着致しました」
そんなことを考えているうちにルーファス様のお城に着いたらしく、御者の方が馬車の扉を開けた。
ルーファス様の前では手袋をつけているらしく、ジェス様は馬車から降りる前に手袋をつけた。
ジェス様の左手を見つめる私に気付いたジェス様は、少し困った顔をしてから、私の手を握った。
「……そんなに私の手が好きなのか?」
「大好きっ、です……」
つい、勢いで言ってしまった。
恥ずかしくて、ジェス様のお顔を見れない……
「…………アシュ」
「ねぇお二人さん。馬車が着いたと報告があったのに、全然来ないし何かあったのかと思えば……人の城の前でイチャイチャしないでくれるかい?」
そう言って、その方は私たちをじとっとした目で交互に見る。
「ルーファス、久しぶりだな。遅れてすまない」
この方がルーファス様……褐色の髪、燃えるように赤い瞳。
というか、いつからいらしたのかしら……
「久しぶり、ジェス。それとアシュリーちゃん、初めまして」
「おいルーファス、フォルジェ公爵夫人と呼べ。不敬で追い出すぞ」
「ここは僕の城だよ」
お二人のやり取りを聞きながら、ルーファス様のお城の中を歩く。私とお話する時のジェス様の声は穏やかで優しいけれど、ルーファス様と喋るジェス様は、いつもと違って新鮮だ。
お互いに、すごく心を許しているんだろうな。
少しの会話を聞くだけでもそれが伝わってきて、嬉しい気持ちになる。
「今日は見せたいものがあって呼んだんだよ」
広いお部屋に案内されて、ソファに座る。
すると、ルーファス様が大きな箱を持ってきた。
「開けてみて」
「はい……」
何が入っているんだろう。
思い蓋を持ち上げて開けると、中にはジェス様の瞳と同じ色の宝石があった。
「……きれい…………」
思わず、言葉が溢れた。それくらい、目の前にある宝石は綺麗で、美しい。
「指輪に仕立てるのにはまだ時間がかかるけどね、僕からの結婚祝いさ」
「ルーファス、ありがとう」
「ありがとうございます、ルーファス様!」
たくさんお礼を言うと、ルーファス様は照れて顔を背けてしまったけれど、すごく嬉しそうだった。人を喜ばせるための表情をしていた。
「そうだ、昔のジェスの写真があるけど、アシュリーちゃん見るかい?」
「えっ、見たいです!」
お茶とお菓子をいただきながら話していると、ルーファス様はアルバムを取り出し、私に見せてくれた。
「わあ、かわいい……」
幼いジェス様は可愛くて、まるで天使のよう。
ジェス様にも、こんな時があったんだ……
「アシュリー、もう良いだろう…………」
耐えきれなかったらしいジェス様は、お顔を真っ赤にして私とルーファス様からアルバムを取り上げる。
「ルーファス、こんなもの見せるな!」
「いいじゃないアルバムくらい。それに、かわいいってさ。良かったじゃん」
いつも静かで大人っぽくて、かっこいいジェス様も、ルーファス様の前だとムキになったり、色んな見たことない表情をする。
私がその顔をさせられないのは何だか悔しいけれど、きっと、これまでも、これからも。ルーファス様にしか見せないお顔なんだろうな。
「ジェス様、お話中に申し訳ございません。ミース様より言伝が」
「……分かった。おいルーファス、余計なことを喋るんじゃないぞ」
ジェス様はルーファス様に釘を打ってから、従者の方とお部屋を出て行った。
「ジェスは、君の前でも手袋をしているのかい?」
「……いえ。最近までそうでしたが……私が外して欲しい、と言ったので」
私の言葉に、ルーファス様はとても驚いていた。
「へえ、そうかい。僕の前では、今も昔も必ずしているんだよ」
寂しそうな、悲しそうな顔。
私は、この表情を見たことがある。鏡に映る自分が、こんな顔をしていたから。私と、同じだ。
自分の能力で人を傷付けてしまうという辛さを抱えるジェス様の隣で、触れられない左手を見つめる虚しさ。
どんどん積み上がっていく、壊すのを躊躇ってしまう、壊し方が分からない、その壁に抱く自分の感情の矛盾。
「僕は、彼にある壁を壊すことはできない。直接触れることはできない。だから、それは君の役目だ、アシュリーちゃん。今日、君を呼んだのは、勿論あの宝石を見せるため。でも、それだけじゃなくて、ジェスが……人との間に壁をつくることで、相手の心を守り、自分を傷付けてきたジェスが、やっと見つけた、心を許す人を、愛している人を、見てみたかった。話してみたかった。それで、言いたかった。……ジェスを、よろしくね」
ルーファス様の、抱えきれないほどの想い。ジェス様には、届かないのかな。
私のじゃない、それじゃ意味がない。ちゃんと、ルーファス様のものとして、ジェス様に伝えてほしい。
でもそれは……あの壁を越えると言うこと。
ルーファス様は、ジェス様が大切だから、あの壁を越えない。ジェス様は、ルーファス様が大切だから、あの壁を壊せない。
なんて素敵で、綺麗なんだろう。
私も、言いたかった。ジェス様を照らしていた、太陽に。
「……私が、ジェス様を幸せにします。ルーファス様、ありがとうございます」
「ははっ、それは……頼もしいなぁ」
その左手は恋を聴く。4話を読んでくださってありがとうございます!
新キャラ・ルーファス、なかなかにアツい男で自分で書いておきながら友情に感動していました
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イラストです!!今回はアシュリーを描いてみました✨
(ファイルなうのURL)
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否定的な意見は何があっても受け付けませんので良ければ褒めてください‼️‼️(自己肯定感の塊)