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日常4:遅刻と秘密
ミアレシティに深い霧が立ち込めた朝のことでした。
いつもは壊れたドアの隙間から差し込む光で目を覚ます4人でしたが、その日は厚い雲が街を覆い、時間が狂ってしまいました。さらに、連日の疲れからか、目覚まし代わりの古い時計が止まっていることに誰も気づかなかったのです。
「……大変、みんな起きて!!」
しおんの悲鳴に近い声で、4人は飛び起きました。時計の針は、すでに始勤時間を過ぎています。
「嘘、どうしよう!」「早く、制服着て!」
つばさとらこは慌てて着替え、このみは半泣きになりながら靴を履きました。4人は朝食のお粥
を食べる間もなく、ボロボロの家を飛び出し、ミアレの大通りを全力で駆け抜けました。
しかし、ポケモンセンターに辿り着いたときには、すでに大きな混乱が起きていました。朝の診察を待つトレーナーの行列ができ、受付にはスタッフが足りず、困り果てたジョーイさんの姿がありました。
その日の終業後、4人は事務室に呼ばれました。
ジョーイさんの前に並んだ4人は、心臓が口から飛び出しそうなほど緊張していました。
「どうしてあんなに遅れたの? いつもは誰よりも早いくらいなのに」
ジョーイさんの問いかけに、しおんは思わず身を固くしました。
本当のことなんて、絶対に言えません。もし、親に捨てられて、4人だけで穴だらけの廃屋に住んでいることがバレたら……。「子供だけで住むのは危ない」と大人たちに判断され、4人は別々の施設に引き離されて、バラバラになってしまう。それだけは、何があっても避けなければなりませんでした。
つばさが、慌てて前に踏み出しました。
「すみません、ジョーイさん! あの……実は、妹のこのみが、今朝ひどい腹痛になっちゃって。……でも、家には電話もないし、放っておけなくて、みんなで看病していたんです!」
「えっ……お腹が?」
ジョーイさんが心配そうにこのみを見ました。このみは咄嗟に話を合わせ、ギュッとお腹を押さえて苦しそうな顔をします。
「……うん。でも、今はもう大丈夫。みんなが、ずっとそばにいてくれたから……」
「……お腹が痛いなら、どうして連絡を入れなかったの? 近所の人に頼むとか、公衆電話からかけるとかできたはずでしょう?」
ジョーイさんの鋭い指摘に、しおんが静かに補足しました。
「……すみません。私たちの住んでいるあたりは、最近再開発で近所の方も引っ越してしまって……。パニックになって、電話のことまで頭が回りませんでした。本当に、すみません」
しおんの嘘は、半分は真実でした。確かに、彼女たちの住む路地裏には誰もいません。
ジョーイさんはしばらく4人を見つめていましたが、やがて小さくため息をつきました。
「……わかったわ。でも、次からは必ず誰か一人が先に連絡に来ること。いいわね?」
「はい! ありがとうございます!」
事務室を出て、人気のない廊下まで戻った瞬間、4人は一斉に肩の力を抜きました。
「……危なかった。心臓が止まるかと思ったよ」
らこが震える声で呟きました。
「……ごめんね、このみ。変な嘘ついちゃって」
つばさが謝ると、このみは首を振りました。
「いいよ。……離れ離れになるより、ずっといいもん」
嘘をついた罪悪感と、給料が減らされた絶望感。
それでも、4人は顔を見合わせ、お互いがそばにいることを確かめ合いました。
ボロボロの家、空っぽの胃袋。
けれど、4人が一緒にいられる「秘密」だけは、今夜も守り抜くことができたのでした。