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#3 守る力、殺す力
--- ー花漣視点ー ---
「これで、男は片付いた、お前だけだよ。」
少女が花漣に扇子を向ける。花漣は黙ったまま何もしない。しばらくすると、立ち上がった。空を見る花漣は無表情だった。
「ねえ、知ってる?守る力も殺す力も本当は一緒なんだ。」
花漣はまたしゃがみ込むと、唯の髪をソッと撫でた。手が震え、呼吸が乱れる。駄目だ、抑えられない。花漣は少女の方を振り返った。その目は青色でただただ澄んでいた。殺気も憎しみも何もないように見えた。しかし、急にその目は怒りも殺気も憎しみもはらんだ目になった。その目で少女を睨みつける。髪はいつの間にか白く変わっていて、雨が降り始めた。どこからか吹いた風が花漣の白髪を撫でた。
「貴方が、いや、お前がそれを殺すために使うのならば、私も殺すために使うとしよう。」
花漣が手を少女の方に向けると、一瞬時が止まったように思えた。青色の目は少女を捉えたままそこに縛り付けている。少女は一歩の動けなかった。殺してやりたい__そう思ったのは初めてだった。殺意ってこんなに簡単に持てるものなんだ。少女は動かない。今なら何でもできる、そんな気がした。周りの空気が凍り始める。
「お前、言ったよね?さようならって。」
花漣の顔に笑みが浮かぶ。少女に近づいた花漣はその少女の震える顎に手を当てて、目を合わせる。少女の黄色い目には恐怖の色で染まっていた。
「じゃあさあ、その言葉。そっくりそのまま返すよ。さような___。」
その瞬間、視界が真っ暗になり、口が誰かの手で押さえられた。肩に黒髪が触れる。
「その言葉は、花漣が使う言葉じゃない。」
その人は中性的な声音でそう言う。
「……………唯?」
振り返ると薄ら笑いを浮かべる長い黒髪の少年。背後にいたのは唯だった。思わず頬を涙が一筋伝った。
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--- ー唯視点ー ---
あたり一面、真っ白な世界。ここに来るのは何度目だろうか。自分は、意識を失ったのだろうか。唯は頭を押さえる。ここに来たということは、彼が戦ってくれているということだ。ならば大丈夫だろう。唯は真っ白な世界に胡座をかいて待った。しばらくして、彼が天井から落ちてきた。真っ赤な髪に真っ赤な目。毎回思うがイケメンだ。
「悪い…………やられちまった。俺が次に出れるのは三時間後だ。それまでは、ユイが、あの子を守れ。」
彼がやられるほどの相手に自分が花漣を守りながら戦えるだろうか。いや、いざとなったら任務に集中して花漣を捨てるか。そう考えてた時、頬を衝撃が貫いた。見ると、怖い顔をした彼の姿。
「ユイ、守らなければならない時に、守らないなんて考えを出すな!!任務は人命より大切なのか?」
彼の声によって、唯はその考えを振り払った。目を開けると、全身が痛んだ。相当激しい落雷を受けたみたいだ。体を動かすと激痛が駆け巡る。再び目を閉じた頃に声が聞こえてきた。
「___守る力も殺す力も本当は一緒なんだ。」
その言葉は《《かつて唯が彼女に言った言葉》》とそっくりだった。まさか花漣は彼女なのか?それは不可能だ。だって彼女は唯が殺したから__。あの日の出来事は今も鮮明に思い出せる。雨、少女の笑顔………。死ぬ時まで彼女は笑顔だった。なんで、そんなに笑えるんだよ。
次に目を開けると、白髪の少女が永雷ノ巫女に向かって歩いて行く。白髪の少女が花漣だと理解するのにはそう時間はかからなかった。このまま行けば、花漣は永雷ノ巫女を殺せる。けれど、それはやってはいけないこと、そんな気がした。唯は痛みを忘れて駆け出す。そして、さようならと言いかけた花漣の目と口を手のひらで塞いだ。
「その言葉は、花漣が使う言葉じゃない。」
花漣の耳元で囁く。そう、汚れるのは自分達でいい。進んで、こちら側に来た自分達のみで。さようなら、と無慈悲に告げるのは自分達だけでいいんだ。花漣の髪が元の茶髪に戻る。
「……………唯?」
花漣の声は酷く弱々しくか細かった。今思えば体が小刻みに震えている。労いの言葉をかけようと思うと、花漣の手が唯の頬に触れた。
「自分を、あんな風に扱わないで…………。」
花漣の瞳から涙が零れ落ちる。唯は目を見開いた。何を言っているんだろうか。自分は任務を完遂させるために戦っていただけで、そんなに言われる程怪我をしていない。今回は落雷を二発食らっただけだ。こんくらいなら一時間もあれば傷は塞がる。その時、唯はようやく理解した。人間は傷はそんな簡単に癒えないのだ。花漣の体がこちらに倒れる。それを受け止めると、壊れた窓の向こうへ運ぶ。ゆっくりと地面に下ろすと、頬に張り付いた前髪をそっと横に流した。花漣の寝息を背に、永雷ノ巫女の方を向く。永雷ノ巫女は血走った目を見開いてこちらを睨んでいた。
「赦さない!お前ら、神様にこんなことして!」
永雷ノ巫女は吠えるようにそう叫ぶと、金の扇をあちこちに振った。すると、池のようなものが空中に幾つも現れた。
「|金乱の遊魚《きんらんのゆうぎょ》!」
池から無数の金魚が現れ、その金魚が尾鰭を振るたびに落雷が発生する。唯は落とした刀を拾うと構えた。あまり余力も残されてないから、一振りで叩き切ってしまいたい。そのためには空中で一回転して、刃先を永雷ノ巫女に向ける。それで行こう。唯はまず足元の金魚を切り裂き、そのまま刀を上に上げもう一匹殺す。自分もジャンプして刀を下に下げ更に一匹殺す。空中で一回転し、他の金魚を蹴散らすと、永雷ノ巫女に刃先を向けた。多少動きすぎたが予定通りだ。
「終わりだ。」
永雷ノ巫女は悔しそうな顔で笑った。
「まあね。でも、お前は殺すことはできないよ。」
「負け犬の遠吠えだろ?」
永雷ノ巫女が口角を上げた時、唯の刀が折れた。動揺するが、直ぐに永雷ノ巫女はもう逃げるほどの余力を残していないと知る。仕方なくポケットから勾玉を取り出すと手のひらの上に置いた。殺せないならここに封じる。
「永雷ノ巫女 今ここに 我と共に永遠を過ごし いつか終幕を約束しよう」
完全に封じると殺せないからいつでも出せるような封印を施す。唱え終わると、永雷ノ巫女の体がサァーッと霧状に散り、手のひらの勾玉に吸い込まれていった。
「流石に、疲れた………な。」
唯は勾玉を取り落とすと、その場に倒れた。雨は止み、優しい日の光が唯を包んだ。その中で、唯は穏やかな寝息をたて始めた。
おまけ
作者「あ………2572文字……………。」
唯「伏線出すなら曖昧な部分で切るなよ!」
唯?「結局、俺の名前も明かされてないもんね~?」
作者「なら、ここで出す?って、いたっ!」
花漣「コラー!ネタバレ厳禁!」
作者「え、お金くれるの?って、いったぁ!そのゴツい辞書で殴るのやめてぇ!」
ー十分後ー
作者「ふぅ……………。川も全ては海で一つに交わる。歯車はずっと廻っていた。その考えに至るにはまだ早いです。彼らの物語はまだ断片的にしか出していないのでね。ではでは今回はこれで、良い夜を。」